「新春座談会-バイデン新政権誕生、米国から展望する世界経済・国際情勢」

大統領選挙、連邦議会選挙

トランプ人気、トランプ後の共和党をどうみるか。


峰尾 洋一 氏
丸紅米国会社
ワシントン事務所長

峰尾(丸紅):Twitterのアカウントを削除されて以降、驚くほどトランプ氏の存在は薄くなった。トランプ氏の影響力は弱まっていく可能性がある。

トランプ氏がなぜここまで多くの票を獲得したか、一つには経済的な要因がある。トランプ政権下では、米国の家計の最下位2割の所得が伸びている。 民主党が言うように所得格差が広がったかというと、データはそうなっていない。トランプ政権下では皆が全般的に豊かになったと言える。

トランプ氏は規制緩和も行った。オバマ政権が取り組んだクリーンパワープラン、クリーンウォータールールは規制が厳しく、多くの議論を呼んだがトランプ氏はこれと逆の方向の政策を採った。中国との報復関税合戦で農家は厳しい環境に置かれたはずだが、規制緩和があったので、結局、農家はトランプ氏から離れなかった。

トランプ氏は非常に人気が出る、国民の意見を聞いた政治をした。それが多くの票を獲得した理由の背景にある。

吉村(住友商事):トランプ氏が大好きな人と大嫌いな人に明確に分かれる。トランプ氏を当選させたい人、絶対に阻止したい人の両方が活性化され、その結果として総投票数が増えるという仕組みだった。

共和党がかつての姿に戻ることはしばらくない。米国の選挙制度上、新党を立ち上げて勝つのは容易ではないが、トランプ氏は共和党をうまく自分の党にしてしまった。保守主義を大事にしている人もいるが、トランプ支持者の勢いに押されて、長いものに巻かれている状態にある。SNSのアカウントが凍結されて今は影響力が下がっているが、トランピズムの賛同者は多数存在し、この大きな流れはすぐには変わらない。共和党は一種のアイデンティティークライシスに陥っているが、当面はトランピズムを体現する党であり続ける。

武内(三菱商事):トランプ氏が多くの票を得たもう一つの理由としては、民主党の急進左派へのアレルギーもあったのではないか。例えば共和党が奪取したフロリダでマイアミ在のビジネスマンと話をすると、決してトランプ氏は好きではないが、民主党の社会主義のにおいが耐えられないと言っていた。

私も吉村さんと同感で、トランピズムはまだまだ強く残ると思っている。Twitterは封じられたので、新しい右寄りのメディアを買収するかもしれない。2022年の中間選挙でトランピズムを体現する共和党の候補者を推して、相当なインフルエンスを持ち続けると予想する。

2020年11月末のポリティコ社の調査で、「仮に明日2024年の大統領選挙の予備選をやったら共和党員は誰に投票するか」と共和党支持者に質問したところ、トランプ氏が53%を占めた。ナンバー2はペンス元副大統領で12%。ここまでは想定通りだったが、ナンバー3はなんとドナルド・トランプ・ジュニア氏で8%だった。トランピズム強しである。トランピズムは政局の台風の目であることに変わりはないと考える。

緋田(三井物産):武内さんが話された通り、11月末時点での共和党内のトランプ人気は絶大で、2024年にトランプ氏が出馬すれば共和党候補になるだろうと思っていたが、1月6日の議事堂乱入事件を境に少し印象は変わった。また、1月5日にジョージアの上院議員選挙で共和党が負けたのは、身内であるはずの共和党幹部をトランプ氏が攻撃して自傷行為、あるいは自ら蹴り込んでしまったオウンゴールの結果とも言える。トランプ氏は弾劾に賛成した裏切り者の共和党下院議員をいかにして蹴落とすかという復讐(ふくしゅう)モードで燃えているというが、トランプ氏が再び共和党を傷つけるような行為を続けると党が割れ、本来なら勝てるはずの2022年の中間選挙でも再び負けてしまう展開もあり得る。

豊田(豊田通商):2022年の中間選挙は、10年ぶりの国政調査(2020年)を受けて、新しい選挙区割りで行う初めての選挙になる。州議会選挙で共和党、民主党、どちらが多数となるか見ていたが、共和党が多数を占める州議会の数を増やした。州議会がゲリマンダリング(注5)を行う州が多いので、共和党は非常に有利になる。

新大統領就任後の中間選挙を振り返ると、クリントン氏は1994年に下院議席を54失っている。オバマ氏は65、トランプ氏は41失った。唯一、ブッシュ氏が2002年の中間選挙で下院の議席数を増やしたが、9.11の翌年、イラク戦争突入前の国家危急のときだったので特殊だ。第1期大統領の最初の中間選挙は政権与党が大敗するジンクスがあるので、2022年の下院は共和党に軍配が上がるのではないか。

連邦議会選挙の結果をどうみるか。


緋田 順 氏
米国三井物産
副社長・ワシントン事務所長

緋田(三井物産):大統領選も制し、下院も上院も民主党が多数党になったとはいえ、民主党は下院で多くの議席を失い、上院も事前に期待されたような展開にはならず、最後の最後にジョージア州最終決戦でトランプ氏が自爆してくれて2議席が転がり込んで50議席が取れたというのが実態。従って今回の結果を2008年以来のブルーウエーブと言うとすればそれは適当ではないし、民主党が勝った選挙とも言えないだろう。コロナ禍で郵便投票が激増したという特異な状況もあったので、従来の選挙との比較や一般化は難しい。

上院も下院も僅差の中、共和党の中にも民主党の中にもそれぞれ異論を持つ議員もいるので今後の議会運営は容易ではないだろうが、フィリバスター(注6)についても注目しておきたい。民主党チャック・シューマー氏と共和党ミッチ・マコネル氏いう2人の上院トップの間で、フィリバスターを廃止しないよう合意が形成されつつあるとの理解ではあるが、これから民主党の上げる法案を、共和党がことごとく拒否し続けてゆけば、フィリバスター廃止に一気に突っ走ることはなくとも、フィリバスターの例外規則を作っていくよう民主党が傾く可能性もある。議会運営、そして国の方向性に大きな変化が起こり得るので、この動向は要注視だ。

武内(三菱商事):緋田さんが話されたように民主党には痛い選挙結果だったので、下院上院共にぎりぎりの投票ゲームが議案ごとに行われると思う。民主党がぎりぎりマジョリティーという中で、ウェストバージニア、アリゾナ、ジョージアといった州の議員は、共和党寄りのボーティングをしなければいけない。この状況下でバイデン政権が野心的な法案、施策を通すのは難しいだろう。

従って先週行われた大統領令に沿った政策が多くなるので、外交中心になる可能性がある。そうなると2022年の中間選挙、2024年の選挙を経て民主党が短命で終わる可能性すらある。いずれにしても、民主党は難しい立ち位置にいる。

注5:ゲリマンダリング…小選挙区で1人の当選者を選ぶ選挙を行う場合、有利な選挙区と不利な選挙区をつなげて不利な票を無効化する配置が取られること。
注6:フィリバスター…上院で少数派が多数派を止めることができる合法的議事妨害のこと。100議席の上院では、政府高官や裁判官など人事案件を除き、法案を通すためには60議席の賛成票が必要となる。

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