世界一の日系人コミュニティー

Kanematsu America do Sul Importacao e Exportacao Ltda.
President
田尻 勇一

はじめに


初めまして、兼松南米会社の田尻勇一です。2021年8月ブラジルのサンパウロに赴任し、4年が経過しようとしています。
駐在は2回目(1回目はバンコク)ですが、ブラジルはおろか、南米大陸に足を踏み入れたこともないまま赴任しました。赴任前にイメージしていたブラジルは、1年中夏が続き、サンバ、ボサノバをこよなく愛する人たちが街を歩きながら過ごしているようなリゾート感がちりばめられている雰囲気を予想していましたが、当方が赴任したサンパウロはそんな面影はなくオートバイ、自動車が所かまわず飛ばしているような大都会でした。気候は、亜熱帯地域にあるものの、標高800mに位置し過ごしやすくも、1日で四季を感じるほど寒暖差はあり、日中は半袖でも夜は上着が必須だったりと、1年中毎日気温のチェックは欠かせない環境です。
2025年は日伯交流130年という節目の年ということもあり、ルーラ大統領が日本に国賓として招待されたりするなど、国家レベルでも活発な交流があります。
このような両国の節目の年に執筆させてもらえるのは何かの縁かと感じております。たったの4年、かつポルトガル語もろくに話せないものに何が分かるのかとお叱りを受けるのは承知しておりますが、実際の移動距離は遠くも、心の距離は近いブラジルでの4年間の生活を振り返りながらご紹介したいと思います。


筆者



日系人コミュニティー


サステナブルコーヒーのDaterra農園

やはり、最初に触れたいのは日系人コミュニティーです。
ブラジルとの外交関係は1895年に始まって以来、経済、文化、教育など多岐にわたる分野で協力が進んでいますが、特に日系ブラジル人の存在は、両国の関係を強固にする重
要な要素といわれています。ブラジルには約270万人の日系人が住んでいるとされ(2023年10月現在)、これは世界最大の日系コミュニティーです。
現在は遠いといっても27時間(欧州、米国、中東周り全てから来られる、というか日本の反対側ということが実感できます)ですが、移民当時は船で1 ヵ月以上かけてブラジルまで来たといわれています。
その中でもサンパウロはブラジル最大のコミュニティーで、47都道府県の県人会が存在しており、お祭りなども催しています。街で困っていたらいきなり日本語で話しかけ手伝ってくれた、助けられたという方も多いのではないでしょうか。筆者は、役所で書類に
不備があった際、通訳を買って出てくれ助けられた経験があります。
また、市内にはリベルダージ(東洋人街)という街があり、日本をはじめとしたアジアの食材が手に入るスーパー、居酒屋、ラーメン店、うどん店、アニメなどのグッズも多数あふれており、週末ともなるとアジア好きなブラジル人もこぞって遊びに来るので歩くのも困難なぐらい混雑します。(秋葉原と原宿と上野がごちゃ混ぜになったようなイメージでしょうか)ここに行けば日本の食材も揃うので日本の物が恋しくなったら買いに来ることが多いです。(ただ、価格は3倍程度するので最初買う時は勇気がいりました。)
日系社会が根付いているおかげで、生活は思った以上にしやすく、日本の反対側にいることを忘れてしまうときもあります。赴任当初は外見で判断してしまい、日本語が通じないことが多々ありました。(反省)

物価と治安

日本の物が高いと書きましたが、輸入品は全て高いです。これは世界一複雑といわれるブラジル税制の影響が強く、関税、物流など、物が動くところに全て税金がかかるためです。例えば、iPhone。世界で2番目に高い(1番目はトルコ、通貨安の影響)といわれ、日本の価格に比べると2-3倍はします。その他、個人的な趣味のランニングのシューズも目が飛び出るほど高く、Nike / Asicsなど、ランナーに人気のある海外ブランドは3倍して手が出ません。駐在員は、日本の価格を知っているため、一時帰国時にスーツケースに生活用品や、特に手に入らない子ども用品を段ボールに何箱も詰めて戻ってきます。または、出張者に生活用品を依頼するパターンが多いです。ただ、街を見回すとこのようなブランドを普通に使用している人が多く、価格に対する概念が違うんだなと感じています。反対に、日本人にとっては牛肉などの肉はびっくりするほど安いのですが、少しでも高くて味が普通だったりするとブラジル人からは大変な不満が上がります。
また、ブラジルは、貧富の差が非常に大きく(ジニ係数はworst3位以内の常連国)犯罪率も非常に高い国です。強盗発生件数は、サンパウロ市だけに限ると日本の1,200倍と、驚異的な発生率で、日々気が抜けない生活を送っています。特に携帯の強盗が多く、駐在員もしばしば被害に遭っています。
iPhoneは中古でも4年前のモデルでも日本の定価ぐらいで取引されているのでそれを狙った強盗が多発しています。一番多いのが、歩行中のひったくり。自転車で近づきいきなり後ろから取って走って逃げるもの。あとは拳銃を使っての強盗や、自動車で携帯をNavi代わりに使うと外から見られるようで助手席の窓ガラスをいきなり割って取っていくものです。この記事を読んだ方はブラジル怖すぎと思われるでしょうが、常にこのリスクを背負いながら生活するものと思い日々過ごしています。ですが、ブラジル人は基本外交的でおしゃべりが大好きなので、街でいきなり話しかけられ、自分の家族のことを話しだしたり、人生相談されたりします。赴任当初、いきなり交差点などで後ろから話し掛けられた時は、「あー、もう強盗にあった」と何度か肝を冷やしたことがあります。言葉が分からないのでさらに怖さが増します。
この治安ネタは、書き出すと止まらないので(駐在員あるあるです)これでやめておきますが、事実は事実として日々気を付けながらも、それを上回るほどの魅力もあるのがブラジルですので、この混沌としたカオスに一度は訪れてみてください。大体の人は、そちらの魅力にはまっていくと思います。


