豊かさを選択する街、ドイツ・デュッセルドルフ

Inabata Europe GmbH
明上 祐実

はじめに


2023年10月からドイツのデュッセルドルフに駐在し、2年がたちました。入社5年目という早い段階で貴重な海外勤務の機会をいただき、日々多くの学びを得ています。実際に働き生活する中で感じたことや、現地での暮らしの様子について、ご紹介したいと思います。


筆者



ドイツで“時間通り”に行動できるのか


ライン川

「ドイツは真面目で時間通り」というイメージを持つ方も多いかもしれませんが、公共交通機関の遅延やキャンセルがとても多いです。約2年過ごす中で、移動が予定通りに進まないことを前提に、常に代替案を2つ3つと考えるようになりました。
ドイツ鉄道は欧州の中でも特にひどいといわれており、10月の長距離列車の定時運行率(6分未満)が51.5%という発表もありました。6分未満は定時とみなされるので、2本に1本は6分以上遅れているということになります。また出発の直前にプラットホームが変更されることもよくあるため、列車を直接見て番号を確認するまで気が抜けません。


ストライキで電車やバスが運休になることもあります

また出張で飛行機を利用する機会が多いため、遅延やキャンセルは何度も経験していますが、その際の対応が制度として整備されている点がとてもおもしろいなと思います。私も一度ポーランドからデュッセルドルフに戻る時に、飛行機が遅れ、乗り継ぎが間に合わず、ワルシャワで1泊することになりましたが、専用カウンターに案内され、ホテル往復のタクシーチケット、宿泊チケット、軽食券が配られ、ほんの数十分でホテルのベッドの上にいました。さらにEU規則では、3時間以上の遅延が発生すると、補償金を要請し受け取ることができます。
このような経験を重ねる中で、私自身の旅程の組み方も変化しました。さまざまな可能性を想定し、遅延やキャンセルに対応できる余白を作って予定を立てるようになり、欧州で暮らす中で、柔軟に準備する姿勢が身に付いたと感じています。


“人の自由移動”を活用する


スレブレニツァ虐殺記念碑

私の趣味の一つは旅行です。週末や休暇を利用して、さまざまな国へ足を運ぶことができるのは欧州で生活する大きな魅力だと感じています。日本に住んでいたら訪れる機会が少ない国や地域にも、LCCや直行便などを活用して、安く気軽に向かうことができます。
日が長い夏の時期に一人旅することを楽しみにしているのですが、昨年(2024年)はボスニア・ヘルツェゴビナ、今年(2025年)は同年1月にシェンゲン圏に加盟したルーマニアに旅行に行きました。


サラエボの街並み

特に印象深かったのはボスニア・ヘルツェゴビナです。首都のサラエボは、複数の民族、複数の宗教が共存し、文化が交差する独特の歴史と美しさを持つ街でした。一方で1990年代の紛争の痕跡が街の至る所に生々しく残っています。ガイドツアーに参加しサラエボ市内やスレブレニツァに行きました。ガイドの男性はまだ若く見えましたが、かつて兵士として戦地にいた経験を持つ方でした。兄を戦争で失い、母親はサラエボの街中でスナイパーに打たれて瀕死の重傷、知り合いは今もなおPTSD(心的外傷後ストレス障害)で苦しんでいるなど、当事者として語られる言葉は重く、その語りを聞きながら現在のウクライナ情勢を思い起こし、欧州が抱える安全保障上の緊張が決して過去の出来事ではないことを肌で感じました。ちなみにボスニア・ヘルツェゴビナはEU加盟交渉中で、通貨は兌換マルク、ユーロとの固定レートです。


個人的なことが政治的なことにつながる


ケルン中央駅前。写真奥ではパレスチナの旗を掲げ集会をしており、階段を挟んで手前ではイスラエルの旗を掲げる集団がいる


デュッセルドルフでのカーニバル


デュッセルドルフで生活していて印象的なのは、デモが日常的に行われている点です。週末に街中に足を運ぶと、隔週ほどの頻度でデモに遭遇します。特に2025年2月の連邦議会選挙の前は盛り上がっており、デュッセルドルフでもAfD※へ抗議デモとして大規模な行進が行われていました。子どもや家族連れ、年配の方など幅広い層の市民が参加していたのが興味深かったです。
 ※AfD=ドイツの極右政党「ドイツのための選択肢(Alternative für Deutschland)」の略称。2025年2月のドイツ総選挙で第二党に躍進。

2月末から3月にカーニバルの季節があり、デュッセルドルフやケルンではパレードが行われ、市民がさまざまな仮装をして参加し盛り上がります。通勤中と思われる人まで仮装しているのを電車で見掛けます。カーニバルは毎年11月11日に始まり、カトリックの復活祭前の断食期間へ入る直前の「灰の水曜日」まで続く長い祭りで、「汚れた木曜日」から「バラの月曜日」にかけて、パレードが開催され街中がカラフルになります。こうしたパレード文化が、市民がデモにも自然に参加できる土壌をつくっているのではないかと感じました。
デュッセルドルフやケルンでのプライドパレードや、高級ブランド店の前で動物愛護団体の抗議などさまざまな形を見掛けましたが、最近ではパレスチナのガザ地区への連帯を示すデモをよく見掛けます。「Free Gaza」を掲げる抗議が行われる一方で、道路を挟んだ反対側ではイスラエル支持のグループが主張を発信しているところがドイツらしいなと思いました。双方が向かい合い、警察がそばで常時監視しながらも、平和的に進行しており、生活と政治が密接しているなと感じます。


日本文化を見掛ける街


日本デー(Japan Tag)での花火


デュッセルドルフのクリスマスマーケット


デュッセルドルフは人口約62万人の都市で、海外在留邦人数調査統計によると、そのうち6,813人(2024年時点)が日本人です。1950年代から日系企業の進出があり、その積み重ねから日本文化が近いところにあります。日本食スーパーや日本食レストランが充実している他、本屋にはドイツ語版の日本の漫画や小説もたくさん並んでおり、「名探偵コナン」や「鬼滅の刃」など人気アニメは映画館で上映されています。私もコナンを観に行きましたが、座席は埋まっており人気の高さを感じました。最近ではガチャガチャ専門店が新しくできたりと、日本のコンテンツは生活に自然に溶け込んでいます。
毎年6月頃にデュッセルドルフで開催される「日本デー(Japan Tag)」では、欧州各地から多くの来場者が集まり、屋台や音楽イベント、夜にはライン川で日本の花火が打ち上げられます。個人的な体感ですが、来場者の4割がコスプレをして、日本のアニメキャラクターをはじめとしたいろいろなコスプレイヤーたちが街を歩いており、逆に日本では見られない景色が広がっているところがおもしろいです。


日本デー(Japan Tag)のメインステージ


おわりに


デュッセルドルフは、地域のコミュニティーや伝統行事が根付いている一方で、日本を含むさまざまな国や地域の文化や人に対してオープンで、国際性の高い街だと感じ、気に入っています。駐在期間を通じて、仕事と生活の両面でさまざまな経験をし、日々新しい発見がありました。これからも現地での経験や気付きを大切にしながら、楽しみたいと思います。