トップフォーラム「我が国のデジタル政策」(デジタル大臣 行政改革担当大臣 内閣府特命担当大臣(規制改革)牧島 かれん氏)

デジタル大臣 行政改革担当大臣 内閣府特命担当大臣(規制改革)
牧島かれん

2021年11月17日(水)開催の第371回常任理事会にて、牧島かれん大臣(デジタル大臣、行政改革担当大臣、内閣府特命担当大臣(規制改革))にご講演いただきましたので、その要旨をご紹介します。


デジタル庁による誰一人取り残されないデジタル改革に向けて


デジタル大臣 行政改革担当大臣 内閣府特命担当大臣(規制改革)
牧島 かれん 氏

コロナ禍でデジタルにおける危機感が浮き彫りとなる中、デジタル庁が2021年9月1日に発足した。霞が関の慣習にとらわれない新しい組織として、「Government as a Startup」「Government as a Service」の二つのビジョンを掲げ、デジタルの力で国民が必要としているサービスを提供することを目指している。デジタル庁の職員約600人のうち、約200人は民間から採用し、日本の行政を変えるキーワードとして長く提唱されてきたリボルビングドア(注1)を目指している組織である。デジタル庁がこれからの官庁のロールモデルとなり他の省庁までも変えていけるよう、気概を持って取り組みを始めている。2015年9月の「国連持続可能な開発サミット」で採択された「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」では、SDGsにおける取り組みの過程で「誰一人取り残さない(no one left behind)」と誓っているが、我々はそれをデジタルで実装していく。

注1 リボルビングドア(回転ドア):官公庁と民間企業等との間で人材の流動性を高める仕組みのこと。


デジタル田園都市国家構想とは


「平時の安全」「有事の安心」につながる「人に優しいデジタル化」に向けて岸田総理大臣が推進されているのが、デジタル田園都市国家構想である。地域の「暮らしや社会」「教育や研究開発」「産業や経済」をデジタル基盤の力により変革し、特に高齢化、少子化の影響が大きい地方の活性化を推進していきたい。5GやWi-Fiなどのデジタル・インフラにおける「大都市の利便性」を全国規模でも高め、自然環境などの「地域の豊かさ」と融合させることでデジタル田園都市を築いていく。基盤となるデジタル・インフラの整備に地域差が出ないよう、国が主体となって基盤を整備し、デジタルを活用して地域がそれぞれに発意し、国と地方が一体となって国家の未来を創ることをデジタル田園都市国家構想として示した。日本のどこにいてもデジタル田園都市を感じる基盤をつくり、心豊かな暮らしを営むためのWell-beingと、持続可能な環境・社会・経済を形作るSustainabilityの二つを大切に育てていきたい。首都圏から地方に移住する場合、教育環境への不安感など、人流の弊害になっている要素があるため、GIGAスクール構想によるタブレット端末の有効活用など、IT環境を活かして子どもの未来を支えていけるよう基盤を整えたい。また、地域の大学や高等専門学校(高専)の方々に地域の産業変革の中核として活躍してもらいたい。地方の魅力をそのままに、デジタルの力で都市に負けない利便性と可能性を広げ、「暮らしの変革」「知の変革」「産業の変革」を成し遂げていきたい。


デジタル田園都市国家構想実現に向けた取り組み


全関係省庁、産業界やアカデミア、海外プレーヤーも巻き込み、地方自治体やビジョンを共有する事業者が一丸となってデジタル田園都市を構築するため、以下の八つの取り組みを通して、デジタルの恩恵を日本全国に広げていく。


時代を先取るデジタル基盤整備


5G、データセンタ―、公共Wi-Fi、インフラシェアリングなど世界最高水準のデジタル・インフラの整備を行い、国と地方が一体となって公共サービス基盤(業務改革と公共サービスメッシュ)を構築する。


先端的サービスの普遍的提供


健康医療、教育、防災、モビリティなどの主要サービス分野について、国が必要なツールや知見を開発(基本パッケージ)し、積極的に地域に提供する。
※相互運用性の確保、APIの公開など、デジタル原則を大前提にスマートシティ関連施策(スーパーシティを含む)を抜本的に強化することで、地域を選ばず最先端サービスの提供が可能となる。


