HANOI事情 — 驚きと懐かしさと期待の国 ベトナム

ナガセ・ベトナム COO
坂之上 太平

ベトナム社会主義共和国


かつて、そう遠くない過去にあった戦争から日本人の多くはベトナムという国の名前は知っていますが、ベトナムという国がどんな国なのかを知っている人はそれほど多くないように思います。
ベトナムはインドシナ半島の東側に位置し、南北に長い33万㎢の国土に約8,800万の人口を有しています。特筆すべきは国民の平均年齢が28歳と非常に若い国であること。人口の約90%がキン族でその他に50以上の少数民族が存在。宗教は80%が仏教徒です。これは私の受けた印象ですがベトナム人の宗教感はわれわれ日本人に非常に近い感じで多分におおらかです。石油やレアメタルなどの資源にも恵まれ、 国土の半分が海に面していることより水産資源も豊富。北部はホン河デルタ、南部はメコンデ ルタという年に3回米がとれる豊饒な大地です。
ベトナムは先史時代より長きにわたって中国 の支配下にありましたが、紀元1010年に李太祖(リータイトー)が昇龍(タンロン、今のハノイ) に都を定め長期の王朝を樹立。しかしその後も中国の圧力は続き被支配と分裂を繰り返しなが ら歴史をたどり19世紀にはフランスの植民地とされてしまいます。第2次世界大戦の終結とほぼ同時期にホーチミンの指導の下、独立を果たすもフランスの再侵略に遭い、これへの抵抗から南北分断を経てベトナム戦争へと進み再びベトナムが統一されるのには1976年まで待たねばなりませんでした。
ベトナム戦争後1980年代の後半になってからドイモイ政策(刷新政策、いわゆるベトナム 版部分的経済開放政策)が推進され、海外からの投資を呼び込んでいよいよ国際社会にデビューしました。


ベトナムに来て驚いたこと


これは市内で平日の夕方に撮影したもの。
いわゆる帰宅ラッシュ時の風景

1.バイクの洪水

初めてハノイを訪れた方の大部分が驚かれるのが道路にあふれるバイクの群れとその運転マナーの悪さです(マナーが悪いというよりもむしろマナーという概念がない?)。私も初めて見た時には、水族館の水槽の中を泳ぐイワシの群れを連想しました。加えて驚いたのがバイクは人が乗るだけでなく貨物の運搬にも重要な役目を果たしていることです。ブタやトリ、イヌなどの食材などはもとより、ガラスや鉄骨などの建設資材やテレビや大型冷蔵庫などの電気製品まで非常にうまくバイクに積載して走っていました。近年できた新しい規則によって街中でのバイクでの大型荷物の運搬が禁止されたことと、この5年ほどで四輪車の数が増えたために最近この風景を見ることができなくなったのが寂しい感じがしています。

2.ハノイの冬はけっこう寒い

私がハノイに赴任したのはおよそ5年前の2008年2月でした。当時の私はベトナムについてその他の東南アジア諸国と同じように常夏のイメージを持っていましたがハノイの冬は結構寒く一年のうち数日は摂氏10度以下になる日があります。10度なんて大して寒くないとお考えの方もいらっしゃるでしょうが、この街には暖房器具がほとんどなくオフィスビルの空調も冷房のみです。当社のスタッフも冬場はコートやダウンジャケットを着込んだまま事務所で仕事をしています。ちなみにハノイ市では10度を下回ると小学校が、5度を下回ると中学校と高校がお休みになります。冬季にハノイへお越しの際は お気をつけください。なお一部の高級ホテルや最近できたばかりの新しいオフィスビルは冷暖房完備です。

3.ハノイの刺し身は結構おいしい

近年だいぶ改善されてきたようですが、多くのハノイ市内の飲食店は日本と比べると衛生面にまだまだ難があります。そのような環境下で生ものを食すのは結構勇気がいりますが、一度刺し身を食べたところそのおいしさに驚き、以来かなりの頻度で刺し身を頂いています。冷静に考えれば前述のようにこの国は南北に長い国土の半分以上が海に面しており、わざわざ冷凍食品にして日本へ輸出しているくらいに水産資源は豊富なのです。従って鮮度の管理さえしっかりできていればおいしいのも当然でまたお値段もかなりリーズナブルです。私のお勧めはタイ・ヒラメなどの白身の魚とイカです。世界遺産に登録されて有名になったハロン湾でとれるイカは日本で食べるイカにも決して引けを取りません。ハノイ市内の日本食レストランに行かれる機会があればぜひお試しください。

