シルクロードど真ん中の親日国ウズベキスタン

丸紅株式会社タシケント支店 支店長
西山 研介

はじめに


タシケントのオフィスにて

2022年4月よりウズベキスタンのタシケントに駐在し、丸3年が経過しようとしています。
ウズベキスタンはユーラシア大陸のほぼ中央に位置し、世界に2つしかない二重内陸国の1つ(海に出るまで2つ以上の国境を越える必要がある国、もう1 ヵ国はリヒテンシュタイン)です。1991年の旧ソ連崩壊時に独立した比較的若い国で、当社は1994年にタシケントに拠点を開設以来、約30年にわたり当地でビジネスを行っています。
1人当たりGDPが2,820ドル(2023年、IMF)と発展途上にあるウズベキスタンですが、石油、天然ガス、金・銀・銅等の各種金属資源、ウラン等を産出する資源国であるとともに、3,570万人という中央アジア最大の人口を有しています。合計特殊出生率は約2.8人で毎年約100万人ずつ人口が増加しており、平均年齢も約28歳と今後のさらなる人口増加、それに伴う内需市場拡大も期待できる高いポテンシャルを持った国です。近年の経済発展は目覚ましく、コロナ禍による期間をまたいでも平均毎年5%以上の成長を続けています。
これまで出張・駐在・旅行等で多くの国々を訪れましたが、ウズベキスタンに住んでみて、この国は他のどの国とも違うユニークな魅力を持った興味深い国であるとの思いをますます強くしています。本レポートを通して、日本ではまだあまり知られていないウズベキスタンという国を知っていただければ幸いです。



イスラム国家ウズベキスタン


ウズベキスタンは国民の約90%がイスラム教スンニ派を信仰するイスラム国家です。私自身にとって初めて駐在するイスラム教の国であり、赴任前には、これまで経験したことのない独自の慣習やしきたりがあるのだろうと想像していました。実際、タシケントにおいても多くのモスクがあって日常的に礼拝が行われており、街中ではへジャブをまとった女性を多く見かけます。またイスラムのしきたりによって決まる国の祝日があり(月の満ち欠けで決まるようで、いつもギリギリまで決まらず、困っていますが)、冠婚葬祭等を含め、人々の生活の中にイスラム教が深く根付いていることがよく分かります。


タシケントに多くある酒類販売店


バザール内にある豚肉専門店


バザールに飾られているクリスマスツリー

一方で、イスラム教の国では手に入りにくいと思われる豚肉やアルコール類についてはかなり寛容です。もちろん街中のスーパーマーケットや食料品店では豚肉も酒類も売っていませんし、ウズベク料理のレストランではアルコール類の提供がないところも多くあります。しかしながら酒類を販売する専門店はタシケント市内に数多くあり、そこに行けばほとんどの種類のお酒は買うことができます(最近は日本のビールも販売されています!)。また豚肉もバザールの中にある専門店や韓国系食料品店等で比較的容易に購入することができます。酒類の提供がないレストランも持込みはほとんどOKです。
赴任した最初の年の年末に、街中の至る所でクリスマスツリーやクリスマス関連の装飾が飾られるのを見て驚きました。イスラム教の国なのになぜクリスマスを祝うのか? と知り合いのウズベク人に聞いてみたところ、「私たち、フレキシブルなイスラム教徒だから」という回答でした。厳格な慣習やしきたりがあるようで、寛容(フレキシブル?)さもあるイスラム国家、ウズベキスタンはとても興味深く不思議な国です。


ウズベキスタンの魅力


サマルカンド(レギスタン広場にて長女と)


ヒバ(イチャンカラ)


ウズベキスタンの魅力は何といっても、古くからの大陸貿易、シルクロードの中継地、すなわち「文明のクロスロード」であったことに由来する、多種多様なものが織り交ざった独自の文化です。2,500年以上前からこの地域にはさまざまな人種が住んでいたと言われており、4つの世界遺産(サマルカンド、ブハラ、ヒバ、シャフリサブス)を含めた数多くの遺跡からもそれを感じることができます。
これらの世界遺産を始めとする多くの観光資産を有することから、ウズベキスタン政府も観光産業強化を掲げ、2030年までに国外からの旅行者数を1,500万人(2024年約700万人)まで増やすことを目標として、関連インフラ整備・人材育成等に注力しています。
現在は欧米、中国、中東、ロシア等CIS諸国からの観光客が多いようですが、コロナ禍以降、日本からの観光客も増加傾向にあります。冬季以外の繁忙期にはウズベキスタン航空による成田-タシケント間の直行便が週2便運航されており、この直行フライトを利用して多くの観光客が日本から訪れるようになっています。昨今の円安傾向により、日本からの海外旅行はハードルが高くなっているようですが、ウズベキスタンは物価が安く、また治安も非常に良いため、円安下でもリーズナブルかつ安全に楽しめる旅行先として注目され始めていると聞きます。実際、多くの日本人旅系YouTuberがウズベキスタンを訪れて動画を投稿しており、治安の良さから女性のみでも楽しめる旅行先として推薦されているようです。


ブハラ(カラーン・ミナレット)


