韓国 −近くて遠い国から、近くてもっと身近な国へ−

韓国双日株式会社
管理・企画グループ 次長
内藤 一晃

はじめに


当地では通算10年以上の駐在経験のある方も多い中、2015年2月末に赴任し、本稿執筆時点で半年少しの経験しかない私が韓国について何を語れるのか、不安もいっぱいですが、逆に赴任して間もない今だからこそ感じる驚きなどをお伝えできれば、と思っています。以下では、手元の手帳やメールなどからその日あった出来事を拾いつつ、日記風に韓国での生活をお伝えしていきたいと思います。


2月27日(金)


筆者(オフィスにて)

12時半すぎ、金浦国際空港に到着。ビジネス、プライベートを通じて初めての韓国の地を踏む。交代となる前任者に迎えに来てもらい、住居を決めるまでの仮住まいとなるサービスアパートに。事前のネット情報で、トイレットペーパーが流せないホテル等があると聞いていたが、このアパートもそうだった。トイレ横のゴミ箱に捨てるとのこと。その後はどうしたらよいのかと思っていたら、2日に 1回部屋に掃除が入り、そのときに、ゴミも収集される、とのこと。少しショックを覚える。
その後、会社に出社し、ひと通りあいさつを終え、有志による歓迎会へ。


2月28日(土)


韓国といえば、これ。爆弾酒!

朝9時から不動産巡り。前日の飲み過ぎがたたり頭が痛い中、午前は現地の、午後は日系の不動産業者の案内で都合10件程度の物件を見て回る。当社駐在員は、日本人の多く住む東部二村洞など、龍山区に住んでいるが、最近では単身者や若いご夫婦が住まわれるようになったマポやコンドックのアパート(韓国ではマンションのことをアパートと呼ぶ)も見て回る。韓国では、日本のように2LDK といった間取りはほとんどなく、基本的には 3LDK。トイレも二つあるのが一般的。私は単身赴任ということもあり、龍山区にあるオピステル(=オフィス+ホテル。オフィスにも住居にも使えるアパート)と呼ばれるワンルームタイプの住居に決定。冷蔵庫、洗濯機もビルトイン。当地では昔ながらの名前でオンドルと呼ばれている温水式床暖房も完備。再びトイレの話ですが、最近のアパートは水周りがしっかりしているので、トイレットペーパーも流せます。


3月2日(月)


事実上の初出社。通勤は地下鉄。エスカレーターを歩く人は左側で、東京とは反対。しかし、大阪とは同じ。韓国はパリパリ(パリは急ぐの意味)文化、せっかちな気質といわれるが、アジュンマ(おばちゃん)の雰囲気といい、関西出身の私としては懐かしい感じがする。
また、地下鉄は、通勤時でも日本のように詰め込むことはせず、ある程度、乗ったところで、乗客自身が次の乗客が乗れないように立ち止まる。次の乗客も無理に乗ることはしない。東京で通勤地獄に苦しんだ私としては、ソウルは天国に感じられます。


3月7日(土)


引っ越し当日。この日の手帳を見ると、「ティッシュ、水、はさみ、電気ヒゲそり、乾電池…」等の書き込みが。韓国で必要なものは買いそろえるつもりでいた私は、日本から来るときにスーツケース一つとゴルフバッグのみ担いで、船便なしで着任。アパートから歩いて5分のところに「マート」と呼ばれる、日本で言うところのスーパーがあり、食材の他、基本的な生活物資は全て買いそろえることができる。レジはベルトコンベヤーになっている。レジ袋は有料(50ウォンくらい)。日本に比べて高い。
電化製品はマートでは取り扱っていないが、ここ龍山区には龍山電子商街や龍山電子ランドがあり、こちらで電化製品をそろえる。韓国では電圧は220Vが標準で、通常の日本の電化製品は変圧器なしでは使えない。このあたりは日本の秋葉原にそっくりで、龍山電子商街は外を全部歩くだけで軽く1−2時間はかかりそう。


3月17日(火)


前任者との引き継ぎも無事(?)完了し、前任者から家具を譲り受ける。実は加湿器をもらったのが、とてもうれしい。ソウルは東京に比べて湿度が低く、特に冬は加湿器がないと厳しい。


3月27日(金)


