南米のゲートウェイ ペルーの魅力

双日米国会社 リマ出張所 所長
藤井 寛之

はじめに


ペルーと聞いて皆さまは何を思い浮かべますでしょうか? マチュ・ピチュ遺跡、ナスカの地上絵、チチカカ湖、アルパカなどでしょうか?

かつて南米最大の帝国であったインカの歴史や、紀元前から栄えてきた古代文明も含め、いまだに多くの謎に包まれた神秘的な遺跡が、ペルーには多く残っております。私も当地に駐在するまでは、旅行ガイドブックに載っている程度の知識と地球の反対側にある遠い国としか感じていませんでした。しかし、当地で生活してみると、日本との深いつながりがあることがよく分かりました。

当地の生活を通じて感じたペルーの魅力をご紹介したいと思います。


ペルーの基本情報


ペルーは、太平洋に面する南米大陸中央部に位置し、北はエクアドル、コロンビア、東はブラジル、ボリビア、南はチリと国境を接しています。国土面積は日本の約3.4倍で、南米ではブラジル、アルゼンチンに次ぐ第3位の広さを有します。年間を通じてほとんど雨が降らないコスタと呼ばれる砂漠・土漠の海岸地帯、シエラと呼ばれる標高5,000-6,000m級のアンデス山岳地帯、そして国土の6割を占めるセルバと呼ばれるアマゾン川流域の熱帯雨林地帯の三つに分けられ、ほぼ赤道直下から南緯18度にわたる緯度や、標高・海流の影響により、多種多彩な自然環境を有するユニークな国です。

人口は約3,200万人で、30歳未満が全体の5割以上と若者人口の比率が高い点が特徴です。人口の約3分の1が集中するリマ首都圏は拡大を続けており、名実共に政治経済の中心です。南米大陸の西側に位置する国々で、首都が低地にあり港を持つのはペルーだけです。リマ沖を流れる寒流の影響で、南緯12度にありながらも年間を通じて20℃前後と寒暖の差は少なく過ごしやすい気候です。リマは砂漠気候に属するため、傘が必要な雨は降りません。ただ、一日中太陽が出ない曇天が続くのが一般的で、特に6月から9月の冬の間はガルーアと呼ばれる海霧が空を覆い、湿度が90%近くになります。この湿度の影響もあり、冬場は15℃程度でもとても寒く感じ、暖房設備がない一般的な当地の家ではコタツが恋しくなります。湿気対策は必須であり、大型の除湿機が欠かせません。皮製のカバンや靴をうっかりほったらかしていると、カビで全面に毛が生えたような状態になります。この曇天が続く天候の影響か、リマの人々はラテン的な明るいノリはあまりなく、相対的に真面目でおとなしいと感じます。

ペルーは、財政規律を順守し、長期にわたって物価安定と経済成長を両立しており、世界屈指の豊富な鉱物資源に恵まれた中南米の優等生といえる国です(主要鉱物の埋蔵量は銀が世界1位、銅・亜鉛・モリブデンが世界3位、鉛が世界4位、金が世界7位)。天然ガスも豊富で、インフラ整備をはじめとしたさまざまなビジネスチャンスにあふれています。


海辺の丘からリマ市全景


オフィスよりいつもの曇天


日本とのつながり


さまざまな種類のジャガイモ

ペルーは,1873年に日本が中南米諸国の中で最初に外交関係を樹立した国です。また、ペルーは南米で組織的な日本からの移住を最初に受け入れた国で、1899年4月3日に初めての日本人の集団移民が到着しました。

日本人移民とその子孫は、さまざまな厳しい局面に立ち向かいながら、日系ペルー人社会を形成し、今では約10万人を超える方々がさまざまな分野で活躍しておられます。

フジモリ元大統領が最も有名でしょうが、マチュ・ピチュ遺跡の玄関口となるアグアスカリエンテス村の初代村長の野内与吉氏や、ペルーの女子バレーボールをメキシコ五輪で4位入賞させた加藤明監督なども、ペルー社会に多大なる貢献をしたということで地元では有名です。

そのおかげもあり、対日感情は大変良く、われわれ駐在員もビジネスや生活をする上で、大変助かっております。

当地の日系人協会・県人会の活動は活発で、日本文化の継承に多大な役割を果たしておられます。夏場に開催される「MATSURI」などは、日系人の枠を超えたイベントに成長しており、各県人会の繰り出すみこしや出店・打ち上げ花火を楽しみに、多くのリマ市民も参加する規模になっています。

食文化にも日本の影響

ペルーは食材の宝庫です。ジャガイモやトウモロコシ、トマト、唐辛子、カボチャなど、現在では世界中でおなじみのこれら食材は全てペルーが原産です。

特にジャガイモは3,000種類以上あり、古代から山岳地帯住民の主食として食べられてきました。インカ帝国では、違う種類のジャガイモを同じ畑で栽培することで、疫病の予防を図るとともに、高山地域で高度に応じた生育条件の違うさまざまな種類のジャガイモを研究していたといわれています。マチュ・ピチュなどで見られる数百段に及ぶ段々畑で、これらのジャガイモが栽培されていたようです。

