「欧州」と「アジア」が出会う街イスタンブール

JFE商事株式会社 イスタンブール駐在員事務所長
杉本 圭

はじめに


JFE商事イスタンブール駐在員事務所は、2013年4月に開設してからちょうど5年目を迎え、当社の中でも比較的新しい海外拠点の一つです。私自身は、この4月に第3代所長として赴任し、半年ほど経過したところです。

まだまだトルコを語れるレベルではありませんが、半年間の体験を基に、これからイスタンブールを中心にトルコについてレポートいたします。

トルコは、ここ数年、クーデター・テロ事件が相次ぎ、「治安が悪い」「危険」というイメージを持たれている方も多いと思います。私自身も、それまで出張ですら一度も訪れたことがない国でしたので、トルコへ赴任してからも、しばらくは警戒していました。しかし、2017年のイスタンブールのナイトクラブでの銃乱射事件を最後にテロは起こっておらず、実際、赴任して以降、特に身の危険を感じたことはありません。今は治安情勢もだいぶ落ち着いていると思います。

イスタンブールの魅力

イスタンブールは、人口約1,500万人で、ボスポラス海峡を挟んで欧州とアジアにまたがるトルコの大都市です。トルコの首都はアンカラで、米国でいえば、イスタンブールがニューヨーク、アンカラがワシントンに該当するでしょうか。

しかし、イスタンブールは、かつて、ローマ帝国、ビザンチン帝国、オスマン帝国の首都として栄えていました。イスタンブールの旧市街には、かつてこの地を支配した数々の帝国の文化的影響が反映されています。

スルタン・アフメット地区には、何世紀にもわたり二輪車競争の競技場だった、屋外にある古代ローマ時代の遺跡ヒポドロームがあり、古代エジプトのオベリスクも残されています。象徴的なビザンチン建築のアヤソフィアは、高くそびえる6世紀のドームが特徴的で、内部では珍しいキリストのモザイク画を見ることができます。

オスマン帝国時代に建てられたスルタン・アフメト・モスクは、その美しいブルーの内部装飾から、ブルーモスクとも呼ばれています。19世紀までオスマン帝国のスルタン(君主)が居住していた1460年ごろに建てられたトプカプ宮殿には、当時を物語る宝物とかつて大規模なハーレムを構成していた部屋が残されています。この宮殿の近くには、スパイス・マーケット(通称:エジプシャンバザール)と不規則に広がるグランドバザールがあります。人気の釣りスポットでもある、金角湾に架かるガラタ橋を渡ると、近代的な中心市街に入ります。ガラタ地区は、中世の塔と高級ブティックがあることで知られ、ベイオールのタクスィム広場の南側には、おしゃれなバーが集まっています。アジア側に当たる町の東側には住宅地が広がっており、カドゥキョイなどのウォーターフロント地区があります。

その中で、私が特に一見の価値ありと感じるのが、「アヤソフィア」です。


ボスポラス海峡を背景に筆者

ローマ時代の360年に東方正教会の大聖堂として創設され、途中、市民暴動で3度の火災に見舞われるも、その都度、再建されました。ビザンチン帝国時代の537年にユスティニアヌス帝が莫大な予算を投じ、巨大ドームを備えた大聖堂を建設し、今もなお、大聖堂としては世界最大級の規模を誇ります。イスラム教のオスマン帝国時代になると、モスクに改修され、堂内のキリスト教芸術であるモザイク画はしっくいで隠されましたが、1934年に米国の調査団によって、しっくいの下からモザイク画が発見されました。アヤソフィアは、キリスト教芸術とイスラム芸術の融合を目にすることができます。まさに時代に翻弄され、波乱の歴史を語るビザンチン建築の最高傑作です。

そして、イスタンブールの魅力を語るのに欠かせないのが、ボスポラス海峡の美しさです。現在、ボスポラス海峡には三つの大きな橋が架かっており、私も車で欧州側とアジア側を横断するたびに、その美しさに魅了されます。また、フェリーで欧州側からアジア側、アジア側から欧州側へと渡るボスポラスツアーを気軽に楽しむことができ、イスタンブール観光の定番コースの一つです。


