「新春座談会-バイデン新政権誕生、米国から展望する世界経済・国際情勢」

2.トランプ政権4年間の内政、外交・通商・安全保障政策

トランプ政権4年間の内政をどうみるか。

中園(伊藤忠):それなりに成果はあった。まず失業率を過去50年で最低の3.5%まで落とした。株価は幾度も過去最高を更新した。パンデミックの前までは680万人の新しい雇用をつくった。一世帯の平均所得が2019年で約6万9,000ドル、これも過去最高だ。全てがトランプ政権だけの手柄ではないものの、これらの成果は評価したい。

ただし、短・中期的にみると、かなりコストを伴った成果であったと言える。法人税が35%から21%に下がり法人に一時的な利益がもたらされたが、財政赤字はGDPの4.6%まで膨らんでしまった。また減税は意外と一般の国民には恩恵が少なかった。減税で浮いたお金が投資あるいは従業員の給料アップに使われることは少なかった。規制緩和も積極的に進められたが、業界により評価はまちまちだ。

商社ビジネスへの影響を考えると、弊社の場合どちらかというと外交、通商問題の影響の方が大きかったが、米国内の事業会社は総じて減税の恩恵を受けた。一方、移民問題に起因するのか、失業率低下に起因するのか分からないが、人手不足が顕著で、特に農業関係と製造業の事業会社は人材確保に苦労していた。

外交・通商・安全保障政策をどうみるか。

吉村(住友商事):過去の政権が手を付けなかったことを果敢に実行し、ある程度の結果を出したことは評価したい。例えば対中政策はバイデン政権も継続するといわれている。これからも経済面、安全保障面で中国が外交課題の中心になろう。

ただ、トランプ氏のやり方は省庁間の政策調整プロセスを無視したトップダウン方式だったので、朝令暮改になったり、出口戦略がなく政府内で足並みが乱れたり、首尾一貫していなかったという批判はある。ひとことで言えばカオス状態。トランプ氏は天才的な演出家であり、主役も演じられる役者だったが、政治に対する視聴率を大幅に上げたことは間違いない。

通商面では保護主義に走ってしまった。バイデン氏もバイ・アメリカン強化の大統領令に先日署名し、さらに強化しようとしているが、ポピュリズムと保護主義は「混ぜるな危険」のコンビネーションだと思う。総合商社のように貿易も投資も行う業種にとっては、米国は過渡期にあり、グランドルールが分かりにくくなっていると感じる。もちろんそこに新たな商機が生まれるかもしれない。しかし、保護主義的な政策に守られ一時的に有利になる業界はあっても、保護しすぎれば国際競争力は低下し、中長期的にはマイナスになるのではと危惧している。

緋田(三井物産):毎日トランプ氏のTwitterを見なくて済むという意味では、平穏が戻ってほっとした気分は正直ある。他方、多民族国家の米国ではポリティカル・コレクトネスを過度に重視する風潮がある中で、トランプ氏のようなドレイン・ザ・スワンプ(注7)を政治目標の一つに掲げる人物が大統領になったことは、国民と政治の間にできた隙間を埋めるという意味で良かった点もあると思う。中国の問題にしてもやり方の是非と効果は横に置けば奇麗事など言わずに徹底的に問題を指摘する、リベラルメディアにどんなたたかれてもへこたれずに闘う、そういうプロレスラー並みにタフなトランプ氏はワシントンに刺激を与え国民の政治参加を促す意味で貴重な存在だったとも思う。ただし、著書の内容が100%正しいかどうかは別にしても、ジョン・ボルトン元大統領補佐官が詳述したものを含めた数々の暴露本を読むと、この人に外交を任せたら本当に世界が危険にさらされたかもしれなかったなと、複雑な思いが交錯する。

中園(伊藤忠):トランプ氏はわれわれ外国人から見て悔しいぐらいに米国の国と大統領の力をレバレッジとして諸外国と交渉していた。それが相手国との関係悪化を促す面もあったが、トランプ氏のやり方で対中政策は明らかに前進した。北朝鮮の金正恩と会うことも普通の大統領ではまずできなかったのではないか。もちろん中途半端に終わってしまったのは問題だが。最後には相手が譲歩すると読んで、最悪の場合は自国が犠牲になっても仕方がないというチキンレース的な彼独特の交渉術は、米国にとって良かったと感じた米国民は多かったのではと思っている。

注7:ドレイン・ザ・スワンプ…反官僚・反税金思想。沼の泥水を抜いてワシントンの汚れを一掃しようという意味で使われた。

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