デジタルの恩恵を地域が享受するための制度整備


新サービス実装に向けた制度改革、新たな人材の開発・活用の仕組み、地域通貨活用などの事業環境の整備をデジタル臨時行政調査会と連携して実現する。


地域産業の高度化


スマート農業、建設分野でのiConstruction、配送分野でのドローン活用など随所でデジタル技術を活用し、地域産業を都会の若者にとっても魅力のあるものに変革する(新産業領域の創出)。農林水産省や国土交通省などの省庁や地域ベンダー、ベンチャー企業と連携し、地域企業の新たな活躍の場を創出する(デジタル下請けいじめの根絶を含む)。


官民学一体となった事業環境の構築


全国各地における次世代型サテライトオフィスの構築から始まり、大都市や諸外国の産業を積極的に誘致し、地域から新産業を創出する環境を整備する。官民学一体となった事業環境を構築し、地域発の新産業の創出を促進し、地域の活性化につなげる。


大学・高専を中核とした地域の高度化


大学や高専を中核として、デジタル技術等先端的知見を活用して地域課題を解決し、併せて時代の求める先端人材を育成し、新産業を創出する。大学、民間、自治体の間で、先端的人材の好循環を確立する。
地域の大学・高専の人材には地域の高度化を推進するプレーヤーになっていただきたい。また地域の皆さまには課題をオープンにして、デジタル人材の協力が必要な旨を発信していただきたい。先端の人材や技術は課題に積極的に取り組む環境でこそ磨かれる。課題先進地域こそが、課題を解決する先進地域になることができると考える。


地域のWell-beingの向上と持続可能性の確保


地域ごとにWell-being指標を定期的に測定し、KPIを設けて恒常的に改善を進め、デジタル技術等を活用した循環型経済社会やカーボンゼロ地域を実現する。


継続的発展のための枠組み


経済産業省と内閣官房(まち・ひと・しごと創生本部事務局)が提供している地域経済分析システム(RESAS:リーサス)なども活用したオープンデータを促進し、地域経済ダッシュボードを確立する。適切なKPIを立てて、地域の事業者を巻き込んだ、デジタル田園都市産業の成長サイクルを設計する。例えば、地方活性化のための交付金の関係書類をデジタルで申請してもらう。データを検証する理由やEmployee Value Proposition (EVP:従業員価値提案)に取り組む根拠などをしっかりとご説明いただく過程で、デジタル庁や関係府省が地方公共団体の担当部署をサポートしつつ、地方の成長を促していく。加えて、新型コロナウイルス感染症の地域経済に与える影響の把握および地域再活性化施策の検討におけるデータ活用を目的として開発されたV-RESASも活用し、コロナ禍での消費動向等を分析した施策の検討なども行っていただきたいと考えている。

また、デジタル庁立ち上げの時からデジタルデバイド対策について議論を進めている。高齢者や障害者がデジタルに苦手意識があるとは限らないため、どこにフォーカスしてデジタルデバイドを解消するか戦略立てが難しい面があるが、デジタル推進委員をはじめとし、国と地方が一体となったサポートを行い、デジタルリテラシー向上とデジタルデバイド対策に取り組んでいく。


さまざまなアプローチ、デジタル基盤の確立と共助のビジネスモデル


デジタルのアプローチから見るデジタル田園都市国家構想の取り組みイメージは、人生100年時代のそれぞれのライフステージをデジタルで支えるものである(図表1参照)。ベース・レジストリ(注2)を含めたインフラ整備や国土空間データを3Dでオープンソース化するプロジェクトなどが各省で進んでいるが、デジタル庁としても課題の解決に向けて専門委員会を立ち上げて検討を進めている。

デジタル田園都市国家構想は、狭い意味での「まちづくり」にこだわらず、オープンなデジタル基盤の上に、さまざまなアプローチを軸に同じ指向性を持つ相互に連携可能なサービス事業者を集め、国・地方が一体となって、官民一丸となった取り組みの実現を目指していくものである。デジタル田園都市の実現には、データ連携基盤をはじめ、ID・認証基盤などの共通サービスを支えるデジタル基盤が必要となる。基盤の運営・構築を持続可能な形で担うために、官民学の全員が参加し、民を中心に管理・運営する共助(シェアードエコノミー型)のビジネスモデルを国が積極的に支援し、確立していく。

デジタル田園都市国家構想の実現に向けては、当面の具体的施策および中長期的に取り組んでいくべき施策の全体像を、年内にとりまとめる。

注2 ベース・レジストリ:公的機関等で登録・公開され、さまざまな場面で参照される、人、法人、土地、建物、資格等の社会の基本データであり、正確性や最新性が確保された社会の基幹となるデータベースのこと。

