伝統と先端が息づく、 活気あふれる島 台湾

双日台湾会社
向井 陽平

はじめに


面積約3.6万㎢、九州とほぼ同じ広さの台湾の人口は九州の約2倍。特に都市部では人口密度が高く、活気と混雑が特徴的です。沖縄から飛行機で1時間の近距離にあり、豊かな食文化や観光名所を楽しみに訪れる日本人観光客も多い台湾に2024年1月から駐在しています。駐在生活で知り得た、観光では見えない生活習慣や文化の違いについてご紹介したいと思います。


休日、阿里山でほっと一息つく筆者



台湾に根づく親日感情

台湾はアジアの中でも特に親日的な地域として知られており、その印象は私自身の駐在生活の中でも日々実感するところです。とりわけ年配の方々には、かつての日本統治時代に日本語教育を受けた方も多く、街を歩いていると突然日本語で話しかけられることがあります。その自然な親しみのこもった言葉には、歴史を超えた人と人とのつながりを感じる瞬間があります。
東日本大震災の際には台湾から多くの義援金が寄せられ、日本国内でも大きな反響を呼びましたが、こうした行動の背景にも、かつての歴史的な関係と、そこから育まれた信頼と共感があるように思います。単なる外交的な友好ではなく、草の根レベルで培われた人間関係の温かさが、今の親日感情の土台になっているのではないでしょうか。
また、日本の文化や商品に対する関心も高く、アニメや音楽、ファッション、食文化などが若い世代の生活に自然と溶け込んでいます。日本語を学ぶ学生も多く、日本への留学や旅行を通じてさらに理解を深めようとする姿も見られます。台湾におけるこうした日本への親しみは、単なる一過性の流行ではなく、生活や価値観に根づいた持続的な関係性であると感じています。

ユニークな制度

台湾に暮らしていて驚かされるのが、「統一發票」と呼ばれるユニークなレシートくじの制度です。これは、消費者が店舗で買い物をした際に受け取るレシートに、宝くじのような番号が印字されており、2 ヵ月ごとに当選番号が発表されるという仕組みです。
最高賞金はなんと1,000万台湾ドル(日本円で約4,500万円相当)!小額当選も多数あるため、現地では多くの人がレシートを保管し、抽選結果を心待ちにしています。私も初めは半信半疑でしたが、小額ながら1年間でなんと3度も当選しました。
この制度は単なる懸賞ではなく、政府が店舗の脱税防止のために導入した納税インセンティブの一環です。正規のレシートを発行することで売り上げが記録され、店舗に適切な課税がなされる。消費者の協力を通じて、公平な税制度の実現を目指す仕組みとなっています。
今ではスマートフォンのアプリでレシートを簡単にスキャン・管理でき、外国人でも参加可能です。買い物のたびにちょっとした楽しみが加わるこの制度は、台湾ならではの合理性と遊び心が融合した、実に興味深い取り組みだと感じています。

豊かな食文化


現地の方でにぎわう夜市


夜市の人気屋台「鶏ももステーキ」


台湾といえば、「夜市」を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。夜市は、夜に営業する屋台街のことで、台湾全土に300以上あると言われています。観光地として知られる一方で、地元の方々にとっても身近な食事の場であり、家族で食事を楽しむ姿が日常的に見られます。魯肉飯(豚そぼろご飯)や担仔麺、小籠包など、日本でもおなじみの料理が並び、台湾の食の魅力が凝縮された場所とも言えます。
この夜市文化は200年以上の歴史をもつとされており、台湾の活気と庶民文化を象徴する存在でもあります。さらに、台湾では「食養生」という、食を通じて体調を整えるという考え方が深く根づいており、薬膳スープも日常的に親しまれています。例えば、体を温める「四物湯」や、疲労回復に効果があるとされる「十全大補湯」などがよく知られています。こうしたスープは家庭料理としても広く浸透しており、スーパーでは手軽に使える漢方素材セットが販売されているのも、台湾らしい光景です。


