多民族文化の融合マレーシア

蝶理マレーシア 社長
石田 名臣

はじめに


マレーシア、皆さんはどのような印象をお持ちですか?中華圏にシフトしていた世間の目が、再び東南アジアに向いてきました。Truly Asia Malaysia、ぜひご注目ください。

私にとってのマレーシアは、20年程前に前職の半導体メーカーでシンガポールに駐在し、毎月のようにマレーシアの取引先を訪問していたので、懐かしく非常に親しみのある国です。機会があり2018年に蝶理マレーシアの責任者となり、2021年9月より2度目の駐在生活を過ごしております。当企画の執筆要領「最新事情を柔らかいタッチで」とのリクエストに沿って文化・生活中心に執筆し、多くの方にいらしていただけるよう、魅力をお伝えできればと思います。

マレーシアは日本とほぼ同じ面積(約33万Km2)でありながら、人口は約3,350万人と少なく、自然豊かな国です。現在、首都のクアラルンプール(以降KL)とKLを囲むセランゴール州は「クランバレー」と呼ばれ、かつてスズ鉱脈が発見され、発展した場所です。地下から掘り出したスズを川の水で洗ったところ、泥のように濁った川になり、そこからクアラ(川の合流地点)、ルンプール(泥)という地名になったそうです。

現在も、スズを主成分として銅、アンチモンを混合した合金であるピューターの工芸品はマレーシアの名産となっており、KLの工場兼ビジターセンターではギネスブックにも登録された世界最大のピューター製ビアジョッキを拝むことができます。


筆者(ドリアンショップにて)


ナショナルスタッフと参加した5kmウオーキングイベント


親日の国、マレーシア


マハティール氏:右から3人目
(JACTIM40周年記念式典会場において)

マレーシアは日本人にとって住みやすい国です。2022年10月時点の在留邦人数は24,545人で第12位(注)。親日な方が多く、生活コスト面、治安面もさほど悪くはありません。マレーシアの季節は一般にいう夏のみ。あえて言うならばhot/hotter/hottestの3シーズンでしょうか。花粉症とも無縁です。定年退職組にも人気があり、国としてもMM2H(マレーシア マイ セカンド ホーム)という滞在ビザを発行しています。当記事をご覧になり、「セカンドライフはマレーシアも良いな」と思ってくださる方がいらっしゃればうれしいです。個人的にもコロナ禍以降厳しくなった申請条件が緩和されることを願っています。

(注) 海外在留邦人数調査統計(令和4年(2022年)10月1日現在) https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/100593343.pdf

マレーシアが親日なのは、「近代化の父」とも呼ばれるマハティール元首相の政策の影響が大きいところです。1981年に提唱された「Look East Policy(東方政策)」はご存じの方も多いのではないでしょうか。日本および韓国の成功と発展の秘訣を学び、マレーシアの発展につなげようと、国を挙げて研修生・留学生の派遣を行ってきました。そんなマハティール氏も何と98歳。2023年11月に開催され、私も参加したマレーシア日本人商工会議所(JACTIM)40周年の記念式典に出席され、年齢を感じさせない元気なお姿を拝見することができました。日本・マレーシアの相互理解と友好促進に貢献された歴史的人物のスピーチを聞くことができ、貴重な経験となりました。

ツインタワーとして当時世界一の高さを誇ったペトロナスツインタワーを提案したのも、首相だったマハティール氏でした。この高さ451.9m、88階建てのタワーは、マレーシアをグローバルプレーヤーにするという思いが込められており、勇気、創意工夫、イニシアチブ、決意、エネルギー、自信、楽観主義、進歩、国家の熱意の象徴でもあります。1992年1月にプロジェクトが始まり、公式に開業したのは1999年8月と、7年半かけて建設されました。設計したシーザー・ペリは、イスラムのモチーフをデザイン全体に盛り込んでいます。

加えて、2024年1月10日にはドバイのブルジュ・ハリファ(高さ828m)に次いで世界第2位となるムルデカ118が開業しました。高さ678.9m、地上118階・地下5階建てで、オフィスや商業施設、ホテルが入居する予定です。この二つのタワーが今後のマレーシアのシンボルとなりそうです。


ペトロナスツインタワー


ムルデガ118


マレーシア特有の文化


国王が輪番制なのは世界でもマレーシアくらいなのではないでしょうか。13州のうち9州の世襲制スルタン(イスラム王侯)から、任期5年の持ち回りで選ばれます。1957年、英国から立憲君主国として独立しました。2024年1月には南部ジョホール州のスルタンのイブラヒム氏が第17代国王(アゴン)に即位しました。マレーシアでは記念日的に臨時祝日を設けることが度々あり(例えば、KLのサッカーチームが国内リーグで優勝した時には、KL等の連邦直轄地で祝日が設定されました)、即位式の当日も祝日になることを期待したのですが、そうはなりませんでした。 食事はマレー料理、中華料理、インド料理、西洋料理、韓国料理、日本料理など選択肢はバラエティーに富んでいます。イスラム教徒に配慮し、ハラール・ノンハラールの区別は明確。ノンハラールの代表は豚肉です。ノンハラールコーナーはスーパーでも目立たない位置にあります。2000年代前半に初めてマレーシアを訪れた際は、現在のようにとんかつ屋がショッピングモールにある姿なんて想像ができませんでした。多民族国家ですが、ダイバーシティの認識がさらに広がっているのだなと変化を感じます。同様にノンハラールとなるアルコール飲料に対する酒税はアルコール度数に比例して課税率が上がります。日本では手頃なウイスキーの瓶も、マレーシアでは1万円超えということも。マレーシアに出張する際は、アルコール度数高めのお酒を取引先、駐在員向け手土産にされると喜ばれると思いますよ。


