豊かな自然に囲まれた移民都市バンクーバー

CIPA Lumber Co. Ltd.
(伊藤忠商事株式会社より出向)
寺下 泰弘

はじめに


筆者(ウィスラー山頂にて)


私は米国・ニューヨークでの3年の駐在の後、2019年3月に家族と共にカナダ・バンクーバーに移駐しました。私自身はバンクーバーは2度目の駐在で、1度目はかなりさかのぼりますが、1994年から1996年まで実務研修生として駐在していました。その間約23年で変わったこと、変わっていないことさまざまありますが、せんえつながらバンクーバーの魅力や特徴を幾つかご紹介させていただきたいと思います。


穏やかな気候


10の州と三つの準州からなるカナダ連邦の中で、バンクーバーは最西部に位置するブリティッシュ・コロンビア州(BC州と短縮して呼ぶことが多いです。以下、BC州)の最大都市で、カナダ全体でもトロント、モントリオールに次ぐ第3の都市です。カナダの西の玄関口として、観光やビジネスで多くの人が訪れるバンクーバーは、樺太とほぼ同じ緯度に位置していることもあり、かなり寒い場所と思われがちですが、太平洋の暖流と周囲を山に囲まれた地形のおかげでカナダの中では最も温暖な気候といわれており、思ったほど寒くはなりません。10月を過ぎるあたりから雨が降る日が極端に増えて、晴れる日がとても少なく、さらに冬至が近づくと夕方早い時間には日が暮れてしまうところが難点ではあります。逆に4月ごろからは晴れる日が多くなり、気候は一変します。夏は日差しがとても強くなりますが、それでも30℃を超えることは少なく、湿度も低くカラっとしており、とても過ごしやすい日が続きます。緯度が高いこともあり、夏と冬で気候が極端に変わりますが、バンクーバーは日本と比べると酷暑がない分、1年を通じて過ごしやすい気候といえると思います。


世界有数の森林資源


私は入社以来、主に木材・建材関係の仕事に従事してきましたが、バンクーバーはその森林資源の宝庫です。意外かもしれませんが、カナダはロシアに次いで世界で2番目の広い国土を持ち、森林の総面積は世界の約10%を占めるといわれています。その中でもBC州の森林面積は断トツに広く、住宅の構造材などに使われる針葉樹においてはカナダ全体の約60%がBC州内に広がっているといわれています。先に述べた通り、比較的温暖な気候に加え、春から夏にかけては豊富な雪解け水と樹木の成長に適した日照時間に恵まれ、世界でも有数の亜寒帯針葉樹林帯が広がっています。カナダの森林の約9割はOld Growth(原生林)、1割がSecond Growth(二次林)といわれるいわゆる植林木です。カナダの森林は私有林であっても政府が伐採や植林を厳しく管理しています。環境保護の観点から原生林の伐採を年々厳しく制限しており、植林を中心とした持続可能な森林運営を目指しています。特に、西側沿岸部にバンクーバー島という島があるのですが、この島は九州と同じくらいの面積で、BC州の森林伐採量の多くを占めています。バンクーバー島は、BC州の州都でもあり観光地で有名なヴィクトリアやサーファーのメッカであるトフィーノのある北米西海岸最大の島です。バンクーバーからはフェリーで気軽に行けるのでバケーションには最適です。

豊富な森林資源は街中でも身近に触れることができます。バンクーバーには大きな公園が多数ありますが、中でも観光名所のスタンレーパークはダウンタウンから歩いて行けるところにあるにもかかわらず、そのほとんどが原生林に覆われ、巨大な針葉樹がそのまま残されています。

また、ダウンタウンから車で少し北に走るとサイプレス山等の山々が連なり、冬はスキー、夏は山歩きが楽しめます。初心者から上級者までトレイルコースが無数にあり、わが家ではコロナ禍にあってソーシャルディスタンスを保てる数少ないアクティビティーとして週末の楽しみの一つになりました。


バンクーバー島トフィーノ上空から見る針葉樹林


原生林を歩いて進むトレイルコース


国策としての移民制度


カナダは世界で2番目に広い国土ながら、人口は約3,789万人とお隣米国の約9分の1の人数しかいません。そのためカナダは世界でもトップクラスの人口密度の低さを誇ります。

カナダ政府は移民の受け入れを積極的に推進しており、現在のカナダの人口の約21%は移民といわれています。私が最初に駐在していた90年代にはすでに移民の受け入れが活発に行われており、1997年に香港が中国に返還される前には多くの香港人がカナダに移住したと記憶しています。BC州では、今でも中国系の移民が多く、次いでインドやフィリピンといったアジア系が圧倒的に多くなっています。街中には中華街というか、もはやここは中国?と思わせるエリアがたくさんあります。私が住んでいるメトロタウンという街も比較的中国系の移民が多く、あるショッピングモールでは看板は漢字であふれ、言葉は中国語が飛び交っており、私も中国語で話し掛けられることが頻繁にあります。日本人にとっては漢字の看板を見たり、中華料理のいい匂いを嗅ぐと、何となく落ち着くというか親近感を感じてしまいます。

