貿易摩擦に対する日米経済協議会の取り組み

日米経済協議会 会長
平野 信行

2018年3月以降、米国トランプ政権は、通商拡大法232条に基づく鉄鋼・アルミニウムの輸入関税措置の発動や中国の知的財産侵害に対する通商法301条の準備発案に続けて、5月には自動車・部品等に対する輸入関税適用の検討を発表しました。こうした米国の措置に対し、6月にはEU、7月には中国やカナダが報復関税措置を発動しましたが、それを受けて米国が中国に対してさらに22兆円相当もの巨額の報復関税を実行に移す旨を正式表明するなど、報復措置の応酬が現実のものとなっております。保護主義や内向き志向の強まりは、わが国および世界経済にも多大な影響を及ぼす上に、報復合戦の結果、米国の強硬措置がWTOの多角的システムを崩壊させてしまう恐れもあり、今後の成り行きが強く懸念されます。

このように、これまで世界貿易・通商の安定的な発展を支えてきた秩序が大きく揺さぶられる中で、日米経済協議会も、年1回の日米財界人会議に向けた諸準備に加え、さまざまな活動を展開しております。2018年5月11日には、米国のカウンターパートである米日経済協議会とで共同提言書「Maintaining Momentum in the U.S.-Japan Economic Relationship(日米両国の経済関係の持続的な発展に向けて)」をとりまとめ、通商拡大法232条鉄鋼・アルミニウムや通商法301条の一方的な関税措置に対する懸念や、ルールに基づく自由で開かれた国際経済秩序の重要性を表明するなどし、その後、日米政府関係者との意見交換を続けてまいりました。また6月29日には、米国の自動車等の輸入関税適用検討に関して、米国商務省宛てにパブリックコメントを提出し、今回の措置が米国自身にも深刻な経済的影響を与える懸念と、関税措置の根拠に国家安全保障を掲げていることへの疑問、世界的な報復措置の応酬が世界の貿易システムに多大な影響を及ぼしかねないことへの憂慮を表明しております。

また、当協議会は、日米両国間の貿易・投資拡大、日米財界の協力案件の活性化という観点にも積極的に取り組んでおります。日米両国は、インド太平洋地域における質の高いインフラ構築を推進している他、2017年11月のトランプ大統領の訪日時に、エネルギー分野の日米協力に関わる覚書を締結しており、インフラ、エネルギー分野は日米双方がWin-Winの協力関係を築くことができる有望分野と思われます。この点、当協議会は、同分野における日米協力の深化に向けて、2018年3月28日に東京で開催された「エネルギー協力官民セッション」や、4月23日にワシントンD.C.で開催された「日米第三国インフラ協力官民ラウンドテーブル」において、日本側の財界窓口機能を務め、多数の主要企業にご参加いただきました。会議当日は、日米民間の協力案件の創出に向けた活発な議論が展開され、日米両国による協力案件の創出と推進に向けて、官民一体で取り組んでいく機運が醸成されております。

最後に、日米経済協議会は、米日経済協議会と連携して、日米両産業界の人的つながりを深めることにも尽力しております。日米が貿易摩擦問題を抱えていた1980-90年代、日米両国政府間で厳しい交渉が行われていた最中に、日米両産業界の有力企業のトップ同士が対話チャンネルを確保し、ヒトのつながりをてこに信頼関係を築き、日米両産業界の意見を共同で日米両国政府に提言していたことを踏まえますと、通商問題が世界的な問題に発展し、日米経済関係の先行き不透明感が強まりつつある現在においても、日米産業界が率直な意見交換を通じてお互いの絆を強化することの意義は深く、非常に重要と思われます。55回目となる2018年の日米財界人会議は、10月31日(水)、11月1日(木)に東京・帝国ホテルで開催される予定となっておりますが、日米両国の民間企業が建設的な議論を通じて共同で政策提言をまとめることは、人的なつながりを深める上でも貴重な機会になるのではないかと思われます。

また、皆さまのご理解の通り、米国政府に対して日本からの声を適切に届けるには、ワシントンD.C.での活動だけでなく、各州・地方における草の根レベルでの企業活動、社会貢献が重要です。2018年度は、当協議会の関連組織である日本・米国中西部会の第50回日米合同会議を9月9日(日)-11日(火)に米国ネブラスカ州・オマハにて、同じく日本・米国南東部会の第41回日米合同会議を10月18日(木)-20日(土)に東京にて開催の予定です。日本貿易会会員の皆さまにおかれましても、当協議会の活動に幅広くご参画いただいておりますが、2018年も日米双方にとって有意義な会議となりますよう、積極的なご参画とご支援・ご協力を賜りたく、お願い申し上げます。


新旧会長および副会長による安倍総理への第54回日米財界人会議の概要報告

第54 回日米財界人会議

石原前会長(中央)および平野新会長(右)


日米両国の経済関係の持続的な発展に向けた共同提言


(本稿は2018年8月1日に入稿いただいたものです)

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