2019年4月号(No.777)
2018年4月に当地に赴任し、はや1年を迎えようとしております。
シリコンバレーと聞くと、皆さまどんなイメージをお持ちになりますでしょうか? 私は赴任するまで最新のテクノロジーが凝縮された町を想像しておりましたが、正直な感想は「田舎!!」です。そんな田舎でどのように日々イノベーションが生まれているのか、1年生活してみて見たこと、聞いたこと、感じたことをお伝えできればと思います。
サンフランシスコ市街を一望できるセーリング
まずは概要を少しご説明します。シリコンバレーはカリフォルニア州北部のサンタ・クララ郡全域と、サンマテオ郡、アラメダ郡、サンタクルーズ郡の一部を指しており、地名でいうとサンノゼ、サンタ・クララ、マウンテンビュー、パロアルト辺りがメインですが、最近ではIT系スタートアップ企業の多くがシリコンバレー北部に位置するサンフランシスコに集まっていることからサンフランシスコも広義のシリコンバレーとして含めることもあります。また、この一帯はサンフランシスコ湾に囲まれているので、こちらの人はシリコンバレーではなく「ベイエリア」と呼ぶことが多いです。シリコンバレーの人口は約300万人、うち白人は約3割に対して海外出身者が4割弱と、ダイバーシティに富んだエリアです。
また、2018年は全米で過去最高の約6,000件、1,000億ドル(約11兆円)のベンチャー投資が行われましたが、このうち280億ドル(約3兆円)がサンフランシスコエリア、180億ドル(約2兆円)がシリコンバレーエリアで起きています。1件ずつの額が大きくなっているのが近年の特長であり、55件のユニコーン企業(時価総額10億ドル以上の未上場企業)が誕生しました。まさに世界中で最もお金が集まるエリアといえるでしょう。
シリコンバレーと聞くと、Google、Apple、Facebook等テックジャイアント企業が真っ先に思い浮かぶのではないでしょうか。中でもGoogleのオフィスは圧巻、というよりもこんな働き方もあるんだと驚かされます。何度か見学させていただきましたが、オフィスが集まるエリアを「キャンパス」と称しており、300棟を超えるビルがGoogleのオフィスだそうで、まさに大学のような空間です。また、時間短縮とリフレッシュを目的にオフィス内に滑り台が設置されており、Googleの幹部が滑り台で1階のエントランスに下りてくる姿も拝見しました。他にも無料のコインランドリー、散髪屋、ジム等がオフィス内にあり、どの席からも半径50m以内にお菓子と飲み物が常備されているそうです。また、キャンパス内が広過ぎるので、自由に使えるGoogleカラーの自転車が置かれていたり、Google内を移動する無料のUberのような社員向けサービスもあります。ワクワクのヒントをたくさん散りばめた自由闊達(かったつ)なオフィスで、Googleの勢いはまだまだ衰えそうにありません。
シリコンバレーでスタートアップが多く成功しているのは当地特有のエコシステムがうまく循環しているからです。このエリアにはスタンフォード、UCバークレーに代表される著名な大学が集まっており、その大学出身者が在籍中や卒業後に起業し、この地域に集まるエンジェル投資家、インキュベーターが投資します。また、オフィスの貸し出しやマーケティング、マネジメント面でのサポート、および法律、会計面でのサポート等スタートアップを支援するインフラが整っており、スタートアップはそのような環境の中で事業開発を行い、ピッチといって投資家、VCへのプレゼンを実施し資金を調達、さらなる事業拡大を目指していきます。
が、何よりも特筆すべきは「失敗が許される風土」ではないでしょうか。失敗を恐れてやらないより、チャンスを逃す方がばかげている、という考え方です。「これまで2社スタートアップを立ち上げて失敗、今3社目なのだけど」という話をすると、日本ではこの人に素質がないのでは、と思われがちですが、こちらでは、2回も修羅場を経験したんだね、と好印象に取られ強みになるのです。
私の友人が、ひょんなことからスタートアップを友人と始めて先日ファンディングに成功したと言っていました。資金調達のピッチでは、マーケット、プロダクト、チームの三つがプレゼンの構成要素となりますが、その中でもマーケットとチームを重要視するそうです。どのような会社のプレゼンにも必ずチーム紹介があり、どのようなメンバーがコミットしているプロジェクトなのか、一人ずつのバックグラウンドの説明を重要視しています。あとはマーケティングがしっかりしており、そのプロダクト、コンテンツの需要があると認められれば、まだそのプロダクトの中身が完成していなくても(アーリーステージでは)資金調達が可能だそうです。出資といっても、一気に莫大(ばくだい)な額を投資してくれるわけではなく、次のKPI(keyperformance indicator:重要業績評価指標)を設定し、資金が尽きるまでに設定した目標を達成したり、プロダクトのプロトタイプをつくって実証実験を開始したりすることで、次のファンディングが得られます。常に、あと何ヵ月分の資金が残っている、という計算をファウンダーは考えているといいます。
