メルボルンとMate Ship(マイトシップ)

Toyota Tsusho(Australasia)Pty Ltd 物流コーディネーター兼
TT Logistics(Australasia)Pty Ltd Senior Executive
髙橋 祐善

「Good day mate !!!」


ここ豪州を訪れたことがある人なら一度は耳にするあいさつ。「元気!?」という意味だが、それとは少しニュアンスが違う。「How are you?」よりもずっとカジュアルで、悪気がなく、親しみを込めた言葉。同国では、その親しみの度合いを「Mate ship精神」と呼ぶ。
「Mate Ship(英語が訛ってマイトシップと読む)」とは、豪州の歴史と自然環境の中で長年かけて形成された仲間意識の総称。
しっかりと根付いたその仲間意識(Mate Ship)は、日々の生活で垣間見ることができ、それが豪州の中で、多彩な文化を絶妙に調和させ、見事に共存させているのだと気付く。それではその一端を、ビクトリア州メルボルンを舞台に、メルボルンらしくつれづれに紹介する。


1.四季


南半球にある豪州はご存知のとおり、全国的に最も暑いのが1月、最も寒いのは7月と日本とは季節が反対になる。
澄んだ空気と降雨量が少ないことが特色だが、それが時には干ばつ、山火事など、各地で深刻な被害を引き起こす。2009年2月の山火事の大惨事は記憶に新しい。各企業や公共団体から数十万ドル単位の寄付金が被災者へ寄せられ、Mate Shipに支えられた豪州を感じた。
日々の生活に目を向けてみれば「メルボルンは一日の中に四季がある」と言われるほど昼夜の温度差が激しく、日中Tシャツで過ごしていたことを忘れるほど冷える夜も珍しくない。街行く人に、コートを羽織った冬の装いと、Tシャツ短パンの夏の装いとが入り混じるのもメルボルンの日常。


2.大自然への入口


豪州の国土は日本の約20倍、769万2,000㎢と、世界第6位の面積。メルボルンがあるビクトリア州は、その広大な土地のわずか3%である。とはいっても、日本に比べれば広大な土地に変わりなく、高層ビル群が立ち並ぶメルボルン市内から車で少し走れば、野生のコアラやペンギン、アザラシやイルカを目の当たりにできる大自然、フィリップ島やモーニントン半島がある。グレートオーシャンロードでは、海岸線に沿って、道がどこまでも続くかのような錯覚を感じることもできる。道路脇で「カンガルー注意」の看板が出てきたら、そこが大自然への入口。


3.グルメ三昧


豪州全国では2,100万人余りの人が暮らすが、そのうち70%が海岸沿いの都市に集中し、ビクトリア州には全体の約25%が居住している。同国は移民を積極的に受け入れており、全人口の24%が外国生まれ。移民人口が多いことから、さまざまな文化が存在する。特にメルボルンにおける食文化の多様性は町を少し歩くだけで体感できる。南半球最大の中華街はもとより、イタリア人街、ベトナム人街、ギリシャ人街など、街のいたる所に国際色豊かなコミュニティーが存在する。その分、料理そのものも本格的で、3度の飯選びに迷うこともしばしば。在留邦人数もビクトリア州で1万人ほどおり、日本料理も少し割高ながら、不自由することはなく食することができる。本当にありがたい。ちなみに、それら食材は市内近郊に点在するマーケットで手に入れることが可能。メルボルンの台所「クイーン・ビクトリア・マーケット」は、1859年から続く歴史ある市場で、和洋中の新鮮な食材をはじめ、お土産、ワインまで豊富な品ぞろえである。


メルボルンの異文化を象徴する中華街


野菜、果物、肉、魚、ワイン、お土産、洋服、フードコート
など何でもそろうクイーン・ビクトリア・マーケット


4.経済の柱


ビクトリア州都メルボルンは、金融、保険、サービス業の中心地シドニーに並ぶ、豪州第2の経済中心都市。
資源・エネルギーの豊富な同国内において、ビクトリア州は自動車産業を中心とした機械、化学、食品など2次産業の生産額が比較的高い。
もちろん製造業だけでなく、4大銀行のうち2行は本店をメルボルンに持ち、シドニーと共に豪州の金融市場をリードしている側面もある。
同州は近年、教育、医療、交通などの分野への投資が積極的で、医療分野では病院の改善、改築および増床に取り組んでいる。今でもベッド数に限りはあるものの医療設備は大変充実しており、世界でも最先端の医療を安心して受けられる環境にある。医療設備に加えて、患者を支える医師、麻酔医など専門医のレベルも高く、当地の教育機関が整備されていることの精華かと思う。私事ながら当地で第1子を授かった際には、この最先端の施設、医師、環境、すべてに大変お世話になった。


