日本に最も近い中東都市、ドバイ

蝶理中東 社長
八木 龍也

筆者

アッサラームアライクム:こんにちは!

蝶理の中東地域における現地法人であります蝶理中東の八木龍也です。2019年4月より、アラブ首長国連邦(以下、UAE)のドバイにある蝶理中東に赴任して業務を行っています。あまり日本ではなじみのない中東の状況に関して、せんえつではありますが、私が駐在の中で感じたことをお伝えします。


2021年はUAE建国50周年の記念すべき年であり、また2022年は日本との国交樹立50周年となる年でもあります。

中東といえば石油!というイメージが強いと思いますが、まさにその通りで、日本が輸入している石油の約9割が中東諸国から入ってきており、その3分の1はUAEから入ってきています。

在留邦人数は4,358人(外務省発表、2020年10月時点)であり、世界的にみると少ないかもしれませんが、中東やアフリカ地域の統括本部として事務所を構える日系企業が非常に多い国です。UAE人口の約9割が外国人であるという側面も非常に興味深く、海外とは切っても切り離せない国であります。また、ドバイは大阪市と姉妹都市の関係にあり、大阪城のレプリカが建てられた公園があるなど、日本と深いつながりがあります。

駐在の経緯、日々の業務

私が中東関連の業務に携わり始めて約9年がたちました。過去に約2年半サウジアラビアに駐在したことがありますので、今回の駐在の話が出たときも驚くことはありませんでした。ただ、これまでは現地営業スタッフとして赴任していましたので、今回は現地法人社長という重責を担うことになり、最初は不安でいっぱいでしたが、誰もが経験できることではなく自分が成長できるチャンスだと思い、ドバイに来ることを決めました。2019年4月の赴任からあっという間に3年が過ぎようとしています。

中東に拠点を持つ日系企業は多くありますが、当社はその中でも長い歴史を持っています。現在はドバイに現地法人、サウジアラビアのジェダに事務所を構えていますが、過去にはクウェートにも拠点があり、40年以上中東向けの商売を行っています。現在は主に中東民族衣装向けの生地と製品を販売しています。現地の卸問屋が顧客の大半を占めており、ヒンドゥー教やイスラム教を背景とする方々と商売を行うには彼らの歴史も正確に把握する必要があるため、今でも勉強の毎日です。


サウジアラビア顧客店頭


ドバイ顧客店頭


経済状況


ドバイ万博

UAEは七つの首長国が連邦政府を構成しています。各首長国は独立色が強いため、UAE経済は国として統合されたものというよりは、連邦政府傘下にある首長国の経済活動の総計という特徴があります。

UAE憲法が連邦政府と各首長国の主権事項を規定しており、国防や通貨といった連邦レベルの事項と、刑法・民商法など各首長国で共通であるべき法律については連邦政府が制定しています。一方で治安、司法、財務などは連邦レベルとは別に首長国レベルのルールがあり、各首長国は独自の予算を編成しています。

日本ではUAEといえばドバイというイメージが強いかもしれませんが、ドバイはUAEを構成する七つの首長国の一つであり、UAEの首都機能はアブダビ首長国がその役割を担っています。2015年のGDP規模を見ると、アブダビ首長国がUAE全体の約65%、ドバイ首長国が約25%、北部5首長国合計が約10%となっています。また、アブダビとドバイの労働人口は、北部5首長国合計の約2倍に上ります。

アブダビ首長国のGDP構成比は、石油部門のシェアが約50%であり(2015年)、原油への依存が高い状態です。経済状況が原油価格に大きく左右されるため、原油部門のみに頼っていては持続的な経済発展は困難であるという観点から、非原油部門の産業発展に力を入れています。

ドバイ首長国については、原油部門のGDPに占める割合は約2%であり、他の産油国と比べて原油依存度が非常に低い状態です。ドバイ首長国は宗教の中立性と地理的優位性を活用し、中東とアフリカの物流・金融・観光のハブとして産業の多角化を進めています。海外からの投資を積極的に誘致しており、街中では多くの建設中のビルを見ることができます。また、2030年までにCO2排出量を30%削減する目標を掲げており、中東諸国内でも先進的な考えを持つ首長国です。

