深イイ国『インド』

Iwatani India Pvt. Ltd
金山 泰博

はじめに


私が香港からインドに赴任し1 年と3 ヵ月がたちました。赴任が初めてのインドであった私にとって待ち受けていたのは、香港との大きなギャップでした。香港から見てきた巨大国の中国。そして今回の赴任先であるもう一つの巨大国インド。日本の新聞等ではよく「中国の次はインド」の見出しを見ますが、同じ巨大国でも成長過程は全く違います。詳しい経済のお話は専門家の方にお任せし、ここからは私の肌で感じたインドを、時折エピソードを交えながら語らせていただきたいと思います。


二つの巨大国


洪水で自宅に帰れない人達

皆さまもご存じのように中国はGDPで日本を抜き世界第2 位となりました。中国は成長過程において外資をどんどん誘致し、税制優遇等も与え、世界の工場として君臨してきました。インフラも土地は国のものなので、100m道路が瞬く間に開通し、半年後に同じ場所に行けば景色が変わっており分からなくなるほどです。現在はある程度成熟してきており、世界の工場から世界の市場へ変貌を遂げています。
一方のインドは世界一の民主主義国家を 自負しており、全てに民意が反映され物事 が決定していきます。土地も全てに地権者 が存在しており、インフラ整備の大きな計 画は多々ありますが、遅々として進んでいないのが現状です。複雑な税制や面倒な手続きの他、政府の認可遅れ等に起因するものがほとんどですが、公平で透明性はあります。
また、根底にスワデシュ・スワラジ(国産主義・自主独立)の考え方があり、過去は外資を締め出してきました。最近になりやっと小売業に対するFDI規制の緩和等、外資に対しての開放策を打ち出すようになりましたが、投資のうち50%は後方インフラの整備に投じなければならないことや、売上高の30%以上は国内の中小企業から調達しなければならない等、まだまだ障壁はたくさんあります。
よくイメージで中国を竜、インドを象に例え竜vs. 象と比較していますが、私は個人的に経済発展においてウサギとカメをイメージします。外資の力を借りて急速に発展した中国(ウサギ)、一歩一歩ですが着実に自力で進んでいるインド(カメ)のイメージです。
インドの人口は2025 年には中国を抜き世界一になるといわれていますが、経済の逆転はいつになるのでしょうか? 2050 年? 2100 年? でも、ウサギとカメ、最後はどちらが勝ったかは皆さんご存じですよね。何年後かは分かりませんが、間違いなくインドは世界を制する国に成長していくと思われます。


インド人


とにかく理屈が大好きです。ビジネスにおいてもロジカルに説明しないと相手は納得してくれません。中国のように理屈抜きで白酒(パイチュウ)飲んで、仲良くなって、人間関係を築き「よし、あなたから買おう」なんてことはありません。人よりも書類を信じます。でも真面目です。ビジネスにおいてだまそうという気配は感じません。自分の意見はとことん言います。人の意見は聞きません。自分に優しく、人に厳しいインド人です。

※エピソード1(ビザ申請)
インド訪問にはビザが必要です。ビザ申請に必要な写真はサイズ等が事細かく決められています。Aさんが写真を添付しビザ申請し ましたが、1㎜ずれているとのことで再提出 を要求されました。仕方なく再提出して出来上がってきたビザの写真は頭が欠けていました。

※エピソード2(オフィスでの出来事)
Bさんが私の部屋へ来て、時間ができたから何か仕事を与えてくれと言ってきました。私は感心してコピーをお願いしたら、気持ちよく書類を受け取ってくれました。と、次の瞬間オフィスボーイを呼びつけ、これをコピーしろと命じ、コピーできた書類を持って来て「ボス、コピーできました」と私に手渡しました。


インド生活


スーパーの野菜

【食生活】
香港時代は700 軒を超す日本食レストランに囲まれ、何不自由なく食文化を楽しんでいました。さて、インドでは…、事務所のあるグルガオン地区には4 軒(ホテル省く)の日本食屋さんがあります。ローテーションしても1 週間もちません。
おかげさまで事務所が入っているビルにはそのうちの1 軒があり、月-金まで毎日日替わり定食を食べています。困るのはボリュームが多いことと値段が高いことです。ある日のランチメニュー、天丼+チキンカツ+ 刺し身+揚げ出し豆腐+サラダにみそ汁とフルーツが付いてきます。これで20%割引(毎日行くので会員になっている)後の価格で835 ルピー(約1,500 円)。単身赴任のため1 日のカロリーをランチで取得し、夜は控えめです。
一般のインド人は365 日3 食カレーです。カレーと言っても日本のカレーとは違い、何万種類とあり、各家庭によっても味が違います。私はインドカレーも大好きですが、結構油を使うため胃がもたれるので週に1 - 2 回で十分です。
韓国企業の進出も多いため、韓国料理の店も結構(4 - 5 軒)あります。日本人は韓国料理に、韓国人は日本料理に、選択肢が増えてお互い助けられている感じです。その他イタリアンもあります。中華料理もありますが、香港で味を覚えてしまった私の口は、あまり受け付けてくれません。

※エピソード3(忘年会)
弊社の2012 年の忘年会を日本食レストランで無理やり開催しました。初めてのインド人もおり、まずお箸が持てない。そして出てくる物すべての食材に対してベジかノンベジかを尋ねます(弊社スタッフには完璧なベジタリアンなのですが)。タコの刺し身が出た時はさすがにこんなものよく食うなという顔をしていました。最後に何が一番おいしかったか尋ね ました。答えはカレーコロッケでした。

