14日間の厳格な隔離生活とナショナル・デーと私

興和株式会社 亜州総支配人
Kowa Holdings Asia Pte. Ltd. Managing Director
Kowa Asia Pacific Pte. Ltd. Managing Director
谷崎 勇樹

はじめに


シンガポールへは旅行や出張で訪れた方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。

シンガポールの正式名称はシンガポール共和国で、東京23区よりひと回り大きな広さとなる面積約720㎢に、約570万人が住む都市国家です。約30年前は東京23区とほぼ同じ広さでしたが、その後のシンガポールの急速な経済発展により、沿岸部の埋め立てが進み、国土面積が約100㎢も拡大しました。また、中華系、マレー系、インド系などの多民族国家であり、文化も食事も多種多様で、日常生活でもいろいろな楽しみを見つけられる国だと思います。

当社は、1961年にシンガポール駐在員事務所を設立し、綿布や合化繊布のシンガポールへの輸入を中心とした業務を開始しました。繊維、建築資材、化学品、光学製品、機械、薬品などの貿易を行い、1970年に現地法人となりました。現在は、2015年の国連サミットで採択され、2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標である「SDGs」の達成に寄与することを意識し、「健康と環境」をテーマに事業活動を行っています。


筆者(写真右)


2019年12月に開催したCompany Lunch


新型コロナウイルス感染症と14日間の隔離生活

世界的に広がりを見せた新型コロナウイルス感染症は、収束するかと思わせながら、度重なる変異株の出現により、感染者数の拡大という波になって各国に脅威を与え続けています。

私は2020年11月にビジネストラック制度を利用し、日本へ一時帰国したところ、日本の感染者数急増の影響を受けて、シンガポール政府が日本からの入国者に対する規制の厳格化を実施しました。そのため、シンガポールへの再入国時に14日間の政府指定施設での隔離生活を余儀なくされてしまいました。シンガポールのチャンギ空港に到着してから、入国時にスマートフォンにインストールを求められる政府指定のアプリ上で、自分の健康状態の申告を行った上で、MOH(日本の厚生労働省に当たる公的機関)担当者から個別にヒアリングを受けました。その後、行き先を告げられることなくイミグレーションを通過し、バゲージ・クレームのベルトコンベア前に通されたのは、空港到着から約2時間半たったあとでした。さらに45分ほどその場で待機することになり、他社の日本人駐在員の方と私の2人がマイクロバスに乗せられ、ようやく到着したのはオーチャードエリアの北に位置する古いホテルでした。

ホテルの部屋のカードキーは無効化されており、カードキーを持って部屋の外に出てしまうと部屋には戻れない仕組みになっていました。その後14日間、窓の開かない、狭いワンルームの部屋で一歩たりとも部屋の外に出ることを許されない環境に置かれてしまったのです。ホテルの部屋では、指定のアプリを使って毎日、朝・昼・晩の3回、自撮りをした写真をアップし、MOHからの電話連絡を受け、一人孤独に過ごしたのは、今や貴重な思い出となりました。

政府のコロナ対策

シンガポール政府のコロナ対応は非常に迅速で、独自のアプリやメッセージアプリ「WhatsApp」を活用し、発表から施行までがとても速いスケジュールで行われています。思い起こせば2020年1月にシンガポールで初の感染者確認が報じられ、4月には1日当たりの感染者数が1,000人を超える事態となりました。シンガポール政府は当初、健康な人へのマスク着用を推奨しておらず、街でマスクをしているのは日本人くらいであったことを記憶しています。ところが、政府は4月中旬にはマスク着用を義務付け、違反者には罰金を科すという急な方針転換を行いました。それでも、シンガポール国民は最新の情報に耳を傾け、その時に一番良いと思われる方向へ向かった良い事例ではないでしょうか。その後も国民の集団行動や店内飲食の人数制限、店内飲食禁止など、コロナの感染状況に応じた施策変更を何度も行っていますが、今のところ大きな混乱は発生していません。

ワクチン接種は高齢者から始まり、就労ビザを持つ外国人にまで計画より速いペースで進んでおり、私も5月末には2回目の接種を完了することができました。また、当初から毎日の新規感染者数、入院者数、死者数、回復者数などを「WhatsApp」やシンガポール政府のウェブサイトで発表し、情報開示が非常に進んでいました。政策への違反者には罰金はもちろんですが、外国人には就労ビザの取り消しに及ぶこともありました。私たち駐在員にとっては脅威でしたが、ある意味とても分かりやすく順守しやすかったともいえます。シンガポールは比較的国土が小さく、人口が少ない上に、与党の力が圧倒的に強い国です。そのような背景が一つの要因だと思いますが、リー・シェンロン首相がたびたび自信を持ってコロナの現状や対策を演説し、国民に直接訴える発信力と統制力などを発揮するリーダーシップを目にしますと、私としても見習う点が非常に多いと感じています。

