チリ・サンティアゴでの生活

HANWA CHILE LIMITADA
所長
井上 陸

はじめに


1998年に阪和興業株式会社に入社以来、食品部に在籍し、2003年から2009年までの米国勤務も含めて主にサーモン・カニ・サバなど冷凍水産物の輸出入業務に携わってきました。2014年2月にチリ・サンティアゴに赴任し、初代所長としてHANWA CHILE LIMITADA社の設立に関わり、食品部のチリ産サーモン類の仕入れ拠点としながら、その他の新規商材の開拓、弊社グループの南米でのプラットホーム的位置付けとして、現在は駐在員1人、現地スタッフ2人の合計3人体制で活動し、赴任より約1年半が経過いたしました。
阪和興業として初めての南米での現地法人であり、チリだけでなく周辺南米諸国でのビジネスも開拓していく必要がありますが、南米といっても十分に広く、また各国での文化・商習慣などの違いもあり、赴任してからあらためて簡単に隣国での商売ができるものではないと感じました。これは今後の課題として、現在も日々精進している次第です。


生活


私が初めて出張でチリに来たのが2000年。それから15年の間に数十回出張でも往来しましたが、来るたびに新しい大型ビルや施設が建ち、順調に成長を遂げてきた国だと思います。同時に15年前に比べて物価も随分と高くなったとあらためて感じます。
ホテル:感覚的には倍ぐらいの値段になったと思います。出張者が泊まるホテルは1泊 150ドルほど。高級ホテルならば200-300 ドル。昔は70-80ドルが普通で、100ドル出せば結構高級だった記憶があります。
タクシー:現在は空港から市内まで40ドルほどですが、昔は20ドル出せば十分でした。また外国人目当てに空港ゲートで群がるタクシードライバーの数も減って、少し先進国の感覚になった印象はあります。これはこれで寂しいながらも、自分が空港に迎えに行くときは混雑も少なく助かります。
こうしてあらためて15年前との違いを考えると、大きな物価上昇を感じないのはひょっとして日本だけなのかなと思う次第です。


経済


事務所からの景色と雪山

チリの最大産業は銅を中心とする鉱業での生産とその関連商品の輸出で、ここ数年の高い銅価格と資源ブームに乗りチリの経済は大変潤っていたと思います。しかし、昨今、銅の輸出価格は下落傾向にあり、チリの経済はやや下り坂であることは否めません。チリは OECD加盟国で最も貧富の差がある国というレポートを読んだことがありますが、新大統領の政策は、この格差を縮めるための教育改革や法人税の引き上げを公約にしており、投資家にはどちらかというと不利な内容で特に海外からの投資家の新規投資は様子見というのが現実だと思われます。
一方で、先行きは不安だという話は聞きますが、生活レベルで景気の悪さを実感するほどでもありません。給料や家賃が下がるということではなく、ビル・住宅等の建設はそれなりに続いており、週末のレストランやショッピングモールの混雑ぶりも相変わらずという印象です。しかし周りの人から聞く話では、チリの人々はもともとプライドも高めで自分の生活水準を大きく下げることを嫌う。景気が悪そうだからといって急激にお金の使い方を減らすようなことはないでしょうと楽観的な意見も耳にします。


気候・大気汚染


チリは南北4,300㎞と大変細長く、北部と南部では砂漠地帯から南極近辺までで気候が大きく異なります。サンティアゴはちょうどチリの中心部に位置しており、年間平均気温が14-15℃程度と総じて過ごしやすい気候です。ただ、春と秋は朝と夜の温度差が大きく1日で20℃以上変わることもあり、朝は5℃ 前後でセーターを着て出社し、昼間は25℃ まで暖かくなるので、半袖でもよいという変わりようです。体調管理には十分に注意が必要です。ただ夏場でも湿気はなく乾燥しているので、夏場も暑ければ日陰で待機、冬も寒ければ日に当たるだけで随分体感温度は変わり、日本のような高い湿気に悩まされることはありません。
また、サンティアゴは盆地であるが故に空気が抜けず、乾燥する冬の大気汚染は社会問題となっています。特に、車の排気ガスが主因だといわれており、その規制のために車両ナンバープレートで終日の運転を禁止する規制があります。しかし、この規制が発表になるのが前夜の21:00以降。翌朝から自分の車が使えないとなると外出や通勤のプランも変わってしまい大変です。会社の近くに住んでいるので、最悪歩けばよいですが、せめて 2日前には教えてほしいなと思うのは私だけでしょうか。何とか考えてほしいものです。