さまざまな自然環境から取れる豊富な食材を利用して作られる伝統料理と、植民地時代に影響を受けたスペインやアフリカ人奴隷の食文化、イタリア・中国・日本などの移民がもたらした食文化が、複雑に交ざり合って進化し、今では中南米ナンバーワンの美食の国と呼ばれています。特に、日本が持ち込んだ「うま味文化」は深く浸透しており、当地で50年製造を続ける味の素さんの功績といわれております。

ペルーの有名料理セビーチェ(Cebiche:生の白身魚やタコ、エビ、イカ、貝などをレモンで締め、紫タマネギと唐辛子とあえたマリネのような海鮮料理)も、日本人料理人のアイデアで鮮度と素材の持ち味・うま味を際立てる手法が浸透し、よりおいしくなったといわれています。日本食は、ニッケイ料理という形で独自の進化を遂げており、「MAKI」(巻きずし)が地元の方々には人気です。特にセビーチェと融合した「アセビチャード/Acevichado」と呼ばれるMAKIは、日本人の口にも合うあっさりした素材の味を生かしたお薦めの一品です。

ペルーを代表するアルコールといえば、ブドウの蒸留酒「ピスコ」です。ピスコサワーという卵白とレモン・砂糖を加えてシェイクしたカクテルが有名ですが、ブドウの種類によってピスコにもさまざまな香り・味があり、ロックやお湯割りで飲んでも大変おいしいです。特にお湯割りは日本食にも合うので寒い冬場には愛飲してます。

南米最大の食の祭典「Mistura」は有名になりましたが、ニッケイ料理を紹介する食の祭典「GOCHISO」も2017年から開催されるようになり、多くの市民に親しまれています。中南米ベストレストランの1位は2年連続でペルーのニッケイ料理店です。日本人としては純日本料理がやはりおいしいと思いますが、地域・時代に順応した発展の仕方を遂げるエネルギーには頭が下がる思いです。

砂漠の農地


砂漠のブルーベリー畑

上述の通り、ペルーの沿岸部は砂漠地帯です。当地では、雨が降らない日照量の多いこの砂漠エリアを、アンデスからの水を使った大規模なかんがい設備を整備することで巨大な農地に変えています。砂漠で農業?と思われるかもしれませんが、砂漠なのにあまり気温が高くならない(30℃程度)ため、水・栄養素を管理しさえすれば、豪雨や台風の自然災害がないことから、計画的に作物を育成できる利点となるのです。通年で栽培・収穫できる作物も多く、輸出競争力あるビジネスに育っています。

輸出量世界1位のアスパラ、世界2位のアボカドを筆頭に、有機バナナやブドウ、ブルーベリー、マンゴなども急成長中です。加えて、スーパーフーヅと呼ばれるキヌアなどの伝統的な雑穀類も含め、皆さまが何げなく食べている食材がペルー産かもしれません。

駐在員の暮らし


ゴルフ仲間たち

リマでは約100家族、190人ほどの日本人駐在員が生活しております(在留邦人は、約3,400人)。残念ながら比較的安全といわれるオフィスや住居エリアでも強盗・ひったくりなどの犯罪はあり、常に注意は必要です。週末なども安全対策のために、地域・時間を限定した行動が必須であり、家族含めて自由な行動は制限されます。そのため、駐在員の余暇の過ごし方も限定されるのですが、健康のため、ストレス解消のため、スポーツでいえば、ゴルフ派、テニス派、野球/ソフトボール派、当地ならではのサーフィン派などに分かれて仲間と過ごしています。

小職は、ゴルフ派に属しており、在留日本人・日系人も含む約30人ほどが参加する「レオノール会」というコンペに定期的に参加しております。「レオノール会」とは、ライオン会の意味であり、百獣の王にちなんだ110程度のスコアを出すゴルファーの集まりです。毎月開催で既に342回を数える伝統ある会で、駐在中に一度は優勝を体験しましょうという趣旨で、上級者には厳しいハンディが課せられる楽しい会です。歴代の駐在員がゴルフ、特にその後の宴会で大いに親交を深めております。

単身赴任での生活に、これらの仲間は大変ありがたい存在で、さまざまな情報交換ができる異業種交流も含めて、業務上はもちろんのこと、人生における貴重な財産となっています。

終わりに

簡単にペルーの魅力を思いつくままに記載しましたが、これ以外にもたくさんの魅力が詰まっているビジネスでもプライベートでも楽しめる国です。ペルーを拠点に近隣国を訪問いただくこともアレンジしやすいですし、低地に位置し、港があることも含めて、まさに南米のゲートウェイと呼べると思います。

2019年は移住120周年を祝して、日本ペルー交流年と定められており、さまざまなイベント、ハイレベルの人物往来が予定されています。当地の日秘商工会議所も設立50周年となり、その一環で、50周年記念経済フォーラム兼第13回日本ペルー経済協議会を11月18-19日にリマで開催予定です。

百聞は一見にしかず! ぜひ、この機会に少々遠いですがペルーへお越しください。おいしいペルー料理で歓迎いたします。

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