2011年11月号 (No.697)
先進諸国の財政悪化が世界経済の不安要因としてくすぶり、予断を許さないビジネス環境が続いている。一方、新興国市場が貿易の回復と堅調な内需を背景に力強い景気回復を遂げ、BRICsをはじめとする新興国市場の経済成長によって、資源獲得競争や地球温暖化の加速、新たな経済格差の発生などさまざまな課題も露呈するようになり、今までにも増して企業がこれらの解決により深く関わることが求められている。そして発展途上国に対してもBOPビジネスやソーシャルビジネスなどの新しいビジネスモデルがさまざまな形で試行され、その関心を集めている。
このような経済環境下で、いま企業はどのように経営のかじを取るべきか、またその中でCSRの果たす役割はどうあるべきか、各社試行錯誤を繰り返している。特に欧米や中国企 業を中心にこれらの変化を単にリスクと捉えるのではなく、自らの事業の変革や新たなビジネス機会の獲得の好機と捉え積極的に対応する企業が増えている。
これら国際規模で急速に進む「ビジネスとCSRとの融合」を受けて、富士ゼロックスは2010年4月「CSR会議」を復活し、経営トップが率先して会社のあるべき姿を中長期的な観点から議論し、国境を越えてグループ内外の創造力を結集する場として活用していくことを決定した。既に主力の生産拠点を中国に移し、アジア・パシフィックの多くの国と地域に営業拠点を持つようになり、今では売り上げの約41%、生産台数の約80%が海外、また日本人以外の従業員の割合が約43%を占めるようになった当社が、これから生き残りをかけて、グローバル市場で評価され、支持されるには何が必要かを真剣に考える必要がある。CSRは単に社会に良いことをするのではなく、社会課題の解決やサステナビリティの実現に、事業やさまざまな活動を通じて貢献することで、自社の信頼獲得や競争力強化にとっても重要な要素であることを、役員をはじめ全社員が理解し、実践できるようにしていきたいと考えている。
本稿では、富士ゼロックスのCSR活動のフレームワーク、代表的なCSR活動について述べていきたい。
富士ゼロックスの使命は、コミュニケーションを円滑にすることを通じて人間社会の相互理解を促進し、ステークホルダーのサステナビリティとその先にある社会や地球環境のサステナビリティに貢献することである。そのためには、社会の変化に応じてステークホルダーの期待や要請を経営に取り込み、社会に提供する価値を常に進化させることが重要であると考えている。当社では「CSRは経営そのものである」という考えの下、サステナビリティの観点に立って自らの事業活動を変革して当社の競争力を継続的に高めると同時に、ステークホルダーへ新たな価値を提供して、社会の発展に貢献し続けることを目的にCSR活動を実施している。
また、基幹事業プロセスの中で、ステークホルダーに価値提供をしっかり行えているか、何が期待・要請されているのか、さらには当社の活動が自己満足になっていないかなどを確認するために、「CSR活動のモニタリング」を行っている。同時に、当社の取り組みをステークホルダーに発信し、理解・共感いただくとともに、どのような要望があるのかを受信し、当社が取り組むべきことを把握するための「ステークホルダーとのコミュニケーション」を行っている。
これらモニタリングとコミュニケーションの結果を年に1 度レビューし、毎年CSR中期計画を立案し、各事業プロセスの中に組み込んでいる。社会の期待をいち早く把握し、それを基幹事業プロセスの中に反映させるメカニズムを構築することで、ステークホルダーに期待される価値提供を行うとともに、当社の競争力にもつなげる。そのようなCSR経営のプロセスを実直に実践していくことが重要だと考えている。
具体的には、CSR活動のモニタリングとして、「CSRアンケート」と呼ぶ社会からの要請への対応状況を確認するアンケートを連結・グローバル全56社で実施。また、取引先に対してもCSR調達活動を展開し、サプライチェーン全体でリスクや機会損失がないかを確認し、継続的な改善依頼を行っている。
また、ステークホルダーとのコミュニケーションツールとして「サステナビリティレポート」を位置付けている。当社は2004年から従来の環境報告書の範囲を広げ、「サステナビリティレポート」に変更し、さまざまな情報開示のツールとして、また当社の考えや取り組みをお客さまに知っていただくツールとして活用している。特に、近年営業担当が本レポートをお客さまに積極的に紹介し、ご意見などを頂くことで当社の課題や新しいテーマを把握するツールとしても活用している。現在日、英、中(簡体/繁体字)、タイ、韓国語を用意し、アウトリーチを広げるために2011年版からはiPhone/iPadアプリ化も実施している。
富士ゼロックスのCSRの特長は、自らの事業領域である「R&D・製造・販売」の領域にとどまらず、資材の調達からお客さま使用時、使用後のリユース・リサイクルに至る幅広いバリューチェーン全体で、各ステークホルダーの「サステナビリティ」に貢献する活動を行っている点にある。
