トップフォーラム「コロナの現状と今後の日本経済」(経済再生担当大臣 西村 康稔氏)

経済再生担当大臣
TPP担当大臣
全世代型社会保障改革担当大臣
新型コロナウイルス感染症対策担当大臣
西村 康稔

2021年7月21日(水)開催の当会常任理事会にて、経済再生担当大臣 西村 康稔氏にご講演いただきましたので、その要旨をご紹介します。

G20等各国の感染状況


新型コロナウイルスの感染状況について、ワクチン接種が進んでいる英国は、感染者数が1日に5万人程度と再び増加傾向にあるものの、死亡者数は抑えられている。その一方で、宗教上の理由等からワクチンを接種しない・できない人も一定数おり、酸素吸入が必要な中等症程度の40−50代の患者が増えている。入院者数も増加していることから病床のひっ迫につながっている。

米国、フランスも同様の傾向にあり、高齢者を中心にワクチン接種が進んでいることから死亡者数は非常に低く抑えられている。

マレーシア、インドネシア、タイなどの東南アジア諸国では、ワクチン接種のスピードが遅く、接種割合がまだ低い中、インドで発生したデルタ株が広がってきていることもあり、このところ急激に感染者数が増えている。

新型コロナウイルスは2週間に1回のスピードで変異しており、ワクチンを回避する感染力の強い変異株が発生する場合もあるが、一般的に感染力が強い変異株は重症化しない傾向にある。また、宿主との共存という意味で中長期的にウイルスは弱毒化していくというのが一般論ではあるが、当面さまざまな変異が起こるため、どのように対応していくか課題になっている。

翻って、日本の感染状況をみると、やはり人流と感染者数は相関関係にあり、特に飲食の場等でマスクを外して長時間会話する場合、感染リスクが高まる。若い年代でも重症化したり後遺症が残ったりするリスクがあるが、なかなか伝わらず人流を抑制できていないのが現状である。また、東京・銀座ではワクチンを接種したと思われる60−70代の人出が増加しているが、1回の接種では安心できないことを改めてご留意いただきたい。

ワクチン接種の状況

日本でのワクチン接種について、7月19日時点で累計約7,200万回のワクチンが打たれている。100人当たり何回打ったかという指標(1人2回打つため最大200回となる)でみると、約56回となる。この指標でみた時、英国は120回、ドイツと米国は100回、フランスは90回強であり、90−100回程度で現在の欧米の状況になってくる。日本も、毎日120万回のペースでワクチンを打てば、8月20日ごろには現在の欧米と同じ状況になる見込みである。

ワクチン接種の効果

ワクチン接種の効果について、米国の調査では、死亡者は約0.0001%(100万人に1人の割合)、感染者は約0.01%(1万人に1人の割合)に抑えられるとされている。また、英国の調査では、英国由来のアルファ株、インド由来のデルタ株にも効果を発揮し、約9割発症を予防できるとされている。

しかし、ワクチンは2回打って2週間程度経過しないと効果を発揮しない。英国の調査によると、1回のワクチン接種では、アルファ株は51%、デルタ株は34%しか発症予防効果がないため、注意する必要がある。また、ワクチンを2回接種し2週間が経過しても感染してしまう事例はゼロではない。ワクチンの発症予防効果は高いものの100%ではないことに留意し、行動する必要がある。

現役世代の感染拡大

ワクチン接種により高齢者の重症化、死亡者数は抑制されている一方で、40−50代、若者の感染・入院者数は増加傾向にある。現役世代の感染拡大は、酸素吸入が必要な中等症の入院者の増加による医療ひっ迫をもたらすリスクがある。また、若い年代でも嗅覚障害、味覚障害、脱力感、倦怠(けんたい)感、脱毛といった重い後遺症に長期間にわたり苦しめられるリスクがある。毎日5万人が感染した場合、濃厚接触者も含めると約20万人が自宅療養あるいは入院を強いられ、それが10日続けば200万人の現役世代が隔離される計算となり、社会経済活動にも甚大な影響が出てくる。

