観光大国へようこそ、Karibu Tanzania

三菱商事株式会社
ダルエスサラーム駐在事務所 所長
西﨑 健治

初めに


2020年10月に人生初めての駐在先となるタンザニアへ降り立ちました。アフリカ大陸には公私共に何度か訪れたことがあったものの、タンザニアは全くもって未知の世界、かつコロナ禍真っただ中ということで不安がたくさんある中での渡航となりました。前マグフリ政権時代のタンザニアは、世界で新型コロナウイルスの存在を認めなかった数少ない国。ほとんどの国民はマスクを着用しておらず、まるで何もないかのように普段通りの生活を送っている。なんとも異様な光景に映りました。加えて、到着数日後には、5年に1度の大統領選挙があり、「デモや国民による混乱回避」のための特別措置として、タンザニア国内でのインターネット/SNS利用が突如制限されました(真偽不明ですが、対抗馬の選挙活動を制限することが真の狙いとの報道もありました)。2週間強、LINE、Facebook、Instagramはもちろんのこと、連絡手段としても活用可能なGoogle Mapsもアクセス不可となりました。幸いにもLANケーブル(政府管轄)は利用可能だったので、業務上での支障は最小限に留められましたが、タンザニア国内はもちろんのこと、日本側との連絡手段はゼロとなりました。


筆者(キリマンジャロマラソンにて)

出ばなをくじかれることとなった初の海外赴任でしたが、今となってはなんてことありません。思えば私が入社した15年前はまだWi-Fiなどほとんど普及しておらず、海外出張時は携帯電話での通信はほぼありませんでしたので、気持ち的には過去にタイムスリップしたような感覚でした。タンザニアでは通信の他、電力や水不足に悩まされることがありますが、慣れてさえしまえば全く苦に感じません。むしろこの国が持ち合わせる数多くの魅力がその悩みを一気に吹き飛ばしてくれます。赤道直下、年中温暖な気候ということもあってか国民は非常に明るく温かく、陽気なタンザニア人にいつも囲まれています。お祝い事があれば夜遅くまでどんちゃん騒ぎ、サッカーの試合があれば声がかれるまで全力で応援、音楽が流れれば歌って踊る、そんな毎日です。


観光大国タンザニア


草原に暮らすゾウの群れ(ミクミ国立公園)

タンザニアは、実は知る人ぞ知る世界的に有名な観光地であることは隠しようのない事実であり、GDPの約4割を観光業が占めています。標高5,895m、世界最大の独立峰として有名なキリマンジャロをご存じの方も多いのではないでしょうか。日本ではタンザニア産コーヒーを“キリマンジャロコーヒー”と呼んで販売しています。キリマンジャロ山域を含むキリマンジャロ国立公園が世界遺産に登録されています。毎年、キリマンジャロの麓にあるモシ市でキリマンジャロマラソン(標高800~1,400m)が開催されており、2022年、2023年と2年連続で出走しました。標高の高さ以上にそのアップダウンの激しさに苦しめられましたが、世界最高峰のキリマンジャロ山を眺めながらのマラソンは本当に格別です。

タンザニアにはキリマンジャロ以外にも世界遺産があります。セレンゲティ国立公園とンゴロンゴロ保全地域。隣接するこの2地域はサファリで世界的に有名であり、毎年世界中から観光客が訪れます。広大な大地の中にさまざまな動物が生息しており、両地域全てを堪能しようとすると5−6泊はかかるといわれています。なかでも有名なのは、ヌーの大移動。セレンゲティ国立公園と、その北部に隣接するケニアのマサイマラ国立保護区の間で、数十万規模のヌーが、エサの多い草原を求めて大移動します。それ以外にも、通称ビッグ5(ゾウ、サイ、バッファロー、ライオン、ヒョウ)、チーター、キリン、カバ、ハイエナ、ガゼル、インパラ、ワニ、バイソンなど非常に多くの種類の動物に出会うことができる素晴らしき空間となっています。世界的に有名なのはセレンゲティとンゴロンゴロですが、実はタンザニアは“サファリ大国”でもあり、国立公園が15ヵ所以上も存在しています。いずれも多くの動物が生息しており、異世界を体験することができます。最大の経済都市であるダルエスサラーム(注:首都はドドマ)から300km圏内にも幾つか存在し、日帰りツアーも組まれているので、お越しの際にはぜひ足を運んでみてください。


