持続可能な社会の実現と商社 <第9回・最終回>「気候変動関連の情報開示」

はじめに

前回の連載でESG投資を取り上げた際、ESG関連情報の開示に当たり、「ESGデータブック」「ESGコミュニケーションブック」などの名称で一元的に集約した報告書を作成する取り組みが始まっていることを紹介しました。このうち気候変動関連の情報については、G20財務大臣・中央銀行総裁会議の指示により金融安定理事会(FSB)が設置した「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」の提言(以下「TCFD提言」)が2017年6月に公表されたことをきっかけに、投資家等からの情報開示の要請が高まり、これに対応する動きが全世界、全産業分野で加速しています。

TCFD提言とは

TCFDは2015年12月にFSBが設立を公表、その後約1年半かけて提言をとりまとめました。TCFD提言は、投資家が意思決定を行うために、投資先企業における気候変動関連のリスクと機会が、将来のキャッシュフローと資産・負債にどのように影響するかを理解する必要があるとの観点から、全ての企業に気候変動の財務影響把握と開示を求めています。具体的には、(1)2℃目標等の気候シナリオを用いて、(2)自社の気候関連リスク・機会を評価し、(3)経営戦略・リスク管理に反映、(4)その財務上の影響を把握、開示することとしています。また、TCFD提言は、開示を標準化するため、次の開示項目を示しています。
1.気候関連リスクと機会に関する組織のガバナンス
2.組織の事業・戦略・財務への影響(重要情報である場合)
3.気候関連リスクの識別。評価・管理の状況
4.気候関連リスクと機会の評価・管理に用いる指標と目標(重要情報である場合)

広がるTCFDへの賛同表明

TCFDでは、世界の投資家、企業、関係機関等から、提言の趣旨に対する賛同表明を募っており、2019年2月時点で580を超える企業・機関・団体が賛同しています。日本でも経産省、環境省、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)等の公的機関に加え、金融機関、各産業分野の企業を含め57に達しており、急速に賛同の輪が広がっています。

TCFD提言自体は、気候変動抑制のために特定の目標を提示したり、そのための取り組みを推奨するものではありません。しかし、その提言に沿って、企業が気候関連リスクを適切に評価・管理して開示することは、投資家や金融機関のニーズに応えるとともに、信頼の向上につながり、投資や金融の増加が期待できます。また企業自身にとっても、これらリスクと機会に関する認識・理解の向上は、リスク管理の強化とより正確な情報に基づく戦略策定に寄与するというメリットがあります。

こうした状況を踏まえ、当会会員の中でもTCFD提言に対する賛同表明が広がり始めています。当会としても、今後、関係委員会・研究会でTCFD提言に対する理解を深め、対応を強化するための取り組みを具体化していく予定です。

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