本稿では、その中でも現在注力している「資材調達」の領域で取引先企業と共に推進している「CSR調達活動」と、「販売」の領域で海外の販売子会社と推進しているCSRマネジメントならびにコミュニケーションの強化プログラム「Regional Sustainability Project」について紹介したい。
⑴ 取引先企業とのエンゲージメント活動(CSR調達)
富士ゼロックスは、取引先企業を当社の経営方針や環境・社会に対する考え方を理解し共有するビジネスパートナーであると考え、良好な協業関係の構築に努めるとともに、生産拠点のグローバル化、品質向上、原価改善、環境保全などの課題に協力して取り組んでいる。これらの考えの下、取引先企業にもCSRの取り組みを求める「CSR調達」を2007年に開始し、継続的な改善活動を続けている。
具体的には、以下のスキームで実施している。
①当社から取引先企業にCSR調達のマネジメントガイドラインとセルフチェックリストを配布
②取引先各社がチェックリストをもとに自己診断を行い、改善計画書を提出
③一部の取引先には訪問しその進捗を確認
管理指標として、最もリスクが高い管理項目60項目を重点管理し、その順守率100%を目指し活動している。また、取引先企業の中には、当社から提供したチェックリスト等を活用して、自社の協力会社にCSR調達を展開される企業も現れている。今後はこれらの取り組みを支援するとともに改善事例の共有や共通する課題に対して勉強会を行うなど、取引先企業の改善活動をいかに効果的に支援するかが課題である。
また、物流関連会社である富士フイルムロジスティックスと共同で、物流協力会社34社にも2009年3月から同様の活動を実施し、改善活動を始めている。
当社は、これらの活動は中長期的な視点で見れば、お客さま、従業員、取引先企業との信頼関係を強化し、長期的なビジネスの安定につながると信じている。今後、これらに共感いただける多くの企業と連携し、実質的な効果につながるCSR調達活動を推進したいと考えている。
⑵ マーケティング活動を支援するCSRコミュニケーション・教育の実施
お客さまが自社の経営課題としてCSRへの関心が高まる中、当社の営業担当が富士ゼロックスのCSRを的確に語れる必要が出てきた。また、当社のCSR活動事例を知りたいというお客さまの声が海外を中心に多く聞かれるようになってきた。これらの要請を受け、海外の販売会社を束ねる海外営業本部マーケティング部と本社CSR部、CSRを活用したマ―ケティングアプローチをいち早く実践してきた富士ゼロックスオーストラリアが共同事務局となり、「Regional Sustainability Project」を展開している。主な施策として、以下を計画し、実施を開始している。
①当社の商品やサービスが全てのバリュー チェーンでサステナビリティに配慮している点を訴求する共通のキャッチフレーズ「360°サステナビリティ」を採用したプロモーションを実施
②各販売会社でお客さまからの当社のCSRについての質問への回答や、当社のCSR活動の紹介などができるCSRについての知見者の育成
③各社長や営業に対し、世の中のCSR 動向や当社のCSRを教育/啓発
以上を実践する中で、海外の販売会社のCSRに対する理解を深めるとともに、各国、地域での社会課題を見据え、その解決に貢献するCSR経営を現地で実施することを要求している。
海外とのビジネスが広がる中で、急速にCSRへの関心の高まりを感じている。それはグローバルな競争環境下で、CSRはある時は参入障壁として、ある時はリスクとして、そしてある時は新たなビジネスを創出するトリガーとしてさまざまな役割を果たし始めたことに多くの企業が気付き始めたからである。国連グローバル・コンパクトも2010年7月にブループリントを発表し、企業が次に目指す方向性を示している。また、ISO26000もグローバルにビジネスを展開する上で、さまざまな面で企業活動に影響を与えることになるであろう。ステークホルダーからの要請レベルがさまざまな面で高まる中、自社におけるCSR上の課題をしっかり把握し、重み付けを行い、事業を展開することがますます重要となってくる。
一方で東日本大震災は、当社にあらためてCSRに取り組む意味合いを考えるきっかけを与えてくれた。一夜にして全ての財産、家族を失った方々や甚大な被害を被った自治体に対して企業として何をすべきかを真剣に考えなければならない。そしてCSRを単に事業成長の重要な要素として置くのではなく、本来の意味である「企業の社会に対する責任(果たすべき役割)」を考える必要がある。グローバル化や今回の震災を契機に露呈したさまざまな課題にどう向き合うか、また主体的にどういう役割を果たすのか、ますます経営のかじ取りは難しくなってくる。 これからは今までにも増して、お客さまや取引先企業、地域とのエンゲージメントを深め、その声を聞くことが重要となる。そして、従業員一人一人が力を合わせ、ステークホルダーの声を聞き、彼らに鍛えられる経営を実直に実践していける会社になりたいと考えている。