SJCソフトボール大会のキャプテン会議に代理出席。SJCとはソウルジャパンクラブの略称で、1997年に発足した当地の日本人会。商社、金融といった分野別委員会や、労働や知的財産といった専門委員会の法人活動サポートの他、各種催しも実施しており、活動が活発です。タイ駐在経験もある方から伺ったところ、タイも日本人会の活動が活発だが、体感では、当地はその3倍くらいでは、とのこと。私は管理を担当しているため、あまりお客さまと飲みに行く機会はないですが、下手をすると、社内のスタッフよりSJC関係で知り合った方たちと飲む回数の方が多い週もあったりします。
ちなみにですが、ソフトボール大会は当初 6月13日に予定されていましたが、MERS(中東呼吸器症候群)のため、10月9日に延期され、結果、当社チームは7年ぶりに見事、優勝を飾ったことを申し添えておきます。


3月28日(土)


ゴルフ。韓国式では、スコアはキャディが付けてくれ、ダブルパーが上限。当地に来るまでゴルフクラブを握ったことのなかった私でも144が切れます(笑)。もちろん、日本人同士でプレーするときなどでは、日本式でキッチリ付けるので、そのときのスコアはとても他人に言えたものではありません。


3月下旬


それまで現金生活をしていたが、ようやく銀行口座開設。銀行カードはチェックカードと呼ばれ、日本のいわゆるデビッドカード機能が付いている。韓国では、屋台やクリーニング屋さんなど現金しか使えないところもありますが、一般的な食堂やコンビニなどではカード決済が通常です。このカード、地下鉄、バスなどの運賃支払いにも利用できるため、スマホのケースにチェックカードを入れておけば、ほぼ問題なく日常生活を送ることができます。私が感動したのは、このカード、決済するとスマホの文章メッセージに明細が届くこと。利用内容が確認できる他、万が一、カードを落としたときに不正利用されても一目瞭然です。


4月4日(土)


春休みを利用して韓国に来た家族とソウル観光。有名な景福宮に。1日3回、日本語のできるガイドさんが見どころを1時間半くらいかけて案内してくれます。丸い柱は陽を意味し、四角い柱は陰を表すため、王様の宮殿の柱は丸いとか、詳しく説明してくれます。まだまだ韓国語が未熟な私は、景福宮に限らず、観光名所はただ眺めてキレイでは済ませず、せっかくなので日本語でガイドしてもらって、歴史や文化を教えてもらうようにしています。ソウルは、こういった外国人観光客向けに各国言語でガイドしてくれるボランティアが非常に充実しているのも魅力です。


4月8日(水)


朝から終日セミナー。汝矣島(ヨイド)にあるホテルが会場だが、自宅からバスを使ってみる。地下鉄だと2回乗り換える必要があるが、バスなら一本で行ける。ソウルはバス路線が非常に発達しており、縦横無尽、ありとあらゆるところに行くことができる。ただし、大きな停留場だと前後3、4台、別路線のバスが同時に到着し、バスの止まったところまで行って素早く飛び乗ることが必要。乗らないとバスはあっという間に発進してしまいます。順番に所定の場所まで来てからドアが開閉される日本のバスに慣れている私としては、正直、最初は戸惑いましたが、今ではガンガン飛び乗っています(笑)。


4月18日(土)


ソフトボールの練習試合の後、現地スタッフに登山服を選んでもらう。どれがいいか聞いたところ、有名なブランドを勧められ、購入。帽子、インナー、ジャケット、リュック、登山靴等、一式を全て同一ブランドでそろえてみました。韓国人はブランド大好きで、郷に入りては郷に従え、まずは身も心も韓国人になってみる。


5月1日(金)


メーデー。韓国では、一般的に官公庁、通常の企業では休日になっており、この日から日本に帰国。日本から来るときも2時間半で到着したが、偏西風に乗って、日本に戻るときは2時間弱で着いてしまう。ちなみに、日本とソウルは時差がありません。北朝鮮は 2015年8月15日から標準時を変更して、30 分時差ができました。8月下旬に北朝鮮からの砲撃により南北の緊張が高まりましたが、このとき、北側からの軍事行動の期限は8月 22日の午後5時とされましたが、この5時が、韓国時間の5時なのか、北朝鮮時間の5時(つまり、韓国時間5時30分)なのかは、ちょっとした議論となりました。
また、日本に帰国するに当たって、韓国人スタッフから、日本の某胃腸薬を買ってきてほしいと頼まれました。韓国と日本は近いため、たびたび、家族に会いに週末等を利用して日本に戻るのですが、かなりの頻度で胃腸薬をお土産に買ってきてほしいと頼まれます。
また、韓国人は日本のお菓子が大好き。甘いお菓子を買って帰るととても喜ばれます。


5月16日(土)


