ブラジル:何でもそろう、文化のパッチワーク

豊田通商ブラジル(Toyota Tsusho-Brazil)
アニー・チュエ(Anny Chueh)

(本稿は英語でのご寄稿を事務局で翻訳したものです)

ブラジルの国土は日本の22.5倍


南米最大の国ブラジルは、面積が約850万㎢で、日本の22.5倍の大きさがあります。南北の距離が4,400㎞と世界で最も縦長の国でもあり、赤道と南回帰線に挟まれているため、気候、生態系、地形、文化が実に多様です。東西にも幅広いブラジルでは時間帯も四つに分かれています。これほどの大きさがありながら、人口は約2億1,100万人(2019年データ)と、日本の人口の1.7倍ほどです。首都は国の中央部に位置するブラジリアですが、人口が最も多い国内最大の都市は、南東部に位置するサンパウロです。

ブラジルには歴史的にさまざまな先住民族が暮らしていましたが、1500年にポルトガルの植民地となり、それから約300年後の1822年にポルトガルから独立しました。大陸国家ではありますが、私たちはみな同じ言語、ポルトガル語を話します。ポルトガル語は、この国を開拓してきた人たちから受け継いだ最大の特徴でもあります。

日本国外で最大の日系人社会があるブラジル

ブラジルにやってきた移民はポルトガル人だけではありません。イタリア人、スペイン人、ドイツ人、ポーランド人、レバノン人(ブラジルのレバノン系移民の数はレバノン国内のレバノン人よりも多いのです)、シリア人、ウクライナ人、ユダヤ人、そして実は日本人も、ブラジルに移民としてやってきているのです。

ブラジルには日本国外で最大の日系人社会があります。日本からブラジルへの移住は1908年、サンパウロ州とパラナ州のコーヒー農園で働く労働力を求めていたブラジルと、人口の増加が社会問題化し、対策の必要に迫られていた日本の意向とが合致したことにより始まりました。その結果、今では約150万人の日系人がブラジルに住んでいます。

ブラジルでは、アジア人を見ると中国人ではなく、まず日本人を想像します。そんな欧米の国は、恐らくブラジルだけでしょう。

さまざまな文化のパッチワーク

このような地理的・歴史的背景から、ブラジルは世界でも有数の多文化・多民族国家といわれています。この「パッチワーク」こそが、ブラジル文化の特徴といえます。

例えば欧州の影響は食事や音楽、文学に見られ、先住民の影響は食習慣やトゥピ・グアラニー語に由来する言葉に見られます。そして、アフリカの影響は宗教や料理にも見られます。

日本で感じたおもてなし、正確さ、清潔さ、そして安全さ

2015年から豊田通商で働いている私は、駐在員として日本で1年半過ごす機会がありました。日本では多くのことを学び、そのおかげで異文化に好奇心を持ち、異文化を受け入れる姿勢を持つことができました。

日本で最も印象的だったのは、おもてなしの心、正確、清潔、そして安全です。日本はいつ、どんな場面においても卓越さと完璧さを追求しているように感じました。

「おもてなし」とは、その人にとって必要なものを(必要であることすら気付いていないものまで)先回りして提供する、最高の顧客サービスのように思います。日本では遅刻は許されませんが、電車や地下鉄が時間通りにくるため、遅刻もせず計画的に行動することができます。街中でごみ箱を見掛けることはありませんが、それでも道は美しく保たれています。そして日本の治安の良さのおかげで、強盗に遭う心配もなく、いつでも安心して街を歩くことができます。

日本人駐在員が感じたブラジルの最も印象的な点

逆に日本人の目にブラジルはどう映っているのか、私は出張や駐在でブラジルを訪れたことがある日本人の同僚に、ブラジルで最も印象深かったことを聞いてみました。そのうちの上位の回答をご紹介します。

1.料理

彼らが口をそろえて言ったのは、ブラジルで最も思い出に残っているのはブラジル料理、ということでした。

最も人気があったのは「フェイジョアーダ」です。黒豆(フェイジョン)と豚・牛のいろいろな部位を煮込んだ濃厚なシチューで、ライス、ファロファ(キャッサバ粉)、キャベツのソテー、ポークチョップ、揚げたバナナ、オレンジのスライスが添えられるのが一般的です。サンパウロでは、水曜日と土曜日にフェイジョアーダを食べる習慣があります(そしてその後はゆっくりお昼寝です)。塩味の黒豆料理と聞いて、ちょっとびっくりしましたか? ブラジル人も初めて甘い小豆を口にする時は同じように感じます。ぜひ一度試してみてください。決して後悔はさせません!