仕事


サケ・マス類の養殖場施設


弊社のチリでの事業は主にサケ・マス類の輸出で、私の仕事はその買い付け交渉が主です。チリからの対日輸出において断トツの 60%強を占めるのは銅鉱関連ですが、養殖のサケ・マス類は第2位の約10%を占めます。現在のチリでの養殖サケ・マス類の生産数量は約80万tで、ノルウェーの120万tに次いで世界第2位となっていますが、対日向けだけに限れば、日本市場における養殖サケ・マス類のトップシェアはチリ産になります。
チリで生産される輸出用のサケ・マス類は全て養殖で、養殖はチリ南部の都市プエルトモン地区を中心にして1980年代から開始され発展しました。その後90年代になると養殖が天然サケ・マス類の生産量を抜いて、 2000年以降は日本の市場においても養殖のサケ・マス類が最大シェアとなり、弊社の水産品取扱品目の中でも非常に重要なものとなりました。
もともと養殖サケ類がなく天然産に依存していた時代、脂肪率が高いサケ・マス類は大変貴重であり高級でした。脂がある養殖サケ・マス類が定着すると「チリ銀(チリ産ギンサケ)」と呼ばれ、日本のスーパーの水産品販売コーナーでは欠かせないアイテムとなり、お弁当や焼き魚の定番となりました。
また昔は生で食することがなかったサケ・マス類ですが、「トラウト」や「アトランティックサーモン」は回転ずしの人気メニューとなり、サケのすしがごく一般的になりました。同時に、海外のすしレストランにおけるサーモンの使用率は圧倒的に高く、このすしブームがサーモンの需要を高め、各国での養殖数量が伸びていく背景となっています。毎年世界のサケ・マス需要は数%伸びており、それに対して供給が追い付かないといわれ、世界中でサケ・マス類の養殖の生産数量は増加傾向にあり成長産業となっています。
仕事柄いろいろな国に出張しますが、どこの国に行ってもサーモンの需要が増えているという話を聞くと、あらためてやりがいのある仕事だと感じます。弊社での取り扱いは対日向けを中心としておりますが、当地に赴任して以来、弊社グループ会社のネットワークを利用して日本以外の現地事務所向けにも輸出を開始し、その扱いは増えております。新しい顧客・市場での商売は決して簡単ではありませんが、最近の日本市場では「需要が伸びる」ということを実感する機会が少ないので、このような伸びを感じて商売が増えていくということには非常に喜びを感じます。


日本食


サンティアゴ市内には多数の日系レストランがあり、その数200店舗ともいわれておりますが、われわれ日本人が納得できるオーセンティックな味を提供できる店の数は片手ほど、残りの95%がロールSUSHIを中心とし現地アレンジされたレストランやデリバリー店です。
一番人気はサーモン・アボガド・クリームチーズで構成されたロール物とその他エビやウナギなど食材としてよく見られます。さらに、最近の流行はそれら巻物にパン粉を付けて軽く揚げたフライ巻きなど。個人的に現地化されたSUSHIも好きですが、すしとして食べるというよりは、何か違う食べ物を食べているという感覚は否めません。
また塩やタレで濃いめの味付けが好きなチリの人たちはたっぷりとしょうゆを使い、見ているだけでも辛そうな感じ。心なしかレストランの卓上においてあるしょうゆの減りも早いような気がします。
チリの日本人の人口は少ないので、現地化されたお店が多いのは当たり前ですが、ブラジル、アルゼンチン、ペルーなどに比べると日系移民の方々も少なく、日系の豊富な食材提供が可能な業者も不在とあって本格的日本食レストランが少ないのは残念でなりません。嘆いても無い物は仕方ないので、自分の料理の腕を上げるしかないと思い、日々自宅にて努力している次第です。


ゴルフ事情


雪山を見ながらのゴルフ

サンティアゴから車で行ける範囲内のゴルフ場は約15カ所。ほとんどが会員制でチリ人にとってはまだまだ高級スポーツであり、一般的ではありません。若い人から言わせると、体が動くうちはサッカー・テニス・スキーなどアクティブな運動をこなし、ゴルフというのはお金持ちが老後にやるスポーツという印象だそうです。やはりゴルフ道具やプレー代も高く、仕方ないのかなと思います。
個人的にゴルフが好きで週末は日本人の仲間とよくプレーを楽しみますが、チリ人でゴルフをする年齢層は確かに高く、30-40代の年齢層には浸透していないスポーツだと実感します。あと、こちらのプレースタイルは基本的に歩き。乗用カートはシニア以上。冬は寒いと言いながらもほぼ年中ゴルフができることは、私にとっては非常に良い環境で、健康や仕事のためだという建前のもとで、週末の大事な楽しみとしております。


ワイン


サンティアゴ近郊のワイナリー

2013年のチリのワイン生産数量は世界第8 位で南米ではアルゼンチンに次いで第2位。そのコストパフォーマンスで日本でも有名になったチリのワインですが、当地でもワインの1人当たり消費量は多く、お手軽なテーブルワインから高級ワインまで幅広く楽しむことができます。またサンティアゴの近郊にもワイナリーが幾つもあり、観光名所の一つになっています。
私も赴任当時はブドウの種類や品質のこともあまり分かりませんでしたが、日々レストランやスーパーで買い物の際に見ていくと、多種多様あり、ブランドやボトルごとに味が違うので毎晩の楽しみの一つになっています。ビールやウイスキーに比べると健康にも良いといわれる(専門家ではないので本当のことは分かりませんが、そうあってほしいです)ので、日本に居た頃よりもかなりワインを飲む機会が増えました。
日本では安いワインの代名詞となっていると思いますが、こちらでは限定生産のレアワインや小規模な生産者の手作りワインというのもあるようで、今後の駐在生活でできるだけ多くの種類を飲んでみたいと考えています。


距離


住みやすくゴルフにワインといえば駐在天国のように思われるかもしれませんが、一番苦労することは、やはり日本との距離。弊社グループの中でも本社から一番遠い現地法人であり、日本への一時帰国は2日がかりの大仕事。当然、時差ボケもひどくチリから日本に帰った時も、その帰りにチリに戻った時も苦労します。
日本から南米大陸への直行便がないので、乗り継ぎも時間がかかってしまい前後の旅程も組みにくい。何とか技術の進歩で日本からの南米直行便ができないかと願うばかりです。
しかし、距離はありながらも、日本との時差は真逆のマイナス12時間で、朝も夜も日本との電話連絡が可能であり、それはそれで油断ができない距離感かなとも思います。
最後に、当地に赴任してまだ1年半ではありますが、会社設立から現在に至るまで、当地在住の日本人の方々や他企業の駐在員の方々には公私共に大変お世話になり、あらためて感謝いたします。末筆ながら御礼申し上げます。

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