笑顔あふれるインドネシア

PT. INABATA CREATION INDONESIA社長
中地 毅

はじめに


従業員と中地社長(後列左端)


インドネシアの日本紹介番組「Kokoro No Tomo」から


2014年にインドネシアに赴任してから4年がたちました。赴任当初の心配事は、仕事環境、安全性(治安)、医療環境などあるかと思いますが、私の中では食生活でした。日本食に慣れ親しんでいたので、おそらく苦労するだろうと考えていましたが、来てすぐに杞憂(きゆう)だと分かりました。おいしい日本食レストランがたくさんあり、少し金額は高いですが日本人向けのスーパーマーケットもあり、食生活にはほとんど困りませんでした。不自由なのは交通インフラが整っていないので(現在、急ピッチで地下鉄やモノレール工事が行われていますが)どこに行くのにも車を使うことが多かったことです。年々体重が増加してきており、歯止めをかけるため、最近はスポーツジムで汗をかくようにしています。

また、驚いたことと言えば、悪評判になっている“渋滞"やアパート家賃が高いこと、日本車占有率の高さなどいろいろありましたが、少し変わったところでは、日本の歌手 五輪真弓さんの「心の友」という曲のインドネシア人への浸透率の高さでした。正直、赴任する前に「心の友」という曲の存在は知りませんでしたが、赴任してすぐにナショナルスタッフとの交流もかねてカラオケに行った際に「心の友」のリクエストを受け、初めて存在を知りました。1983年にインドネシアの若者向けラジオ局が曲を流したことをきっかけに一躍人気の曲になったようですが、35年経過した今でも多くの人に愛され、歌われていることに驚きました。老若男女問わず、インドネシア人が最も知っている日本の曲ではないかと思っています。インドネシアに来られた際は、「心の友」を歌われるとインドネシア人スタッフは喜びますのでレパートリーに追加されてはいかがでしょうか。

コミュニケーションは笑顔が大事!


工場写真 PT.INABATA CREATION INDONESIA

インドネシア人は陽気で明るく、おおらかで、フレンドリーに人と接します。そして、笑顔を絶やさず、その笑顔も自然な笑顔で、どこか懐かしさを覚える気持ちの良いものに思えます。彼らと仕事をしていると良い意味で和やかな気分になり、問題や課題があっても前向きな気持ちで取り組める気がします。ただ、時にはそのおおらかな陽気が腹立たしくなるときもありますが。

今でも記憶にあるのが、赴任した1年目のナショナルスタッフとのミーティング時に彼らから「朝礼や工場巡回時の挨拶に笑顔がなく、会議や打ち合わせにおいても怒っているように見えて、意見や相談がしにくい=コミュニケーションが取りづらい」との指摘を受けたことです。コミュニケーションを通じての情報共有は当然重要で海外であればなおさらです。特に赴任時から報連相の重要性をスタッフには話していましたが、私自身ができていなかったという本末転倒な話で、これ以降は意識して笑顔での挨拶、打ち合わせ時の雰囲気づくりに配慮しました。もちろん、簡単にスタイルを変えるのはどうか?と思われる方もいらっしゃるかと思いますが、私自身はスタッフからのアドバイスと受け入れて、彼らと接するようにしました。正直、今現在、コミュニケーションが取りやすい職場環境になっているのかは分かりませんが、問題事項などの悪い知らせは真っ先に報告されているので、赴任時よりかは改善したのではないかと思っています。また、ナショナルスタッフとの距離を縮めるきっかけになったことは事実ですので、この指摘をしてくれたスタッフには感謝しています。今回の執筆に際し、改めてこのことを思い出したので、指摘してくれたスタッフに現在の私はどうか?と尋ねたところ、「TIDAK APA-APA = 問題ない、気にしないでいいよ」との微妙な反応。まだまだ改善の余地がありそうです。

2018年 第18回アジア競技大会


アジア大会 メインスタジアム(ゲロラ・ブン・カルノ・スタジアム)

アジア大会 メインスタジアム(ゲロラ・ブン・カルノ・スタジアム)



今夏(8月18日から9月2日まで)、インドネシアでアジア競技大会が開催されます。大会には45ヵ国・地域から選手や関係者ら1万5,000人以上が参加、実施される競技は47競技462種目で、2020年の東京五輪で実施される約30競技を大きく上回ります。競技種目は武道、カバディ、セパタクローなどアジア特有の競技の他、トランプゲーム「コントラクトブリッジ」などもあります。トランプゲーム=スポーツ競技?ということに少し違和感がありますが、「コントラクトブリッジ」は“運"の要素を極力排除して分析力、推理力、記憶力、戦略や駆け引きの力が求められる競技であることから、国際オリンピック委員会(IOC)にマインド(頭脳)スポーツとして認定されているようです。またポーカー、ジン・ラミーと並ぶ世界三大カードゲームの一つとして位置付けられているようです。
(参考:公益社団法人日本コントラクトブリッジ連盟よりhttp://www.jcbl.or.jp/)

メイン競技会場は、首都ジャカルタのスナヤンにある「ゲロラ・ブン・カルノ・スタジアム」であり、近くには多くの日本人駐在員、家族が住んでいるアパートがあります。

今年2月に準備状況確認のためのテスト大会が開催されましたが、競技会場や選手村の整備不良の指摘に加え、最重要課題は“世界最悪"クラスといわれる首都ジャカルタの交通渋滞です。既に組織委員会は大会期間中の休校を政府に申請している他、企業に対しても時差出勤を呼び掛けるなど渋滞緩和対策に追われている状況です。

現時点で最終決定はしていませんが、これら以外にも大会期間中は何らかの交通規制が実施され、われわれの生活にも支障を来すと考えられますが、1962年の第4回大会以来、56年ぶりとなるインドネシア自国開催を大成功で終えてもらいたいと願っています。


インドネシアは祝日が多い?


