2023年9・10月号(No.818)
2023年7月19日、西村経済産業大臣以下の経済産業省幹部を当会オフィスにお招きし、当会常任理事と政策懇談会を開催。カーボンニュートラルに関しての環境への取り組みやルール作り、CO2削減への取り組み、経済安全保障やクリティカルミネラル等も含めたサプライチェーンへの取り組み、グローバルサウスへの対応、自由貿易、開かれた世界秩序、同じ価値観を共有する人たちとのアライアンスの重要性、生成AIの活用による事務処理分野での働き方の変容等の喫緊かつ多岐にわたるテーマについて率直な意見交換が行われた。
西村 康稔 経済産業大臣
中谷 真一 経済産業副大臣
太田 房江 経済産業副大臣
里見 隆治 経済産業大臣政務官
飯田 祐二 経済産業事務次官
藤木 俊光 官房長
松尾 剛彦 通商政策局長
杉浦 正俊 審議官(通商戦略担当)
福永 哲郎 貿易経済協力局長
山本 和徳 審議官(貿易経済協力局担当)
常葉 光郎 審議官(貿易経済協力局・農林水産品輸出担当)
鋤先 幸浩 審議官(貿易経済協力局・国際技術戦略担当)
猪狩 克朗 貿易経済協力局貿易管理部長
奥山 剛 貿易経済協力局戦略輸出交渉官
村瀬 佳史 資源エネルギー庁長官
2023年5月に広島サミットでのグローバルインフラ投資パートナーシップに関するサイドイベントへの参加の機会を頂戴し、その機会も踏まえながら、今後対応していくべき課題を3点申し述べさせていただきます。
まず1点目は、自由貿易投資体制の維持と経済安全保障についてです。日本貿易会はサステナブルな世界の構築を掲げ、自由な貿易投資体制は日本のみならず世界経済を健全な成長に導くために必要不可欠という立場を一貫してとっております。一方で、今回のG7では成果文書に初めて経済安全保障というものが盛り込まれ、経済的威圧についても言及されたところです。ロシアのウクライナ侵攻に加えて、インド太平洋地域の平和と安定、とりわけ中国への対応が焦点になったと理解をしています。現下の世界情勢においてはわが国のサプライチェーン強靭化かが喫緊の課題であり、西村大臣が先日出席をされましたIPEF(インド太平洋経済枠組み)の閣僚会議において、参加国間でサプライチェーンに関する協定が合意されたということは、具体的な進展として大いに評価されるべきと考えています。
一方、日本にとって中国経済とのデカップリングというのは現実的ではないと思います。最近の国際社会の中国との関係におけるスタンスが、デカップリングからデリスキングというふうに言われていることも踏まえて、現在の緊張関係を最大限緩和させるべく対話の下、相互に理解を深めながら、本来の自由貿易投資体制を維持していく努力を続けていくべきと考えています。その意味でも、日本の果たしていく役割は極めて大きくこの点でも政府におかれましては、ぜひイニシアティブを取っていただくようによろしくお願い申し上げます。
次に、気候変動対策についてです。言うまでもなく、カーボンニュートラルについてはわが国産業界としても最重要の優先課題でございます。一方で、グローバルに見ると、カーボンニュートラルに向けた各国の現状は極めて多様でありまして、特に急激な変化への対応が困難な新興途上国に対しては、配慮が欠かせないと考えております。新興途上国における脱炭素化、これをより現実的にかつ円滑に進めていくためにも、わが国として各国の事情を考慮したテーラーメイド型のソリューションを提供するなど、官民連携の下で関与の形を探っていくことは大変有意義と考えております。政府には、この点からもさらなるリーダーシップを発揮していただきたいと期待しております。
最後に、広島サミットのサイドイベントに参加させていただいたインフラ投資関連についてです。サイドイベントでは、グローバルインフラ投資パートナーシップ、いわゆるPGIIに関しまして、グローバルサウスのパートナー各国を対象としたインフラ開発において、金融機関、投資家、政府、現地コミュニティなど幅広いステークホルダーとの協力が成功の鍵ということを申し上げました。また、十分なコミュニケーションを通じて全てのステークホルダーが恩恵を享受できることを目指す総合商社の基本姿勢が、官民連携で質の高いインフラ投資を進めるというPGIIの理念に合致することも併せて強調させていただきました。PGIIでは、インフラ投資ギャップの解消のために、2027年までに6,000億ドルを動員することがうたわれており、わが国の企業が高品質のインフラを高い透明性のもと供給していくための強力な後押しとなることが期待されております。