THE ROCKの外観

次に忘れてならないのはアフリカのハワイとの呼び声の高いザンジバル諸島です。かつては奴隷貿易や象牙貿易の拠点でもありましたが、今はインド洋に浮かぶリゾート。欧州や中東地域から毎年数十万人の観光客が訪れます。ストーンタウンやフレディ・マーキュリーの生家(今はフレディ・マーキュリー記念館として活用)、海に浮かぶレストラン“THE ROCK”、そして何よりも青く美しきビーチと、魅力満載です。ザンジバル北西部に位置するケンドワ・ビーチ(KendwaBeach)はなんと、海外旅行雑誌Big7Travel選定の2023年世界ビーチ・ランキングで第4位(アフリカ域内ではトップ)にランクインしています。ザンジバル諸島ではイルカやマンタと出会うことができたり、スカイダイビングを経験できたりとリゾート感満載です。ただし、ザンジバル諸島はタンザニア本土と異なり99%がイスラム教徒。ラマダンの時期はレストランも多くが閉まり、酒類の提供はほぼ皆無となります。


アフリカが誇るスワヒリ語


タンザニアと聞くと動物やキリマンジャロを最初にイメージされる方が多いかと思いますが、国語であるスワヒリ語にもぜひ注目していただきたいです。タンザニア周辺国でも公用語となってはいますが、日常的にかつ全土で使用されているのはタンザニアのみ。経済の中心地であるダルエスサラーム市内でも普通に話されています。このスワヒリ語、アフリカ連合(Africa Union)にて、英語、フランス語、ポルトガル語、スペイン語、アラビア語、と共に、唯一のアフリカ由来の言語として公式言語の一つに認定されています。起源はアラビア語と民族言語の二つといわれており、ベースは民族言語、そこにアラブ語(数字や曜日)を引用している他、英語(警察はPolisi)、ドイツ語(学校はShule)、ポルトガル語(テーブルはMeza)などと多言語の影響を大いに受けて形成されました。面白いことに日本語と同じ意味を持つ同音語が存在しており、例えば「ナニ(Nani)」は「誰/何」、「ピリピリ(pili pili)」は「辛い」を意味します。

このスワヒリ語には、文化が垣間見える独特の言葉が存在します。それが「pole」と「pole pole」です。「Pole」単体では「ごめん」を意味しますが、割と軽い意味合いで使われます。もう一つの意味は「どんまい」。自分が何かをこぼしてしまった時、集合時間に遅刻した時、忘れ物をした時などに周りの人が「pole」と声を掛けてくれます。ちなみに遅れた本人も「pole」と言ってくるので、何か変な感覚です。日本人の考える「ごめんなさい」に値する「samahani」はめったに使われないため、タンザニア人から言われた時は、すごく申し訳なく思っているのだな、と受け取ってよいでしょう。

この「pole」を二つつなげると、「ゆっくり」や「少しずつ」といった、全く異なる意味に変化します。「時間など気にせずに気楽にいこうよ」との意味合いが根底には含まれています。誰かがゴルフでショットがうまくいかなかった時、遅刻しそうで焦っている時など、さまざまな場面で「pole pole」と声を掛けてあげることができます。日本人からすると「もっと時間を大切にしよう」となりがちですが、タンザニア人からすれば、むしろ「そんなに焦らなくていいじゃん、時間なんてたくさんあるんだから」といった具合でしょうか。


アフリカ随一の治安


美しいタンザニアのビーチ

タンザニアといえば、何といっても治安の良さです。“アフリカ”と聞くと危ないイメージを持たれる方が多いかと思いますが、タンザニアはアフリカ54ヵ国の中でも治安の良い、安全な国です(一般犯罪が全くないとは言えず、渡航の際には注意していただく必要はあります)。JICAが派遣する青年海外協力隊/海外協力隊の国外向け派遣実績(2023年3月時点)を見ると、マラウイ、ケニア、フィリピンに次いで世界第4位の累計1,671人(うち、女性が471人)が派遣されています。派遣隊員の方々は基本的に地方部にて活躍されますが、これだけの派遣人数を誇る事からも治安の良さをお分かりいただけるのではないでしょうか。1961年の独立以降、一度も内紛を起こしていない、数少ない国の一つでもあります。ダルエスサラームも一昔前は危なかったといわれていますが、近年では国も治安改善に向け積極的に取り組んでおり、道路整備なども進んでいます。2022年には、象徴的ともいえるTanzanite Bridgeが開通、これに続く海岸沿いの道路もきれいに整備されました。その結果、ダルエスサラームはランニングの街へと新たな姿を見せています。平日・週末共に朝夕時間はランナーを多く見かけますが、海沿いを朝日/夕日に照らされながらのランニングは格別です。これも治安が良いからこそのことでしょう。


最後に


タンザニアは日本からの距離が非常に遠く、なかなか訪れる機会はないかと思いますが、多くの魅力にあふれる大変素晴らしい国であり、その魅力を少しでも感じていただけたなら幸いです。今ではドーハ、ドバイ、イスタンブールといったハブ空港からの便数が飛躍的に増え、アクセスも容易になってきています。都会の騒がしさから抜け出し異世界空間を経験されたいという方はぜひ、タンザニアへ一度足を運んでいただき、自然の神秘に触れていただければと思います。

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