「ものつくり」に貢献する商社:岡谷鋼機の伝統とこれから

岡谷鋼機株式会社 専務取締役 名古屋本店長
馬場 紀彰

1.創業から現在に至るビジネス展開の概況

当社は1669年(寛文9年)、今から340年ほど前に、現在の本社ビルが建っている場所で創業しました。1669年というと、江戸時代の第4代将軍徳川家綱の時代となります。創業時は「笹屋」の称号で打刃物店を営んでいましたが、1862年に大阪の支店「福店(ふくだな)」(現:大阪店)を、1872年には東京の支店「益店(ますだな)」(現:東京本店)を開設し、1943年に現在の岡谷鋼機株式会社に社名を変更し、現在に至っています。

この創業の地はもともと鉄砲町と呼ばれ、鉄などの金物類を多く扱う土地柄でした。現在、当社事業の柱の一つが鉄鋼であるのはこのような歴史に由来しています。中部・北陸地域は古くから「ものつくり」が盛んな土地ですが、当社が掲げている「ものつくりに貢献する感性豊かな“グローバル最適調達パートナー”」という企業理念も、こうしたこの地域が育んできた伝統を受け継いでいます。

2.岡谷鋼機の中部・北陸地域における事業展開

愛知県は、工業製品出荷額で全国一であることに加え、自動車を含めた輸送用機械や鉄鋼でも全国シェアは1位です。当社も自動車産業や鉄鋼産業の発展とともに成長してきました。例えば、自動車 1台は約 3万点にも及ぶ部品で構成されているといわれますが、ボディー用鋼板やクランクシャフト等に用いる特殊鋼の素材調達の他にも、材料を加工する前工程での熱処理炉や部品を加工するための工作機械など、さまざまな工程でさまざまなものが必要になります。これらは一例にすぎませんが、製造業各社が必要とする素材の調達から、それを加工・製造するための機械設備の納入に至るまで、長期的かつ安定的に供給できるサプライヤーが必要になり、当社の存在意義も「ものつくり」を円滑にコーディネートする役割にあると考えています。

先ほど申し上げた通り、当社は金物商が発祥であるため、現在でも鉄鋼と特殊鋼の「鉄鋼セグメント」が売り上げ全体の 4割を占める最も大きな事業になっています。鉄鋼製品以外の事業領域も拡大しており、現在では化成品や生産設備を扱う「産業資材セグメント」が 3割を構成し、この他にも、非鉄金属、半導体・電子部品などを扱う「情報・電機セグメント」、そして配管機器や建設や食品などを扱う「生活産業セグメント」も大きな柱として当社の成長を支えています。

これらのセグメントにおいて「ものつくり」への貢献に注力するため、当社の拠点は自動車、鉄鋼、電機などの製造業がある地域に数多く立地し、その地域に根差した営業活動を行っています。例えば、国内の母店、支店、営業所、物流倉庫の数を合わせると 35ヵ所ありますが、中部・北陸地域だけで 10ヵ所の支店、出張所、物流倉庫があります。この他にも全国に 34社の製造子会社・販売子会社がありますが、そのうち中部・北陸地域だけで 19社あります。

当社は、地域に密着しユーザーのものつくりにあらゆる面できめ細かな対応ができるユニークなサプライヤーとしての特色があるのではないかと自負しています。

3.今後の事業展開への抱負

今後、日本では少子高齢化や人口減少になります。こうした情勢を踏まえながら、当社は「ものつくり」の集積地である中部・北陸地域に位置している地の利を活かして、技術革新(イノベーション)にも注力していきたいと考えています。例えば、人口減少は、さまざまな製造工程の自動化、ロボット化を促進する契機になります。この地域にはロボット産業に関わる企業も多く、ロボットの製造・研究・開発等、当社としてもいろいろな関わり方ができるのではないかと考えています。

さらに、愛知県では、産学官が連携し成長産業の国際競争力強化も図っています。航空機産業も振興の取り組みを進めている中の一つです。三菱航空機による国産旅客機の製造も始まり、当社としても航空機産業の発展に向けて取り組みたいと考えています。

また、新分野だけでなく、当社は、伊勢神宮の「式年遷宮」において、1889年の遷宮から今回の7回目にわたり、社殿の屋根や欄干に取り付ける金物を奉納させていただいています。100年を超える長きにわたり、このような形で伊勢神宮に奉納させていただけることを、当社としても大変名誉なことと思っています。今後も引き続き歴史と伝統を守り地域社会に貢献してまいりたいと考えています。

最後に海外の事業展開ですが、1954年に米国岡谷鋼機を設立、その後欧州やタイ、中国などに進出しグローバルに販売拠点・製造加工拠点の展開を行うとともに、各グループ拠点の現地化を推進してきました。直近では、ブラジル・メキシコ他に現地法人を設立、ヤンゴン・中東に事務所を構えるなど現在、世界21ヵ国に拠点を構えています。各地域に根差した活動に向けさらなるネットワークの拡充を進めてまいります。

今後も引き続き「ものつくり」に貢献していくことを経営理念として掲げながら、それぞれの地域社会の発展に貢献してまいりたいと考えています。

(聞き手:広報・調査グループ 石塚哲也)

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