もう一つの人気料理は、長い串に刺した肉を炭火で焼く「シュラスコ」です。シュラスコを出すステーキハウス(「シュラスカリア」といいます)では、ウェイターが串刺しの肉を客の目の前で切り分けてくれます。シュラスコは家庭でも楽しみます。多くの家には「シュラスケイラ」という専用のグリルがあり、シュラスコを食べる時は家族や友人が大勢集まってテーブルを囲みます。

他にも印象に残った料理として同僚が挙げたのは、「モケカ」(魚とタマネギ、ピーマンなどの野菜を煮込んだ料理。ライスと一緒に食べます)、「パステル」(屋台で売られているブラジル風の大きな揚げギョーザ)、「コシーニャ」(ほぐした鶏肉を衣で包み、油で揚げたブラジル風コロッケ。スナックとして食べます)、「ピッカーニャ・ナ・シャッパ」(牛のイチボの鉄板焼き。バーで出されます)、「カイピリーニャ」(サトウキビの絞り汁を発酵させた蒸留酒、砂糖、細かく切ったフルーツを混ぜ合わせたカクテルで、シュラスコやフェイジョアーダとの相性も抜群)でした。

同僚たちの食体験をもう少し掘り下げてみると、良い思い出は料理そのものだけでなく、その料理を食べている時にも関係していることが分かりました。それが次の項目へとつながります。


自家製のシュラスコ


相性抜群のフェイジョアーダとカイピリーニャ


2.社交性


ブラジル人の多くはとても社交的・フレンドリーで、パーティーやお祝いの機会を大切にします。ランチやディナー、コーヒータイムは、おしゃべりをしたり、友達をつくったり、笑い合ったりするための時間です。金曜夜の同僚との飲み会は、気軽に会話を楽しむ場であって、仕事上の付き合いとは違います。同僚が友人になることもあれば、友人の友人とすぐに意気投合することもあります。おいしい料理やお酒と相まって素晴らしい思い出になったと、同僚たちは特に話していました。

ブラジル人の社交性については、ブラジル最大のパーティー、リオのカーニバルも話題に上りました。4日間にわたるカーニバルではパレードやパーティーがあり、期間中は休日になります。最近ではカーニバルシーズンが1ヵ月にも及び、カーニバルの前後でさまざまなイベントが国内各地で開かれます。


とても社交的で友人とのつながりを大切にするブラジル人


ストリート・カーニバル


3.多様性


ブラジルは、所得階層、性的指向、民族、文化、宗教など、多様性にあふれた国です。こうした多様性は他の国、特に日本とは比べものにならないとのことです。ブラジルでは多様性の考え方が身の回りのあらゆることに根付いています。そのおかげで、尊重すること、寛容になることを自然と学びます。

多様性は人を賢くします。異なる背景を持つ人たちが周りにいると、より勤勉に、より創造的に、より共感的になります。何か決め事をするときでも、相手の話をよく聞き、自分の意見もしっかり説明できなくてはいけないからです。

4.気持ちのゆとりを大切にする

日本人の同僚は、概してブラジル人は楽観的で、人生を楽しみたい、楽しく過ごしたいという気持ちや願望が日本人よりずっと強いと感じたそうです。成果や競争よりも、生活の質や家族を大事にする。どちらが良い悪いという問題ではありませんが、ブラジルの文化では、余暇やつかの間の楽しみの方に価値を感じているようです。

5.サンパウロ

ブラジル最大の都市サンパウロは、国内で最も人口の多い都市で、ブラジル経済の12%を担っています。欧州、アジア、アフリカ、そしてブラジルの他の州の影響が色濃く感じられる、多文化都市です。

同僚たちは、おいしいレストランやバー、ショッピングセンター、美術館、文化施設、緑豊かな公園など、世界の大都市にも引けを取らない充実ぶりに感心していました。例えば世界のいろいろな料理を思い浮かべてみてください。サンパウロならきっと全てを食べることができます。

市内から車で数時間も走ればビーチや山があり、田舎に行けばゆっくり過ごせるホテルがあります。サンパウロは海外駐在員にとって、とても暮らしやすい都市なのです。

さらに日本からの駐在員には耳寄りな情報があります。サンパウロには「リベルダーデ」(「自由」の意)と呼ばれる日本人街があり、そこでは伝統的な和食も食べられます。これでホームシックの心配もありません。

つまり、サンパウロには全てがそろっているのです!

ここでご紹介したのは、ブラジルで体験できることのほんの一部です。ぜひブラジルにいらして、ご自身で体験、体感してみてください。もちろん、ブラジルにも他の国と同じように欠点もたくさんあります。でもブラジル人の幸せそうな姿にきっと皆さんも心動かされるはずです。

次ページ:Brazil: a patchwork of cultures that has it all!(原文)

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