「団結」の国、ベトナム

MARUBENI ASIAN POWER VIETNAM CO., LTD.
中野 彰

シンチャオ!(こんにちは!)

自己紹介

2017年3月にベトナムに赴任して、約4年間にわたり電力事業に携わっています。私が最初に赴任したのはベトナム北部のタイビン省(首都ハノイから車で約2時間半)という農村地帯でした。当社が建設を請け負った火力発電所の建設現場が私の職場で、ベトナム人に加え、フィリピン人、米国人、インド人など多国籍のエンジニアたちと共に建設現場近くの宿舎で共同生活をしていました。2019年1月から首都ハノイにて、2020年4月からは南部の中心都市・ホーチミンにて新規電力事業の発掘・開発業務を行っています。4年前にベトナムへの赴任辞令を受けた際、まさかこんなに長く、そして3都市にわたって駐在生活を送れるとは想像もしていませんでした。ベトナムでは経済成長に伴い電力需要も伸長しており、多数の新規発電所の建設計画があります。ベトナムの電力需要に応え、ひいてはベトナムの経済成長に少しでも貢献するべく奮闘する日々を過ごしています。


ベトナム基礎情報


簡単にベトナムという国について紹介させていただきます。

正式名称は「ベトナム社会主義共和国」といいます。19世紀以降、フランスの植民地化や日本軍の侵攻を受け、最終的にはベトナム戦争終結後の1976年に現在の国家が誕生しました。政治体制はベトナム共産党による一党独裁制となっています。私がこの文章を執筆している2021年1月末に5年に1度のベトナム共産党大会が開催され、これから5年間の共産党指導者が決定されました。基本的には共産党大会で決定された主要人事がそのまま国家の主要ポスト人事(首相、国家元首、国会議長等)となり、5年間の任期中に大きな変更はありません。「一党独裁」という言葉を聞くと、どこかネガティブな印象をお持ちになるかもしれませんが、共産党による長期的な政権運営が行われており、政治的には非常に安定しているといえます(これを書いている時期に近隣国であるミャンマーでクーデターが発生し、改めてベトナムが政治的に安定していることを痛感しています)。


ベトナム中南部のビーチリゾート・ニャチャン

ベトナムは南北に細長い国土を持っているのも大きな特徴です。東南アジア=常夏というイメージがあるかもしれませんが、北部にある首都ハノイには四季があります。冬になると気温が10度前後になる日もあり、日本からの出張者が慌てて上着をハノイのデパートで買う、ということもまれにあります。一方南部は一年を通して暖かく、雨期・乾期のみがあるいわゆる「東南アジア的」気候といえます。また、南北に長い海岸線を有しており、中部や中南部の海岸線にはダナンやニャチャンといった外国人にも人気のビーチリゾートがあります。ビーチリゾートに比べて知名度は高くありませんが、「ベトナムの軽井沢」とも呼ばれるダラットという高原都市もあり、バラエティーに富んだ観光資源に恵まれているといえます。


南北格差?


さて、国土が南北に長く、国内の二大都市である首都・ハノイとホーチミンが北部と南部に分かれて位置しているという点は、それぞれの違いがあって面白い点であると同時にわれわれ外国企業にとって非常に難しい点でもあります。

二大都市の特徴としては、ハノイが共産党の関係機関や政府・中央省庁などが集まる政治都市であるのに対して、ホーチミンは外資企業が多く進出する商業都市といえますが、外国企業がベトナム進出を考える際にはまず「ハノイ?ホーチミン?」という点を考えるのではないでしょうか。この点に対する答えはなく、各業種のビジネス実態に応じて判断する必要があります。ハノイにもホーチミンにも拠点を置く日系企業の駐在員の中には両事務所の役職を兼任し、ハノイとホーチミンの二重生活を行っている方も多くいらっしゃいます。

この「ハノイとホーチミン、どちらが良いか?」というテーマは日本人駐在員の中でも、常に議論に上がります。私は幸運にも両都市で暮らした経験がありますが、生活面からいうとホーチミンに軍配が上がると思います。ホーチミンにはここ数年間で日本の大手デパートやコンビニエンスストア、外食チェーンなどが進出しており、ハノイに比べて日本食や日本製品が手に入る環境にあります。また、ハノイは冬の時期になると数週間も青空が見えないということがざらにあり、最近では大気汚染も深刻な状況となっていることから、住環境としてもホーチミンの方が恵まれているように感じます。実際、冬にホーチミン出張に行くと、ホーチミンの青空に癒やされるというハノイ駐在員は少なくないでしょう(私もハノイ駐在時代はその一人でした)。