【買い物】
まずコンビニはありません。ただし、キラナショップと呼ばれるインド流コンビニ(?) が道路サイドのあちらこちらにあります。パパママストア(約1,200 万店ある)とも呼ばれており、小売業に対する外資規制もこれらの店を守るためにあると言っても過言ではありません。しかしながら、日本人がここで買い物できるような品物はほとんどありません。
ということでスーパーへ行くのですが、私はここでも買えるのは限られた商品だけです。陳列してある缶コーヒー等は缶がへこみ泥だらけ、もちろん野菜はしおれており、野菜売り場の横に農薬を洗い落とす洗剤が一緒に販売されています。パッケージ商品でも 買って帰ったら、まずケースごと水洗いしてから冷蔵庫に収納します。気に入らないのはレジ。人の商品を放り投げます。買っていない商品をレジ打ちします。お釣りをごまかします。サービスは求めてはいけません。
何軒かの大きなショッピングモールもあります。赴任当初は視察も兼ねて毎週何ヵ所かに出掛けました。ショッピングモールには世界のブランドショップも入居しており、ハイクラスのインド人がいっぱい買い物をしています。ショッピングモールの外側には、テント生活者が多数いますが、このギャップがまたインドを切実に物語っています。
現在はゴルフ以外ほとんど外出いたしません。一歩外へ出ればストレスを感じるためです。この国で生活するにはいかに寛容になりストレスを持たないかです。

※エピソード4(パンも?)
ショッピングモールでパン(バケット)を買い、電池を買い忘れていたので店に入ろうとすると、パンを預けろと言われました。食べ物が駄目なわけではなく、他の店で買った商品は、違う店に持って入れません。たとえパン1 個でも。

※エピソード5(パズル?)
赴任当初、寝室でCDでも聞こうと思いCDラジカセを買いに行きました。欲しかった商品は現物しかないとのことだったので、仕方なく決定し買うことにしましたが、箱に入れる作業の時、店員が箱に入れられません。ラジカセの形状に合わせた発泡スチロールがあるのですが、うまくはめることができず、また縦横も逆に無理やり割って入れようとするので、結局自分で梱包しました。家に帰って使おうとしたら、コンセント形状が中国仕様でした。


落書きだらけの紙幣


インドのショッピングモール


【ゴルフ】
インドでの初ラウンドでまずびっくりしたのは、ゴルフ場に野生のクジャクがいることです。リスや野ウサギが走り、木にはフクロウとまるで動物園です。それだけ自然が残っているという証しでもあります。たまにバンカーに野良犬が寝ていますが…。
キャディーは全員男性です。ゴルフ場によってキャディーの質は違いますが、はだしで60 歳すぎのおじいちゃんや13 歳ぐらいの子供までさまざまです。OBになったボールは近所の子供が拾い集め売りにきます。「Sir, New ball.」と言ってきますがそんなわけはなく、1 ボール20 ルピー(約33 円)で売りつけてきます。私は買ったことはありませんが、値切ったら10 ルピーぐらいになることもあるそうです。
ゴルフ場もさまざまです。私がよく行くゴルフ場は、一歩中に入るとここはインドかと思わせるような別世界です。英国流でレストラン等はドレスコードまで決まっており、短パンやTシャツ、ゴルフシューズでは入場不可です。香港のFanlingと似ています。ちなみにFanlingは携帯電話も禁止です。

※エピソード6(サッカー?)
あるラウンドのグリーン上での出来事です。Cさんがパットを行い惜しくもカップを外れ5㎝ぐらいの所にボールが止まりました。同伴競技者がOKと言った瞬間、キャディーはボールを足で蹴ってCさんに返しました。あぜんとする間もなくプレーヤー全員が切れたのは言うまでもありません。


ゴルフ場のクジャク


インドのゴルフ場と横に建つ高級マンション


観光


インドのオートリクシャー

やはり最後はタージ・マハルについて少々語りたいと思います。日本人に「インドと聞いて頭に浮かぶモノ」という質問をしたら、タージ・マハルは答えのベスト3 に入るのではないでしょうか。個人的予想ですが、1 位:ガンジー(社会の教科書に必ず出てくる)、2 位:カレー(日本のカレーとは違いますが)、3 位:タージ・マハル(名前が出なくても、あの屋根が丸くて白いお寺等の表現も含んで)となるのではと勝手に思っています。


タージ・マハル

タージ・マハルは世界で最も美しい建築物 といわれています。建物は完璧なシンメトリーで、その大きさと美しさに圧倒されま す。マハルは宮殿の意味ですが、タージ・マハルは宮殿ではなく、ムガル帝国第5 代皇帝シャー・ジャハーンの妃ムムターズ・マハルのお墓です。1631 年、皇帝が熱愛した妃が亡くなったため、妃への愛を表現するために22 年の歳月と天文学的な費用を掛けて建造されました。
場所はデリーからヤムナー川沿いに約200㎞下ったAgraという地方都市にあります。
2012 年にYamuna Expressという高速道路が開通し、首都ニューデリーからだと約3 時間で行くことができます。よって少し強行日程にはなりますが、日帰りも十分可能な観光地です。

※エピソード7(芸能人?)
1 年で3 回訪問したタージ・マハルですが、そのうち1 回は家族で訪問しました。娘2 人がサリーを着て入場すると、珍しいのか写真を撮る人で前に歩くこともできません。勝手に横に並んで写真を撮る人、中には娘に自分の子供を抱いてくれと言ってくる人もいました。観光どころではありませんでしたが、娘2 人は芸能人気分を味わっていたのか、まんざらでもない様子でした。

話題の尽きないインドです。奥が深く語り尽くせません。日常生活でのストレスやビジネスにおいていろいろな障壁がありますが、今後も私をさまざまなことで楽しませてくれるでしょう。

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