さらば、平成 ─あの時、日本貿易会は


ベルリンの壁崩壊で幕を開けた平成は、東西冷戦終結、EU統合市場発足、WTO発足などにより世界経済の一体化が急速に進展した一方で、アジア通貨危機、リーマン・ショックといった経済危機や各国におけるテロ頻発などの試練にも直面し、いま米中貿易摩擦のさなかに終わろうとしています。

時代の変化につれ、商社のビジネス環境も大きく変化し、「商社崩壊論」や「商社不要論」がささやかれる未曽有の経営危機にも直面しました。しかし商社は、新たな活路を事業投資に求め、伝統的なトレードと併せて「車の両輪」とするビジネスモデルを構築することで、成長軌道に復帰しました。

日本貿易会も業界が直面する諸問題に、より迅速かつ柔軟に対応できるよう、次々と新しい活動に取り組んできました。

このミニ特集では、平成時代の世界と日本、その中での日本貿易会の活動を振り返ります。

世界と日本の主な動き

平成世界日本
元年ベルリンの壁崩壊
第1回APEC会議
天安門事件
日経平均史上最高値3万8915・87円(12・29終値)
日米構造協議開始(6月)
消費税導入(3%)
2年東西ドイツ統一
イラク、クウェートに侵攻(8月)
日米構造協議最終報告
国際花と緑の博覧会(大阪)
株価暴落始まりバブル崩壊(2月)
3年多国籍軍イラクを攻撃、湾岸戦争
ソ連邦解体
4年ポンド危機国連平和維持活動(PKO)法成立
自衛隊、カンボジア出動(PKO)
5年東京サミット(7月)
マーストリヒト条約発効、EU統合市場発足
第1回アフリカ開発会議(TICAD Ⅰ、東京)
政府、94項目の規制緩和措置
6年NAFTA発足(1月)
ココム解散
GATTウルグアイ・ラウンド交渉妥結
メキシコ通貨危機
対ドル円高、100円突破
7年WTO発足阪神・淡路大震災(1・17)
日米自動車交渉合意
8年包括的核実験禁止条約(CTBT)採択自衛隊、ゴラン高原派遣(PKO)
日米半導体交渉合意
ペルー日本大使公邸人質事件
9年香港返還
アジア通貨危機
消費税5%
日銀法・独禁法改正(持株会社解禁)
日米安保条約の新ガイドライン合意
地球温暖化防止京都会議(COP3)
10年インド・パキスタン地下核実験
ロシア通貨危機
金融再生関連法成立
長野冬季オリンピック
11年EU通貨統合スタート
コソボ紛争でNATO軍ユーゴ空爆
12年南北朝鮮首脳会談(平壌)
九州・沖縄サミット(7月)
13年米国同時多発テロ(9・11)
WTOドーハ開発ラウンド交渉開始
中国、WTO加盟
自衛隊、対米支援のためインド洋派遣
14年ユーロ紙幣・貨幣流通開始
北朝鮮核兵器開発表明
日朝首脳会談
15年北朝鮮、NPT脱退宣言
イラク戦争勃発
イラク復興支援特別措置法成立(自衛隊派遣可能)
16年イラクなどで自爆テロ頻発
EU、旧東欧10ヵ国加盟で25ヵ国体制に
自衛隊、サマワ(イラク)入り
自衛隊の多国籍軍参加を決定
17年ロンドン同時爆破テロ
中国、人民元2%切り上げ
第1回東アジアサミット(16ヵ国)
京都議定書発効
愛知万博開催(愛・地球博)
18年中国、外貨準備世界一に
北朝鮮、地下核実験╱国連安保理制裁決議
日銀ゼロ金利解除(0%→0・25%)
「いざなぎ景気」超え(11月)
19年サブプライム・ショック(8月)郵政民営化
20年北海道洞爺湖サミット(7月)
リーマン・ショック(9月)
第1回G20首脳会合
原油価格高騰(一時100ドル台)
航空自衛隊、イラクから撤収(5年間活動)
21年日経平均バブル後最安値7054・98円(3・10)
22年ギリシャ財政危機・欧州ソブリン危機
チュニジア、ジャスミン革命(12月)
23年アラブの春╱米軍イラク撤退完了
WTOドーハ・ラウンド議長文書(4月)
タイ洪水(7月から翌年1月)
東北地方太平洋沖地震(3・11)
地上デジタル放送に完全移行
31年ぶり貿易赤字
24年ロシア、WTO加盟
25年EU28ヵ国に復興特別所得税の課税開始(1月)
TPPの交渉参加正式表明(3月)
26年消費税8%(4月)
27年米キューバ国交回復(7月)
第2次世界大戦終結から70年
28年原油価格下落(一時30ドル割れ)
伊勢志摩サミット(5月)
英国国民投票、EU離脱を決定(6月)
気候変動パリ協定発効(11月)
TPP協定署名(2月)
熊本地震(4・14)
29年トランプ第45代米大統領就任(1月)
北朝鮮、核ミサイル開発加速
30年南北朝鮮首脳会談(板門店)
米国、イラン核合意離脱
米国、在イスラエル大使館をエルサレムに移転
米中貿易摩擦激化
働き方改革関連法案成立(6月)
TPP11協定発効(12月)
31年米朝首脳会談(ハノイ)日EU EPA発効(2月)