4.ベトナム料理は辛くない
 
ベトナム料理は民族の起源とも共通して中華の広東料理に近い味付けのものが多いようで、テーブルと椅子以外の4本足はなんでも食べるというのも共通しています。多くの日本人が意外に感じるのはベトナム料理にはスパイシーなものがほとんどないことで、概してベトナム人はスパイシーな味が苦手なようです。当社も以前に会社の近所にあるインド料理店で事務所のスタッフと食事会を数回したことがありますが、ある日ベトナム人スタッフより「実は辛い食べ物は苦手だ」と打ち明けられ驚いたと同時に、そういえばベトナム料理には辛い食べ物があまりないことに気付いたことを思い出します。
ちなみにベトナム料理にはナマモノはほとんどなく、多くのベトナム人は刺し身が苦手と聞 いていましたが、最近はハノイ市内のレストランでベトナム人の家族連れが日本食を楽しんでいる風景をよく見るようになりました。
ベトナム料理の代表といえば、フォーや生春巻きを連想される方が多いと思いますが、肉類、 魚介類、野菜からキノコまで本当にバラエティーに富んだ食材を炒めたり、焼いたり、ゆでたりと非常に多くの料理があります。基本的に食材の多様さはベトナム全体で共通していますが、 南部の料理は若干甘めの味付けになっているといわれており、フエ・ホイアンなどの中部の地域に例外的にスパイシーな料理があるそうです。

数あるベトナム料理の中から私のお勧めは次の2 品です。


北部料理代表からブンチャー
焼き肉の浮いた甘酸っぱい独特のダシにシソなどの香草とブン(米粉からつくる麺)を入れて頂くといういわゆるベトナムつけ麺


南部料理代表からバインセオ
モヤシや肉、野菜などを炒めて薄く焼いた卵焼きで包んで食べるといういわゆるベトナム風お好み焼き


ベトナムドン紙幣
1,000、2,000、5,000VND 紙幣は紙
1、2、5、10、20、50万VND 紙幣はポリマー
50 万VND が最高額紙幣

5.ベトナムドン

ベトナムの通貨はベトナムドン(VND)で2012年12月時点でのレートは
1ドル ≒ 20,800VND です。
このVNDですがちょっとしたお買い物やタクシーに乗ったときなどでも簡単に「数万ドン」-「数十万ドン」になってしまいますので会社での業務となると数億ドンや数兆ドンという単位にまで出くわしてしまいます。以前は街中ではドルが普通に流通しておりレストランのメニューやホテルの宿泊費などもドル表記されているところが多かったのですが、この2年ほどでベトナム国内での価格表記は全てVNDという法律が制定されました。また、その取り締まりが厳しくなったため全てVNDになってしまっていますので、ご注文やお支払いの際には桁間違いがないようお気を付けください。加えて驚きなのは、スーパーなどで数百ドン以下のお釣りになるとあめ玉で代用されてしまいます。この数百ドンの基準はお店や店員さんによってまちまちです。
なお全てのVND紙幣の肖像はベトナム民族の英雄ホーチミンです。つい一世代前の同民族での戦争という歴史から、ベトナム人の中には北部の人と南部の人の間にわれわれがうかがい知れないわだかまりがあるように感じられますが、民族独立の英雄であり生涯清貧の中に生きたホーチミンは全てのベトナム人にとって敬愛の対象で、「ホーおじさん」と呼ばれています。ホーチミンの遺体はハノイのホーチミン廟にガラスケースに入れられて安置されており、ホーチミン廟の前のバーディン広場は普段は市民の憩いの場となっています。


日本とベトナムのこれから


意外に知られていないのが、日本がODAを行っている国の中でベトナムはインドに次いで2番目だということです。2012年には日系民間企業のベトナムへの投資も約230件、40億ドルに達し過去最高を記録しています。なぜ日本はベトナムへ投資をするのでしょうか?安価で豊富な労働力、治安が良く安定した政治・社会、国内市場の成長性など多くの理由を挙げることができますが、私が感じたことを簡単に言うと「ベトナム人は非常に親日的で、この国に住んだことがある日本人はみんなベトナムが好きだから」ということです。ではなぜベトナムに住んだことのある日本人がこの国を好きになるのでしょうか?
ハノイに駐在して間もなく5年になろうとしている今の私の答えは、「今ベトナムは『三丁目の夕日』の時代だから」 です。ベトナムは物質的には貧しくても、本来人が生きてゆくには豊かな国です。そんなベトナムの人々が戦争の傷を癒やし、国際社会にデビューしてこれからさらに成長しようとしているこのタイミングは日本が復興を成し遂げつつあったあの時代に重なり、われわれは無意識のうちにそれを応援したくなってくるのではないでしょうか。
2013年はベトナムと日本が国交を樹立して40年目になります。日越両政府はこれを記念して2013年を「日越友好年」としてベトナム各地でさまざまなイベントが企画されているようです。この文章を読んでくださった皆さまが少しでもベトナムに関心を持ち、一人でも多くの日本人がこの記念すべき年にベトナムを訪れていただければと思います。アジアの経済環境がCHINA+ONEからPOST CHINAへと変化しつつある現在、日本とベトナムが協調して進んでいく動きに最前線で参加している喜びを感じつつ筆をおかせていただきます。


ホーチミン廟とバーディン広場


日越友好年のシンボルマーク

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