【先行掲載】トップフォーラム「新しい資本主義の実現に向けて」(新しい資本主義担当大臣 山際 大志郎氏)

経済再生担当大臣
新しい資本主義担当大臣
新型コロナ対策・健康危機管理担当大臣
全世代型社会保障改革担当大臣
内閣府特命担当大臣(経済財政政策)
山際 大志郎

2022年7月20日(水)開催の当会常任理事会にて、新しい資本主義担当大臣 山際 大志郎氏にご講演いただきましたので、その要旨をご紹介します。


新しい資本主義の基本的な考え方


新しい資本主義担当大臣
山際 大志郎 氏

岸田首相が掲げる「新しい資本主義」は、これまでの資本主義のバージョンアップを目指すものであり、①新たな官民連携、②社会課題解決を通じた経済成長、③民間も公的役割を担う社会を基本的な考え方としている。

岸田首相のこの考え方は、主に二つの問題意識に起因している。一つは、資本主義そのものが内包している矛盾、システム上の問題である。資本主義というのは、資本を使ってお金を増やしていくというシステムであり、資本をたくさん持っている人は、その資本をより増やすことができるが、資本を少ししか持っていない人は少ししか増やすことができない。すなわち、資本を多く持っている人と、あまり持っていない人との間に大きな差が生じるというのが、資本主義のシステム上の特徴である。

このような持てる者と持たざる者との格差の広がりが世界中で問題視されている。わが国でも、諸外国に比べればそれほどでもないかもしれないが、この格差は広がりつつある。また、徐々にではあるが、格差が固定化されつつあるというのが、われわれの認識である。

そして、子どもの相対的貧困率も無視できないだろう。現在の日本では、子どもの5−6人に1人は相対的貧困とされている。子どもが10人でグループ活動をしたら、1−2人は経済的に支障が起きてしまうという状況にある。

このように大きくなりつつある資本主義のシステム上の問題点を是正しなくてはならないというのが、「新しい資本主義」の根底にある問題意識の一つである。

もう一つは、外部不経済の是正である。資本主義において、企業の最大の目的は自社の利益の最大化であり、各社その目的達成に向けて事業活動を行っている。しかし、それはいわゆる合成の誤謬となり、個社は最大の利益を得るかもしれないが、中長期的に見ると社会は不利益を被ってしまうという問題がある。環境問題が良い例である。現在の資本主義の仕組みで環境問題を解決しようとすると、コストが余計に掛かり経済的にはマイナスに働くので、何年たっても解決できないだろう。それならば、資本主義の方を変えて、環境問題を解決することが利益につながっていく仕組みをつくれないかという観点から生まれたのが「新しい資本主義」である。

先人たちが必死になってつくってきてくれた資本主義というシステム全てを否定するわけではなく、問題点を改善して資本主義にもう一度ビルトインするという発想の下、生まれた考え方である。その目的意識は、これまでの資本主義が内包する格差や外部不経済の問題に正面から取り組むというものである。

これらの問題に取り組もうとすると、当然、コストが掛かる。よって、今の仕組みのままではビジネスにならないことは目に見えている。経済として見合うようなシステムに変えていくため、民間の皆さまだけにお任せするのではなく、国や地方自治体などの「官」がきちんとお金も人も出して、ビジネスとして成立するところまで民間に伴走して一緒に取り組むことを目指している。

また、「新しい資本主義」を実現していく上で、人に対する投資も不可欠である。日本では、ものづくり産業が強い国として経済成長を遂げてきたこともあり、加工貿易を行うための工場や機械、システムに対してこれまで積極的に投資が行われてきたものの、そこで働く人の重要性はそこまで評価されていなかった。しかし、諸外国、特に米国では、会社にとって最も大切なアセットは人であると言われて久しい。現在、ニューヨークの株式市場では、投資家は企業が有する人を資産として評価し投資先を決めていることからも分かるように、会社が生き残るには人への投資が重要になっている。

日本も、人に投資を行っていかない限り、資本主義のバージョンアップという新しい境地を開くことはできないだろう。岸田内閣では、人への投資に対する価値を正しく評価できるシステムをつくることを目指している。その第一歩として、人的資本を含む非財務情報の見える化を進めたいと考えている。


