1.中部経済・産業の概観

東海と北陸から成る中部地域は、わが国産業の競争力の源泉ともいえる自動車産業をはじめ航空機産業、高機能新素材などを中心に世界屈指のものづくり産業が高度に集積した地域です。総面積、総人口、事業所数等ではおおむね全国の約1割という経済圏ですが、製造品出荷額等は2割を超えており、また自動車や自動車部品を多く扱う名古屋港の輸出入収支が17年連続1位であるなど、わが国随一の「ものづくり圏」となっています。

2.地域産業の競争力強化に向けた取り組み

中部地域では政府の日本再興戦略（平成25年6月閣議決定）を受け、地域の産業競争力強化に向けた地方版成長戦略が東海地域と北陸地域それぞれで策定されています。

このうち東海地域の成長戦略である「TOKAI VISION」では、自動車関連産業、航空機産業、ヘルスケア産業、環境産業を戦略 4分野として掲げ、加えて戦略 4分野の強化を下支えするものづくりマザー機能や、地域の資源を活用した観光、農産物の高付加価値化などに取り組むことで地域の競争力強化を図っているところです。

北陸地域の成長戦略である「北陸産業競争力強化戦略」では、ライフサイエンス、高機能新素材を戦略分野として掲げ、これらの関連産業の一大集積地になることを目指しています。

3.地域の戦略産業における最近の動き

次に、2.でご紹介した「TOKAI VISION」、「北陸産業競争力強化戦略」の戦略産業の中から、最近注目を集めている動きを幾つかご紹介します。

（1）自動車関連産業
2015年2月、世界初となる量産型燃料電池自動車「MIRAI」が、トヨタ自動車㈱元町工場で本格生産開始になりました。

国内受注、米国の受注と共に当初の予想をはるかに超え、年間の生産計画台数（700台）を大きく上回る受注状況となったことから、同社では2017年には3,000台にまで生産を拡大していくほどの動きになっています。経済産業省では、燃料電池自動車の普及の前提となる水素ステーションの設置を助成しており、2016年3月末現在で、およそ全国80ヵ所（うち中部地域16ヵ所）の水素ステーションが運営を開始しています。

（2）航空機産業
2015年11月、わが国で設計された民間旅客機としてはYS11以来、53年ぶりとなる「MRJ」が初飛行に成功しました。

部品の製造に向け、各地で今後加速的に増加すると見込まれる航空機部品産業の集積（ミニクラスター）や強化が図られています。

例えば、三重県の松阪地区では、航空機部品などを手掛ける中堅企業10社による部品の一貫生産に向けて、2016年10月からの稼働を目指した生産拠点の準備が進められており、岐阜県の各務原地区では一貫生産体制に不可欠な特殊処理工程である表面処理工場の建設と同地区の中核企業 4社による共同活用、企業間物流・商流の整流化、一貫生産ルールの策定・定着などに取り組んでいます。

また、これらの動きに加え、例えば自動車部品大手のトヨタ紡織㈱が同社として初めて旅客機のシートを開発（全日本空輸㈱との共同開発）するなど、自動車関連企業がその製造技術を活かして航空機産業へ新たに事業展開する事例も出ています。

（3）ヘルスケア産業
ヘルスケアの分野においても、自動車部品大手の㈱デンソーが信州大学および東京女子医科大学の協力を得て開発した「手術支援ロボット（iArms）」や、自動車部品を手掛ける㈱今仙電機製作所の子会社である㈱今仙技術研究所が名古屋工業大学と共同開発した電気やモーターを使用しない世界初の無動力歩行支援機構「ACSIVE」など、自動車を中心としたものづくり産業の集積により培われた製造技術やものづくりマザー機能を生かした新規ビジネスへの展開が具体的に進展しています。

また、医薬品の生産拠点が集積している北陸地域では、ジェネリック等の医薬品市場の拡大や、大規模災害に対する日本海側へのリスク分散などを背景に、生産能力の大幅増強計画を進める企業が増えてきています。

4.中部地域の今後の展開

2016年5月、主要国首脳会議（サミット）が三重県志摩市にて開催されます。

また、環太平洋パートナーシップ（TPP）協定による、世界のGDPの約4割という巨大な自由貿易圏の形成も間近に迫ってきています。

これらの動きは中部地域の経済、産業、企業等にとって新たな展開や発展につながる大きなチャンスになるものです。

中部経済産業局としても、海外展開を図ろうとする企業へのワンストップ型支援の充実、海外市場向け商品・サービスの開発や販路開拓支援、商店街等を活用したインバウンド消費拡大、などを進め、中部地域のさらなる飛躍発展につなげていきたいと考えています。