花咲き誇る開かれた国 オランダ

HANWA EUROPE B.V.
小谷 和寛

オランダといえば


Goedemiddag ! フーデミダッハ!(こんにちは!)

皆さんがオランダと聞いてまず思い浮かべるのは「チューリップ」「風車」「アムステルダム」などでしょうか。私は2019年にその「アムステルダム」に赴任し、阪和ヨーロッパ・アムステルダム事務所にて仕事をしています。

さて、同国のもう一つの代表的な都市はロッテルダム。オランダには~~ダムとつく地名が多いと思いませんか? このダムの意味は文字通り堤防(ダム)のことで、例えばアムステルダムは13世紀にアムステル川の河口にダムを築いて建設された都市であることから命名されています。オランダ人は昔から多くのダムを造り、歴史的に常に水と格闘してきました。なぜならオランダの国土の4分の1は海抜0m以下。放っておくとどこからともなく水が浸入してきて生活への脅威となります。オランダの国名であるネーデルランドはそもそも「低い土地」という意味。同国のシンボルである「風車」も次々と湧き出る水を揚水、排水するためのものです。そのため国の至る所に運河が張り巡らされ、それが昔から水運の発達、現代に続く物流の発達へとつながってきました。つまり貿易の拠点としての素地があり、それが大航海時代を通じて繁栄し世界へ大いに開かれていきました。オランダ人の開放的で自由闊達(かったつ)な精神や考え方(ときどき自由でストレート過ぎる物言いもありますが…)は、そのような背景で育まれたものかとも思います。

ご存じのようにオランダは欧州の中で鎖国時代の日本と貿易を行った唯一の国、当時日本が多くの事を蘭学として学んだ国でもあります。日本人にとってそんななじみ深い国を駐在員の視点から少しだけですがご紹介させていただきます。


キューケンホフ公園にて(筆者・長女・次女)


これぞオランダ?(運河と風車)


オランダという国とDutch Weather


ドイツやフランス、英国などの欧州の大国についてはご存じでも、オランダの位置を正確に示そうとするとはっきりしないという方がいらっしゃるかと思います。オランダはそれら大国のちょうど間に位置し、隣国のベルギー、ルクセンブルクと合わせてベネルクス三国とも呼ばれます。

人口は約1,750万人で在住する日本人数は約1万人。面積は日本の九州とほぼ同じ。北緯52度に位置し、北海道はもちろん、国土の大半は英国のロンドンより北にあります。

というと、かなり寒さが厳しい気候という印象を受けると思いますが、海洋性気候のため夏は涼しく、冬は寒いものの比較的温暖です。北海からストレートに吹き付ける湿った風で一年中風が強く、よく雨が降り、天気が非常に変わりやすいのが特徴です。時には一日の中で晴れ、曇り、雨、強風、ひょう、晴れと刻々と天候が変化しますが、オランダ人は「いつものDutch Weatherさ」と笑い飛ばしています。雪が積もるほど降ることはめったにありません。

この緯度により夏の夜は最長22時過ぎまで明るい半面、冬は最短で16時過ぎには暗くなります。冬は曇天が続き太陽の光を浴びる機会が極端に少なくなるため、特に子供は健康のためビタミンDの錠剤を服用したりして対応しています。

凍る運河とスケート文化


数年ぶりに凍結した近所の運河

日本人にとってスポーツの世界でオランダというと、フットボールとスピードスケートでしょうか。

欧州にはフットボールでは他に多数の強国がありますが、スピードスケートではオランダの強さは唯一無二。かつてはオリンピックの金メダリスト、日本の小平奈緒選手がスケート留学していたことでも知られています。そのオランダ勢の強さの理由には、オランダ中に張り巡らされた運河の存在があります。伝統的に真冬に氷結し、至る所が自然のスケートリンクに変わるのです。昔は、毎日その運河を皆スケートで滑って通学・通勤していたともいわれるほどスケートはオランダ人にとって日常的な存在です。

近年はめったに凍らないと報道されていた矢先、2021年2月に寒波が来ました。全オランダ国民の願いがかなって運河が氷結! どの家にもある自分のスケート靴を持って出て、家の前の運河で喜々として滑走を始めるオランダ人の素早さと熱情に感心しました。また運河が氷結しなくとも街中には一周400mのスケートリンクが幾つもあるので、老若男女を問わず皆楽しんでいます。学校にはスケートの必須授業もあります。総じて氷上を滑るという行為が非常に身近なものであることが実感できます。


Dutchという人々


アムステルダムのカナルハウス

オランダの正式名称はネーデルランド王国。俗称であるホーランド(Holland)もよく使われています。日本でオランダと呼ばれるのは、戦国時代に来航したポルトガル人宣教師が、Hollandをポルトガル語読みでホランダ(Hollanda)と呼んだことから定着しました。

