物流分野における国際展開支援

国土交通省 政策統括官付参事官(物流政策)付国際物流政策企画官
森 弘継

1.物流分野における国際展開支援の背景

経済活動のグローバル化が進む中で、日本は、中国、韓国、アセアン、インドといったアジアを中心に、その相互関係をますます深めてきている。また、わが国製造業等を支える高品質な物流サービスを提供するため、日系物流事業者の海外展開への動きが活発化している。例えば、JIFFA(社団法人日本インターナショナルフレイトフォワーダーズ協会)の会員ベースであるが、2010年現在、日系物流事業者による中国の現地法人は136社、韓国の現地法人は14社あり、この10年間を見ても急激に増加している。やはり、国内の物流市場が成熟しつつある中で、アジアを中心とした海外の成長を取り込もうという動きは当然の流れであるといえる。

このような中、2010年5月に策定された国土交通省の成長戦略においても、「日本企業の海外展開のための外国政府に対する制約解消に向けた取組」、「投資対象国におけるスタンダードの獲得」、「相手国への技術協力の強化」を柱として物流業の国際展開支援を位置付け、アジア地域等に対して物流協力を進めている。



2.中国・韓国への物流協力


国土交通省は、中国交通運輸部および韓国国土海洋部との間で、日中韓物流大臣会合を2006年から2年ごとに行っている。日中韓物流大臣会合では3大目標と12の行動計画を定めているが、この枠組みの中で3国はさまざまな物流協力を進めている。最近では、2010年5月13日に中国成都市で第3回大臣会合が行われ、12の行動計画の進捗と今後の取り組みについて合意した。次回は、2012年に韓国で開催される予定であるが、大臣会合開催のタイミングをメルクマールとして各行動計画の協力を進めているところである。今回は、12の行動計画のうち代表的なものをご紹介する。

①シームレス物流の実現(行動計画2)


行動計画2は、3国間の国際物流における国際一貫輸送を担うRORO船/国際フェリーに着目した協力である。第3回大臣会合までに、シャーシの相互通行に関する法令等についての調査を実施し、中国〜韓国では2008年1−5月にRFS(ロードフィーダーサービス)として実証実験が行われた。

さらに、中国〜韓国では、海陸一貫輸送運輸協定の締結および実施協定の発効により、2010年12月より山東省の港湾(青島、煙台、威海、日照、石島)と韓国港湾(仁川、平沢、群山)を対象として、シャーシの相互乗り入れが本格的に行われることとなった。現在では、Weidongフェリーが運航する威海〜仁川航路、青島〜仁川航路の2航路においてシャーシの相互通行が実施されている。

日本側としては、シャーシ相互通行に関する法令の差異等もあり、韓中間で導入したような本格的運用を行うには課題が多いと考えるが、大臣会合でも合意した通り、海陸一貫輸送のパイロットプロジェクトの実施可能性を検討するため、日中間、日韓間のワーキンググループの設置に向けて調整を進めているところである。さらに、RFID(電子タグ)を活用した迅速通関等も含め、総合的なアプローチからシームレス物流の実現に取り組んでいるところである。

②北東アジア物流情報サービスネットワーク(NEAL-NET)(行動計画3)

行動計画3では、国際物流のトレーサビリティー向上を図るために、3国間の物流情報を共有し、インターネットによりユーザーへ提供する仕組みの構築を目指している。荷主・物流事業者等からは、在庫管理の高度化、リードタイムの短縮、物流計画の策定・修正を図るため、コンテナ貨物の情報のタイムリーかつ効率的な取得に関するニーズが高い。しかしながら、そのためには物流に関わるさまざまなプレーヤーすなわち、荷主、物流事業者、港湾オペレータ、船社等が持つ個別の情報システムと連結しなければならず、特に、国際物流においては、物流情報をスムーズに取得することが難しく、貨物情報の可視化の障害になっている。

このような認識の下、3国間における物流情報システムの連結を推進するための協力の枠組みとして、「北東アジア物流情報サービスネットワーク」(NEAL-NET)の覚書(MOU)が、2010年12月に3国の代表で署名された。また、NEAL-NET協議会(Council)メンバーに、日本側から国土交通省の他、港湾管理者、船社、物流、荷主といった各方面から、15の関係者(協会、企業、行政)が参画することとなった。