FremontにあるTESLA 工場
話は変わりますが、ACESというキーワードをご存じでしょうか。Autonomous /Connected / Electric / Sharingの頭文字です。日本ではCASEと称されることが多いかもしれません。
シリコンバレーではこのACESを体感することが非常に多いです。サンフランシスコ~サンノゼ間にはCaltrainという電車が走っていたり、サンノゼ市内にも路面電車は走っていますが、基本的には車移動です。当地ではもうタクシーはめったに見掛けず、UBER、Lyftといったライドシェアリングサービスが市民権を得ており、アプリで呼んでからの平均待ち時間は2-5分程度といったところでしょうか。私も出張時や会食へ行く際に利用しており、深夜、早朝でも時間を選ばず手配可能なので非常に便利です。同じ方向に行く人とUBERを安くシェアリングをするサービスも普及しており、それぞれが顧客獲得争いをしながらより便利なサービスを拡充してきております。
また、カリフォルニア州は補助金等の電気自動車(EV)への優遇政策も手厚く、またベイエリアは新しいものを受け入れる土壌と金銭的余裕がある人が多いため、特にEV化が進んでいるエリアです。ガスステーションならぬ充電ステーションが既に多く存在しており、各スーパーやレジデンスにはEV充電ステーションが設置されインフラが整っています。TESLA工場も当社オフィスの近くにあるので、毎日数百台のTESLAが出荷されており、1年前では珍しかったModel3も最近ではよく見掛けます。また、補助金以外のEV導入のメリットとして、EVはフリーウェイのカープールレーンを走ることが可能です。フリーウェイの一番端のレーンは通常乗車人数が2人以上専用のレーンとなっていることが多いですが、EVであればこのレーンを1人乗車でも走行可能です。カリフォルニア州では乗用車の70%が1人での乗車というデータもあり、ロサンゼルスやサンフランシスコでは渋滞がひどいのでこのレーンを使えるメリットが大きいです。
他にも自動運転用の地図データを採取している車を見掛けたりと、まさにモビリティの世界が変革しつつあることを実感する次第です。
少し堅めなことばかり書いてしまいましたが、当地では4大スポーツのチームがそろっており、アメフトはサンフランシスコ49ers、野球ではサンンフランシスコGiantsとオークランドAthletics、バスケではゴールデンステートWarriors(2018年優勝)、アイスホッケーではサンノゼSharksと年中スポーツ観戦が楽しめるのも当地の魅力です。私は観戦した各チームの帽子をコレクションしています。また、米国ならではの大学スポーツも盛んで、2018年末には「BigGame」と呼ばれる因縁のスタンフォードvs. UCバークレーのアメフトの試合を観戦しました。スタジアムがいっぱいとなり、まさに日本でいう早慶戦のような雰囲気です。
サンフランシスコAT&T パークにて、Giants vs. Dodgers の試合。前田健太投手が投げています
バークレー vs. スタンフォードのBig Game
ナパバレーのワイナリー。
ブドウ畑が一面に広がっています
ワインといえばフランス、イタリアが王道ですが、近年カリフォルニアワインも知名度を上げており、中でも有名なナパ、ソノマエリアは車で2時間程度で訪問可能です。オーパスワン、Kenzo Estate等日本でも有名なワイナリーはたたずまいも荘厳で一見の価値ありです。また、10-30USドル程度でもおいしいワインが手に入りますので、お気に入りの隠れ家ワイナリーを見つけてメンバーシップに登録するのも楽しみの一つです。
また、ナパまで行かずともサンノゼから30分程度のクパチーノ一帯にもワイナリーが点在しています。天気が良い日にはテイスティングして気に入ったものをボトルで購入しワイナリーでピクニック、という優雅な過ごし方もできます。
いかがでしたでしょうか。シリコンバレーの魅力やイノベーションの雰囲気を少しでもお伝えできたらと思います。シリコンバレーに進出する日系企業もますます増えておりますし、当社の駐在員も増員して盛り上がってきております。ぜひご出張、ご旅行でお立ち寄りいただき、生のシリコンバレーを体感いただけたらと思います。