ただし、「オランダ人」や「オランダの~」「オランダ語」という時にはDutchを使います。このDutchはgo DutchやDutch account(いわゆる割り勘定)などの言い回しで少しネガティブなニュアンスを表すことがあります。これは別にオランダ人がケチというわけではなく、17世紀にオランダと世界の覇権を争っていた英国人によるオランダ人へのライバル意識に由来するのだそうですが、実際のところオランダ人の財布のひもは一般的に固いと感じます。無駄な物には一銭たりとも使わないという人が多いのではないかと。しかし同時に、必要な物には惜しげもなく大枚をはたく。つまり不要なものに無駄使いをせず、必要なものにこそ出費をする合理性を感じます。また一度買った物は、どんなに古びた自転車であれ、食器類であれ、手入れをしながら本当に大切に使っています。

概して平素の生活は質素、倹約を是とするオランダ人が財布のひもを緩めるのは、住居(庭を含む)・家具・インテリアに対してです。つまり衣食住のうち住にかける比率が圧倒的に大きいようです。これは生活の基盤として家で過ごす自分の時間、家族との時間、およびその住環境に最大の重きを置く結果でしょう。これは素晴らしいと感じます。

また、オランダの住居には多くの場合、窓にカーテンがありません。もしくはカーテンがあってもオランダ人は使用しません。よって家の中が丸見え(特に夜は)となります。一見すると防犯上問題がありそうですが、これは「ただでさえ少ない日光をなるべく取り入れる」「誰に見られても恥ずかしくない暮らしをする」「そもそも国民性として他人に干渉せず自由に生活する」という哲学が背景にあるようです。

各家庭の趣味嗜好(しこう)により個性的に飾られ、カーテンのないまたは開け放った窓は、ある意味でオランダ人、オランダ社会の象徴かもしれません。開放的、外交的で開かれた自由な社会の中での個性の尊重、個人主義が大いに表れているのではないかと感じます。

そのような中が丸見えの家の軒先や窓辺、ベランダには、たいてい奇麗な満開の花が飾られ、日々取り換えられており、よく手入れされた住居に彩りと美しさを添えています。そこには「通りすがりの人でも花を観賞して人生を楽しんでほしい」というオランダ人の粋な心遣いもあると聞きます。


やっぱり花! やっぱりチューリップ!


国花チューリップ畑

「花の国」「世界の花屋」とも呼ばれるオランダは、国花であるチューリップを中心にさまざまな花を栽培・輸出しており、花卉(かき)産業は取扱量・生産量共に世界トップクラスです。

それだけでも花の国ですが、上述したように、花はオランダ人の日常生活に完全に密着しており、そして安価です。花は住居だけでなくあらゆる場面でさりげなく登場します。知り合いの自宅に招かれるとき持参するワインボトルに一輪添えて。友人に借りていた自転車を返すとき感謝の印としてまた一輪。人に何をあげてよいか迷うときに、とりあえず花束。誕生日や結婚記念日などの特別な日でなくとも、わが家の奥さまに頼まれたスーパーでの買い物ついでに小ぶりの花束。実に自然です!

切り花だけでなく球根の取り引きでもオランダは世界の中心です。球根を太らせるためには、農地にぎっしりと植え付け、開花すると間もなく花を切り取る作業が必要ですが、特にチューリップ開花直後の花畑の様子は、まさに「花のじゅうたん」。見渡す限りに続く色彩はまさに圧巻です。春先の気候によりその年の一斉開花の機会をつかむのはとても難しいですが、タイミングさえ合えば忘れられない景色を堪能できます。一般的にはキューケンホフ公園が有名ですが、わが家は、その公園周辺の球根栽培用のチューリップ畑を強くお勧めします。


おわりに


世界的に広がりを見せた新型コロナウイルス感染症はオランダにも長く深刻な影響を与えましたが、2022年年初には3回目のブースター接種も国民に広く行き渡り、政府の規制も撤廃され、ようやくコロナ前と変わらない通常の生活が戻ってきました。

しかしながらその矢先、2月24日にロシアがウクライナへの侵攻を開始しました。この新たな動きはもちろん欧州にとどまらず世界的な政治の潮流に大きな変化を生み出し、経済的にも多方面に影響をもたらしていることはご存じの通りです。特に資源価格の高騰に伴うインフレ率の上昇、その中でも原油と天然ガス価格の高騰は、オランダでも非常に深刻です。ロシアはオランダにとって最大の石油輸入先、第2位の天然ガス輸入先であることから、とりわけ燃料価格が高騰しており、インフレ率も3月単月では約12%へ上昇しました。

そのような状況下でもオランダではウクライナ難民支援への動きが活発で、オランダ政府も労働市場を開放して積極的に受け入れる姿勢を示し、なんとオランダ王室は城(宮殿)を難民センターとして提供することを決めています。このあたりもオランダの開放性と柔軟性を感じさせられる事例かと思います。

侵攻の収束はまだまだ見通せず、ウクライナからの報道を見聞きするにつけ、大変心を痛める日々ではありますが、私としても一日も早く平和的な解決がなされるよう祈念してやみません。

欧州情勢は予断を許しませんが、今後も多くの方がオランダを訪れ、その開かれた雰囲気や自然、文化に触れられることを願っています。

花咲き誇る開かれた国 オランダ 誌面のダウンロードはこちら