ブルーモスク


アヤソフィア


世界三大料理の一つ、トルコ料理

世界の三大料理といえば、「中華」「フレンチ」あと、もう一つは何でしょう? 「和食」?「イタリアン」? いえいえ、「トルコ料理」です。トルコ料理といえば、日本でもなじみのあるケバブが定番ですが、肉料理はもちろん、特にイスタンブールは海に囲まれているため、魚料理もおいしいです。ボスポラス海峡沿いには、フィッシュレストランが並んでおり、ボスポラス海峡を眺めながら、新鮮な魚料理を食べるのは、なんともぜいたくです。

魚料理の調理は、唐揚げや焼き魚などシンプルなものが多く、やや薄味なので、自分で塩コショウやレモンをかけ、味を調整しますが、日本人には食べやすいと思います。

一方、肉料理はラム肉が中心です。私自身は特に好き嫌いがなく、ラム肉も問題ありません。特にラム・チョップはやわらかくて、肉料理のレストランに行くと必ず頼みます。ただ、日本人の中には、ラム肉はにおいを感じたり、癖があったりするので、苦手な人もいます。そういう人のためにはステーキハウス屋があり、牛肉を食べることができます。お店によっては、サーブする際、パフォーマンスを見せてくれるところもあり、「塩振りおじさん」の愛称で世界的に有名になったヌスレット・ギョクチェ氏の経営するステーキハウスは超人気店です。

しかし、トルコはイスラム圏なので、豚肉は食べることができません。日本にいる時は、それほど意識していなかったのですが、日本人は豚肉を使った料理を意外とよく食べているんだなぁと、豚肉がない世界に来て初めて感じました。

また、トルコ料理は、かなりヨーグルトを使います。スープにも入っていますし、サラダ・ケバブ料理にも使われます。日本では、「明治ブルガリアヨーグルト」の印象が強いためか、ヨーグルトはブルガリアが発祥地と思っている人が多いと思いますが、トルコ人に言わせると、ヨーグルトはトルコが発祥の地なのだとか。加えて、トルコの人はチーズとオリーブも大好きで、ホテルやトルコ航空のラウンジにも必ず置いてあるほどです。

そして、トルコの飲み物で、トルコ人に欠かせないのが、チャイ(トルコの紅茶)です。チャイというとインド式の甘いミルクティーを想像するかもしれませんが、トルコのチャイはいわゆる紅茶のことです。砂糖を入れることはありますがミルクは入れず、大概はストレートティーで飲みます。1杯の容量は80-100cc程度の小さなチャイグラス分ですが、トルコ人はこれを1日10杯以上飲むそうです。朝食時に1杯、職場について1杯、一仕事して1杯…とチャイはトルコ人の生活に欠かせません。

ちなみに、チャイを入れるチャイグラスは形が独特で、チューリップの花の形をモチーフにしているそうです。チューリップはオランダが有名ですが、実はチューリップもトルコが発祥だそうです。


トルコ料理


チャイ


最後に

まだ半年程度の駐在経験のため、トルコの入り口しか体験できていませんが、今回の寄稿を通じ、トルコの歴史の重みを感じることができました。特に、イスタンブールは「欧州とアジアの懸け橋」というキャッチフレーズが、地球上でただ一つ許される都市です。しかし、その地政学的に要衝地であるが故に、列強国が必ず押さえておきたい地域である宿命を背負っています。トルコはNATOの加盟国であり、EU加盟を目指したものの、現在のエルドアン政権は、ロシアや中東に接近し、最近では米国との関係が微妙になるなど、常に世界のバランスゲームの中にいます。2018年に入り、トルコは一段の通貨安に見舞われ、インフレが加速し、経済が低迷しており、2019年は非常に厳しい年になるといわれていますが、周りのトルコ人を見ると、特に慌てふためくことなく、落ち着いています。これは、歴史的にさまざまな経験をしてきたためなのでしょう。ちょっとやそっとのことでは動じない、波瀾万丈の歴史を経験してきたたくましさを感じる今日この頃です。

「欧州」と「アジア」が出会う街イスタンブール 誌面のダウンロードはこちら