Suria KLCCでのハリ・ラヤの装飾


マレーシアの Yee Sang


多数の文化の融合


マレーシアでは、先住民族を含むマレー系約70%、中華系約23%、インド系約7%と複数の民族が互いに尊重し合い、共存しています。多民族であることを実感するのは、年に4回ある正月を祝う時です。1月のお正月の他、年によって異なりますが、2月ごろは旧正月、4月ごろはイスラム教の「ハリ・ラヤ・プアサ」、11月ごろはヒンズー教の「ディパバリ」とあり、ショッピングモールやオフィスロビーなど人々が集まる場所には華やかな装飾が施されます。また、マレーシアでは中華系マレーシア人の間で旧正月に「Yee Sang(イーサン)」を食べる文化があります。日本人的にはおせち料理の立ち位置でしょうか。縁起を担ぐ料理を長いお箸で上に放り投げて、願いごとをしながら食べる決まりとなっています。

食べ物の話ばかりで恐縮ですが、マレーシア料理で特にお勧めしたいのは「Laksa(ラクサ)」です。サンスクリット語で「多くの」の意味を持つ「Lakh(ラク)」や、古代ペルシャ語で「ツルっとした麺」の意味を持つ「Lakhsha(ラクシャ)」が語源といわれています。ココナツミルクとカレー味の麺がベースですが、日本のラーメンのように地方によって味が異なり、「ペナンラクサ」や「サラワクラクサ」など種類があります。私が好きなのは、ペナン名物「アッサムラクサ」です。マレー語で「酸っぱい」を意味する「Asam(アッサム)」の通り、酸味と辛みのある魚のだしがベースとなっています。

といっても毎日ローカル料理では胃が疲れるので日本料理の存在は大切です。健康的なイメージがある日本料理はマレーシアでも人気を得ています。豚を使ったメニューはないものの、お酒が飲めるレストラン、完全なハラールではない「No pork, No lard」でマレーシア人にも入りやすい工夫がされている日本料理店も多いです。2022年ごろからは「Omakase」ブームが続いています。カウンター越しで板長に「おまかせで!」と頼むわけではなく、「Omakase」という名のコースが用意されている形です。トロの上にフォアグラとウニがのり、トリュフがまぶしてあるなどぜいを尽くした内容は、お味については疑問を感じざるを得ませんが、独自の文化を感じます。


ペナンの極楽寺(旧正月)


ペナンの夕日


お勧めの過ごし方


マレー半島東海岸でのイカ釣り

一番のお勧めはやはりゴルフです。他の東南アジア諸国と比べ、近さと安さが魅力です。私は2023年、念願の自己ベストを更新することができましたが、最初に覚えたマレー語が数字の3-9と左、右、ゴロだったのは想像に難くないと思います。

また、国内旅行も魅力たっぷりです。マラッカはオランダ領の名残があり、世界遺産にもなっている街並みが有名です。マラッカ発祥の「ニョニャ料理」は15世紀前後に中国からマレー半島に移住した男性(ババ)と、現地のマレー系の女性(ニョニャ)が結婚することで生まれた、マレーと中華が融合した料理です。特に「Babi Pongteh(バビポンテ)」をお勧めします。味はあえてお伝えしませんが、白飯がとても進みます。ぜひ試してください。観光スポットをお伝えしようと思ったら、また食べ物の話になってしまいました。帰任までにはコタキナバルにあるキナバル山(富士山よりも標高が高い)にも登ってみたいです。他にもイカ釣りをしたり、温泉に行ったりとマレーシアの休日ライフも楽しんでいます。

ポテンシャルを秘めた国

マレーシアの優位性の一つは人材です。多くの人が準公用語の英語を理解し、マレー語、中国語も話すトライリンガルも珍しくありません。中国、インドネシアとの取引も多い当社においては非常に大きな戦力となっています。さらに自然と資源が豊かなところも見逃せません。近年は、東マレーシアの環境負荷が少なく安定した水力発電を売りとした企業誘致も活発です。その電力を利用した水素の生産プロジェクト、気候を活かしての太陽光発電、パームバイオマス発電などの再生エネルギー、EVの普及等、SDGsを意識した取り組みが官民一体で幅広く行われ、環境ビジネスへの意識の高まりと今後の可能性を感じます。

また、電子・電気産業はマレーシアの基幹産業ですが、一時は中華圏にシフトしたものの近年は半導体産業を中心に回帰して、ペナン州は東洋のシリコンバレーと呼ばれるに至り、その存在感は計り知れません。マレーシアへの投資の裏にはMalaysian Investment Development Authority(MIDA)という政府機関のサポートがありさまざまな優遇措置が用意され、多くの企業が活用しています。今後ますますマレーシアのポテンシャルが引き出されるよう、商社パーソンとしてそのようなプロジェクトに関わることができればと思っています。

皆さん、マレーシアの魅力は十分に伝わりましたでしょうか?

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