日本貿易会の歩み 〜平成から令和へ

日本貿易会は、米国との貿易摩擦激化から始まった平成に入って以降も経済連携協定の締結推進などに尽力するとともに、貿易業界が直面する諸問題の解決に尽力しています。平成29年10月に発刊した『日本貿易会70年の歩み~自由貿易の旗手として』をもとにその一端をご紹介します。

平成3年「米国の外資系企業課税強化に関する意見」を提出
<保護主義にモノ申す>
昭和の終わり頃(1980 年代)、日本の経常黒字の拡大を背景に、保護主義的色彩の濃い「包括通商法案」が米国議会を通過した際、日本貿易会は同国の大統領や国会議員等に書簡を送り、反対を表明しました。その活動は、平成になっても継続し、アマコスト駐日米国大使との懇談(平成元年7月)や、当会常任理事会社など21社による米国製品輸出促進支援窓口の設置(平成元年7月)など、貿易摩擦の解決、自由貿易の推進につなげてきました。
平成4年「日中一般貨物契約条項集」を日中双方にて発表
平成9年日本貿易会創立50周年
平成10年「アジア経済再生に向けての要望」を提出
平成11年「諸外国との年金協定の早期締結に関する要望」を提出
平成12年「メキシコとの自由貿易協定交渉に向けての要望」を提出
<経済連携の推進>
日本貿易会は、かねてより自由貿易体制の維持・拡大に向けて、二国間ベースのFTA・EPAをはじめ、TPP・RCEPに代表されるメガFTAなど広域経済連携の早期実現のための要望活動に努めてきました。平成12年10月にメキシコとのFTA交渉の早期開始を求める要望書を提出して以来、繰り返しFTA・EPAの重要性を訴え、その実現につなげてきました。
TPP協定については、平成28 年7月に日本経済団体連合会、日本商工会議所、経済同友会と共に早期実現を求める提言を安倍首相、石原TPP 担当大臣(当時)に提出しています。
平成13年特定非営利活動法人「国際社会貢献センター」が認可
平成14年「環境行動基準」を策定
平成15年「日墨経済連携協定」早期締結を要望
平成17年「商社行動基準」を改訂
「日本貿易会賞」懸賞論文事業を開始
「アセアン各国およびアセアンとの包括経済連携協定に関する要望」を提出
平成18年「わが国の海外経済協力のあり方に関する要望」を提出
平成20年中期貿易・投資ビジョン『新「貿易立国」をめざして』を発刊
投資協定の締結促進への要望
平成21年「海外子女の教育環境の拡充に関する要望」を提出
平成22年「新卒者の採用活動に関する基本的考え方」を提出
平成24年「在外教育施設派遣教員の推薦数の拡充に関する要望」を提出
平成25年「わが国のTPP協定交渉への早期参加を求める」要望書を提出
「海外子女教育の拡充によるグローバル人材育成に関する要望」を提出
シンポジウム「商社ビジネス最前線」を開催
<貿易手続きを改善>
貿易手続きの簡素化・効率化は、貿易に携わる全ての業界の重要課題です。日本貿易会は創立以来、これらの課題に対して積極的に要望活動を行っています。古くは昭和23年11月、「輸出手続きの簡素化促進に関する建議」によって貿易庁・GHQによる二重管理の非効率性の改善を求め、現在は税関制度の簡素化・透明化を中心に、商社の実務面での改善につながる要望活動を行っています。特に税関手続きなどの電子システム「NACCS」については、平成26 年にタスクフォースを設置し、NACCSセンターなどと情報交換をしています。
