いろんな顔を持つ国 メキシコ

CBC PRIMERO MEXICO S.A. DE C.V.
General Manager
宍戸 慶行

はじめに


皆さんが想像するメキシコといえば、テキーラ、タコス、麻薬、サボテン、最近では自動車といったところでしょうか? 2013年12月にCBC AMERICAの子会社として設立したメキシコ店への赴任の声が掛かったのは、北京で駐在していた2013年9月のことでした。当時弊社は、米国からの監視カメラ販売事業が中心でしたが、自動車業界、約1億3,000万人の市場に向けた新規開拓を目指し2014年3月にメキシコへ赴任。初めてメキシコの地を踏んだ際に、活気に満ちあふれた場所、まだまだ経済レベルも高くなくこれから発展が期待できる場所とエネルギーを感じたことを今でも覚えています。メキシコ人は陽気というイメージ通り、レストラン、エレベーター、街中でも気軽に挨拶する習慣があり、赴任当初から文化の違いに驚かされました。


筆者近影

現在赴任して6年目となりますが、その間に文化、産業の発展、治安面などさまざまな点でメキシコを感じることができましたので、一部とはなりますがご紹介させていただければと思います。


古い歴史と苦難の近世


日本ではあまり、メキシコの歴史については知られておりませんが、諸説はあるものの約2万年以上前より人類が住んでいたといわれており、各地域では高度な文明が築かれ、実際に当時の壁画、土偶なども見つかっています。

他方、1519年に起きたスペイン人による侵入、1846年に起きた米墨戦争では国土の半分近くを米国に割譲し、また1994年に起きたメキシコ通貨危機(通称:テキーラショック)など困難な歴史を持った国でもあります。今日では、こうした時期を乗り越え成長を遂げています。

自動車生産世界第 6位の工業国


メキシコ合衆国の国旗

人口は2018年時点で約1億3,000万人、1人当たりのGDPも9,843ドルとマーケットとしても魅力がある国です。人口に占める若い年齢層が多く40歳未満が約70%、外貨準備高も1,756億ドル、国際格付もA3(Moody’s 長期格付)と財政的にも安定しています。

メキシコの主要産業は米国への輸出を中心とした自動車、電機機器、一般機械、鉱物性燃料、光学・精密・測定・医療機器などがあります。2018年の自動車製造は410万台(大型車を含む)と世界第6位となっており、そのうちの約345万台が輸出です。

2014年前後から自動車部品メーカーの進出ラッシュがあり毎年100社を超える企業が新たにメキシコへ進出する時期もあり、急速に日本人の駐在員も増えました。

日系企業は2018年10月で1,228社、駐在員は1万1,755人となっています。

首都のメキシコシティは標高が2,200m以上の高地に位置しています。なぜこのような場所を首都にしたのかを調べたところ、アステカ人が新しい都を築くべき土地を探している際に、蛇をくわえたワシがサボテンに止まっている地であるという神官の予言がありました。その予言の通り蛇をくわえたワシがサボテンに止まっているところを発見し、当時沼地であったこの場所に首都を築いたのが現在のメキシコシティです。国旗の中心ににあるのがこのストーリーとなっています。

メキシコ独特のビジネスとそのスタイル!?

赴任当初はまず、ビジネス構築のため、情報収集から始め、いろいろな場所へ行き各地方の方々と交流しました。アポイントが突然キャンセル、商談よりも日常会話、初めは慣れないことも多いですが、それも含めてメキシコ。自動車関連の案件はもちろんのこと、メキシコならではの健康食品としてメキシコでもよく知られているサボテンを原料としたパウダーやテキーラの原料であるアガベから製造されるアガベイヌリン、アガベシロップなどの取り組みを行い製造現場に視察に行き、歴史や製造方法を聞きメキシコに来ている実感がしました。メキシコは世界トップレベルの銀の生産地で、その他にも金、銅、鉛、亜鉛なども採掘されており、石油も自国で採掘ができ資源も非常に豊かな国です。

ビジネス時間は9:00-18:00が一般的ですが、お昼は14:00がピークタイムで、日本料理店も13:00から開店というお店も少なくありません。

金曜日の午後は会社によってはカジュアルな服での出勤、お昼すぎに仕事が終わるなど夕方になると街中も活気づき大勢の人でにぎわい、ON OFFのはっきりしたところもメキシコ人の良いところかと思います。


食物繊維たっぷりのサボテン


欧州のような街並み


欧州風の生活文化と伝統の食文化


シーザーレストランのシーザーサラダ

2018年までの4年間はメキシコシティ、2018年からは自動車メーカーが集積するBajioというエリアのケレタロにて生活をしています。

以前スペインの植民地ということもあり、カトリック信者が大多数を占めており、どの町にも教会があり週末になると多くの人が教会に行き、その後に家族などで食事を楽しむ習慣があります。教会近くは欧州のような街並みとなっており、メキシコの文化と欧州の文化が融合したような場所です。商店、レストラン、タクシーなどでは英語がほとんど通じず初めは苦労しましたが、住めば都という言葉の通り、今では楽しく過ごしています。