社員旅行(IN BANDON)



インドネシアの2018年の祝日、有休奨励日は年間24日あり、内訳は祝日が16日、政府が定める有休取得奨励日は8日となっています。有休取得奨励日を休日にするかどうかは各企業の判断に委ねられていますが、政府機関が休みになることもあり、多くの企業が休日としています。また、奨励日は毎年、レバラン休暇前後に設けられるため、有休奨励日=祝日と個人的には感じています。また、2018年のカレンダーが発表された際、有休奨励日は5日でしたが、新たに3日追加され、インドネシア経営者連盟(APINDO)は生産性の低下を懸念し強く反発していました。

実際に他のASEAN主要国と比べた場合、インドネシアは有休奨励日を祝日としてカウントすると休みが多いです(※2018年 シンガポール11日、ベトナム11日、マレーシア13日、タイ19日、フィリピン26日 国によっては流動的に祝日が追加されることもあり、実際の日数と異なる場合があります。また、祝日が日曜日の場合は日数にカウントせず、振替日のみを日数にカウントしています)。


インドネシアの祝日一覧2018年版

1月2日新年西暦の元日
2月17日旧暦新年2569年に相当。中国暦の元日
3月18日釈迦暦新年サカ暦1940年の元日
3月31日聖金曜日キリスト受難の日
4月15日ムハマッド昇天祭移動祝日
5月2日メーデー固定祝日
5月11日キリスト昇天祭移動祝日
5月30日仏教祭釈迦の生誕祭
6月2日パンチャシラの日国家5原則を記念する日。固定祝日
6月14-14日レバラン前(ラマダン明け大祭)一斉有休取得奨励日。政府機関は休み
6月16-16日レバラン(ラマダン明け大祭)公式の断食明け大祭(レバラン)。移動祝日
6月19-19日レバラン後(ラマダン明け大祭)一斉有休取得奨励日。政府機関は休み
8月18日独立記念日1945年8月18日の独立を記念
8月23日巡礼の日ヒジュラ暦1439年に相当
9月12日回教暦新年イスラムの元日
11月21日ムハマッド誕生の日ムハマッドの生誕を記念
12月25日クリスマス・イブ一斉有休取得奨励日
12月26日クリスマス固定祝日

※2018年5月7日に有休奨励日として6月11-12日および20日が新たに追加された。

ちなみに祝日の内容を見ると宗教関係に起因するものが11日と多いのも特徴です。これはインドネシアには六つの国家公認宗教があり(イスラム、カトリック、プロテスタント、ヒンズー、仏教、儒教)、国民はこれらのいずれかを信仰しなければならない、という法律があります。国民の90%近くがイスラム教徒ではありますが、六つの公認宗教は平等に扱われるため、それぞれが持つ特別な祭日は祝日となっています。

インドネシアは今後、自動車や工業品などの製造品輸出拡大・海外からの投資誘致拡大を目指しており、当面のライバルはタイやマレーシア、ベトナムなどのASEAN主要国となりますが、祝日が多いというのはコスト競争力の面でマイナスになります。ましてやASEANの中でも最低賃金はトップクラスであることから、競合国とのバランスを見ながら有休奨励日を考慮する必要があるかと考えます。

一方、インドネシアの経済成長は内需主導型=個人消費に支えられており、休みが増えることは好影響をもたらすことになるかと考えますが、個人的な感想としては、もう少し休みを減らしてもよいように感じます。それと有休奨励日は急きょ追加されるケースが多く(今年は大型連休1ヵ月前に最終決定)、既に帰省や旅行を計画している多くの人にとってはチケット予約後になるため、もっと早い段階での発表を切に望みます。

おわりに

インドネシアに赴任した4年前、最初に空港に降り立った時は、皆が大きな目でギロッとこちらを見てくるので少し恐怖感を覚えましたが、実際に生活すると皆親切で面倒見がよく、笑顔で接してくれます。これは仕事に関係する人間に限らず、多くのインドネシア人からも同じことがうかがえます。そして、いつも前向きな考えで一緒に仕事をしていても頼もしく感じるし、少しハードルが高そうなことでも何とかなる!と思わせてくれます。もちろん、より慎重・安全に物事に取り組んでほしいという意見もあるかと思いますが、そこは日本人スタッフや幹部スタッフが上手にコントロールすればよいかと考えています。

現在、インドネシアの人口は約2億6,000万人で毎年約500万人増加、平均年齢は29歳であり、1997年のアジア通貨危機以降、2000年からは経済成長率が毎年約5%前後で推移しています。この間に貧富の差はあるものの、生活水準は高くなってきており、モノやサービス、インフラなどあらゆるものが様変わりしました。実際に私の会社でも4年前は携帯電話の所持率は6-7割程度でしたが、今は従業員全員が所持しており、休憩時間になると携帯電話と「にらめっこ」しています。

今後も中間所得者の増加に伴い、個人消費の拡大が期待でき、それに合わせてITを中心に生活スタイルは変化していくかと思いますが、インドネシア人の陽気でフレンドリーな性格、おおらかな心、前向きさ、屈託のない笑顔は、この先もずっと変わってほしくないと願っています。

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