世界に先駆けコロナから脱却した国際都市、上海の今

JFE商事株式会社
中国事業本部(上海駐在) 部長
山本 光二

はじめに 私と中国、業務経験


中国悠久の歴史を伝える上海博物館と著者近影

大学4年(1998年)の時、人生初のパスポートを取得して選んだ旅先は中国でした。

友人と神戸から2日かけて上海に到着するフェリー「新鑑真」で上海入りし、バックパックで中国を1ヵ月回る旅をしました。中国を選んだ理由は、第二外国語で選択した中国語の力を試してみたかったことに加え、居酒屋バイトで仲良くなった中国人の友人や三国志好きが影響していたからだと思います。

初の海外で異なる歴史や文化に触れ、物価の違いで金持ちになったような錯覚に陥り(当時は1,000円で大金を手にしたと感じるほど中国の物価は安かった)、身ぶり手ぶりのサバイバル外国語で相手と交流し、私は海外に魅せられました。その後10ヵ国ほど旅をした私が選んだ就職先は、商社でした。


当社では主に中国業務を担当する社員のことを通称「マル中」と呼びます。私がマル中の仲間入りをしたのは、会社の研修派遣で2006-2008年に清華大学法学院へ留学しつつ、北京の弁護士事務所にて勤務した時からでした。当時私が所属していた法務部からは米国留学が主流でしたが、これからは中国だという上司の強い勧めもあり、(本当は米国留学したかったのですが)中国を留学先に選びました。

帰国後はグループ事業統括部で関係会社の業務支援を担当。2015年より上海駐在となり、2020年10月で5年が経ちました。現在は中国事業本部に所属し、中国拠点の業務支援、地域戦略策定や新規ビジネス開拓に日々奔走する駐在員生活を過ごしています。

今回は私自身が見聞きしたことや体験を中心に上海の最新事情を紹介します。


中国のキャッシュレス事情


焼き芋屋も電子決済

現在、中国人および滞在している外国人の大半は財布を持ちません。中国では電子決済が主流となっており、QRコードをスマホでスキャンすれば一瞬で代金支払いが完了します。「支付宝(Alipay)」と「微信(WeChat)」がその代表格です。

日本はまだ現金決済が主流ですが、今の中国では現金は嫌われます。電子決済は中国の銀行口座とのひも付けが必要なため、新規赴任者たちは支付宝や微信を使えません。そのため現金での支払いを余儀なくされますが、店員からは久々に珍しいものを見たようなリアクションが返ってきます。「現金を出すのが恥ずかしい」「店に悪いことをした気になる」というのは新規赴任者たちの共通の声です。私も食事、買い物、タクシー、地下鉄など全て電子決済で、友人間での飲み会の割り勘も支付宝や微信を飛ばし合います。小銭を数えなくて済み、汚れた100元札(最高額面が100元札=約1,550円)によって膨らんだ財布がなくなり、何より偽札をつかまされなくなりました。いつの間にか大量につかまされた偽札を銀行で没収され、ショックで食事が喉を通らなかった同僚がいたのは3年前のことです。

この3年間で生活が大きく変わったのを実感しています。コロナ流行後は感染予防の観点も加わり電子決済はさらに普及しました。路上の果物売りや物乞いさえもQRコードを設けており、電子決済は完全に中国市民の生活に定着しています。

日本でも電子決済化が進められていますが、中国と比べるとその遅れは明白です。いまだに財布を開いて小銭を数える日本を見て、「完全に中国に負けている」と思うのは中国駐在員共通の感想ではないでしょうか。


自転車大国、中国


自転車ごみの山

現在、シェア自転車が中国人の足となっています。「30分1元(約15.5円)」という手頃な価格と、どこでも乗り捨てできる手軽さから爆発的に全国に普及しました。

街中にあふれるシェア自転車は自転車大国の復権を思わせますが、大量の放置自転車が交通の妨げになっており、上海市では強制撤去と規制強化が行われています。


新型コロナウイルス発生と上海の今


2019年12月、武漢で新型コロナウイルスが発生。当時は「武漢で謎の肺炎流行」と報道され、少し気になる程度であり、後に世界規模のパンデミックになるとは全く予想もしていませんでした。

1月末の春節休暇を迎え、当社では私以外の駐在員が日本に一時帰国しました。私は春節中に中国国内旅行を計画していたため、上海に残っていたのですが、新型コロナウイルスと呼ばれるようになった武漢発の謎の肺炎が、瞬く間に中国国内で拡大するのを目の当たりにしました。上海でもマスク姿の人が急増し、商店や薬局ではマスクの売り切れが続出。旅行どころではなくなった私は上海にとどまっていたのですが、近くの商店やコンビニも閉店し、居住区にも防護服の集団が消毒に現れ、いよいよこれはただ事じゃない!と身をもって感じるようになりました。日本でも連日新型コロナが報道され、私は本社や帰国駐在員に現地状況を伝える役割を担うことになった結果、2020年の春節は「サテライトオフィス」と化した自宅でテレワークを行う羽目に。その後、コロナは世界中に感染が拡大しましたが、中国は政府による都市封鎖、移動制限の徹底によりコロナを抑え込み、世界に先駆けて脱却に成功したのは知られているところです。

