歓迎 上海!(上海へようこそ!)

双日(上海)有限公司
化学一部 部長
長谷川 稔

会社受付にて


米国ニューヨークに続いて2回目の駐在地、上海。2009年12月末に赴任しました。
入社以来の中国とのご縁。まだ毛沢東語録の名残のある人民服の世界から、世界経済に大きく影響を及ぼす国となるまで、たった 24年程度。この変化の象徴である上海に駐在することになるとは夢にも思いませんでした。
中国4000年の歴史といわれる通り、文化、習慣、風習等、日本と似つつも非なる文化、民族であることを4年が過ぎた現在、上海に生活して強く感じています。

上海の大きな飛躍は、1990年4月の中国政府による浦東地区開発開放宣言に始まり、当時故鄧小平氏は、上海浦東の開発開放について、「浦東の開発を急げ、動揺せずに最後まで達成させよう」と指示。1992年10月に開催された中国共産党第十四回大会は、「上海浦東の開発開放をはじめとして、揚子江沿岸部都市の開放を加速する。上海を国際経済、金融、貿易センターとして建設することで、長江デルタ地域および長江流域全体の新たな飛躍を推進させる」との戦略発展目標を決定し実行。中央政府直轄市だから実現できたのかもしれませんが、たった24年でこの言葉が現実の姿になったことは、中国経済の急成長を物語っていると思います。

上海は2010年に万博、2015年末にはディズニーランドを開園する予定等、世界主要都市としての成長過程を確実に経てきており、人口2,400万人(常住人口)、GDP2兆人民元(いずれも2012年時)、地下鉄が13号線まである、超巨大都市になっています。1990年代に高層ビルは50程度、現在は5,000ビル以上あるといわれており、都市としての大きさを想像できるかと思います。


中国の雄 上海の貪欲さ、サバイバル合戦


上海の街並み 小職の家の付近

上海は昔からの生活感が残る浦西地区と、経済発展とともに成長した計画都市である浦東地区の2区が中心です。政府主導で開発が進み、古いアパートに住んでいた住民が区画整理のために、政府より代替アパートを無償支給もしくは多額の現金を支給される厚遇等で、あっという間に中金持ちが増加。目ざとい上海人は裏情報を基に、借金しながらも不動産や株投資に走り、右上がりの相場で、たくさんの大金持ちを生んだ、まさにChina Dreamを実現した成功者の街でもあります。

世界的な高級車であるランボルギーニは世界で一番売れ、かばんや時計等の高級ブランド品は、まとめ買いをする等、1990年前後にバブルを体験したどこぞやの国よりも豪快かつ貪欲に物欲を追求しているミドル~ハイクラス層が形成されています。
法制度も後からついていくほど、日本の成長姿を数年で成し遂げた原動力は、まさに個人の利害と夢を実現したいという強い思いだったのではと思います。
貪欲な分、自己主張の強さは恐らく中国一(世界一?)ではないでしょうか。街角では大声で口論している姿をどこかしらで見かけます。手は出さない暗黙のルールで、自分の正当性を大きな声で主張する姿、それを見ている大勢の人々。公安(警察)は喧嘩成敗をする審判役なのでしょうが、おもてなしや調和を重んじる日本人から見ると、とてもストレスフルな光景ですね。
交通ルールもわれわれの常識とは異なる秩序があるようであり、歩道を電動バイクがわが物顔で走り、交差点では走行中の車の合間を縫って人が横断するといったスリリングな体験ができます。全てがサバイバルですね。


内と外


米国の場合は、American dreamは皆が平等にチャンスを得られるという前提で、世界各国からの移民を含め、数々の成功体験に支えられ、実力のある者が、夢の実現を達成できる社会的な基本インフラがありますが、中国は、コネと人脈と運を持つ人間がチャンスを得、成功者がますます成功していく仕組みとなっています。歴史的に苦渋を飲んできた中国人は、信用できるのは、自分、家族、親しい友達であり、この利害を最優先して考え、自分たちを守り成長させることに最大の価値を置く、それ故に内と外をはっきりと分けている民族といえます。
これは上海人においても明確にあり、象徴的な言葉が上海人と外地人という言葉です。プライドの高い上海人が田舎者的な軽蔑の意味も含めていうときもありますが、上海には 1,000万人前後の、外地人が存在します。外地人は、言葉だけでなく、戸籍、医療保険、年金等全てにおいて、上海人とは異なる制度となっており、内と外を明確に分けています。
上海の古い街を歩くと、一つの区画が一体化しており、生活空間が一つになっている一角をよく見掛けます。侵略や略奪の歴史を背負った中国人、日本のように政府が最後まで面倒見てくれる歴史はなく、自分たちの身は自分たちで守ることが、遺伝子に刻み込まれているのでしょう。


上海人は日本人より裕福!?