休日の過ごし方① ビーチ(サーフィン)


Bonito でのシュノーケリング


サーフィンも人気です


サンパウロは観光地というより商業地なので、週末の過ごし方を紹介させていただければと思います。
ブラジル人は海をこよなく愛しており、休日ともなればみな海に出掛けて1日中のんびりと過ごしています。また、ブラジルでスポーツといえば、サッカーが最も盛んであることには間違いないですが、実はサーフィンもとても盛んです。ここ数年のブラジルのトッププロの活躍もあり、海に行けば老若男女問わずサーフィンを楽しんでいます。
筆者も趣味の一つがサーフィンで、ブラジル赴任後すぐにサーフボードを購入し、時間さえあれば友人たちと波乗りに出掛けていました。サンパウロからは車で約1-1.5時間でいろいろなポイントに行けます。東京在住の方ならイメージが湧くと思いますが、九十九里に週末波乗りに行くイメージです。日本と違いサーフィンができる場所は多い上にコンスタントに波もあり、人もがつがつしておらず、水温も暖かいので日本より環境は上だと思います。海の上でもすぐに話しかけられお互いにいい波に乗ればアミーゴです。
週末に波乗り仲間とAirBで一軒家を予約して泊まりがけで行くサーフィンはいい思い出です。(現在、家族帯同で週末に家族行事が多くなかなか行けないのですが…)異国の地でサーフィンデビューはいかがでしょうか?


休日の過ごし方② ランニング


世界的なランニングブームはブラジルも例外でなく、平日・休日問わず、朝の公園はランナーであふれかえっており、週末ともなると各地でミニマラソンから本格的なマラソン大会が行われています。ランナーはイビラプエラ公園や、パウリスタ大通りなどを走って練習しています。
筆者も、日本にいる時からフルマラソンやらトレイルランの大会に出るほど走るのが好きで、赴任以来ブラジル各地のいろいろな大会に出ています。
お薦めはリオのマラソン大会で、人気のため、直ぐに定員に達します。オリンピックコースを一部走れる上に、途中からはコパカバーナの海岸線沿いに走り、ずっと観客に応援されながら走れます。バックにキリスト像、奇岩Pão de Açúcar(ポン ジ アスカール)の観光名所を横目に走ると、まさにイメージしていたブラジルに来たのだと思ったものです。またランニングを通じて知り合いも増え、一緒に大会に出てその後の打ち上げを楽しみに日々練習を続けています。大会スタート時間は朝6時前とだいぶ早いのですが午前中には家に戻ることができ、家族サービスも問題ありません。


リオマラソン(後ろはPão de Açúcar)


ハーフマラソン(サンパウロ)


休日の過ごし方③ バーベキュー


ウルグアイパッカーでのシュハスコ

ブラジルの代表的料理の一つにシュハスコがあり、国民1人当たり牛肉年間消費量は世界3位で1人当たり38.4㎏といわれています。(ちなみに1位はウルグアイの61㎏、2位はアルゼンチンの53.5㎏と南米が占めています。一方、日本は約9㎏とだいぶ少ないです)休日ともなるとレストランは家族連れで満席、家でも親族を呼んでシュハスコパーティと圧倒的なボリュームの肉でもてなします。
駐在員が住むプレジオ(アパート)でも客が呼べる施設にBBQが出来る台がセットされており歓送迎会などでBBQをして盛り上がります。
牛肉をあまり食べなかった私の子どもも、当地の脂肪分の少ない赤身で柔らかい牛肉の虜になってしまい、帰国後の家計を案じながらもこちらでのシュハスコライフを楽しんでおります。
宣伝になってしまいますが、当社ではウルグアイビーフを日本に輸出しておりますので、是非スーパー、レストランで見かけたらご賞味ください。


シュハスコ


ムケッカ(ブラジルの海鮮シチュー)


おわりに


サルバドールの世界遺産地区


ブラジルのGDPは2023年にトップ10以内に返り咲き、2050年までには日本も抜きトップ5になるといわれるほど成長を続けています。BRICSともてはやされた頃よりは落ち着きは見せていますが、農業・鉱業分野をはじめ、今後ますますブラジルという国は重要になっていくと考えられています。街を見回しても建設ラッシュが続き、ダイナミックに街が変わっていくのを感じます。このように成長を実感できる国で仕事をし、生活できていることはかけがえのない経験だと感謝しながら日々過ごしております。
また、ブラジルという国は、Diversityという言葉も一般的でない時から、この国は当たり前のようにDiversityを受け入れ(日系社会もその一つ)、成長してきた国です。多国籍企業では、幹部候補はブラジル駐在を経験させるのが条件と聞いたことがあります
が、まさに自分の常識は世界の非常識、ルーツも違うそれぞれの文化を尊重、融合しながら日々変化していく中、さまざまな状況判断を鍛えるためとのことです。
最後になりますが、犯罪率の高さ、貧富の差、税制の複雑さなどのブラジルコストといわれる課題も山積していますが、今後も目が離せない国に足を運んでみてはいかがでしょうか?