新たな発見が多いエチオピア

伊藤忠アディスアベバ事務所長
信田 阿芸子

はじめに


2023年5月19日、エチオピア・アディスアベバに着任しました。エチオピア赴任を命じられた際には、あまりにも想定外だったので、正直一瞬頭の中が真っ白になりました。しかし、不思議と翌日にはエチオピアに貢献する使命感に燃え、アディスアベバに到着した瞬間から全く違和感はありませんでした。つくづく、自身が単細胞な人間だと思い知りました。

エチオピアほど、日本で抱かれているイメージと実際のギャップが大きい場所はないのでは、とつくづく思います。もちろん、ハードシップのランクが高めに設定されている理由は挙げるとキリがないほど積み上がるのですが、意外だと感じたポイントからご紹介したいと思います。

アフリカにおける大国


筆者

まずは、エチオピアは、アフリカにおける大国だということです。日本での知名度は低いのですが、ナイジェリアに次ぐ人口124百万人(2022年世銀)を有しており、首都・アディスアベバは、そのうち約4百万人が暮らしていますが、現地では、その人口は現在約10百万人に増加しているともいわれています。地方では1家族に15−20人子供がいるとのことで、人口は増え続けているのです。

外貨は極端に不足している(*外貨準備高0.6ヵ月・2023年)半面、自然エネルギーは豊富で、水力発電による電気は海外へ売るほどあります。国家の再生可能エネルギー発電量(*総発電量に占める割合)は90%を超えています。

アディスアベバは2,400mの高地のため空気は薄いのですが、気候が大変良いです。ロンドンの夏のような涼しい気候が1年中続きます。登山などが得意な体質の方にとっては過ごしやすい天国のような場所です。


アディスアベバ事務所スタッフと


アディスアベバ市内風景


民族衣装


エチオピア正教の法王邸宅
巨大なハトのオブジェが意外にかわいいです


信心深く穏やかな人柄

クレオパトラの祖先ともいわれているエチオピア人は美しく、また初見での人との接し方は控えめで、日本人に近しいものがあります。エチオピア正教が人口の50%、ムスリムが40%で、宗教に対して敬虔な方が多いです。

そのため、上司から厳しく言われたからきちんとするというよりも、神様が見ているから正しいことをしたいというモチベーションがあります。また、真面目で穏やかな方が多いです。街中で狭い道路に路駐車と行き交う車で詰まってしまっても、声を荒らげることなく、静かに話し合って道を譲り合います。電気は豊富に生産しているものの、グリッドが弱いため街中の信号が消える事態が頻繁に起こりますが、不思議と交差点でも車はスムーズに流れます。渋滞する時は決まって、警官が上手とは言えない交通整理をしている時です。

宗教の影響で、時に独特な価値観を垣間見ることができます。100万人もの死者を出した1984年の大飢饉の時に国連が救助に乗り込んだ際、飢餓でバタバタと人が死んでいく横で隆々とした馬がいるのに驚愕したとのことです。手段を問わずに食いつないで生き延びようという価値観とは随分違います。食べてはいけないモノに手を出すくらいなら死んだ方がよい、という精神論があるようです。

名物料理は生の牛肉


地元の人気店「Mezgebe」の生肉プレート

主食は、古来より食べられている「インジェラ」です。エチオピア人しか食べません。原料は世界で最も小さな穀物といわれるイネ科の穀物テフ。グルテンフリーかつ栄養豊富で、スーパーフードとして欧米では注目されています。テフは自然発酵する力を持っており、「インジェラ」は酸っぱい独特な味がします。発酵を促す菌は、代々家に引き継がれ、嫁に出る際には実家の菌のタネを持っていくとのこと。家庭によって微妙に味が違うそうです。

エチオピア人が大好きなのが、生の牛肉です。お祭りなどのイベント、日曜日には決まって生肉を食べます。あっさりして柔らかく意外においしいですが、大使館の医務官いわくは、命欲しければ絶対に食べるな、というアドバイスでした。ちなみに前任の伊藤大使閣下(女性)は、イベントのたびに500g以上の生肉を平らげても平気な方でした。

写真のプレートは、地元の人気店「Mezgebe」のものです。こちらのプレート1種類のみを提供するレストランで、日曜日には満席になる人気店です。自分でナイフを使い生肉を小さく切り、スパイスに付けてインジェラ(巻いてお皿に載っている)と共に食べます。

牛の生肉を常食しているエチオピア人は、総じて日本出張の際に刺し身にはまります。弊社の取引先CEOは、東京滞在中に昼・夜と連続で「すしざんまい」に行こうとします。

コーヒー発祥の地


来客があればいつでもどこでも
コーヒーセレモニーがセッティングされる

伊藤忠商事・アディスアベバ事務所は、1960年代から当地でビジネスを始め、現在はいすゞトラック輸出のサポート、コーヒー豆・ゴマの輸入のサポートなどを手掛けています。