ホーチミン市内の中心・グエンフエ通りのホー・チ・ミン像

一方で、ハノイには東南アジアには珍しく四季があることや、ホーチミンと比較して街全体が静かで歴史的な建造物も多く残っていることなどから、ハノイ派も一定数存在しています。実際に観光客には、風情もあり見どころも多いハノイの方がホーチミンよりも人気のようです。

これは答えのない永遠のテーマ、ぜひ皆さんも実際に訪れてご自身の答えを見つけてみてください。


コロナ禍にみるベトナムの国民性

さて、2020年はまさに新型コロナウイルス感染症に世界が翻弄(ほんろう)された1年でした。ここベトナムでも新型コロナウイルスの影響はあったものの、感染対策において最も成功している国の一つといわれており、2021年2月前半の時点で累計感染者数は約2,000人に抑えられています。いち早く経済を正常化させたことで、世界各国の経済成長率がマイナスとなった2020年もベトナムは数少ないプラス成長(+2.9%)を達成しています。

ベトナムが新型コロナウイルスの早期封じ込めに成功した理由としては、まずは政府の迅速な対応が挙げられます。市中感染が報告され始めた2020年3月に感染者の行動履歴の追跡、接触者の特定を徹底的に行いました。その後3月末から1ヵ月間ロックダウンを行い、レストランやカフェも営業を停止(デリバリーのみ許可)し、市中感染の封じ込めに成功しました。また、海外からの渡航者に対しては到着後すぐに政府指定ホテルで14日間の隔離を行うことで、2020年5月からは通常通りの生活に戻ることができました。その後も市中感染が確認される都度、同様の措置(ロックダウンはエリアを限定)を取ることで、大規模な感染を抑えてきました。

新型コロナウイルスに対する政府の対応は国民からも大きな支持を得ているようです。しかし、これは単に政府の対応が優れていただけではなく、それに忠実に従い、実行した国民全体の対応が素晴らしかったと私は感じています。そしてそこに、「団結」を重視するこのベトナムの国民性が表れていたと考えています。2020年のロックダウン期間中、ベトナム人から頻繁に「これはコロナとの闘いだ。一致団結してコロナに打ち勝とう!」という言葉を聞きました。全国民が一丸となりコロナとの闘いに臨むという姿勢が表れているように感じます。ベトナム中で常に最新情報がシェアされ、時には新規感染者の個人情報(フルネーム、住所、職業、顔写真)も出回るほどの徹底ぶりです(日本ではプライバシー保護の観点から想像できませんが、これがベトナムの実態なのです)。

2018年にサッカーのU-23アジア大会で準優勝した際には、街中の人たちがテレビにくぎ付けになり、多くの会社で試合中は業務を停止していたと聞いています。

その「団結」を重視するベトナムでは、会社が負担する社員旅行や年末年始の忘年会なども一般的です。社員にとって社員旅行は一年で最大のイベントになっており、事前に時間をかけて全員で盛り上がるような出し物やチームビルディングのためのゲームを用意(時には練習を)して、社内の一体感を出すように努めます。おそろいの衣装を買いそろえることもしばしばあり、夏になると空港や観光地ではおそろいコーデの団体が楽しそうに行動しています。


コロナフリーのベトナムではクリスマスや年末もお祭りムード!


社員旅行はおそろいコーデで記念撮影!(筆者:前列左端)


このように新型コロナウイルス対策に成功しているベトナムですが、残念ながら海外からの渡航者には14日間の隔離を必ず求めています。そのため、多くの駐在員が1年以上一時帰国できない状態が続いています。この政策によって国外からの感染を封じ込めている状況から、政府は当分この方針を緩和しないことが予想されています。私も例年であれば日本への一時帰国や海外旅行をする、クリスマス・年末年始休暇や旧正月休暇(ベトナムでは旧正月休暇の方が一般的)をベトナム国内で過ごしている状況です。日本に一時帰国できるめどが立たないことはつらいですが、この状況をポジティブに捉え、これを機にベトナム国内の隠れた観光地発掘を行うべく、旅行プランを考えているところです。


社員旅行の様子


コロナ禍でも仲間とベトナム国内旅行をEnjoy !


ベトナムの成長と共に


新型コロナウイルスの封じ込めに成功したベトナムでは2021年以降も安定した経済成長が見込まれています。人口も比較的若いベトナムにはまだまだ成長余力があり、ベトナム国民がまさに一致団結して、成長に向かっている最中にあります。また、ベトナムは中国に国境を接しており、地政学的な点からも非常に重要な地点に位置しているといえます。

私自身もベトナム国民と力を合わせ、自分自身も成長しながら、この国の発展に少しでも貢献できればと思います。現在は新型コロナウイルスの影響で海外旅行は難しい状況ではありますが、一刻も早く状況が改善され、これを読んでくださっている皆さまがベトナムを訪れる日がくることを祈念しています。

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