現在の上海の様子


地下鉄の防疫体制

上海ではコロナ対策として、スマホの健康アプリによる過去14日間の移動履歴管理が徹底されており、感染地域に立ち寄った履歴があると隔離措置や行動制限を受けることになります。マスク着用、検温も徹底されており、オフィスや地下鉄もマスクをしていないと入れてもらえません。

先日、私は青島に出張しました。当社では、国務院(日本の内閣に相当)が発表するコロナ情報において訪問先が感染地域に該当していないことが出張条件となっています。当日、青島が感染地域になっていないことを確認してから出張したのですが、顧客との会議終了時に、青島でコロナ発生のニュースが飛び込んできました。その夜の青島は外出を控える市民で街は静まり返っており、春節を彷彿(ほうふつ)させるほど道路はガラガラでした。ホテルに戻ると、私は翌日無事に上海に帰れるかどうかが気になり始めました。健康アプリはGPSと連動しているため、過去どこに滞在したか履歴が残り、コロナ感染地区へ行くとQRコードが緑色から赤色に変わります。もし青島がリスク地域に指定されたら上海に帰れなくなりはしないか、上海で隔離されないだろうかとの不安を抱え床に就きました。翌日、幸い私のフライトは予定通り運航されたのですが、青島のニュースを見た上司から連絡があり、上海空港に私を迎えに行く予定の運転手が嫌がっているとか、中国人同僚たちが私の出勤に不安を感じているという情報が入ってきました。私は上海到着後、同僚たちの安心を得るべく空港からタクシーで交通大学附属病院へ向かいPCR検査を受診、この日は在宅勤務。翌日、PCR検査結果で陰性確認後に出勤し、中国人スタッフに陰性証明証を見せることで自らの潔白を証明し、同僚の安心を得るべく努めました。感染者扱いされたことに寂しさを感じましたが、中国人スタッフたちのコロナに対する警戒心、防疫意識の高さを体感した出来事でした。

その後、青島政府は全市民1,000万人を対象にPCR検査を実施。結局、追加感染者は出なかったのですが、当局の徹底ぶりがよく分かるエピソードでした。中国でコロナ感染者が出ない理由は、日本などの他国と異なり、国を挙げ徹底した防疫体制を敷いているからです。正直、最初は抵抗がありましたが、他国の感染状況に照らすと今では必要な対策だと確信するようになりました。


上海の名所、観光スポット


(1) 親が超真剣に集まる「お見合い広場」


お見合い広場『相亲角』

中国も日本同様に晩婚化、少子化が社会問題となっており、女性は20代後半、男性は30代前半を過ぎても未婚だと「剰男」「剰女」と呼ばれています。上海などの都市部では高学歴、高収入の女性が自立生活を送るようになり、結婚相手の男性に対する条件が高くなっていることも背景にあるようです。

上海市内の中心部にある人民公園では、自分の子供の結婚相手を探しに集まる『相亲角』(=お見合い広場)と呼ばれる場所があり、毎週末には活況を呈しています。お見合い用紙には、子供のプロフィール(身長、年齢、学歴、年収、戸籍など)と結婚相手の希望条件がビッシリと書かれているのです。親がしていることを子供たちは知っているのだろうか?と気になってしまうのは私だけでしょうか。中には若者本人が結婚相手を求めて公園に立つ姿や、外国人の結婚相手を求める「外国コーナー」もあります。どのようなことが書かれているかとじっくり読んでいたところ、「娘に興味ないか」「年収は幾らだ」「家は持っているか」「携帯番号を教えてほしい」とあっという間に10人ほどに取り囲まれてしまい、慌ててその場を退散したことがあります。親たちの本気度が伝わってきました。来ている人々は至って真剣ですが、中国の婚活を一目見ようと集まる人も多く、観光地化している場所でもあります。

(2) 近代都市とレトロな街並み

上海は高層ビルが立ち並ぶ近未来風景と、昔ながらのレトロな街並みが融合する魅力あふれる都市です。20世紀初頭に建てられた歴史建築が立ち並ぶ「外灘」は人気の観光地。夜にはライトアップされた夜景をバックに記念撮影をするカップルの姿も多く見られます。

黄浦江を挟み対岸する「浦東」は、近未来的な高層ビル群がそびえ立つ上海の金融、ビジネスの中心地です。その中でも最も高い建物が2016年完成の「上海タワー」で632mの高さを誇ります。中国では最大、世界ではドバイのブルジュ・ハリファに次ぐ世界第2位の超高層ビルです(※電波塔を含めると日本のスカイツリーが634mで世界第2位)。

浦東から1時間ほど車を走らせれば市内とは思えない水郷の街やレトロな風景に出会えるのも上海の魅力です。


外灘の歴史的建築


田子坊


最後に


中国人のどこが好きかと聞かれたら、「自分の意見を主張でき、本当に仲良くなるとどこまでも助けてくれるところ」と答えています。歩道走行もお構いなしで背後から迫る「音なし電動バイク」に肝を冷やしながらも、ダイナミックに急成長する中国に身を置き、日々刺激を受けながら中国社会の一員として生活できることを幸せに思い感謝しています。

あの時、中国を選んで本当に良かったと改めて思う今日この頃です。当時の上司に感謝!

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