エチオピアの輸出額ナンバーワンを誇るコーヒーは、地域によって味が違い、コーヒー発祥の地にふさわしいレベルの品質です。コーヒー発祥の物語は、当地に赴任した後に知りました。羊飼いのカルディ君が、ある日、羊がおいしそうに食べている赤い実を発見して自分で食べてみたところ、おいしい上に仕事がはかどることが分かった。カルディ君の村の人々もコーヒーの実を食べることに夢中になった。コーヒーの実を食べると、仕事に集中できるため、わざわざ教会に通って迷いを正してもらう必要がなくなった。すると、誰も教会に行かなくなってしまい牧師が怒り、コーヒーの枝を燃やしてしまえ!と火にくべたところ、赤い実の中にあったコーヒー豆が燻され、何とも良い香りが発生し、牧師までもがその香りにとりこになった・・という言い伝えでした。

コーヒー文化は根強くエチオピア人に浸透しており、お客さまが来ると必ず、お香をたいて生豆をいるところから始めます。日本の茶道に共通するところがあります。以前は各家庭でも朝・昼・晩とコーヒーを生豆からいって飲む習慣がありました。女性が外で働くようになり、最近になってようやくロースト豆が店頭で売れるようになりました。

朝・昼・晩とコーヒーを飲むエチオピア人は、大量にコーヒーを消費しています。なんと、エチオピア国で生産されるコーヒー豆の50%は国内で消費されます。歴史的に甘いお菓子は存在せず、現代でもコーヒーのお供は不思議と味がほとんど付いていないポップコーンです。コーヒーの味そのものを楽しむ風習なのだと理解しています。

ビジネスを通じた社会課題の解決

2023年6月27日より、ファミリーマート全店で、エチオピア国旗の色を背景にした、「エチオピア産最高等級豆」と明記したアイスモカブレンドのポスターが掲示されました。「エチオピア産」を大々的に銘打ったプロモーションは日本では初めてでした。おかげさまで評判は大変良く、全国4,747人の店舗スタッフ・ファミマ社員が選んだ商品「ファミマ大賞2023」にもアイスモカブレンドとモカブレンドが選ばれました。

さらにエチオピア産コーヒー豆をプロモーションしていこうということで、コーヒー課とファミリーマート・島田執行役員商品本部長のエチオピア出張が実現しました。ファミリーマートとの企画で、店頭でモカブレンドコーヒー1杯飲んでいただくと1円がエチオピアのコーヒー産地にあるベレラ中高等学校への支援に使われるというキャンペーンを実施する計画です。ベレラ中高等学校は、生徒数3,200人と聞いていましたが、確認するたびに増えていきました。それでも地域の65%ほどしか学校に行けず、教室は不足しており、50人キャパの教室に130人が入り、かつ午前と午後で対応生徒を入れ替えています。トイレも足りず、女子生徒は生理のたびに学校を休まざるを得ない状態で、そのためにおのずと大学進学率に男女の差ができてしまいます。駐エチオピア日本国大使館、ファミリーマート、伊藤忠商事とで協力し、学校校舎、トイレ、学校教材、そしてコーヒー文化の教育を支援していきます。


ファミリーマート・島田執行役員商品本部長と
コーヒー農園訪問


ベレラ中高等学校学校を訪問した際に
出迎えてくれた地元長老たち


また、UNIDO(国際連合工業開発機関)と共に吸水ショーツの縫製技術を、アディスアベバの職業訓練校・Selam Children's Villageに指導するプログラムも開始しました。

エチオピアは、高地ということもあり、家畜にとって過ごしやすい気候のようで、家畜の数はアフリカ大陸で一番多いです。なかでも羊の皮は丈夫で柔らかい世界最高級の品質で、メルセデスベンツのマイバッハ車には、昔からエチオピアの羊の皮が使われていたそうです。エチオピア在住の日本人女性、鮫島弘子さんは、エチオピア産シープスキンで生産されたブランド「andu amet」を11年間続けています。2023年末にはBコープ認証も取得されました。エチオピア現地のシングルマザー、ハンディキャップをお持ちの方含めて根気強くものづくりの教育をして職人に育て上げる活動を続けています。原宿に直営店を持ち、伊勢丹や阪急百貨店にてポップアップ販売を実施されていますが、さらに海外でも販路を広げていくよう、サポートしている最中です。

おわりに

エチオピアは、内戦や外貨不足問題、中国・欧州からの借入金返済期限が迫るなど、問題には事欠きませんが、その環境下でも粘り強くビジネスで成功している新興財閥も出てきており、今後の変貌は大変興味深いものであることは間違いありません。

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