コロナ禍での広州・深セン・香港での生活

広州長瀬貿易有限公司 深圳分公司
高橋 昌章

はじめに


筆者近影

中国広東省深センに赴任して約1年。赴任当初に比べると中国のコロナ政策は大きく緩和されましたが、引き続きゼロコロナ政策下にあります。本稿では、私の主な担当エリアの広東省広州市・深セン市と香港特別行政区の現在をご紹介します。私は深センを中心に広州と香港を担当しています。

広州と深センが属する広東省の人口は1億2,000万人と日本と同程度です。「食は広州にあり」といわれるように、広州は昔からの広東料理の中心地です。現在は自動車産業が盛んで、広州汽車集団が本社を構えています。他方、深センは1980年ごろから急速に発展してきた香港に隣接する比較的新しい都市です。「中国のシリコンバレー」と呼ばれているようにハイテク産業が盛んで、ファーウェイ、テンセント、BYDなどが本社を構えています。


香港は人口約750万人、総面積は東京23区の約2倍の広さで、北部の九龍(カオルン)半島と南部の香港島、西部のランタオ島から構成されます。世界的に重要な国際金融センターとして、金融・サービスの分野で重要な役割を果たしています。中国における香港は一国二制度といわれるように、通貨は香港ドル(中国は人民元)で、コロナ政策も中国大陸側とは異なります。

広州の中心部から深センの中心部までは約130km、車で約2時間です。深センの中心部から香港の中心部までは約30kmです。ただし、深センと香港の間にはイミグレーションがあり、特にコロナ禍以降、往来は難しくなっています。コロナ前は電車でわずか20分程度だったため、深センから日帰りで香港へ買い物に行くということが当たり前だったようです。その当時を知る方々からは深センに住むメリットが半減しているといった声をよく耳にします。

経済で注目されることが多い広州・深セン・香港ですが、これらの都市や近郊に多くの観光スポットがあることもこの地域の魅力です。高速電車を使えばあっという間に周辺の観光スポット(桂林、厦門(アモイ)など)まで行けます。中国20元紙幣のモデルとなっている桂林まで深センから約2時間半です。桂林付近の陽朔(ヤンシャオ)いう町で見られる「印象劉姐(インショウリュウ三サンシャ)」という自然の山水を舞台にした野外ショーは素晴らしい作品です。当ショーのプロデューサーの一人は、中国の有名な映画監督のチャン・イーモウです。

現在、香港から中国に移動する際には、諸外国から中国へ入国する際と同様に、指定場所での隔離が必要です。今香港で本稿を書いていますが、数日後には隔離が始まるのかと思うと少し憂鬱です。


日常生活


中国と香港での日常生活は頭の切り替えが必要です。

中国ではほぼあらゆることがスマートフォン1台で済みます。買い物、飲食店での注文、建物や公共交通機関への入館・搭乗、鍵の開け閉めなど。スマートフォンをなくすと何もできなくなります(自宅に入れなくなる場合も)。中国ではスマートフォンをななめ掛けするためのケースを使っている人をよく目にします。確かにかばんの機能が全てスマートフォンの中に入っているため、かばんを持ち歩く必要がないのです。

中国では大きな買い物をするとき以外はクレジットカードを使いません。代わりにスマートフォンの中にある電子決済アプリを使うので財布はいりません。赴任当初に現金を使おうとしたら、「おつりないけどいい?」と言われて驚きました。

最初のころは、(特に飲んだ後で)お金を払う際に間違った金額を払ってしまったらどうしようなどと緊張の毎日を過ごしていましたが、慣れてしまえば紛失・盗難のリスクが少なく、衛生的でやりとりの手間もないので非常に安心・便利です。他方で、海外からの短期出張者や旅行者からすると電子決済しか使えないのは非常に不便ということが、ゼロコロナ政策終了後のニューノーマルに向けた私の大きな懸念事項の一つです。

香港ではクレジットカードかオクトパスカードと呼ばれる電子決済カード、現金が主流です。香港での生活にはかばんや財布が必須で、その生活は比較的日本に近い気がします。私の生活の中心は深センですので、ほとんど財布を持たない生活をしているため、香港へ移動した後数日はほぼ毎日財布を忘れコンビニやレストランで恥ずかしい思いをしました。

冒頭で少し触れましたが、中国と香港はコロナ政策が異なります。中国はゼロコロナ政策、香港は少し緩いゼロコロナ政策といったイメージです。中国も香港も健康コードというQRコードの色で国民のコロナに対するリスク状態を管理しています。特に中国では健康コードが赤色や黄色に変わると自宅もしくは指定場所での隔離が必要となり、活動不能になってしまうため、健康コードを緑に保つことを最優先に行動することになります。例えば深センでは3月のロックダウン以降毎日のPCR検査が日課になりました。前回のPCR検査の結果が出た時間から次回の結果が出るまでに一定時間(24時間など)を超えないようにPCR検査を受ける必要があり、これには皆さん苦労されていると思います(一定時間はその時々の状況に応じて変化)。


桂林の陽朔にある如意峰からの景色
(向こうに見えるのはガラス張りの通路)