新型コロナウイルスの生存時間は付着する表面の素材により異なり、段ボールは24時間、紙幣は約1週間、ウイルスが生存するとされている。最近は、大きなクラスターは減っているが、駅の切符を買うボタンで感染するなど、非常に少ないものの接触感染のケースもあるので、引き続きこまめな手洗い、消毒を行っていただきたい。

ワクチン接種と検査の拡充

ワクチン接種が進むまでの間、抗原検査キットやモニタリング検査、旅行検査など、PCR検査以外にも迅速、安価かつ簡易に実施できる検査を拡充し、医療機関・高齢者施設、大学・高校・専門学校等で積極的に進め、感染拡大防止に活用することが重要となる。

中でも抗原検査キットは、PCR検査などに比べて短時間で検査結果が判明し、大規模な検査機器も不要なため安価で検査を実施できる。PCR検査と比べるとウイルスを検出できる範囲は少ないものの、他の人に感染させる恐れのあるウイルス量がある人や、熱はなくても、のどに違和感があるなど少し具合が悪い人については有効である。また、事業者の皆さんが医療機関を介さず医療品卸売販売業者から直接入手することができる。陽性者が出た場合、事業者が決めた範囲で行政検査を無料で実施することが可能となるため、1回目の検知を補助するために積極的にご活用いただきたい。

今後、ワクチン接種が順調に進めば、8月下旬には現在の欧州と同じような接種状況になる見込みである。その頃に、また、希望者全員のワクチン接種が完了する見込みである10−11月ごろに、人々の生活がどのように変わるのか、何が可能となるのかを専門家の皆さんと議論している。ワクチン接種や抗原簡易検査、接触者確認のためのQRコードを活用した仕組み等を組み合わせることで、イベントや飲食店での安全を確保しつつ、経済活動を緩和できないか検討していきたい。

日本企業における人材育成の在り方

IMFによると、2021年中には主要先進国の実質GDPはコロナ前の水準に回復する見通しである。日本は、雇用調整助成金や無利子・無担保の融資等の支援策を講じたこともあり、実質GDPの落ち込みは他の国に比べると小さかったものの、中長期的な成長力が課題となっている。足元の数字をみると、輸出や鉱工業生産はコロナ前の水準に戻ってきており、日銀短観の設備投資計画をみても、ソフトウエアや研究開発投資の意欲が高まっている。

今後、アフターコロナに向けて、成長分野にいかに投資し、新しい動きを加速させていけるかが肝になってくる。大事にしなければならない企業の文化もあるとは思うが、新しい時代を切り開いていく多様な発想、多様な人材を取り入れることが重要であることを改めてお伝えしたい。日本企業が有する技術力、イノベーションを起こす力を最大限に発揮するためにも、女性、特に理工系女性の活躍推進や、職業経験を積むためのインターンシップ、中高年のリカレント教育、兼業・副業の環境整備も含めて、多様な形で人材を育成していくことを考える必要がある。

わが国の主要な経済連携協定

日本は、TPP11、日EU・EPA、日米貿易協定により、世界GDPの59%(約5,000兆円)、貿易額の59%(23兆ドル)、人口13.4億人の巨大な市場を構築している。

TPP11については、まだ4ヵ国が批准に向けた国内手続きを終えていない状況ではあるが(注:ペルーは7月21日に国内手続きを完了)、各国の情勢を見極めつつ早期に手続きを完了していただけるよう閣僚会談等の機会を通じて働き掛けている。また、英国との交渉が開始予定であることに加え、フィリピンやインドネシアも加入に対して関心を示している。

今後、英国が入ることによってTPPは広がりを持つため、単に関税の引き下げ、自由化というマーケットアクセスだけではなく、投資や知的財産、政府調達といったさまざまなルールをオープン化するなど、大きなモメンタムになっていく見通しである。世界が内向きになっていく中、米国とも対話を続けながら、デジタル貿易やサプライチェーンの強靭(きょうじん)化も含めて議論し、TPP拡大に向けて取り組んでいきたいと考えている。

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