百聞は一見にしかず、 来て見て分かる本当のロシアの良さ

日立ハイテクノロジーズロシア会社
社長
亀卦川 健

ロシアでの営業活動を推進する拠点


事務所外観と筆者

当社の正式名称は日立ハイテクノロジーズロシア有限会社といいます。2014年7月に開所式をしたので、間もなく丸3年となります。私自身は2015年1月からこちらに赴任し、駐在3年目に入ったところです。会社設立以前は、日立ハイテクノロジーズモスクワ駐在事務所が2007年より市場調査を中心に活動しており、その後7年を経て営業活動を始めるために当社が開設されました。
ビジネスとしては、日系自動車部品メーカーによるロシア協業先での現地生産および販売の支援、鉄道関連、建設機械の現地生産における部品および設備調達のサポートをしています。
こうした、ロシアにモノを持ってきてロシアで製造・販売する仕事に加え、逆にロシアから日本やアジアにモノを輸出する仕事も一部手掛けています。電力や労賃が安いために国際的に競争力のある再生鉛や、ロケット開発などで培った加工技術を生かしたチタンをはじめとする種々工業原材料の取り扱いを開始しています。


モスクワは欧州の一都市


世界遺産「クレムリンと赤の広場」の一角にある有名なポクロフスキー聖堂(別名聖ワシリー寺院)

私は1989年から90年代の半ばまで6年ほどドイツに駐在していました。それ以前に 1981年にも学生として欧州で生活したことがあり、翌年の冬、日本への帰国時に1泊2 日だけ旧ソ連時代のモスクワに観光で立ち寄りましたが、空港には銃を持った兵士たちが居並び、とても怖かったことを覚えています。ほとんど照明がなく暗い街中や、そこを行き交うものすごく古い車にも、深々と欧州とのギャップを覚えました。特に、モスクワの寒い冬だったから余計にそう感じたのかもしれません。
このときのイメージを胸に、そのモスクワが30年以上たってどんなに変わったのかと思いながら赴任しました。赴任前の2年間で何度か出張で短期間訪れる機会はあり、ある程度イメージは更新されていたものの、いざ実際に生活してみると、現在のモスクワはかつてのソ連時代のモスクワとは全く違うと認識を新たにしました。ドイツを含む欧州に滞在していた経験と比べても、モスクワは「欧州の一都市」といえると、こちらで生活して強く実感しています。


まるでパリのような地下鉄の駅

歴史の趣深い重厚な建物の多い街並み。走っている車もドイツやパリ、ロンドンで見掛ける高級車をよく見ます。さらにはそれらの都市でもあまり見ないようなその上の高級車、ポルシェなら一番高価な「パナメーラ」が欧州のどの都市よりも多く走っています。そういう点で外見上のイメージとして非常に豊かさを感じる部分があります。
また日本にはない、夜を彩る照明が1年を通じて華やかで、観光客を喜ばせるようなイルミネーションを街の至る所で見掛けます。街全体に華やかさがあって、そういう点でも欧州の一つの都市なのだと実感します。


ロシア崩壊を乗り越えた市民パワーは今も健在


レンタサイクルステーション

2014年にウクライナ危機があって、14年の暮れから15、16年にかけては、ロシアは経済的に苦しい時期でした。欧米や日本にはロシア経済は破綻するのではないかという論調もありました。しかしロシア国内に入ってみれば、比較の問題ではありますが、1991 年にソ連が崩壊してロシアができた後、失業者があふれハイパーインフレに見舞われた当時の苦労に比べれば、ウクライナ危機後の混乱など「全然へっちゃら」だと市民は言います。お金がなくなったので、日本で言う「安・近・短」と同じく欧州旅行をロシア国内の旅行に切り替えたりと、経済が苦しいならそこに身の丈を合わせてそれなりに生活を楽しむすべを心得ているようです。
そうした中で出てきた話題が自転車です。今まで何台も高級車を所有していた人も今は車を買う時期ではないと考えたのか、街中に自転車、それもとてもカラフルなものが増えてきました。さらに銀行がスポンサーになって、レンタサイクルステーションがあちこちにできています。
クレジットカードなどで自転車のロックを解除して、自由に乗り回すことができ、場所によっては、人気のためにステーションに全く自転車がない状態になっていることもよくあります。経済が苦しい中でも、それを逆手にとって楽しむことの一つの表れが自転車なのかもしれません。モスクワ川沿いの公園や緑地にはサイクリングロードが整備され、レンタサイクルだけでなく家族連れが自前の自転車でサイクリングを楽しむ光景が見られます。
日本に一時帰国するとロシアではものがなくて大丈夫か、スーパーにものはあるのかと聞かれます。確かに一時ものは減ったようですが、ロシア市民は減った分は何とか工夫して楽しんだと言っています。最近では経済もだいぶ落ち着いてきたのかほとんど元に戻ってきた感があります。


