近くてやっぱり近い台湾

日鉄物産株式会社
(乾杯股分有限公司 顧問)
本村 結城

台北、海外?


台湾は私にとって特別な赴任先である。九州ほどの面積に約2,400万人が暮らす島。台北着任から5年が経とうとしているが、全く中国語を話せなかった当初から、生活の不自由さは皆無に近かった。それもそのはず、戦前に郷愁を覚えるご老人のみならず、サブカルチャー好きの若年層までも日本に特別な熱視線を送る。親日性においては圧倒的に世界一な台湾において、日本の文化でないものはほぼないのではないか。近いことも相まって、それほど海外生活感のない台北ライフであるが、少し違う切り口から台湾を紹介したい。


盛んな観光交流


にぎわう台湾名物の夜市

2018年日本を訪れた台湾人は約480万人だそうだ。人口の約20%が日本を訪れていることになる。老若男女問わず、日本の食や文化を楽しみにリピートしている。私が出向している会社の若者たちも足しげく日本に通う。最近はTDR(東京ディズニーリゾート)や京都観光とかではなく、全くもって聞いたことない北陸の漁港町や、インスタ映えする東京下町の食堂、はたまた好みの日本酒蔵元巡りなど、私などよりよっぽど掘り下げた趣向の旅程を計画している。

一方、日本から台湾への旅行客は2018年で約200万人。年々増加中。ここ数年は若い女性観光客が増加しているように思える。週末の台北の街中を歩くと、どこそこから日本語が聞こえる。小龍包や牛肉麺、マンゴーかき氷で舌鼓、夜市を散策、マッサージで癒やされ、永康街や迪化街でお買い物。

相互文化を楽しむ。一方通行でない非常に良好な観光交流がうれしいではないか!


美しい島(フォルモサ)


1544年にポルトガル人の船員が台湾島を見て「フォルモサ」と言ったのが語源とか。確かに自然が何より素晴らしい。多くの旅行客の主目的は食い倒れにあるようだが、声高に言いたい。台湾の醍醐味(だいごみ)は自然であり、アウトドア遊びである。

台湾には富士山より高い山が6座ある。3,000m超は何と250座以上。太平洋プレートが押し込んで盛り上がった切り立った島なのだ。最高峰は玉山3,952m、東アジア最高峰の頂だ。台湾は1945年までの約50年間は日本の統治下にあった。日本が統治開始した後に、日本最高峰の山は富士山ではなくこの玉山になったので「新高山」と呼ばれた。日本がハワイの真珠湾攻撃を行う際、1941年12月2日に発信された暗号文の「ニイタカヤマ」である。台湾の高山が素晴らしいのは、人を寄せ付けない険しさもあるが、入山人数を管理する制度がしっかりしているためでもある。富士山やシーズンの北アルプスなどの登山経験がある方は、渋滞する登山道にうんざりしたこともあるのではないか。台湾の4,000m弱のピークの上で、昇りくる日を眺めつつ、孤高にコーヒーをすする姿を思い浮かべてほしい。生まれ変わった気になれる。

一方、太平洋に面した台湾東海岸中南部では切り立った岸壁と所々に顔を出す白砂のビーチは息をのむ絶景が広がっている。そして良い波が入る。北の宜蘭から、中部花蓮、南部台東に至るまで、素晴らしいサーフィンスポットが点在する。ワイキキやバリにトリップするよりはるかに低コストで良質の波を堪能できる。台北から直行バスで1時間弱の宜蘭では初心者スクールも盛んで、台湾でサーフィンを始める旅行者も多い。かくいう私も台湾の海でサーフィンに魅せられた一人だ。

この大自然こそ台湾が誇れる観光資源なのである。


玉山3,952mを登頂する筆者


良い波が入る台湾の海を楽しむ


アジアのラテン系:台湾人


ラッシュの時間帯はバイクでいっぱい

とにかく明るい、声が大きい、おしゃべり好き、というのが台湾人の印象だ。職場でも笑い声が絶えない。しまいにはテンション上がって歌いだす社員面々。あまり人目は気にならないようだ。日本人の私が一人気をもんでいる。

そして何より家族を(特に親を)大事にする民族文化。そのためか他人にも非常に優しい。困った人間を見ると口より体が動き出すお節介焼きが多い。時にはお節介が過ぎて、KYな状況に陥ることもある。今年(2019年)は工場に出勤しているが、昼食賄い時に優しい笑顔でとんかつ2枚乗せてくれなくてもいい。

ただなぜか、ハンドルを握ると人が変わる台湾人。あれだけ優しい人種なのに、道路の上では一切譲り合いがない。レーン移動のウインカーを出すと、後ろの車がアクセルを踏んで急ぎ車間を詰めてくる。さすがに信号は守るが、左折レーンで左折待ちの車を右外から巻いて抜いてくる。速度制限は守るはずもなく、一方通行逆走は日常茶飯事。出退勤時間ともなると、アジアあるあるのバイクの渦。3人乗り4人乗りは警察も目をつむる。事故が起こらないはずがない。台湾では道路を渡るときは360度に注意を払って渡りましょう。

とにかく外食

男女雇用均等の観念が根付いており、共働きが当たり前。そのため、お母さんはご飯を作っている暇がない。よって食事は朝昼晩3食外食が常。昼夜問わず道端に露店が立ち、仕事帰りに慌ただしく立ち寄る家族が見られる。そして何より安い。テイクアウト朝ごはん(麺類やサンドイッチなど)は紅茶等のドリンク合わせて日本円で150円程度。確かに自分で材料買って作る方がばからしくなる。そもそもキッチンがない家族用賃貸マンションが存在するから驚きだ。

そして週1-2回は家族そろってディナーを楽しむ。食事には出し惜しみをしない。1人当たりのGDPは日本平均の6割程度なのだが、共働き家庭が多いため消費力は低くない。話題のレストランに行っては写真を撮ってSNSで拡散するのが台湾流。決して安くはないが会食は特別な意味を持つのだろう。ここぞとばかりにぜいたくをする。

それもあってか台湾の肥満率はアジア1位とのこと。中華料理は脂っこいし、どこでも加糖された紅茶やタピオカミルクティー飲んでいるし、移動はバイクでほぼ歩かない。さもありなん。

一方、ファッションや化粧にはそれほど気を使わないのが台湾人。よく街中で、破れたTシャツ、短パン、ビーサンといういでたちで、高級欧州車から降りてくるお金持ち風の方を見掛ける。もちろん、おなかがポッコリ出ている。

危機迫る人口問題


台湾のランドマーク・台北101

日本以上に少子化が進む台湾。2016年度の合計特殊出生率は1.17。共働きが多く、性別に関係なく同じ条件で働いている。台湾の人口は2021年以降減少傾向になるとみられる。

さらに、経済成長盛んな大陸へ単身赴任する働き手年代の台湾人も多い。台湾の少子化問題は重大な問題であり、次期総統選のテーマの一つになる。

個人的には、このすてきな台湾がいつまでも同様の存在でいてくれることを願う。

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