東京オリンピック・パラリンピックとシンガポール建国記念日

東京オリンピック2020が約1年遅れの2021年7月23日に開会し、8月8日に閉会式を迎えたことは記憶に新しいところだと思います。シンガポールからは23人のアスリートがエントリーされていました。知人のシンガポール人にオリンピックで関心のあった試合を聞いてみたところ、卓球女子シングルスで銅メダルをかけてYu Mengyu選手が日本の伊藤美誠選手と戦った3位決定戦では盛り上がりをみせていたそうです。また、シンガポールオリンピック評議会が、今大会の個人金メダリストに対して100万シンガポールドル(約8,000万円)の報奨金を規定していたことには驚かされました。

さて、東京オリンピック閉会式の翌日8月9日は、シンガポールの56回目となる建国記念日、ナショナル・デーでした。建国が1965年で私の誕生年と同じこともあり、恐縮ながら勝手に親しみを感じています。当日は、朝からマリーナベイサイドに設けられた会場でヤコブ大統領とリー・シェンロン首相が出席する祝賀式典が行われました。新型コロナウイルス対策のために、ナショナル・デー・パレードは8月21日に延期となりましたが、シンガポール空軍のヘリコプターが大きな国旗を運びながら飛行したり、6機の空軍戦闘機が上空を高速で通過していく姿は圧巻でした。コロナのために集団行動人数が制限され、またレストランなど飲食店での店内飲食も禁止されており、街中は例年に比べ寂しいものとなっていましたが、夜はマリーナベイ沿いの遊歩道でセーフディスタンスを取るのが難しいくらいのたくさんの人が涼みながら、高層ビルを背景に記念撮影をしていました。

シンガポール人が多く住む公営住宅には、多数のシンガポール国旗が掲げられ、愛国心の強さを感じ取ることができました。ちなみに、シンガポール国旗は1965年に制定され、三日月は優勢な新興国家、五つの星は民主主義、平和、発展、正義、平等を表しています。


ナショナル・デー・パレードで隊列飛行する空軍戦闘機


公営住宅のバルコニーに掲げられた国旗


シンガポールの車事情


駐車場にも高級車が立ち並ぶ

シンガポールで車を購入しようとすると驚くほど高くなります。まず、COE(Certificate of Entitlement)と呼ばれる車両購入権を公開入札で購入します。政府が配給数を絞っている上に、コロナ禍で海外旅行にも行けないシンガポール人のお金が車に回っているためか、COEの価格は上昇傾向にあり、8月18日で6万シンガポールドル(約500万円)にもなっています。さらに追加登録料で車両価格の100%、輸入税20%、商品サービス税7%が加算され、ホップ・ステップ・ジャンプで跳ね上がるわけです。にもかかわらず、超高級車が当たり前のように走っているのは、まさに「クレイジー・リッチ!」(2018年公開のシンガポールを舞台にしたハリウッド映画。全米で大ヒット)の世界です。

また、シンガポール政府は環境への取り組みから、2030年までに6万台のEV充電設備を設置する目標を発表しています。過去にも、いち早くタクシーにハイブリッド車を採用した経緯もあり、あと10年後のEV化がどれくらい進んでいるのか非常に楽しみです。


最後に


ナショナル・デー・パレード フィナーレの花火

先述しましたナショナル・デー・パレードでは、毎年テーマとテーマソングが発表されます。今年のテーマは“Together, Our Singapore Spirit”で、テーマソング “The Road Ahead”は街中でもよく耳にするようになりました。4人のシンガーの澄んだ歌声とメロディーに乗った歌詞は心に染みるものがあります。ナショナル・デー公式ウェブサイト(NDP2021)に公式ミュージックビデオが掲載されていますので、ぜひ一度視聴してみてください。

※ The Road Ahead:
https://www.ndp.gov.sg/about/theme-song/

世界中がコロナで不確かな時を過ごしてきましたが、各国でのワクチン接種も進んでおり、新たな時が来ているのを感じられるようになってきています。世界の往来規制が緩和され、当地で数多くの皆さまにお会いできるのを楽しみにしています。

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