広州の沙面島付近の街並み


交通手段


香港スタジアムで開催された7人制
ラグビーワールドカップの会場

広州・深センでは地下鉄・バス・自転車が主な交通手段です。両市ともに地下鉄が発達しているため、地下鉄でほぼどこでも行けるのですが、バスも使えるとさらに移動範囲が広がります。地下鉄もバスも多くは各駅停車なので安心です。さらに自転車については、シェアサイクルが街中至る所にあるため、ちょっとした移動には自転車を使えます。出社・退社のピーク時間になると駅に人があふれて構内に入れなくなってしまうため、自転車を使わざるを得ない場面もあります。

少し注意点があります。外国人でも地下鉄はスマートフォンのアプリで乗車できるのですが、バスは電子決済カードがないと乗車できません。また、シェアサイクルの料金は都市によって異なる場合があります。さらには都市によって自転車の交通ルールが異なります(逆走禁止など)。こういうちょっとした違いは至る所にあり、最初のころは「こうしたら便利になるのに」と思っていましたが、サービスを作る側は、私のような市をまたいで働く一部の少数派を考慮するよりも、多数派が便利になるサービスをどんどん作っていきます。こうして新しいサービスが次から次へとできて、生活が便利になっていくスピード感は目を見張るものがあります。生活しているとちょっとした不便さを感じることが非常に多くありますが、これもここでの生活の一場面です。

香港では広州・深センの交通手段に、船とトラム(路面電車)が加わります。スペースがないからか自転車はあまり見掛けません。全般的に公共交通機関の料金は香港の方が割高です。香港も広州・深センと同様にバスが使えると便利かつ地下鉄より割安です。さらに九龍島・香港島のさまざまな場所に船着き場があるため、船を使うことで大幅に時間とお金を節約できる場合があります。これまでの人生において日常的に船を移動手段とする生活を送ったことがなかったので、地図アプリで船が表示された際には自分の目を疑いました。香港に来て初めて知ったのですが、よく見ると周囲に大小たくさんの島があり(260以上)、これらの島と本土の往来が必要なことから船での交通が発達しています。例えば、先日糯米滋(ノーマイチ:餅の中に果物などが入ったおやつ)を買うために、船に乗って長洲島に行ってきました。普通船に約1時間乗船して、普通席だと料金は約22香港ドル(約400円@1香港ドル=18円)でした(曜日によって料金が異なる)。


食生活


深セン大梅沙(ダメイシャ)の日の出の景色

食生活は広州・深セン・香港それぞれでいいところがあります。

広州は日系企業が多く、日本人が多いことから日本食には事欠きません。テイクアウトする際にどのお店にするかよく悩みます。また「食は広州にあり」というだけあっておいしい中華レストランが多いです。広東料理といえば有名なのは「点心」ですね。また、全般的に辛い物が少ないので、子供連れでも安心して注文できます。

深センは日本食も含めてさまざまな国の料理を楽しめます。和食、中華、タイ料理、インドカレー、イタリアンなど、こちらも何を食べるかいつも迷ってしまいます。最近では「スシロー」、「天丼てんや」などが日本から出店してきて日本食が充実してきました。

香港は何でもあります。どう書くか迷いましたが、今のところないものが見当たりません。味も絶品です。ふらっと入った台湾まぜそばの店でその味に感動し、一人喜びをかみしめていました。さらにその二日後に行ったラーメン屋でもその味に感動しました。日本のお菓子も豊富な品ぞろえです。週末はドン・キホーテ(香港の店名はDON DON DONKI)にお土産のお菓子を買いに行きます。

中国と香港の大きな違いはデリバリーサービスです。中国は食事のデリバリーが非常に発達しています。デリバリー費用が安く、スマートフォンで簡単にオーダー・支払いができるため利便性が非常に高いです。打ち合わせが長引いて昼休憩が十分にとれない場合でも、事前にオーダーしておけば、オフィスビルの指定箇所に置いてくれるため、昼食が食べられないという心配もありません。

汁物でも何でもほぼデリバリーが可能です。スタッフが昼食に複数名で鍋をつついているという光景はなかなか日本では出会えません。

少し深センの食事情を深掘りしたいと思います。深センだけではないのかもしれませんが、1年前と比較してもパン屋のレベルが上がっているように思います。赴任前にパンの味はあまり期待できないと聞いていたので、このギャップはうれしい驚きでした。もちろん当たりはずれはありますが、人気店のパンはすぐに売り切れてしまうため、確実に入手したいときは事前に焼き上がり時間の確認が必須です。

先日香港の旺角(モンコック)という場所を歩いていて、ふらっと入ったパン屋で菓子パンを二つ買って食べたのですが、これがまた感動でした。後日有名店を数店舗巡ったのですが、どれも本当においしかったです。深センのパン屋はまだ伸びしろがありそうなので、これからが楽しみです。


2023年に向けての期待


本稿にて紹介しました広州・深セン・香港に所在する長瀬産業グループの長瀬(香港)有限公司は2021年に50周年、広州長瀬貿易有限公司は2022年で20周年を迎えることができました。長瀬(香港)は2022年の年初に記念パーティーを予定していたのですが、ちょうどコロナの感染拡大と重なってしまい、急きょオンラインでの開催となりました。

テレワークが普及し、オンライン会議などでこれまで通りコミュニケーションはとれていますが、皆が一堂に集う機会はコロナ禍の前よりは減ったように思います。業務の利便性や効率性が高まっていくことは非常に良いことと思いますが、節目での記念パーティーなど、皆がFace to Faceで気軽に交流できる機会は重要と改めて感じました。

2023年のコロナ終息を祈念して締めとさせていただきます。

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