メキシコ料理は2,000年以上の歴史があり、ユネスコの世界無形文化遺産へも登録されています。

各地方に伝統料理があり、タコスはもちろん、カカオソースのモーレ、巨大トウモロコシが入ったスープ ポソレ、アボカドを使ったバカモレ、ステーキなどメニューも豊富でビールやテキーラと一緒に夜な夜な楽しむときもあります。メキシコ国内でも知らない人が多いですが、あの有名なシーザーサラダもメキシコのティファナという場所が発祥の食べ物となります。今でもシーザーレストランがあり、多くの地元客、観光客でにぎわっています。

テキーラはフランスシャンパンと同様に、テキーラ協会が生産業者や原料などを管理しており、主にハリスコ州のテキーラ村で協会によって決められた製造方法で生産されたお酒のみテキーラと名乗ることができます。日本のように一度にショットグラスで飲む習慣もありますが、少しずつ味わって飲むのが一般的です。

ピラミッドからカラフルな街並みまで

あまり日本では知られておりませんが、メキシコは歴史が長くリゾート地もあり、観光資源が豊富な国だと思います。

商社ということもあり、時にはアテンドもあり、いろんな場所へ行かせてもらいました。

メキシコで世界的に有名な場所についてご紹介したいと思います。

メキシコシティのソカロ


ソカロ(広場)


メキシコの政治的、宗教的な中心地。世界で3番目に広い広場で、教会や政府関連の建物が並び、欧州調の街並みとなっています。


テオティワカン


テオティワカン遺跡


エジプトで有名なピラミッドですが、ここメキシコでもピラミッドは有名な観光地で、メキシコシティより約60kmと近く、私も20回ぐらい訪れています。世界で3番目に大きなピラミッドですが、一番大きい太陽の塔は222m×225m×65mで、登れるピラミッドとしては世界一となっています。パワースポットにもなっています。


カンクン


カンクンの海


メキシコで一番有名なリゾート地で多くの外国人、メキシコ人でにぎわっています。コバルトブルーの海とまさにリゾート地と呼ぶにふさわしい街並みで、何度も訪れたくなる場所です。日本からですと1日2本、成田からメキシコシティまで直行便がありますので、ぜひ一度観光で来てください。

日本では考えなかったこと

メキシコといえば、殺人事件、麻薬、米国への不法移民の通過点というイメージを思い浮かべると思いますが、実際も残念ながら想像と同じです。2018年の殺人件数は3万3,000件以上で、そのほとんどが麻薬関連で駐在員のような一般人には縁がない世界ですが、ほとんどが未解決と驚きの状況です。強盗や誘拐、置き引きなども多発しており在メキシコ日本国大使館、メキシコ日本商工会議所からの有益な情報の入手、日本人の中でも治安の情報交換は頻繁に行われており、日本では考えなかった、自動車へパソコンや携帯電話を置いてはならない、財布をできるだけ二つ持ち歩く、毎日同じルートで帰らないなど自身の身は自身で守るという意識付けがなされています。

また組織ぐるみでパイプラインから石油の盗難事件が多発しており、2018年12月に発足した新政権が、組織の収入減を断ち切ろうとパイプラインを閉めたことから国内のガソリン供給が激減し、地域によっては年初ガソリンスタンドに給油待ちで数時間という行列ができました。

2017年、日本円で約2,700億の石油が盗まれ闇ルートで販売されていたのですから、新政権でテコ入れを行うのも当然といえば当然ですね。

日本でいう大きな犯罪がこちらでは日常であり、件数が多過ぎてニュースにならないのが現状で、日本のニュースを見ていると、日本がいかに平和かを実感します。

ただ、幸いにも私自身は大きなトラブルもなく過ごしています。

スポーツといえばサッカー、そしてルチャリブレ!

メキシコの国民的スポーツといえば断トツの人気はサッカーです。メキシコリーグ、欧州リーグのシーズン中はどこのレストランでも試合がTVで流れており、ワールドカップのメキシコ代表戦ともなると、街中は機能停止状態となり、一般の方々はもちろん、多くの企業でも仕事中に特別スクリーンを用意して観戦するなど、国を挙げて応援する熱狂ぶりです。2018年まで1年間本田圭佑選手がパチューカでプレーしたことで日本人の中でもスタジアムに多くの人が足を運んだと思います。

また、ルチャリブレ(プロレス)も人気です。数多くのレスラーがマスクを被り、正義と悪に分かれアクロバティックな技が飛び交います。ルチャリブレの聖地、アレーナメヒコはメキシコシティにあり、試合日になると会場付近では関連商品を売る出店、試合を観戦する人々でにぎわっています。日本のプロレスラーも修行でメキシコを訪れており、試合で見ることもあります。あの有名な元女子プロレスラーの北斗晶さんもメキシコで活動していました。

終わりに

食事、観光、文化、陽気な人々と簡単には語りきれないメキシコではありますが、経済成長がまだまだ期待できる国ですし、ビジネス・観光と両方で魅力がある国です。

米国との貿易にて現在注目されていますが、資源も豊富で中南米への貿易拠点でもあるメキシコは今後も注目され続ける国でしょう。

日本食、日本食材店も米国ほどではないですが、日本人が住む都市にはほとんどあり、生活面でも他の中南米諸国に比べると比較的住みやすいのが実感です。

今後もメキシコの成長に注目したいと思います。

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