シルクロードの地 「トルクメニスタン」

三菱商事株式会社 アシガバット駐在事務所長
藤岡 英一

はじめに


アシガバット市内風景:アシガバット市内の大理石張りのアパート群。山並みの向こうは隣国イラン


仙台とほぼ同じ緯度の北緯37度58分・東経58度20分にある、中央アジアの国 トルクメニスタンの首都アシガバットに私は2014 年9月以来駐在している。
アシガバットは、アシガバード、アシハバード、アシハバットとも呼ばれるが、その意味は「愛の町」とのことであり、もともとはカラクム砂漠の中のオアシス、近年はガス収入の恩恵を受け、市内には世界一多い噴水と大理石張りの建物が集中(共にGuinness World Records)、行き交う自動車もきれいに磨かれ(汚れていると罰金を科せられるため)、また、安価なガスを使用した電力供給から夜中も照明がこうこうとともされ、夜は人通りのないラスベガスあるいはディズニーランドの様相を呈している。

トルクメニスタンの地理・構成・歴史

トルクメニスタンの国土は48万8,000k㎡(日本の約1.3倍)、その約95%はカラクム砂漠であり、砂漠性気候であるため降水はほとんどなく、最高気温極値46.7℃(1995年6月)、最低気温極値-24.1℃(1969年1月)と寒暖の差が大きい。
人口はわずかに520万人であり、トルクメン人85%・ウズベク人5%・ロシア人4%・その他6%という構成となっているが、歴史的背景から洋の東西から到来した血が多様な容姿の人々を街にあふれさせ、日本人出張者の中にもよくトルクメニスタン人と間違われる方もいる。
歴史的には、ペルシャ帝国、アレキサンダー大帝、イスラム軍、蒙古、チュルク、ロシアの支配を受けた時代もあり、中世時代にメルブ(現マリ州内)はイスラム圏の都市の一つであったとともにシルクロードの重要中継点であった。1800年代後半にはロシアに併合され、1924年にソビエト連邦の共和国の一つとなり、1991年のソビエト連邦崩壊に伴い独立し、以降大統領もわずか2人、1995年には国連にて永世中立国として承認され、安定した国家運営がされている。
宗教的には、イスラム教徒89%・ロシア正教9%・その他2%となっており、国旗に三日月があしらわれている通りイスラム教国ではあるが、永いロシア~ソビエト連邦統治の時代もあった結果か、ウオツカやビールには国産品があり、豚肉もあり、何より女性はアバヤやチャドル等で顔を隠すことなく街行く人々の目を楽しませている。
西にカスピ海、時計回りにカザフスタン、ウズベキスタン、アフガニスタン、イランに囲まれた、このlandlocked countryの下には、世界第4位17.5 TCM(Trillion Cubic Meter)ものガスが眠っており、弊社をはじめとした多くの外国企業もガスダウンストリーム各種案件取り組みを通じ当国の経済発展に寄与すべく努めている。

経済関係


東西ガスパイプライン:東のガス田地帯と西のカスピ海を結ぶ773kmのガスパイプライン。2015年12月完成、30BCM/年移送可

トルクメニスタンの経済パートナーは独立当初はロシアが中心であったが、いち早く進出したのが同じチュルク系のトルコであり、 2009年のガスパイプラインの開通に伴い中国が躍進し、現在は輸出:中国69.7%・トルコ4.6%、輸入:トルコ25.1%・ロシア13%・中国10.7%・UAE7%・米国5.1%・ウクライナ4.9%という構成になっている。永世中立国でもあり、多面交流を目指しているトルクメニスタンは経済パートナーの多角化も目指しており、近年の大型プラント商談の多くには日本、韓国が絡み、また、TurkmenistanAfghanistan-Pakistan-Indiaの頭文字を取った1,800kmにもわたるTAPIガスパイプライン計画を通じ隣国アフガニスタンの安定並びにパキスタン、インドとの結び付き強化を狙っている。

トルクメニスタンの生活環境

大統領が強大な力を持っている国であり、 Facebook / Twitter / YouTube等へのアクセス制限をはじめとした情報統制もあることから、ネガティブな表現をする向きもないではないが、各住居にはパラボラアンテナが設置され、多くの国民はロシア語・トルコ語放送を視聴し世界の動きを知っており、また、電力・水道はほとんど無料、ガソリンは安価、個人所得税も10%と低率であり、2014 年からの原油安から外貨取得規制等はあるものの、国民に大きな不満が生じていないことからすると良政が行われているものとみられる。外訪者の目からすると、各オフィスには大統領肖像があり、国営報道機関が唯一のメディアであること等奇異に映る面は否めないが、実はわが国も70数年前までは各家庭に御真影あり、報道も規制されていたことからすると、ある意味では国家の進展には過程があり、独立25年のトルクメニスタンは現在明治時代にありその将来が非常に楽しみという見方ができる。
ビザ取得が容易ではない国だが、読者の皆さまにはぜひ自らお運びいただき自らご確認いただくべくお越しを弊駐在事務所一同お待ち申し上げています。その時には、ぜひ、商売のネタ付きでお願いします。


砂漠での放牧:砂漠でも春には草が生え、羊が放牧される


アシガバット市内の市場:通称「ルスキー(ロシアン)バザール」。季節の果物、野菜をはじめとした食料品、日常雑貨が並ぶ


民族楽器演奏:二胡ドゥタール演奏。大きな帽子を被っている女性は既婚者、キャップは未婚者手織りの絨毯も特産品

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