5.お気に入りスポット


19世紀の面影と現代建築が調和するメルボルンの町並み


メルボルンのシンボル的建築物、
フリンダース・ストリート駅(1854年完成)


メルボルン市内を歩けば、豪州最初の鉄道駅「フリンダース駅(1854年建築)」、メルボルン一古いショッピングセンター「ロイヤルアーケード(1869年建築開始)」、豪州最大級のカトリック寺院「セントパトリック大聖堂(1863年建築開始)」、世界遺産の「王立展示館とカールトン庭園(1880年建築)」など、19世紀の面影を至る所で感じることができる。一方で、2007年に建築されたメルボルンのランドマーク「ユーレカタワー」は、住宅ビルとしては世界最高層、展望台としては南半球一の高さを誇る。展望台には世界で唯一のアトラクション「The Edge」があり、ビルから3m突き出たガラス張りの箱の中から、遮るものが何もないメルボルンの風景を楽しむことができる。高層ビル群と一見違和感のある19世紀の街並を、共に生活の中に調和させ、楽しもうという姿勢も、実にメルボニアンらしい。と、これだけでもメルボルンを十分に楽しめるのだが、私の本当のお気に入りはレーンウェイ。
レーンウェイとは、シティが拡大する前の19世紀後半に、点在する住宅同士を結ぶために造られた路地で、今もメイン通りから一歩入ると情緒ある石畳の小径を見ることができる。豪州のカフェ文化の先駆けともいわれるこの路地に、レストラン、カフェ、バー、流行りのブティックが軒を連ね、メルボルン文化の最先端といわれるほど活気に溢れている。土日の朝に、ゆったりとカフェで過す時間は、本当に時間が止まったかのようだ。


歴史的なロイヤルアーケード
今ではカフェ、ブティックが軒を連ねる


観光にも人気の州議事堂とパトリック大聖堂


6.サーフィン事情


市内、近郊エリアを走るトラム(路面電車)無料で利用できる「シティサークル・トラム」がオススメ

最もお気に入り…といえばもう一つ。当地赴任時に、トランクケースと一緒に、日本から2本のサーフボードと3着のウェットスーツを持ち込んだ。日本在住時より続けていた波乗りに通うためである。豪州で波乗りというと年中温暖なクイーンズランド、ニューサウスウェールズ、パース近郊というイメージを持たれる方も多いだろう。しかし、ここビクトリア州でも、さすがサーフィン大国オーストラリア!というほど日本では経験できないクリーンな波を味わうことができる。メルボルン市内から車で1時間半ほどのところにある、グレートオーシャンロードに続く小さな町トーキーには、世界的なサーフィンブランドの本拠地がある。すぐ近くのベルズビーチでは、毎年サーフィンの世界大会が開催されるなど、地域一体となった活動も多く、老若男女問わずサーフィンを楽しめる環境がしっかりと整っている。海の上で波を待っていても、御多分に漏れずMate Shipは存在し、「Hi! Mate, Go boys!」はそこら中で聞ける。ただし、夏でもフルウェットスーツを着なければ寒さを凌ぐことはできないし、時には5mを超える大波も押し寄せるので、油断は禁物である。
ビクトリア州メルボルンに住み始めて1年、感じたことを自由につづってみた。
1年間だけで見聞きしたことからも、人種と文化、自然と人工物、19世紀と現代の見事な調和、それらの根底に存在する豪州人気質「Mate Ship精神」を、日々肌で感じ取ることができた。皆さま(Mate)にも一度当地を訪れていただき、ビクトリア州メルボルンという都市で、底抜けに明るい豪州人と、ぜひMate Shipの輪を広げていただきたいと思う。