ランチの定番「魯肉飯」は日本でもおなじみ

私自身、駐在生活の中では朝食と夕食は自宅で済ませることが多いですが、昼食は気分転換を兼ねて近所の飲食店を巡るのが楽しみになっています。中国語のメニューを完璧に読み取るのは難しいものの、漢字からある程度の想像がつくため、知らない料理に思い切って挑戦してみることもあります。注文した料理が自分の好みにぴったり合っていたときには、思わず心の中でガッツポーズを取ることもあります。そんな小さな発見も、台湾生活ならではの楽しさの一つです。


台湾の観光スポット


台湾を訪れる旅行者にとって、文化的な魅力を味わえる観光地としては、九份、龍山寺、中正紀念堂、そして国立故宮博物院などが代表的です。九份は台北近郊に位置し、日帰りで訪れることができる人気スポットで、山あいの街並みとどこか懐かしさを感じさせるノスタルジックな雰囲気が魅力となっています。


雨と灯りに包まれた「九份」


山あいに佇む壮麗な「故宮博物院」


一方、龍山寺、中正紀念堂、故宮博物院はいずれも台北市内にあり、アクセスの良さも手伝って多くの旅行者に親しまれています。龍山寺では台湾の人々の信仰文化に触れ、中正紀念堂では台湾の近現代史を学ぶことができます。また、故宮博物院では、中国王朝の美術・工芸品に間近で触れることができ、歴史と芸術の奥深さを体感できる場所となっています。それぞれ異なる角度から、台湾の多面的な魅力を感じられるスポットです。


これらの代表的な観光地に加え、台湾の魅力として忘れてはならないのが、街歩きの楽しさです。中でも、台北市大同区にある「迪化街」は、歴史的建築と現代的なリノベーションが美しく調和した街並みが印象的です。薬草や乾物、茶葉などを扱う老舗の問屋が軒を連ね、歩くだけで台湾の日常文化に触れることができます。観光地でありながら、地元の暮らしの空気が感じられる点も魅力の一つです。また、私が生活の拠点として選んだ「赤峰街」も街歩きにおすすめの場所です。ここでは古い街並みの中に、現代的な感性を持った雑貨店やカフェ、アトリエが点在し、どのお店にも店主のこだわりと個性が表れています。ふと立ち寄った小さなギャラリーで、台湾の若手アーティストの作品と出会うこともあり、毎日の散策のなかに思わぬ発見があります。暮らしの延長線上に、文化や創造性に触れられる街。それが、赤峰街の魅力だと感じています。


1738 年創建の古刹「龍山寺」


台湾の産業とエネルギー政策


台湾を語る上で欠かせないのが、半導体や電子機器といった高度な製造業を中核に据えた産業構造です。世界的な半導体企業において、莫大な電力を必要とする精密な生産活動が日々行われています。そのため、安定した電力供給とエネルギー政策の持続可能性は、経済・産業の根幹を支える重要課題となっています。
一方で資源に乏しく、持続可能なエネルギー政策の構築が急務となっています。これまで発電の約8割を火力に依存してきましたが、近年は脱炭素とエネルギー自給率の向上を同時に目指し、再生可能エネルギーの導入を急速に進めています。政府は2050年のカーボンニュートラル達成を掲げ、太陽光発電と洋上風力発電の拡大を国家戦略の柱と位置づけています。
この中で、当社が参画する台湾最大級の洋上風力発電事業「雲林洋上風力発電所」が、2025年1月に商業運転を開始しました。総発電容量640MW、年間約120万tのCO₂削減を見込むこの事業は、一般家庭約60万世帯分の電力供給に相当します。建設にはコロナ禍による遅延、天候や海洋条件による困難も伴いましたが、それらを乗り越えて実現したものです。今後も台湾の脱炭素社会の実現に貢献していきたいと考えています。

おわりに


騎樓(店舗前の広い歩道)のテーブルで同僚とランチ

台湾での駐在生活を通じて、この地の多様な魅力に触れることができました。ビジネス面では、日台双方が互いの強みを活かしながら共創するパートナー関係が築かれており、特に再生可能エネルギーの分野では、その協力関係が将来の脱炭素社会実現に向けた布石となっていることを実感しています。今後も、台湾という土地の持つ可能性と向き合いながら、企業人として、そしてひとりの生活者として、地に足のついた価値創出を目指していきたいと考えています。この寄稿が、台湾への理解を深める一助となれば幸いです。