カナダは英語とフランス語が公用語となっており、公共機関の標識や商品パッケージの表示は全て英語とフランス語が併記されています。学校教育においても英語とフランス語、いずれかの言語を母国語として教育を受けることができるようになっています。バンクーバーは圧倒的に英語が中心ではありますが、移民の多い都市故に、本当にいろいろな言語を耳にします。息子の小学校のクラスメートは、中国、インドはもちろんのこと、イラン、韓国、ベトナムなどさまざまな国や地域から集まっており、とても国際性豊かです。

充実した医療体制


出産直後に医療チームの皆さんと

私事で恐縮ですが、9月に妻が2人目の子供をバンクーバーで出産しました。海外での出産は初めての経験なので、日本での里帰り出産も検討しましたが、五輪の開催を控えた東京に一時帰国するのはコロナ感染のリスクがあると考え、バンクーバーで出産することにしました。こちらでもコロナが依然として収まらない中、一抹の不安はありましたが、幸いなことにとある日本人助産師さんに巡り合え、おかげで妻はとてもスムーズに何不自由なく無事に長女を産むことができました。こちらの出産はとても自由というか、あらゆることに選択肢を与えてくれるという印象です。例えば「赤ちゃんが出てくるところを鏡で見ますか?」とか「お父さん、へその緒を切りたいですか?」といった具合です。せっかくなのでハサミでちょきんと切ってみましたが、思ったよりも固かったです。

おおむね、バンクーバーの医療はとても充実していると思います。BC州の医療保険はカナダ人、永住権保持者だけでなく、われわれのような就労ビザ保有者であっても加入でき、歯科や特殊な医療を除き基本的な医療費用は一切かかりません。また、移民の多いお国柄か、看護師による相談受付ホットライン(811番)はあらゆる言語に対応可能で、診察も通訳の方が付いてくれるので安心です。

唯一の難点は、北米では一般的ですが、ファミリードクター制度なので、直接専門医にコンタクトすることができず、緊急時以外は一度ファミリードクターに受診してから専門医を紹介してもらう必要があるところで、少し面倒です。また、日本のように予防医療という考え方が普及しておらず、何か明らかな疾患がないと検査を受けられません。日本式の健康診断や人間ドックを受ける場合には日本に一時帰国するか、米国の大都市に行って受診するしかありません。


季節のイベント


カナダデーのイベントにて

バンクーバーはカナダらしいイベントが盛りだくさんです。特に初夏から秋にかけて、大人も子供も楽しめるさまざまなイベントが至る所で開催されます。7月1日はカナダデーといって、カナダの建国記念日です。カナダ人にとって最大のイベントかもしれません。もちろん祝日になりますが、この日はナショナルカラーである赤と白の服を着てイベントに参加します。

夏になるとストロベリー、ラズベリー、ブルーベリーといったベリーピッキングのシーズンです。バケツを持参して自分で好きなだけ摘んだベリーを量り売りしてくれます。スーパーで売っているものと同じ果物?と思うほど、摘みたてのベリーは新鮮でおいしいです。

秋になるとサンクスギビング(感謝祭)の季節です。カナダのサンクスギビングは米国よりも1ヵ月以上早く、10月の第2月曜日が祝日となります。サンクスギビングが近づくと街にはあちらこちらでオレンジ色の巨大なパンプキンが見られます。わが家では毎年近くの農家やスーパーマーケットで形の良いパンプキンを買ってきては、中身をくりぬき、好きな顔に削って、ジャックオーランタンを作るのが恒例になっています。くりぬいた中身はケーキやパイにして食べます。

子供たちにとって最大のイベントはやはりハロウィーンですよね。みんな思い思いのコスチュームを着て、「トリックオアトリート」と叫びながら家々を回り、もらったお菓子をバケツに放り込みます。大人たちもとても協力的で、事前にお菓子を用意して訪ねてくる子供たちに渡してくれます。


新鮮なブルーベリー


パンプキン畑にて


おわりに


ご紹介しきれないほどまだまだたくさんの魅力が満載のバンクーバーですが、2021年は異常気象が相次ぎ、6月末の熱波による猛暑、11月には豪雨による洪水・土砂崩れ被害と少し気になる災害が相次ぎました。やはり地球温暖化による影響を感じずにはいられません。このバンクーバーの豊かな自然を子供たちの世代、さらにその先の世代に受け継いでいくためにも、一人一人が環境への意識を高める必要があるのではないかと感じる次第です。

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