平成27年「サプライチェーンCSR行動指針」改定
「質の高いインフラシステム輸出の国際競争力強化に向けた要望」を提出
<質の高いインフラ輸出の支援策を後押し>
日本貿易会は、かねてより経済協力制度の拡充・改善に取り組んでいます。日本政府が推進する「質の高いインフラ輸出」の国際競争力強化に関し、平成27 年10月に本会がまとめた要望は、JBIC、JICA、NEXIにおける審査の迅速化と体制強化、円借款の商品性の向上、相手国政府の法制度整備支援など、従来の制度の見直しを進める上で政府への強い後押しとなり、新しい政策の具体的な肉付けに大きなインパクトを与えたとされています。
平成28年日本貿易会ISAC(Information Sharing and Analysis Center)設立
「TPP協定の早期実現を求める」要望書を提出
<サイバーセキュリティー強化>
日本貿易会は、平成28年にサイバーセキュリティー強化のための組織「日本貿易会ISAC(Information Sharing and Analysis Center)」を設立しました。通信業界、金融業界に次いで3番目の設立です。
この分野は常に新しい攻撃手法が開発されることもあり、広範で専門的な知識・スキルが必要とされます。個社対応には限界があるため、業界で対応するのが最近の潮流となっており、商社業界も一丸となって積極的に情報の共有と分析、対策の検討などを行っています。
平成29年『日本貿易会70年の歩み〜自由貿易の旗手として』発刊
「商社安全保障貿易管理行動基準」を制定
平成30年「商社行動基準」を改定(3月)
日中平和友好条約締結40周年記念シンポジウムを開催(9月)

<元常務理事が語る> 日本貿易会のあの時

日米・日仏間の社会保障協定締結を要望


元常務理事 池上 久雄
就任期間: 平成10年7月─15年6月人事分野のエキスパートで三菱商事の人事厚生部長。参与・職能担当役員補佐、東京大学の常勤理事などを歴任。

平成10年7月着任当時、従業員の海外駐在期間の日本と駐在国との社会保険料二重払いが、企業にとって負担となっていました。殊に、海外駐在員が多くて負担の大きい貿易業界の強い要望を受けて、二重払いを避けられる社会保障協定の締結を日米・日仏に関して強力に要望していくこととなりました。

室伏会長時代の平成11年9月に「諸外国との年金協定の早期締結に関する要望」を関係省庁に提出しました。その後、同年12月に日仏年金協定の正式交渉が開始され、在日フランス商工会議所からも謝意が表明されました。翌年5月就任の宮原会長は、米国勤務のご経験から日米社会保障協定に力を入れられ、日本政府のみならず駐日米国大使を2回(平成12年7月フォーリー大使、平成14年6月ベーカー大使)訪問し、また平成14年10月開催の日米財界人会議でもその早期実現を要望されました。その甲斐あって日米協定は平成17年10月に、日仏協定は平成19年6月に発効し、その後の各国との協定が展開していく端緒となりました。この二つの協定締結に寄与できたことは大きな喜びであり、日本貿易会の大きな実績だと思っています。