上海市内の街並み

スターバックスが中国で現在1,000店舗、 2015年には1,500店舗を計画しており、日本を完全に抜いて海外第1位になる勢いです。小職が住んでいる街には300m圏内に4件もあり、どの店も人で大にぎわい。世界一高いスタバといわれる中、1杯30元(日本円で 500円前後)のコーヒーが切れ目なく売れていく光景は圧巻です。元高効果もあるのでしょうが、年に1回海外旅行に行くのが普通、かつての日本の元気のいい時代とそっくりです。

日本食屋も中国人で大にぎわい。小職が好きな回転ずしも、中国人が、中トロ!とかサーモンとか、日本人以上に慣れたオーダーをし、金払いも大変よく、うらやましい限りです。
単純GDPで国力を図ることは中国、特に上海の消費マーケット観点からは実態を正確に反映しておらず、特に上海は安全、高級志向が強く、大多数である、斯様な中間層をどのように取り込むかがビジネス上でも大きなポイントとなります。日本料理店が1,000軒以上もひしめく中、生き残りの秘(ひ)訣(けつ)の一つといえるのではないでしょうか。

安く大量に購入する米国の消費者に対し、良質なものを求め、かつ大量に消費へと変わりつつある中国は、今までにない巨大マーケットへと変貌しつつあります。
中国仕様の用汎(はんよう)おむつが主流であった数年前に比べ、安全で高級志向を持つ消費者が急激に増加している変化は、この地で生活しているわれわれが肌で強く感じている部分です。

上海の女性の結婚条件のトップに経済的な条件を挙げているケースが多く、仲の良い恋人が結婚する段に、男性がアパートを持っていない一点で、破談になったことを聞いて驚きました。日本のように、貧しい時代から、一緒に苦労して人生を過ごす価値観からすれば、なんと冷たいクールな関係と思うかもしれませんが、これが上海の常識なのです。従い、結婚後の生活においては、住居費がほとんど掛からない。家族が働くことが当たり前の世界での世帯収入は、子供のため、将来への貯蓄とともに、残りは自分たちの生活を充実させるために消費されています。米国はそもそも消費中心の国、クレジットカードによる使用資金の増加が消費をさらに拡大させていますが、まだクレジットカードがあまり普及していない中国で米国同様のカード社会になったらいったいどうなるのでしょうか。


差不多(チャープトー)の素晴らしさ


中国でよく耳にする言葉に「差不多」という言葉があります。読んで字のごとく、「だいたい」とか、「似たり寄ったり」を意味します。このアバウトさ、許容は国によっても感覚が異なり、例えば米国では、列車の時刻がon timeと理解されるのは、時刻表の±5分。上海においては、地下鉄にも時刻表がなく、誰も文句を言わない。時刻表自体が意味をなさないのかもしれません。ビジネスの交渉時にも、価格交渉等で頻繁に「差不多」が使われます。まあまあ、これで決めようや的なアバウトなまとめ方です。
これは、ビジネスや普段の生活において、 1+1=2と教育されている日本人からすると大変違和感があり、戸惑う部分でしょう。われわれにはいい加減と映る部分もありますが、これはこれで潤滑な社会を形成する、また、人間関係をスムーズに進める上で、長年の歴史の中で生活の知恵なのかもしれません。


最後に


上海駐在4年が過ぎ、中国の良いところ、悪いところを随分と体感してきました。ストレスフルな社会ではありますが、皆が必死に生きるためにサバイバル競争を繰り返し、より良い生活を求めるために頑張っている中国人を見ると、安定が前提で競争意識が薄れているわれわれ日本人にとり学ぶところも多々あるかと思います。
差別から生まれたフェアー、平等を前提とする社会とそれを担保するシステムがある米国に対して、沌混(こんとん)とした社会の中で、個・家・仲間が中心の人脈社会である中国、太平洋をまたぐ、2大国として似て実は全く非なるものも感じつつ、中国は自己中心的ですが、世界をリードする国の一つであることはもはや誰も疑わないでしょう。
20年来の中国の友人と一緒に食事をした際、「10年後には、世界の常識、秩序、ルールが大きく変わっているだろう。非常識が常識に、無秩序が秩序に変わる強い影響力を持った中国の将来を、ここに住む人間として恐ろしさと期待感の複雑な感情を持っている」と話していました。国営企業の一担当から、年商 1,000億円近い老板(経営者)となってChina dreamを体現している彼の言葉だけに、決して聞き逃せないものでした。
中国とのお付き合いを通じて出会った数多くの朋友(ボンユウ:親しい友達)を通じて、あらためて日本人として今後の日本を考える良いきっかけとなった次第です。皆さん、ぜひ上海にいらしていろいろな体験をしてください。「歓迎!」

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