新春特集


2008年、米国民は、ケニア人を父親に持つバラク・フセイン・オバマを新しい大統領として選んだ。それは今回の選挙戦が始まった2年前の状況から考えると、多くの人にとって青天の霹靂(へきれき)であっただろう。2004年7月の民主党大会で、オバマが行った、当時の民主党大統領候補ジョン・ケリーを応援する基調演説は、彼の足跡次第では、永く歴史に刻まれるであろう。

米国大統領選挙は、候補者が、自らの政策と適性を訴え、多くの支持者が集まり、お祭り騒ぎやひぼう中傷合戦を繰り返しながら、オバマが長旅(journey)に例えたマラソンを走り抜いていく。その間に、候補者のスキャンダルも含めて、ありとあらゆる事実やうわさが国民の目にさらされる。また、数百億円という選挙資金が集められ、メディアは過熱する。

オバマは、予備選挙でヒラリー・ローダム・クリントンというスーパー・ウーマンとの戦いを、なんとか制したが、もし彼が並のスーパーマンであれば、その時点で精根尽き果てていたであろう。彼は、ほとんど休む間もなく、休養十分で待ち受けていたベトナム戦争のヒーローで、強運のジョン・マケインとの第2ラウンドに突入した。オバマは2008年4月には、恩師ともいえるジェレマイア・ライト牧師の過激発言問題で窮地に立たされたが、それすら、彼ならではの見事な演説で乗り切ってしまった。

オバマのカリスマ性は、インテリ層を感動させ、選挙に興味がなかった若者やマイノリティーを熱狂させ、11月4日の投票の結果、選挙人獲得数365対173という大差で勝利した。その夜、オバマは、シカゴのグラント・パークで20万人を超える聴衆を前に「Changehascome」「Yes,wecan」と勝利演説を行った。米国以外でも高い人気を集めるオバマは、暗殺のリスクすら抱えながら、彼への高すぎる期待にどう応えていくのであろうか。

一方、世界経済は、米国発の金融危機に襲われ、リーマンブラザーズが破たんし、AIG、シティグループも転落し、米国製造業の象徴ビッグ・スリーまでもが破たんの危機にあえいでいる。米国は日本のバブル崩壊の歴史から何を学んだのか。それとも「人間は歴史から何も学ばない」ということなのか。レイムダックのブッシュ政権は、天文学的な資金投入で危機を乗り切ろうとしているが、2009年1月20日の新大統領就任までは、事実上の政治空白で世界経済は混乱を極めている。日本国内の政治状況は、破たんのふちをさまよう米国よりもさらに不透明感が強い。グリーンスパンが名付けた「100年に一度の津波」に、日本は、どう立ち向かうべきなのか。また、カリスマ性を持つオバマに率いられ、「Yes,wecan!」と連呼する米国の熱狂と、どのように連携、たいじしていけばよいのだろうか。

本特集では、世界政治の震源地ワシントンにそのヒントを求め、2008年11月24日、商社ワシントン事務所長6名にご参集いただき、世界の政治、経済について議論いただいた。その後も世界状況は流動的であり、いつ新たな事態が発生するか予断を許さない。

今回の座談会に関連して、本誌記事でご登場いただいた方々以外に、激動するビジネスの最前線で奮闘されている双日米国会社(ニューヨーク)の吉村剛史、内山伸一の両氏にもお話を伺い、貴重な情報、ヒントを得ることができた。ご協力いただいた皆さまに、この場を借りて心より感謝したい。

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