ウィズコロナの時代へ:ソウルの今

Marubeni Korea Corporation 副社長
横田 敏志

はじめに


2022年4月にソウルに赴任し、数ヵ月が過ぎました。赴任前の3月16日に新型コロナウイルス感染症新規感染者数が62万1,317人と過去最高を記録した韓国ですが、4月に入ると5日の28万6,243人をピークに減少を続け、30日には3万7,771人にまで減少しました。これとともに規制も緩やかになり、屋外でのマスク不要(ただし、屋内や公共交通機関利用時は着用)や、深夜の地下鉄の運行再開など、経済活動はウィズコロナの状況となっています。現在(執筆時点の8月)はオミクロン株の流行により10万人台と増えつつありますが、比較的落ち着いた雰囲気です。また、日本ではなかなか手に入らない簡易検査キット(政府が認可している製品)については、7月下旬から実施されているコンビニでの販売強化(8月末まで)で、高いものでも2回分セットで1万2,000ウォン(執筆時点のレートで約1,230円)で購入できます。さらに、こちらの販促手法である「2個買うと3個目はタダでもらえる2+1(ツープラスワン)キャンペーン」を実施しているコンビニでは、1回分当たり4,000ウォン(約410円)で購入できますので、かなりお得といえるでしょう。各コンビニのスマートフォン用のアプリで、簡易検査キットの店舗別在庫状況を調べられるようになっており、私もセブン-イレブン・アプリをダウンロードし、上述の「2+1」を利用して購入しました。ただし、全て韓国語の記載なので、検索画面にたどり着くまでにずいぶん時間がかかりましたが(笑)。

このスマートフォン用アプリですが、全く土地勘のない海外において、これほど心強い武器はありません。例えば地図アプリは、韓国では、Google MAPよりもNAVERMAPやKakaoMapの使い勝手が断然良く、バス交通の発達している当地では皆さんよく利用されています。日本人向けには日本語で表記される「コネスト韓国地図」が使いやすいです。衛星写真は、日本ではGoogleが断然きれいですが、当地では画像をズームにするとすぐぼけてしまうのに対し、NAVERの方はズームに堪えられるようになっています。私の場合はNAVERMAP(日本語・韓国語表記)、KakaoMap(英語表記)、それにコネスト韓国地図の三つを使い分けています。翻訳アプリはNAVERが提供している「Papago」の翻訳精度の高さが際立ちます。韓国にお越しの際は、ぜひ事前のダウンロードをお勧めします。

そんな赴任直後の韓国初心者の私ですが、少ない期間の中で個人的に気になったところをつらつらと書いてみました。最後までお付き合いいただけますと幸いです。


韓国人はコーヒーが好き


ソウルに来てまず目についたのは、多くの人たちがカフェでテイクアウトしたコーヒーを手に持ちながら歩いていることです。それにカフェが至る所無数!?にあるのです。私の住まいの近所の交差点には、四つ角全てプラス2で計6店舗ものカフェが軒を連ねています。ちょっと過密過ぎないかと思いますが、それくらい多くのカフェがあるのです。

当地にも進出しているスターバックスは、明洞(ミョンドン)や江南(カンナム)、汝矣島(ヨイド)といったそれぞれの中心街では、それこそ「犬も歩けば」という感じで、隣り合うビルの軒先や通りを挟んだ向かい側など、店舗間の距離が近過ぎて、計画的に出店したのだろうかと思うほど、至る所にあります。他にも地場のチェーン店、個人経営のおしゃれカフェなど、お店を見つけるのに全く苦労しない、コーヒー好きには天国のような街ですが、残念ながら私はコーヒーをたしなみませんので、お店の前を通るだけです。コーヒー好きの方はぜひソウルに来て、いろいろなカフェでコーヒーを楽しんでみてください。


筆者近影


益善洞の韓屋街のおしゃれカフェ


マート


ロッテマート

日本で食品を買いに行く所はスーパーですが、ソウルに住む駐在員や家族が食品を買いに行く所は「マート」と呼ばれるスーパーになります。

マートは大規模店から町のコンビニクラスの店までいろいろなサイズがありますが、大規模店としてはロッテマート、emart、Homeplusがあります。私はよくロッテマートとemartで食品を買っています。

日本人観光客がよく買い出しに行く所は、ロッテマート ソウル駅店だと思います。ソウル駅の真上にあり、明洞からも近く、コロナ禍前は、買った品物をその場でEMSで郵送するサービスもありましたので(現在は休止中)、使い勝手の良い店舗です。また、大規模店だけに品数も豊富です。

私も同店にはよく買い物に行きます。私はこちらに住んでいますので、お土産的なものではなく普通に米、精肉、野菜、飲み物、お菓子といったものを買っていますが、物価についてはとにかく高いです。これはソウル駅のマートだからというわけではなく、同国の物価が一般的に高いからということになります。

特にここ最近のインフレーションの影響は大きいです。韓国の6月の消費者物価指数は前年同月対比で24年ぶりとなる6%アップとなり、これを受けて韓国銀行はインフレを抑えるために7月に政策金利を一気に0.5%アップの2.25%に引き上げました。しかし米国FRBが同月に政策金利を2.25−2.50%に引き上げたことから、金利率が逆転、ウォンも安くなりました。食品の多くを輸入に頼るのは日本と同じなので、ウォン安になると物価にダイレクトに跳ね返ってきます。外食価格が毎月値上がりするなど、ちまたでは悲鳴の声が上がり始めています。7月には大手の地場フライドチキンチェーンが価格を上げたことから、ネット上で不買運動まで起きたりしました。