漢城城郭トレッキングにて

初登山。韓国では登山が盛んで、趣味の第1位は登山との調査もあります。ソウルに来たとき、ご縁あって当地のJETROソウルに幹事役を務めていただいている登山会に入会することになりました。10−30人程度で登山を行うのですが、メンバーは日本人だけでなく、毎回、韓国人も数人から10人程度参加されており、普段は接点のない方と登山を通じて親しくなれる非常に良い機会となっています。私が「先輩」と呼んでいる12歳年上の韓国人の方も私のことをかわいがってくださいました。その方は、タシケントに派遣となり、今は一緒に山に登ることはできませんが、こういう出会いがあるのも登山の素晴らしいところです。
さて、この日は、青瓦台(大統領府)の近くにある仁王山に登る。標高336mとそんなに高くはないのですが、頂上近くは手すりにつかまって登ります。登山にはキュウリがつきもの。水分補給のため、途中の休憩ではキュウリをみんなでかじります。頂上に着いた後は若干下山して、休憩。ここで飲むマッコリは最高です。仁王山は青瓦台が近いため、そちらの方向に向けての写真撮影は禁じられており、写真スポットには警備員がいます。


7月4日(土)


韓国式結婚式の様子(新婦が会社の同僚)

現地スタッフの結婚式に招かれて、韓国第 3の都市、大邱(テグ)に。新郎新婦ともソウル在住ですが、新郎の実家である大邱で結婚式を行うため、貸し切りバスが用意されました。新婦が会社の同僚なのですが、どうやら新郎側のバスに乗ってしまったらしいものの、特に問題なく、3時間半かけて大邱に到着。
受付でご祝儀を渡し、引き換えに式後のレストランでの食事券を受け取る。韓国の結婚式では、新郎新婦とそれほど関係の深くない人も来るので、そういう人たちは、式には参加せず、そのままレストランに向かう。
また、こちらの結婚式は日本に比べてものすごく短い。座席も、父母等ごく一部の親族は当然指定されていますが、それ以外は自由着席。二人のデート写真がスライドで流される中、新郎新婦の入場。式が進行しますが、何と新郎のお父さまが延々とスピーチ! その後、歌手がピアノ演奏付きで歌を披露。新郎新婦とお互いの親との交歓を経て、式は終了します。後から同席した現地スタッフに聞いたところ、通常は、新郎新婦入場の後、主礼と呼ばれる方(通常、新郎側の会社の上司や学校時代の先生など)から、お祝いの言葉があるそうです(日本と同じで良かった)。今回はたまたま珍しいケースに出くわしたようです。


大邱地下鉄3号線

その後、親族は韓国式の結婚式へ。その他の出席者はレストランに移動し、ご祝儀と引き換えにもらった券を渡して、バイキングを頂きます。バイキングを食べている間に、韓国式の結婚式を終えた新郎新婦が韓服を着てあいさつに回る。初めて見る韓服に感動!
さて、結婚式が終わった後、そのまま帰るのはもったいないので、私一人だけ大邱に一泊。4月に開通したばかりの大邱地下鉄3号線(モノレール)に乗ってみました。川の上を走るとてもきれいな路線です。しかも、住宅地ではプライバシーに配慮して、窓が自動的にスモークガラスに変わるスグレモノ。実はこれ、弊社が主契約者として日立製のモノレールを大邱市に納入したもので、開通したら、ぜひ乗ってみたいと思っていましたので、ちょうど良い機会となりました。
3号線に乗って、朝鮮王朝時代の三大市場(シジャン)の一つである西門市場で下車。人だかりになっている屋台を探して、ナプチャッマンドゥと呼ばれる平べったい餃子のようなものを、見よう見まねで注文。中に春雨が入っていて、おいしかったです。韓国観光はいろいろな楽しみ方がありますが、そのうちの一つが市場巡り。韓国各地に地元の市場があって、それぞれの地域のおいしいものを頂くことができます。


おわりに


ここまで、あえて、日韓関係については積極的に触れてきませんでしたが、正直、こちらに来て、日本人だからといって、特に何か嫌な思いをしたことは、これまで全くありません。韓国に来る前に感じていた不安みたいなものは全くの杞憂でした。
距離も近く、顔も似ている隣国人ですが、あくまでも、ここは外国であって自分は外国人であることを忘れなければ、文化や考え方の「違い」はあっても、それを理解した上で、うまく付き合っていこうという気持ちになるはずです。その気持ちは相手にも伝わり、良い相乗効果となって、良好な関係が築けると思っています。個人レベルのこういった関係が、もっと広がれば、と祈ってやみません。
近くて遠い国と呼ばれる韓国が、近くてもっと身近な国になりますように。

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