ロシアでビジネスをするための三つの「ア」


「ビジネスライク」という言葉がありますが、欧米や日本のビジネスの慣習がまだこの国にはきちんと根付いていないと日々感じています。ロシアの方はビジネスの話の中に世間話がたくさん交じってきます。冗談やはぐらかしもいっぱいあります。欧州や日本の経験では5分で済む話が、20-30分かかるのは当たり前。話は行きつ戻りつし、順序立ててポイントを絞って話そうとしても、先方の話があちこちに飛んで収拾がつかなくなることは日常茶飯事です。
前任のロシア通の社長からは、「ロシア経験のない君はきっと戸惑うよ」と言って、三つの「ア」を申し渡されました。それは「アワテナイ(慌てない)」、「アセラナイ(焦らない)」、「アテニシナイ(当てにしない)」の三つです。今、駐在2年を経て、日々忍耐の連続の中で実感するのは最初の二つの「ア」です。日本や欧米、アジアでのビジネス経験からは想定できない驚きの連続ですが、その理由は一言で言えば、さまざまなビジネスシステムの近代化が遅れていることだと感じています。
ベースが確立していないので、とにかく時間がかかります。とはいえ私たちは営業の仕事をするためにロシアへ来ているわけですから、ハイそうですかと軽くアテニシナイと言ってしまうわけにもいかず、私は「それでもアテニスル」と思って、諦めずに取り組むことにしています。
駐在2年の経験から、「アワテナイ(慌てない)」、「アセラナイ(焦らない)」に、最後に「アキラメナイ(諦めない)」を新たに加えた新しい三つの「ア」を、今、肝に銘じて仕事をしています。


意外と日本人に近いロシアの味覚


私は単身赴任で、普段は家でご飯を炊いて日本的な食事をしていますが、実はモスクワ市内には日本食が食べられるお店が数百軒あります。というのもロシア人は日本食が大好きで、数百軒の日本食レストランのうち9割はロシア人が経営しています。巻き物を主体とした「なんちゃって日本食」的なものを食べさせる店で、そうした巻きずしがロシア人は大好きです。またしょうがのガリなどは普段でも食べるようです。日本人が経営するレストランも数十軒ありますが、そうした中には非常にクオリティーの高い店もあります。
ロシア人の味覚が日本食に合っていると思うのは、ロシア人は辛いものがあまり得意ではなく、非常に繊細な味が大好きだからです。ロシア料理できのこを煮込んだスープがあるのですが、それなどは日本ならきのこ鍋とでもいうべき料理で、きのこのダシを楽しむような日本的な味が、こちらでは好評です。


真面目なロシア人、特に目立つ女性の活躍


欧州第1 位、第2 位の高さを誇るビルを含むビル群

おしなべてロシアの人たちは真面目だと感じますが、男女で比較して考えると、女性の社会での活躍がとても目立つ国です。取引先に出向いても製造部長や品質保証部長といった管理職クラスには、女性がひしめいています。その上の副社長クラスにも女性がいます。男性の役員はプライドが高く威張っているタイプが多いのですが、実際に現場を支えているのは女性であり、バリバリと仕事を進めていくのも女性であるというイメージがあります。
これは私のたった2年の駐在経験での印象ですが、ロシアに30年もいるロシア通の経営者の方に聞いても、その印象は間違いないと言われます。この国は女性でもっていると一様に言われるので、あながち間違ってはいない印象なのでしょう。
私たちの会社でも正直なところそうした感じがあります。会計には女性が多く、募集しても女性がたくさんやってきます。会計の仕事は細かい数字を扱い、四半期や年度末など忙しい時期も多いのですが、ものすごく熱心に頑張ってくれています。それはどこの会社でも同様でほとんど女性が活躍する職種となっているようです。営業職についても社内外共に女性の評判が良くて、どんどん女性の比率が増えていきそうです。


モスクワへ来て本当のロシアを体感しよう


2017年はロシア革命100周年に当たりますが、特にそれを祝うイベントはありません。ロシアの方に聞くと、100年前の革命から70年以上にわたる暗いソ連時代が始まったので、とても祝う気にはなれないようです。その後ソ連が崩壊してロシアが誕生した後にも大きな混乱に見舞われた暗黒の10年が続き、これもお祝いという感じではなく、その後経済が成長して、ようやく旧東欧の国々に近づいてきた矢先にウクライナ問題が起こり、現在に至る停滞が続いています。
欧米や日本からみると、遅れた国であり、よく分からない国にみえるかもしれませんが、この2年の駐在の間、モスクワでロシア市民と一緒に暮らしてみて、私はこの国で暮らしている人々が、もがき苦しみながら何とか成長しようとしていることを肌で感じます。
政治や経済の観点からはいろいろな見方をされるロシアですが、モスクワで暮らす市民たちは、海外の人に自分たちの本当の暮らしを知ってほしいと思っていますし、私たち日本人駐在員もそれを願っています。
どの国にもいろいろな見方があります。やはり、その場所へ行って自分の目で見て自分の頭で考えることが一番大事だと、この国で暮らして強く実感しています。皆さんも本当のロシアを体感しに、モスクワにいらっしゃいませんか。

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