魅惑の国 メキシコ

Inabata Mexico S.A. de C.V.
諸井 陸

はじめに


2021年1月に赴任し、はや2年がたちました。赴任した21年1月は世界中でコロナ下真っただ中、成田空港からメキシコへのフライトも乗客は私を含め10人程度だったことを覚えています。初めての海外赴任に大きな期待と一抹の不安を抱えてのフライトでしたが、コロナ下というのがうそのようにあまりにあっさり入国できたことが印象に残っています。
※メキシコはコロナウイルス流行以降、入国制限(入国後隔離を含む)を一切行っていません。


赴任前にお世話になった方々へメキシコへの異動をご報告すると、異口同音に「危険だから気を付けてね」とご助言いただきました。私自身、赴任前にメキシコの印象は?と問われると、麻薬、マフィア間の抗争、米国への不法移民など、海外ドラマの影響を大きく受けたネガティブなイメージが先行しがちでしたが、2年たった今、メキシコへの印象は大きく変わっています。

日常生活の中で強盗・窃盗などのニュースを聞く機会は日本に比べ圧倒的に多く、身近な方が被害に遭っていることも事実です。2020年には前国防相が麻薬組織のトップであったため起訴される、というドラマのようなニュースもあり、この国から麻薬絡みの事件がなくなることは難しいだろうなとも感じています。ただ日常生活の範囲内で、適切な時間に行動していれば危険な目に遭遇するケースはごくまれで、最低限の守るべきルールを意識しながら生活しています。

本寄稿では赴任後の個人的なメキシコに対するイメージを中心にご紹介させていただき、メキシコのポジティブな面をお伝えできればと思います。

ケレタロ


私が住んでいるのは首都メキシコシティから西に車で3時間ほど走った場所に位置しているケレタロという都市です。セントロと呼ばれる街の中心エリアは、スペイン植民地時代の名残を残しており、世界遺産にも登録されています。ケレタロ州はメキシコのほぼ中心に位置しており、東西南北どこへでもアクセスが良く、メキシコ国内では比較的治安も良い州とされており、非常に生活しやすい街です。

ケレタロの中でも日本人駐在員の方が多く住んでいる地域には、日本式の大浴場があるホテルもあり、インフラ面はかなり整っている印象です。コロナウイルスによる在宅勤務の推進もあってか、特にメキシコシティ周辺から移住しているメキシコ人の方も多いと聞きます。

ケレタロは標高約1,800mに位置しており、高地であるが故、低地よりゴルフのボールが飛ぶ、睡眠の質が低くなるなど、いくつかの神話がありますが、今のところどれも体感したことはありません。


ケレタロの中心街「セントロ」


世界で3番目に大きな一枚岩!?といわれている岩


メキシコの気候


個人的にメキシコの一番好きなところは気候です。メキシコ全土で比較的そうであるように、ケレタロ州も1年のうちのほとんどが晴れです。一般的に5−10月ごろが雨期といわれていますが、雨が降るのは夕方1時間ほど。日中は晴天であることが多く、湿気もないため非常に過ごしやすい気候です。日常生活で雨の心配をしなくてよい、服装を年中統一できる(冬季は若干の調整が必要ですが)、というのは非常に楽であるというメリットもあります。陽気なメキシコ人が多い一因は気候が良いから、という話を聞いたことがあるのですが、確かにどんなにきついことがあっても雲一つない青空を見ると、自然と活力が湧いてくる気がします。

メキシコでの休日


メキシコ名物タコス。一つ50−70円ほど

米国の影響を受けてか、メキシコではバーベキューグッズが充実しています。年中バーベキュー日和な気候も相まって、休日となれば友人家族、仕事でお世話になっている方、同僚など、さまざまな人たちとバーベキューを楽しんでいます。日本の「焼き肉」のような薄い肉はこちらのスーパーではなかなか手に入らず、アメリカンな肉の塊を購入し自分たちでさばく、というのが一般的なようです。自身は専ら食べる専門ですが、晴れた空の下、汗だくになりながらバーベキューを年中楽しめる、最高の環境です。食べる専門でいることもそろそろ申し訳なくなってきたので、目先の目標はコストコに売っている牛タンをさばけるようになることです。


メキシコ観光


メキシコにはカンクンをはじめとしたビーチリゾートが点在しています。ケレタロは国の中心に位置しているが故、どこのビーチからも比較的距離があるのですが、とはいってもケレタロ⇔カンクン間はLCCが運航しており、比較的リーズナブルな価格で行くことができます。米国人にとってもバカンス先として人気があるため、カンクン周辺のホテル・レストラン・アクティビティ全ての価格設定がアメリカナイズされており、あまりかわいくないお値段ですが。

カンクンではオールインクルーシブといわれる、ドリンク・フードが滞在中全て無料(といっても宿泊費に含まれていますが)のホテルが一般的で、特に家族で行かれる方はよく利用されています。あまりに自堕落な生活を送れてしまうため、メリハリのある滞在にしようと心掛けて行くのですが、カリブの誘惑には人をダメにする不思議な魅力があるようです。

メキシコ国内には政府観光局が「Pueblos Magicos(プエブロマヒコ=魔法の村)」という称号を与えている村が100ヵ所以上あります。美しい自然がある、文化遺産があるなど、選考理由はさまざまのようです。ケレタロ州周辺にもいくつか存在しており、世界で3番目に大きな一枚岩のあるベルナル、ディズニー映画『リメンバー・ミー』の舞台となったといわれているグアナファトは行ったことがあるのですが、どちらも風情があってとても良い街でした。これからも、メキシコに住むことがなければ行くこともないであろう小さな観光地に、可能な限り行ってみたいと思います。


エメラルドグリーンの海が印象的なカリブ海


2022年社内のクリスマスパーティーの様子


スポーツ


メキシコで圧倒的に人気なスポーツはサッカーです。去る12月には日本でも大いに盛り上がったワールドカップが開催されましたが、メキシコ人にとってワールドカップはまさに祭典であると感じることができました。

予選リーグの3試合では、複数の企業が試合のある時間の稼働を止め、従業員がパブリックビューイング形式で試合を観戦していました。メキシコが得点すれば割れるような歓声が沸き、失点すれば数分間の沈黙が続き、メキシコ人は喜怒哀楽の全てをサッカーにぶつけていたような気がします。老若男女問わず、メキシコ人はとにかくサッカーに熱い!というのが2022年ワールドカップを経ての印象です。

残念ながら、7大会連続で決勝トーナメントに進出していたメキシコも今回は予選敗退となってしまいました。が、次回2026年は米国、カナダとの共催という形でメキシコも開催国となっています。サッカー界における伝説であるマラドーナが「5人抜きゴール」「神の手シュート」を経てワールドカップを制覇した歴史的な1986年メキシコ大会以来の開催とあって、今度はどのような歴史がつくられるのか、多くのメキシコ人が開催を待ち望んでいます。

最後に

メキシコでは2022年半ばごろから街中でのマスク着用義務もなくなり、ウィズコロナを通り越しアフターコロナの生活が定着しつつあります。街中には人々があふれており、どこまでも続く青空のように明るいメキシコ人から日々活力をもらっています。限りあるメキシコ生活、今後もこのすてきな国で公私共に多くの思い出をつくっていきたいと思います。

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