図表1 デジタル田園都市国家構想の取組イメージ(デジタルからのアプローチ)


出典:内閣官房ウエブサイト


デジタル臨時行政調査会について


「国民や地域に寄り添う」とともに「個人や事業者がその能力を最大限発揮」できる社会をデジタルの力で実現し、規制改革等を一気に加速させてデジタル化の遅れの原因を解決することを目的として、デジタル臨時行政調査会(以下、「デジ臨」)を設置した。デジ臨において、やるべき規制改革を行い、今の社会にふさわしいルールを整え、その上に全国でデジタル田園都市を広げ、個人や事業者、デジタル人材が持っている能力を最大限、適正に発揮できるようにする。デジ臨でデジタルに関連する全ての改革に通底する共通の指針として「デジタル原則」を策定する。11月16日に岸田総理を会長とし、第1回会合を開催し、キックオフした。デジ臨設置の背景としては、我が国全体のデジタル化の遅れ、コロナが浮き彫りにした構造的課題の二つが挙げられる。IMDの世界デジタル競争力ランキングでは、日本は2020年は27位であり、2021年は28位と一つ順位を下げた(図表2参照)。また、コロナが浮き彫りにした日本のデジタル化の遅れは全ての分野に通じる本質的課題でもある。例えば、コロナワクチンの3回目接種については、対象者が引っ越してしまうと接種記録を追えないケースがある。児童虐待が疑われるケースでは、市役所、医療機関、学校でのデータ共有が行われていないため、福祉の手が及ばない事態も発生している。日本の産業分野でスタートアップ企業が生まれづらいのは、規制や慣行などが障壁となり、現場のデジタル化に遅れが発生したことに問題がある。国民がデジタルを活用したより良いサービスを享受し、成長を実感できるためには、国を構成する「国民」「社会」「産業」「自治体」「政府」といった主体・分野にまたがる本質的な「構造改革」が必要である。デジタル改革、規制改革、行政改革を全体的に捉えて一体的に解決すべき課題が存在する。この三つの改革を1人の大臣に一任することに、大きな構造改革を今こそ行うという岸田総理の覚悟が表れている。

図表2 デジタルにおける我が国の立ち位置


出典:デジタル庁ウエブサイト


「デジタル原則」の方向性


「デジタル原則」を共通の指針として、法律、行政組織、デジタル基盤等の経済社会制度を構成する重要な要素を早急につくり直すための礎にしていただく。DFFT(信頼性のある自由なデータ流通)に基づく国際枠組みの形成も含めて、国内外での連動した対応の具体化を検討する際、デジタル完結・自動化原則が特に重要なキーワードとなってくる。デンマークでは2018年からデジタル原則にのっとっていない法律は新たに制定されないことがルール化された。日本でいえば、内閣法制局の審査を受け、既存の法律との整合性を確認し、新たな法律を作ってきたが、デンマークでは、これに加えてデジタル原則への適用もチェックされている。新規法令のデジタル原則への適合性を確認するプロセスや体制について議論していかないといけない。今から数ヵ月かけて、全ての産業や省庁にまたがる規制や制度を総点検し、類型化して具体的な見直しや切り口を示した上で、一括して法改正を目指す。2023年の通常国会での成立を目指しているが、既に、できるところから、デジタル時代の規制・制度の見直しを進めている。これまで設備や機器の定期点検では書面提出、目視確認等が義務付けられているため点検作業時にいったんオペレーションをストップせざるを得なかったが、デジタルの活用により作業を効率化できるように規制や制度の見直しを行った。建設現場などではリスクレベルにかかわらず、規制が画一化されていることがあるため、レベルに応じた規制制度への変更を求めている。常駐が義務付けられている有資格者業務などはオンライン対応可能と規制を緩めた案件もある。このように経済・社会のデジタル化の進展は、現行の規制・制度では対応しきれない新たな課題を生み出している。「デジタル原則」の方針に基づき、デジタル改革、規制改革、制度改革を進め、法律、行政組織、デジタル基盤等の経済社会制度を構成する重要な要素を早急につくり直し、国民がより良いサービスを享受し、成長を実感できる社会を実現していく。

(参考)デジタル庁はリボルビングドアを目指している組織であり、民間からの職員を通年で募集中です。 https://www.digital.go.jp/recruit/career

トップフォーラム「我が国のデジタル政策」(デジタル大臣 行政改革担当大臣 内閣府特命担当大臣(規制改革)牧島 かれん氏) 誌面のダウンロードはこちら