ソウルからアンニョンハセヨ

韓國阪和興業株式会社
社長
西岡 秀平

1996年に初めてソウルに赴任し、現在2度目の駐在で、累計15年当地におります。ただ毎日見続けていますと逆に変化に気付かなくなっていることも多いですが、1996年と現在の違いなども含めて韓国ソウルをご紹介させていただきます。

まず、数字で。韓国の人口は、2013年5,022 万人、1996年は4,553万人でした。増加していますが出生率は1.3%弱と日本より低く、日本以上に学歴社会であるため幼少のころから幾つもの塾に通わせ、子供1人に掛かる教育費が家計を圧迫することも原因の一つのようです。
経済成長率は、2013年は2.84%ですが、 1996年は7.19%もありました。1998年にIMF 通貨危機、2008年リーマン・ショック、と景気の最悪期を乗り越えてはきたのですが、ここ数年は景気が落ち込み、低い成長率となっています。
1人当たりのGDP(名目)は、1996年に1万2,440ドルであったのが、2013年は2万 3,113ドルと着実に増えてきて、大卒の初任給も上がりましたが、物価も随分と上昇、普通の昼食は700-800円、スターバックスのコーヒーは400-500円と、平均月収が日本より少ない韓国では結構な額です。ただ、交通費は安く、地下鉄・市バスはかなりの距離を乗っても100円程度、タクシーは一般と模範と2種類があり(模範は一般料金の約2倍)一般は初乗りが300円弱で、10kmほどで 1,000円強と日本に比べるとかなり安いです。それでも、1996年から比べますと、2倍以上と高くなっています。

政治など。ご存じの通り韓国は国民の直接選挙による大統領制です。任期は5年、1期のみで再選はありません。何人かの大統領が任期を終えた途端に告発を受けるということがあり、それだけ大統領には大きな権限がありたくさんの利権が集中するようです。大きな権限というのは、北朝鮮といまだ停戦中で「戦時下」にあることと関係があるかもしれません。
2013年、韓国で初めての女性の大統領が誕生しました。男尊女卑の国といわれていた韓国ですので(最近は男女平等が一段といわれるようになり、女性の活躍も多く見られます)選挙前には難しいなどという声も聞かれましたが、彼女が両親を悲劇的に失ったことが国民の記憶に鮮明に焼き付けられており、何より亡父(朴パクチョンヒ正熙大統領)の人気が高かったことを追い風に当選しました。
故 朴正熙大統領は在任1963-79年で、その間「漢江の奇跡」といわれる高度経済成長を成し遂げ、現在の韓国の基礎をつくったと絶大の人気があります。一方、昨今、彼が親日家であったこと、日本の陸軍士官学校を首席で卒業したことなど、朴パク槿ク 恵ネ さんにとっては逆風になるようなエピソードが出てきて、また、韓国経済がいまひとつ活発にならず格差の拡大などの問題もあって、国民の不満が噴出していることもあり、国民の反日感情を支持することで韓国内の人気を維持しようとしているのでは、とは私の個人的意見であります。

歴史問題について、韓国では日本の占領時代(日帝時代)のことを小学校の時からいろいろと教育されているようで「過去に日本が悪いことをした」というのは十分に頭の奥に刷り込まれるようです。このあたりのことをあまり詳しく教えない日本の教育とは随分と違います。ただ現実に私が周りの韓国人から日韓の歴史問題について議論を吹っ掛けられるというようなことは全くありません。日本大使館の前に従軍慰安婦の銅像が設置されデモをしていましたが、一部の過激な人たちとマスコミが騒いでいただけのようで、ソウルの街は至って穏やかで、円安の影響で少なくなりましたが日本人観光客も安全に旅行を楽しんでおられます。ちなみに、日本の家電製品、自動車などは品質が良く故障しないと人気があり、このあたりは本音と建前を上手に使い分けているようです。
その日帝時代に日本が建築した建物が今も残っています。ソウルで代表的なものが、ソウル駅、韓国銀行、ソウル市庁舎、新世界百貨店(旧三越)などで、旧三越は建て替えられ、他は多少の手直しなどはされたでしょうが、文化館、博物館、図書館としてほぼそのまま残されています。ソウル駅は東京駅の雰囲気とよく似ており、韓国銀行もどっしりとした石造りの立派な建物です。ただ最近の若い韓国人は、このことを知らない人が多くなっているようです。


ソウル駅


ソウル市庁舎


韓国銀行


食文化。韓国の料理というと「焼肉」そして「赤くて辛い」というのが有名なところでしょう。赤くて辛い調味料が「唐辛子(コチュカル)」それにおみそを混ぜたのが「唐辛子みそ(コチュジャン)」です。この調味料は世界で一番の調味料だという話もあります。それは誰が調理をしてもコチュジャンを使うと同じような味を出せるというものですが、これは少々マユツバ、やはりシッカリとだし汁を取った食堂の料理がおいしいようです。その唐辛子ですが、韓国に伝わったのは豊臣秀吉の朝鮮出兵の時に日本から持ち込んだ、それも食用ではなく武器(目つぶしや毒薬)として、というのが通説で(もちろん諸説あるようですが)、しかしすぐには韓国では広まらず、韓国の辛いキムチの歴史は意外と新しく19世紀以降とのことです。韓国の時代劇では赤い食べ物は出てこないと思いますが、ご覧になる機会がありましたら、そのあたりにもご注目を。