ただし、物の値段が上がることは決して不自然なことではなく、所得が増えれば物価が上がり、物価が上がれば所得も上がるものです。韓国は労働組合が強く、物価上昇率をベアに直結させて要求してきますので、所得も上がっています。むしろ世界的に見れば、所得が増えず、物価も上がりにくい日本の方が不自然といえるでしょう。ただ2022年は日本もインフレーションの波に襲われており、物価が上がってきていますので、所得の方もぜひ上がってほしいものです。


明洞の今


空き物件だらけの明洞

ソウルで日本人を含む外国人に人気の街が明洞です。一方、当地に住む韓国人はあまり明洞には行かないと聞きます。なぜなら飲食店や雑貨店は観光客目当ての価格帯であり、少々高いと感じるからだそうです。そんな観光客の街、明洞ですが、2020年以降のコロナ禍で様相は一変したようです。私が2022年4月に赴任したときの明洞の様子は、まさに「空き物件だらけの街」でした。現在はだいぶ人が戻りつつあり、メインストリートや人気の飲食店付近はにぎわっていますが、ちょっと路地に入ると「임대」(賃貸)の文字が貼り出された、がらんとしたお店がそこかしこにあります。前政権の失策で不動産価格が高騰した韓国では、賃料の高い明洞で少ない観光客相手に商売をするのは難しいのでしょう。かつてのにぎわいを取り戻すには相当時間がかかりそうです。

そんな明洞ですが、行きつけの美容院があるので、私は定期的に訪れています。またロッテ百貨店や新世界百貨店もそばにあるので、たまに食品街を訪れては上述のマートで見掛けない日本の食材などを物色したりします。ただ、日本の百貨店と違うのは女性の店員さんによる「販促」が多いことです。これはマートの大規模店でも同じですが、下手に近づくと話しかけられては買い物かごに品物を入れられそうになるので(笑)、韓国初心者の私は用がないときは店員さんに近づかないようにしています。でも欲しい物がある場合はそうもいっていられませんので、突入していきます(笑)。韓国語はほとんど話せませんが、ハングルは一通り読めるようになったので、商品を見ながらたどたどしく「ちゃん・なん・じょ?」と聞くと、すかさず店員さんが「日本人ですか? これは日本でいう「チャンジャ」ですよ。観光ですか? 今日帰国するならこっちのちゃんとした入れ物の方がいいですよ。え、住んでるの? だったらこっちの方が量が多くてお得だから、こっちがいいですよ。夕方だからちょっとまけてあげる!」と日本語で一気にまくし立てられて、チャンジャをかごに入れられました(笑)。明洞の百貨店はこんな感じで日本語のできる店員さんもいるので、このあたりも日本人に人気のエリアとなっている理由なのでしょう。


青瓦台


2022年の大統領選挙で選ばれた尹(ユン)大統領が、5月に大統領府を移転、これまで大統領府であった「青瓦台(チョンワデ)」を一般公開し、外国人を含め誰でも見学することができるようになりました。

青瓦台は景福宮(キョンボックン)という朝鮮王朝時代の王宮の北部に位置します。1948年の大韓民国成立後の初代大統領の李承晩(イ・スンマン)より、代々の大統領がこの地で政治を行ってきました。

なお、見学に当たってですが、韓国人はウェブより事前予約するようになっており、予約画面を見せると入場できます。一方、65歳以上の方、体の不自由な方および外国人については、午前・午後それぞれ500人の枠の中で、現地で受け付けをすることで見学ができるようになっています(2022年7月現在)。私は青瓦台正門前の受付で身分証明証(私の場合は外国人登録証ですが、パスポートでももちろん大丈夫です)を提示して中に入ることができました。言語は英語で大丈夫です。私は「Enjoy!」と声を掛けられました(笑)。

正門から中に入って坂を上っていくと、青い瓦屋根の本館が見えてきました。建物内の見学もできるので、私は列に並びました。私が訪れたのは7月の暑い日で、建物の出入り口から40mほどの順番待ちになっていましたが、ちょっと立ち止まっては写真を撮るなどしつつ、15分程度で中に入ることができました。

入り口で靴を布製のカバーで覆ってから、中に入っていきます。ロビーはかなり広く、中央に階段が設置されています。内装は伝統的な「韓屋」のたたずまいを残しつつも格調高く仕上げられています。本館の1階から巡回ルートに沿って2階に上がり、また1階に戻って各部屋を見学できるようになっています。館内の写真撮影についても特に制約がなく、皆さん思い思いに記念写真や動画を撮っていました(ただ、巡回のスピードが落ちるので、係員は適宜注意していましたが)。

本館を見学の後、すぐそばにある迎賓館の見学にも行きました。こちらも40mほどの順番待ちの列に並びましたが、同じく15分程度で中に入ることができました。なお、迎賓館については大きなお部屋を一つ見ておしまいという感じです。

私は本館と迎賓館の2ヵ所で1時間超えでしたが、この他にも多くの建物やお庭を見学することができますので、全部見るとなると結構な時間が必要でしょう。ご自身の時間との兼ね合いで見学する場所を選ぶとよいと思います。本館はやはり人気なので順番待ちの列も他より長めですが、割と回転は速め(せっかちな韓国人気質のせい?)ですので、ぜひトライしていただければと思います。


青瓦台


迎賓館


最後に


2020年の新型コロナウイルスの流行により、これまで外国への移動が制限されてきましたが、ワクチンの開発も進み、徐々に制限が緩和されてきました。韓国は6月から観光ビザを再開し、8月は月末までの期間限定ですが、日本からの入国に際しビザ取得を不要としました。また、ワクチン接種証明(ワクチン・パスポート)の検疫情報事前入力システム「Q-code」への入力も不要としました(8月現在)。こうして徐々に規制が緩和され、コロナ以前のように人の往来ができるようになると良いですね。

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