持続可能な社会の実現と商社 第8回「ESG投資への対応」

はじめに

ESGとは、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の頭文字を取ったものです。企業の持続的成長のためには、この3要素を考慮した経営が必要との考え方が急速に広がり、投資の意思決定において財務情報等に加えてESGへの対応方針を考慮する手法が、ESG投資と呼ばれ、注目されています。

機関投資家に広がるESG投資

ESG投資が注目される契機となったのは、2006年に国連事務総長のコフィ・アナン氏(当時)のイニシアチブにより、国連環境計画(UNEP)と国連グローバル・コンパクト(UNGC)が事務局となって作成した責任投資原則(PRI = Principles for ResponsibleInvestment)の発表です。PRIに賛同して署名した年金基金など機関投資家や運用会社が、2018年6月には世界で2,000を超え、「年金運用資産額では19兆ドルと10年前の5倍に、年金以外を含めたESG投資全体は23兆ドルと世界の運用資産の約4分の1を占める」(日本経済新聞2018年12月26日付)までに急拡大しました。日本においても、世界最大規模の年金基金である年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が2015年にPRIに署名しています。

ESG投資の位置付け

20世紀初頭から社会的責任投資(SRI=Socially Responsible Investment)という考え方が存在しています。宗教的倫理の観点から、武器、ギャンブル、タバコ、アルコールなどに関わる企業には投資しないなどの実例もあり、倫理的で特殊な投資手法との認識が一般的でした。今日のESG投資は、その意義に加えて、実証研究の結果、財務リターンと、投資リスクのバランスも一般投資先に比べて遜色ないという認識が広がっている点が対照的であり、だからこそ、従来よりも大きな広がりを生んでいるものと思われます。

ESG投資への企業の対応

投資家は、ESG投資をESG評価機関からの情報に基づいて行うことが多くなっており、ESG評価機関は、企業の公開情報を中心に調査・分析、評価した結果を投資家に提供しています。

これに対応し、商社業界でも統合報告書やウェブサイト等で開示していたESG関連情報を、「ESGデータブック」「ESGコミュニケーションブック」などの名称で一元的に集約した報告書を作成して公表する取り組みが始まっています。

当然のことながら、外部から高い評価を得るためには、会社運営そのものをESGの要素を一層意識して行うことが必要となります。日本貿易会が2018年春に実施した「商社行動基準」の改定も、こうした環境変化を意識した内容となっており、当会としても、会員各社への周知徹底とともに、商社業界の先進的事例の情報交換や対外的アピールに積極的に取り組んでいく所存です。

持続可能な社会の実現と商社 第8回「ESG投資への対応」 誌面のダウンロードはこちら