韓国も日本と同じでお箸を使い、お米を食べる文化ですが、一緒にスプーンも使うのが日本とは違います。その結果食事のマナーが日本とは正反対になります。汁物とごはんはスプーンで食べ、決して食器を直接口に付けることはしません。韓国では食器(わんや皿)を持ち上げることは下品とされ、食事をしている間、左手はほとんど太ももの上にありテーブルの上には出しません(お箸、スプーンを左手で使うのはよくない、とされているようです)。
「こじきじゃないのだから器を持って食べるようなみっともないことはするな」と親から教育されるそうです。お箸の文化は、中国→朝鮮半島→日本と伝えられたのだと思いますが、韓国人いわく「中国から伝わってきたお箸は日本に伝えたが、スプーンまでは教えてやらなかった…」とは本当かどうか分かりません。
マナーでもう一つ。お酒を飲むときのマナーですが、お酌を受けるときは必ず右手で杯を持たねばなりません(左利きの人でも)。一説によると、左手で杯を持って、右手は刀の柄を握るという悪意、敵意の表れになるという昔からの風習のようで、儒教の思想からでしょうか、その他にもいろいろと独特のマナーがあるようです。韓国で食事をされる機会がありましたら、ぜひとも周りの韓国人の食べ方をご覧になるのも面白いかも。

最近になってソウルでも日本食の店が増えた、と以前にもレポートされていましたが、1998 年のIMF通貨危機の後に、その立て直しのため、時の金キムデジュン大中大統領が外資の導入を図るために規制緩和し、そのころから日本人が営む日本食レストランができ始めました。日本のお酒が飲めるので私もよく利用させてもらいました。韓国にも清酒はありますが、やはり日本の酒とは味が全然違います。当初は客の9 割が日本人、単身赴任の日本人駐在員が多かったようですが、いつのころからか日本食ブームが起こって最近では9割以上が韓国人客です。それで店によっては、韓国人の嗜好に合わせるように、辛い味に変わっていく所もあり(韓国人のオーナーの店が多いようですが)われわれ日本人にとっては少々残念なこともあります。日本の外食チェーンの店も進出してきていますが、中には日本人がおらずレシピだけ渡して運営させているのか、日本とは似つかない味の店があったりと、これまたガッカリすることもあります。さらに困ることには、よく店が変わり、数ヵ月ぶりに行ってみると全く違う他の店に変わっています。韓国では「権利金」という慣習があり、建物のオーナーとの賃借契約とは別に次の借り主が前の借り主にお金を払うというものです。繁盛していた店ほど高い権利金が受け取れるようで、よく客が入っていた店でも突然変わってしまうこともあり、地道に商売して稼ぐより高い権利金であっさり稼ぐ、ということなのでしょうか、久しぶりに行って目当ての店がなくなっていて途方に暮れるということもありました。

交通事情。道路はよく混みます。ソウルの中心部は夜遅くまで混雑しています。その理由は、ソウルの真ん中を東西に漢江(ハンガン)という大きな川が横切り、この橋を越えるために結構混みます。ソウル市25区、 1,000万人強の人が居ますが、鉄道が日本ほど充実していないので自動車が多いです。ソウル市内は地下鉄1号線から9号線まで、私鉄はありません。その他は無数に張り巡らされたバス路線ですが時間が正確でなく(時刻表はない。渋滞が多いので仕方ない?)、いきおい自動車通勤が多くなるようで、朝夕の通勤時間には1人で乗っている車を多く見ます。そして渋滞が始まると無理な割り込みなどマナーの悪い運転をする人も出てきて、さらにひどい状況になります。


南山タワー

ゴルフ事情。韓国のプロゴルファーは日本や米国で活躍していますが、韓国国内の事情は誰もがゴルフする状況ではありません。ゴルフ場数は韓国全国で500ヵ所ほど、5-6年前までは300 ヵ所以下で、その需給ギャップのためかプレー費も2万5,000-3万円と高価、ゴルフ道具も輸入品が多く高価で、結果ゴルフを始めるのが40歳を過ぎてからというのが実情でした。最近はパブリックのゴルフ場も増え徐々に若い人も始めているようですが。そのプレーは韓国独特のもので、スコアはキャディが付け、いくら大たたきしてもダブルパー以上のスコアは付けず、時々は実際の打数よりも少なめに付けてもいるようです(われわれ日本人がプレーするとき、日本式でと言うとキッチリ付けてくれますが)。コースの管理は良く、クラブハウスも奇麗で立派です。韓国のゴルフはブルジョアの遊びという意味合いが強いのか、打数を競うというよりも気持ち良くボールを打つ、という独特の文化があるようです。

最後に、韓国人は日本人と同じモンゴル民族です。日本海を隔てただけの位置ですがさまざまな文化・考え方の違いがあります。それを見ていると非常に興味深く、また自分が日本人であることをあらためて感じさせてくれます。隣国だからこそ境界、領土問題が存在し政治の面では難しい局面になっていますが、情に厚く食文化も熱い国・韓国、機会がありましたらぜひ、肌で「韓国」を体験してみてください。

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