テロや紛争のニュースが多い中東諸国において、UAEは比較的安全とされている国です。そのため積極的な海外投資誘致を行い、2021年は1年延期になった万博も開催されました。人口も右肩上がりで増えているため、今後も成長が見込まれる国だと感じます。

社会状況

UAE連邦政府は創設以来、連邦体制強化を唱えていますが、各首長国は独立性を保つ傾向が強いといえます。ドバイ首長国は観光業を成長の柱の一つにしていることから宗教的にも寛容な土地ですが、隣のシャルジャ首長国はドバイよりも宗教に厳格な姿勢を取っています。そのため、購入できるもの(代表的なものはお酒や豚肉)が首長国ごとに違い、各首長国の姿勢を肌で感じることができます。

政治体制は、連邦国民評議会と呼ばれる議会があり、40人の議員のうち20人は選挙人により選出され、残り20人は各首長の勅選により任命されています。立法権は限定的といわれていますが、各首長国の独立性が強いことに加え、連邦政府や大統領(元首)、各首長の指示で国が動く特徴があります。2020年春先に新型コロナウイルスがまん延し始めた際、強い規制(都市ロックダウン)が瞬く間に敷かれ、外出するのに警察の許可が必要になったことがありました。また、これまでUAEの週末は金曜・土曜でしたが、2022年からは土曜・日曜に変わりました。こういった動きが非常に迅速であることがUAEの特徴だなと感じます。

生活状況


世界一高いビル:ブルジュ・ハリファ

ドバイの特徴といえば、やはり暑さと湿度です。夏には体感温度50℃を超える日が多く、湿度も高いため冷房の効いた建物から外に出るとサングラスが一瞬で曇ります。大体3月から10月ごろまで暑い日が続きますので、屋外で体を動かせる冬が貴重な季節となっています。

また、日本ではドバイの世界一高いビルやゴージャスなホテルがよく報道されており、とてもお金持ちな国というイメージが強いかもしれませんが、実はそういった部分はほんの一部であり、街中で見かける労働者の大半は出稼ぎの方たちですし、日本でいう下町のような光景が市内各所に広がっています。

ドバイの人口は約300万人程度ですが、ドバイ人(UAE人)はほんの10%程度であり、その他は全て外国人で構成されています(インド人を筆頭に南アジア人が多く、エジプト人、フィリピン人と続きます)。そのため、街中でドバイ人を見かけることは非常に少なく、本当にここはアラブなのか?と感じることがあります。

平均所得についても、ドバイ人の平均世帯年収は約2,600万円であり、非ドバイ人の約1,000万円と大きな差があります。さらに出稼ぎ労働者の年収はなんと約88万円であり、非常に大きな格差のある国というのが実情です。

そんなドバイですが、街中では日本車が非常に多く走っており、エレベーターだけでなくトイレや家電でも日本企業の製品をよく目にします。またお客さんも日本に対して良いイメージを持っており、日本製が一番だとよく言ってくれます。それだけ親日国家であると感じます。

ドバイでは日系企業が手掛けた地下鉄(メトロ)が走っており、移動手段があることにはありますが、目的地が駅から離れていることが多く、外を歩くのはとても暑いので、車なしでは生活できない環境だといえます。また、タクシーが比較的安いので、休日の移動は車かタクシーになっています。

私は2020年1月に一度家族を呼び寄せましたが、新型コロナウイルスの影響によるロックダウンの状況下でとても厳しい生活を強いられたので、家族は一時帰国しました。徐々に状況が落ち着き始めた2021年11月に再度呼び寄せ、ようやく家族一緒に生活をしています。地理的にエジプトや欧州など日本から遠くにある国が近いので、もう少し状況が落ち着き以前のように海外に行けるようになれば、ドバイから行きやすい国に家族で行ってみたいと思っています。

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