ご講演資料(抜粋)


新しい資本主義実現に向けた四つの重点分野

2022年6月に発表した「新しい資本主義」の実行計画では、重点的に投資すべき分野として「人」「科学技術・イノベーション」「スタートアップ」「GX及びDX」の四つを柱に掲げている。この四つの重点分野について、もう少し深掘りしてご説明する。

人への投資と分配

賃金引き上げについて、企業の皆さまにもご協力いただき、この春闘では過去20年間で2番目に高い賃上げ率を実現していただいた。しかし、物価高騰に賃金の上昇率が追い付いておらず、実質賃金はマイナスとなっているのが実情である。政府もさまざまな手を尽くしているが、この物価高騰はまだ止まる気配がない。このまま実質賃金が下がり続けると、政治的にも社会的にも不安定になってしまう恐れもあり、官民で共同して賃金を上げられる状況をつくっていきたい。

また、先にも述べた人的資本等の非財務情報の株式市場への開示については、金融庁を中心に指針の作成を進めており、今夏ごろの発表を目指している。

加えて、個人資産をより有効に利活用していただくべく、貯蓄から投資へのシフトのための「資産所得倍増プラン」を年内には皆さまにお示ししたいと考えている。日本人は、個人レベルで株式などへの投資を行う人は少なく、大半の方は預貯金に回しているが、成長の拠点はもはや日本ではなく諸外国、特に発展途上国にたくさんあり、その諸外国に投資を行えば、それに見合ったリターンが得られるはずである。投資を行うに当たっては当然リスクも考慮する必要があるが、日本の豊かな社会を維持していくためには、日本人がもう少しアクティブに資産を運用できるような環境と雰囲気をつくることが重要と考えている。

科学技術・イノベーションへの投資

わが国は研究開発投資の伸び率が他の先進国と比べて低い。研究開発が過小投資とならないよう官民で取り組むことが重要であり、量子、AI、バイオ、再生医療など、わが国の国益に直結する科学技術分野への官民連携による投資を抜本的に拡充したいと考えている。いずれの分野も一朝一夕で結果が出るものではないが、日本に勝ち筋がある分野である。一例を挙げると、再生医療についてはiPS細胞で日本は一歩リードしている。周辺の特許を取られて苦戦している部分もあるが、まだ勝ち筋がたくさんある分野である。

これら四つ以外の分野も含めて、わが国の研究開発を後押しするために10兆円規模の大学ファンドによる支援や大学の教育改革など、国が取り組むべきところはきちんと支援していきたい。

スタートアップへの投資

スタートアップの育成は、日本経済のダイナミズムと成長を促し、社会的課題を解決するカギである。ソニーとホンダが良い例である。両社は、創業後、数十年がたった今、世界を代表する企業に育っている。今や世界中で知らない人は誰もいないと言われるほど有名な企業だが、かつては戦後から10年の間に雨後のたけのこのごとく生まれたスタートアップの一つであった。

岸田内閣は、これから50年、100年先に第二のソニーや第二のホンダをつくることを目指し、スタートアップ育成5ヵ年計画を年内に策定する予定である。

今の若い人たちは、「いい会社に入りたい」「社会で成功したい」というよりも、「社会課題を解決するために自分の力を使えないだろうか」という意識を持っている人が多い印象がある。こうした若い人たちはわが国にとって財産であり、最大限バックアップしていく必要があると考えている。

企業の皆さまも、社内でスタートアップを起こすための工夫を凝らしたり、国内のスタートアップに投資を行ったり、さまざまな意味でスタートアップを支援する側に回れるはずである。メインプレーヤーである若い人たちを支援しつつ、一緒に新たなビジネスを生み出していただきたい。

GX及びDX投資

2050年カーボンニュートラルに向けて、経済社会全体の大変革に取り組む必要がある。萩生田経済産業大臣も発表した通り、今後10年間に官民協調で150兆円規模のGX投資を実現するべく、GX経済移行債(仮称)の創設や規制・制度的措置の活用など、国が取り組むべきところはしっかりと支援していきたい。

また、DXは、新しい付加価値を生み出す源泉であり、社会的課題を解決するカギであることから、デジタル田園都市構想を推進し、DXへの投資も拡大していきたい。

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