日本との関係


日本人抑留者によって建設されたナボイ劇場


日本人抑留者記念館


ウズベキスタンは日本にはなじみの薄い国ですが、実は深いつながりがあります。第二次世界大戦後、旧ソ連に抑留された日本人の内、約2万3,000人がこの国で発電所や都市建設等のインフラ整備に従事しました。その中でも最も有名なナボイ劇場は、タシケント市が壊滅的な被害を受けた1966年の大地震でも倒壊しなかったことから、日本人の勤勉さ・技術力を多くのウズベク人が認識する象徴になっています。また当地で亡くなられた日本人抑留者の墓地が国内各所に存在し、国造りに貢献した日本人の足跡を残しています。加えて1991年の独立以来、日本からはODA等の枠組みを通して一貫した支援(供与総額5,000億円超)を行っており、長年にわたってウズベキスタンの発展に貢献しています。

このような背景から、この国では日本人は総じてリスペクトされており、私自身日々過ごしている中でも、こちらが日本人と分かるとほぼ全てのウズベクの人たちが親切に話しかけてくれるなど友好的で、親日度ではトップクラスと言えます。若い世代を中心に日本に興味を持つ人も多く、多くの学生が大学等で日本文化・日本語を学んでいます。経済的にはロシア・中国・韓国・中東・トルコ等との関係が深い国ですが、在留邦人が約150名(内、民間企業駐在員20名程度)しかいないにも関わらず、この日本のプレゼンス、レピュテーションの高さは唯一無二と言えます。このように先人たちが築き上げた良好な二国間関係のおかげで当地での仕事がスムーズに進むことも多く、日系企業の駐在員として感謝の念に堪えません。


タシケントの日本人抑留者墓地


ウズベキスタンでの生活


タシケント郊外のチャルヴァク湖


バザールのフルーツ売り場


近年、目覚ましい経済発展を続け、生活環境の向上が進んでいるウズベキスタンですが、日本や他先進国と比べて娯楽が少ないのも事実です。私自身は単身赴任での生活であることから、週末は日頃の運動不足解消のため、スポーツ(テニス、水泳、たまにゴルフ)をしたり、他の日本人駐在員とタシケント近郊に出掛けたり、飲み会をしたりしています。また旅行が好きなので、連休や長めの休暇には国内外に旅行したりもしています。上述の通り、ウズベキスタンには国内にも多くの観光地がありますので、旅行で訪れる先には事欠きませんし、中央アジアという地理的な要因から各方面へのアクセスも便利で、ウズベキスタンに来てから、日本からはなかなか行きにくいコーカサスや北アフリカ、中東欧諸国も訪れることができました。


ラグマン


プロフ(サマルカンド風)


駐在生活において重要なのが食事面ですが、ウズベキスタンでは日本の食材はほとんど手に入りません。ただし現地で購入する肉、野菜、果物は年間を通して豊富で価格も安く、とてもおいしいと思います。ですので普段はこれらの食材を買って自炊して食べることが多くなっています。特に果物の豊富さ、おいしさは想像以上で、価格も安いことから年中、フルーツざんまいの食生活となっています。また近年はタシケントでも新しいレストランが続々オープンしており、日本ほどではないにしても、さまざまなジャンルの料理を楽しむことができるようになっています。歴史的な背景からウズベキスタンは朝鮮系の移民が多く、韓国料理店は以前から数多くありますが、最近は中華料理店やおしゃれな洋食レストランも増えてきています。日本人シェフのいる和食料理店も2年前に1件オープンし、いわゆる普通の和食が食べられるようになりました。地元のウズベク料理は比較的日本人の口に合うテイストが多く、中央アジア諸国で食べられているラグマン(うどんのような麺)やプロフ(炊き込みご飯)はウズベキスタンでも有名で、地域によって味付けが変わるので、それらを食べ比べてみるのも面白いかと思います。

またタシケントには個性的なカフェが増えており、週末はいろいろなカフェを巡るのが楽しみになっています。2年前には英国のコーヒーチェーンであるCosta Coffeeも進出し、店舗を増やしています。
ウズベキスタンには日本にあるような大型デパートやショッピングストリートはなく、いくつかあるショッピングモールも、日本では見たことのないようなブランドの店しか入っていないところが多かったのですが、昨年5月には、タシケントの新たな開発地区であるTashkent Cityの一角に、初めての本格的な巨大ショッピングモールであるTashkent City Mallがオープンしました。
このTashkent City Mallには多くの著名な海外ブランドショップに加え、当地初進出となるZARAも入っています。当地の物価水準からすると店舗もレストランもかなり値段が高めですが、オープン当初より多くの人でにぎわっており、タシケントのランドマーク的存在になりそうです。


Tashkent City Mall


最後に


私が駐在しているこの3年間だけでも、首都タシケントを始めとしてウズベキスタンは大きく変わりつつありますし、数年後にはさらに変貌を遂げていることは間違いなさそうです。ダイナミックな変革が感じられるウズベキスタンはとても面白く、興味深い国ですので、ビジネス・観光ともに日本からの来訪者がさらに増えて、その魅力を知っていただける人が増えることを期待しています。

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