一方で、インフラプロジェクトへの民間資金の円滑な導入を促すためには、案件の予見性を担保する国家間の調整が不可欠であります。また国際開発金融機関、各国の開発金融機関など最大限の活用をすることも望まれております。実現のためにはこれまで以上に緊密な官民連携が必要となり、今後とも政府のご支援ご協力を期待するところです。
本日は早朝からこのような意見交換会の機会いただきましてありがとうございます。日頃から経済産業行政につきましてさまざまなご協力、またご意見やアドバイスもいただいており、ありがとうございます。國分会長におかれましては、広島サミットのサイドイベントで、グローバルなインフラ投資のパートナーシップの在り方をご発信いただき感謝申し上げたいと思います。
この30年、世界はまさに自由貿易、そしてグローバル化が進んできたわけでありますが、グロバリゼーションが進めば全ての国が豊かになる。そして経済の相互依存が高まれば平和が実現されると、そうした確信の下に平和と繁栄のための国際秩序を築き上げてきたわけであります。誰もがこの平和と繁栄がこれからも続くと思っていたわけでありますが、この国際秩序が権威主義国家による挑戦を受けています。そしてロシアによるウクライナ侵略、また経済を武器とする一部の国々への対応、経済的威圧の話が今ございましたが、まさに国際社会における喫緊の課題となってきている。もう国際社会でご活躍されておられる皆さま方におかれましては、こうした変化を如実に感じて、新しい時代におけるビジネスの在り方も模索しておられることと思います。デカップリングが非常に難しい中でデリスキングという考え方が今広がっているわけでありますが、地政学的リスクの高まりだけではなくて、気候変動への対応あるいは格差の拡大といった地球規模、人類共通の課題への対応、これが大きな課題となっています。こうした現実の中で、国際社会の平和と繁栄を維持するためには、信頼できるパートナーとの関係強化、信頼の場を可能な限り広げていくという努力が重要であると考えております。
例えば、広島サミットを含めたG7での枠組みであるとか、あるいはお話がありましたIPEFの交渉、また米国との経済版2+2等のさまざまな機会をとらえ信頼できるパートナーとのサプライチェーンの構築に向けて取り組んでいるところであります。英国が今般CPTPPに加入しました。ハイレベルな協定を維持しながら信頼できるパートナーとのサプライチェーンを強化するものとして大変うれしく思いますし、非常に大事な点だと思っています。國分会長からもお話ありました経済安全保障という視点も重要になってきています。そうした中、信頼の輪を広げていく観点から、グローバルサウスと呼ばれる新興国の国々との関係が鍵を握るわけでもあります。岸田総理が歴訪されました中東諸国、今日私がこの後出発しますインド、あるいは夏にタイミングがうまく合えばアフリカも訪問したいと思っていますが、こうしたグローバルサウスとのパートナーシップ、連携の強化も極めて重要な課題であると認識しております。
お話のありました脱炭素化、気候変動問題への対応につきましては、それぞれの国の事情に応じて、日本の持つエネルギー脱炭素技術をうまく活かしながら連携して対応していくことも重要と思います。中東へ歴訪された岸田総理は、サウジ、UAE、カタールなどとクリーンエネルギー、脱炭素のパートナーとして協力を深化させる方針を示されたところであります。また、昨日「LNG産消会議2023」を開催いたしまして、日本貿易保険(NEXI)が機動的な資金調達が必要なLNGのトレーディング事業に対する支援の第一号案件を発表する予定であることも公表したところであります。こうしたグローバルサウスとの関係をぜひ強化していきたいと思っております。
さらに今こうした状況の中で日本経済はさまざまな制約を乗り越えて成長していくためにはイノベーション、技術革新が重要でありますし、それを引き出していくためのアニマルスピリッツを今日皆さまからお話で伺いたいと思っております。世界を股にかけて世界に広がるネットワークを駆使してアニマルスピリッツでビジネスを開拓してこられておられます皆さま方であります。ぜひこれからも世界のネットワークを活かしながら、アニマルスピリッツで今申し上げたようなさまざまな課題を乗り越える先陣役としてのご活躍を期待しているところでございます。
最後になりますが、福島の復興の大前提となります東電の福島第一原発の廃炉を進めていくことにしておりますが、その中でALPS処理水の処分は避けては通れない課題でございます。この処理水放出後の福島産品、あるいは三陸常磐ものの風評に負けないような販路開拓、消費拡大も重要だと思っております。こうした面でもご協力いただければありがたいと思っています。