就活・グローバル人材

大卒採用時期の後ろ倒しは、大学3年から就職活動に明け暮れる現状を、何としても変えようという槍田会長の強い決意を受け、取り組みを開始しました。大学関係3団体、文部科学省等関係官庁、33の業界団体、経済同友会、日本商工会議所を集中的に訪問し賛同を得ました。経団連の中には異論もあったようですが、熱意をもって訴えて回った成果であちこちから賛同の声が上がり、最後は内閣府の「若者・女性の活躍推進フォーラム」で、後ろ倒しが実現しました。経団連の賛同も得たことは、大変な成果だと思っています。

グローバル人材育成では、内閣府のグローバル人材育成推進会議の委員に就任、官民学でグローバル人材の定義も異なっていたところから、粘り強く意見交換を重ねました。その努力は小学校での英語教育開始、日本人留学生増加、海外大学と本邦大学の単位互換拡大、本邦大学における留学生受け入れ体制整備に結実しました。

日本貿易会に寄せる思い

日本貿易会の強みは歴史と知名度があることです。33の業界団体のどこに行っても日本貿易会は知られており、貿易会の主張に耳を傾けていただけました。これは過去に経済団体だった経緯があること、当会が自由貿易推進などの政策提言で大きな役割を果たしていることを知っているからだと思いますし、これまで尽力されてきた先達のおかげだと思います。また、事務局を見ても、少数精鋭でまとまっていることが強みになっていると思います。新春懇親会には各国大使や商工会議所会頭など外国からの賓客も含め、多数の方々がお見えになりますが、そういったことも強みになっていると思います。

ポスト平成への期待

国際社会貢献センター(ABIC)設立


元常務理事 市村 泰男
就任期間: 平成22年7月─26年6月自動車分野のエキスパートで伊藤忠商事の審議役 インドネシア支配人兼 伊藤忠インドネシア会社社長などを歴任。

ABIC設立の背景には、NPO法の施行とアジア経済危機に際しての新宮沢構想における技術人材支援の働きかけがあったことがあります。当時、米国ではNPO法人が大変隆盛であり、当会独自の業界NPOを作ってみようと平成11年5月に研究会を立ち上げ、新宮沢構想における外務省・通産省・大蔵省等の人材支援派遣等の要請もあって、出来上がったのが平成12年に設立、翌年認可されたNPO法人国際社会貢献センター(ABIC)です。ABICは商社OB・OGを中心に登録会員の方々に様々な分野で活動をして頂く場になっていますが、商社各社の支援に加え、その頃は高齢者再雇用制度の始まる時期であったことから、厚生労働省の補助金を得て、活動の原資とすることができたことは立ち上がったばかりのABICにとって本当に有り難いことでした。JICA・JETROとの協力によるアジアを中心とする人材支援、地方・中小企業の海外進出支援、地方自治体との協力による地域活性化支援、大学や小中学校の国際教育支援、留学生への各種の支援など活動範囲をひろげ、2,900人を超える活動会員を擁するに至ったことは初代理事長を務めさせて頂いた私にとっても望外の喜びです。


日本経済の成長を促す活動を


日本貿易会の強みは、提言活動だけではなく、ABICの活動などを通しての社会貢献活動を行うなど、他の業界団体と一味違った活動を行っていることです。

次の時代に期待する役割・機能としては、日本の社会全体が、健やかに成長するための活動を推進することだと思っています。貿易は単なるモノだけでなく、ヒトや情報、サービスの流通などもあり、そこにEPAやTPPなどの包括協定ができることによって国境をまたいだ交流がよどみなくできるようになります。そして、それによって日本と相手国の社会が健やかに成長できると思っています。日本貿易会は自由貿易の推進を旗印としていますが、自由な交流は社会の底上げにつながると確信しています。

もっと情報発信を

次の時代に期待する役割・機能としては、もっと情報発信すべきだと思います。それには事務局の体制もしっかりしなければいけません。私は常務理事時代に、組織改編や事務所改装、ABIC移転、職員採用などでいろいろな変革を行い、事務所の雰囲気を明るくしましたが、そうした環境整備は大変に重要だと考えています。当時採用した職員は、今や中堅職員として活躍しており、今後をますます楽しみにしています。

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