NEAL-NETでは、当面、1船舶動静情報(入港・離岸時間(予定・実績)等)、2港湾間のコンテナステータス情報の共有に取り組むこととしているが、先行して「船舶動静情報」の共有に向けて議論を進めており、ウェブサービスによる情報共有を図るため、EPCISを用いたインターフェースの開発を各国で準備する段階となっている。

韓国では、既にSP-IDCという港湾物流情報システムが構築され、約30のコンテナ取り扱い港湾を含む全韓国港湾の船舶動静、コンテナ動静情報の提供に加え、統計サービス、行政手続き等の機能を持つ無料の情報システムが運営されている。中国では、LOGINKという物流情報システムをベースに、物流情報プラットフォーム機能を拡張している。現段階では、港湾については寧波・舟山港等の浙江省内の情報しか取得できないが、中央政府の支援の下、今後、中国の港湾物流情報システムへの連結を拡大させる計画を持つ。日本としては、2010年4月よりスタートしたコンテナ物流情報システム(COLINS)の構築と連携を図りつつ、将来的にはグローバル展開も念頭に置き、3国間協力を推進することとしている。



③ グリーン物流(行動計画10他)

わが国における交通セクターのCO2排出量全体に占める比率は約20%であり、うち約40%は貨物輸送分野である。地球温暖化対策は、国際的な協調が必要であり、3国が連携を強化して、グリーン物流の構築に向け努力することは重要である。

そのため、3国間では、グリーン物流専門家会合等を通じ意見交換を重ねるとともに、大臣会合においても、グリーン物流の重要性についてのメッセージを出し続けた。その結果として、グリーン物流パートナーシップ制度等の日本のグリーン物流施策が、他国でも導入されるようになった。



今後は、環境技術面での協力も推進する予定である。例えば、海上交通分野では、既に外航で導入されているウエザールーチングの技術を、国内・近海航路に適用できるように発展させた「環境調和型運航支援システム」は、わが国では実証実験を経て、2011年4月から本格運用され、複数の内航船や日中RORO船等に導入されている。このような、わが国が誇る海上交通の環境技術の普及等を念頭に、エコシッピングに関する3国間協力を推進することとしている。


その他、輸送用パレットについて、既に日中韓ではパレットサイズの国家規格を定めたところであるが、今後は、標準化されたパレットの普及およびパレットの国際間におけるリターナブル化を推進するための協力も行っている。

3.アセアン地域等への物流協力

アセアン地域に対しては、日アセアン交通大臣会合における重点分野の1つとして物流協力を進めており、またインドに対しては、既存の枠組み(港湾・DFCワーキンググループ)を発展的解消させ、2012年より港湾・物流政策対話を立ち上げて協力を深化する予定である。いずれにしろ、これらの地域の物流協力は、ハード面、ソフト面、人材面からの協力を進めている。

ソフト面では、政府レベルの「政策対話」と民間企業・実務レベルを対象とした「ワークショップ」を実施しており、2010年度はベトナム、インドネシアで行い、2011年度はカンボジア、ミャンマー等で行う予定である。物流協力のテーマは、相手国からの要請や進出している日系企業等の声を聞きながら具体的に選定しているが、今まではグリーン物流、トラックの安全管理、コールドチェーン、パレットシステム等についての実演会、マニュアル作成等を通した協力を行ってきた。

ハード面では、ODAが活用できるため港湾等のインフラ整備に関する技術協力、円借款等による支援が行われてきたが、計画づくり・建設段階から、運営の段階等も含めて日系企業等が参画できるような仕掛けも必要である。このような背景から国土交通省港湾局において、「海外港湾物流プロジェクト」(座長:伊藤忠商事会長 小林栄三)が2010年11月に設置され、特にインドネシア、メコン・ベトナム、インドといった地域をターゲットとして、日系企業の港湾分野における海外展開支援に取り組んでいる。また、日系企業が港湾物流プロジェクトに参画しやすいような制度の新設および改正等の検討も行う予定である。

4.最後に

国際協力はどの分野でも同じだと思うが、相手国とのWin−Winの関係がなければ、一方的で、受け入れてもらえない提案となる。 特に、物流分野は荷主、物流事業者、行政等多くの関係者が存在していることから、さまざまな面での信頼関係が必要であると考えている。また、物流協力は、行政の取り組みのみならず、民間企業、研究機関、大学等、多層的に行われきており、これらを有機的に連結することが、効果的になると認識している。今後は、日本貿易会からのご意見をより一層賜りながら物流協力を進め、その結果、日本の物流発展のため微力ながら貢献できれば本望である。

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