メコン・インド経済回廊実証実験事業

三井物産株式会社 物流本部 西日本物流部 部長
橋本 恵治

メコン・インド経済回廊における実証実験の目的

今回の実証実験は、メコン・インド経済回廊(ベトナム〜カンボジア〜タイ〜インド)を対象とし、インフラ整備も含め物流網構築の可能性を検証するとともに、通関等貿易関連手続きを円滑化する各種支援制度・仕組みの提案とその有効性・実用性を検証することを目的とした。具体的には、検証対象となる輸送ルートを設定し実際にトラックまたは外航本船にて輸出入貨物を積載・輸送し、既存の商用ルートとの比較も含めその優位性と課題を抽出・評価した。また、国境においては、アセアン・シングル・ウィンドウ(ASW)等通関の電子化を支援する情報システムのデモ機を開発し、輸送ルート上の国境にてRFIDタグ(E-Seal)を活用した貨物自動認識実験を行った。

実証実験概要(タイ〜ベトナム間)


タイ・バンコク市郊外からカンボジア・プノンペン市を経由してベトナム・ホーチミン市に至るルートに対し、タイからカンボジア向け輸出貨物ならびにタイからベトナム向け輸出貨物(カンボジアは通過国)の2種類をそれぞれ積載しトラックを走行させた。走行中は道路や架橋・フェリーサービスなどインフラの整備状況を把握するとともに、各国境において税関職員立ち会いの下、デモ機の貨物自動認識実験を行い、貿易手続き円滑化支援制度・仕組みの有用性に関し税関の意見を聴取した。

荷物を積載したトラックは、2010年11月17日の午前4時30分にバンコク郊外を出発し、同日10時15分にタイ・カンボジア国境に到着。同日の昼すぎにはカンボジア側の国境都市ポイペトに入境しE-Sealの読み取り実験を実施。翌18日3時50分にプノンペン港で荷物をフェリーに積み替え、同日の17時45分にカンボジア国境のバベットに到着。ベトナム側モクバイを経由して、通関完了後19日の18時にホーチミンに到着した。およそ2日半でバンコク市郊外からホーチミン市まで通関も含め多国間輸送を完了したことになる。

貿易手続き円滑化支援制度・仕組みの提案

今回の実証実験においては、貿易手続き円滑化支援制度・仕組みについて8つの提案を行い、カンボジア税関ならびにインド税関と意見交換を行った。具体的には、1ASWによる通関手続きデータの共有・交換、2電子通関システム、3通関場所への搬入前の書類審査を可能とする事前申告制度、4事前に対象輸出入品目の税番を確定できる事前教示制度、5関税事前納税制度・事後納税制度、6AEO(認定事業者制度)の相互承認、7トラックの相互乗り入れ、8E-Sealによる貨物の電子認証である。

このうち、7に関しては、既に関係国間でCBTA(越境交通協定)が批准されており、市場のニーズに対応した運用面での整備が待たれる。タイとベトナム・カンボジアでは対面交通システムが異なり、車両は、タイは左側通行であるのに対しベトナム・カンボジアは右側通行となっている。従って、通常は国境にてトラックの交換が必要となる。本協定は、認可を与えられた車両は3国を一貫して走行することを可能にする制度である。

8に関しては、E-Sealという電子タグをトレーラーに装着し車両の移動とともに、電子化された輸出入貨物通関情報を自動的に認識する仕組みである。カンボジアでは旧態依然とした通関手続きが根付いており、税関による書類審査と現物確認が原則とされている。そのため、通関に1−2日程度かかることもまれではない。

実証実験概要(タイ〜インド東岸間)

タイ・バンコク郊外からマレー半島西岸・ラノン港を経由してインド・チェンナイ港に至るルートを実証対象ルートとした。このルートは、ラノン港にて予定通りに本船に接続できた場合、バンコクからチェンナイ港まで理論的に8日で到着するのに対し、現在の商用ルートであるマラッカ海峡を経由する場合は、13−16日間程度かかる。輸送コストに関しては、ラノン港ルートの方が既存の商用ルートに比べ割高だが、輸送期間が大幅に短縮されることは荷主にとって魅力的である。しかしながら、ラノン港はコンテナ船が1−2ヵ月に1回程度しか寄港せず、本船のNominationも極めて不安定である。従って、定時性を求める荷主のニーズには応えられず、定航コンテナサービス商用化への道のりは遠いと思われる。

また、インド・チェンナイ港においては、本船到着から通関完了までの所要時間が一般的に4−6日程度と極めて長い。同港が狭隘(きょうあい)でいったんコンテナを港外のICD(内陸コンテナ基地)に搬入しないと通関できないという事情に加え、通関制度・手続き上の問題が複合的に絡み合っている。貿易手続き円滑化支援制度・仕組みの導入により2−3日は短縮できると考えられる。

「物流Value Chain」の拡大・深化

2年間にわたる実証実験は、輸送ルートの種類や専門性の領域も限定的であり物量も極めて小規模であったが、当社がインド・アセアンにて物流ビジネスを展開し事業戦略を考える上で重要な示唆を得る良い機会になるという期待の下に参画した。商社という事業体は資源から素材/半製品/部材/製品/消費財へと至るValue Chainにおいて何らかの形で機能発揮の機会を創出し関わってゆく事業体と捉えることができる。「物流」という機能だけを捉えても、産業の川上から川下に至るさまざまな製造・流通段階で「物流Value Chain」とでも呼称されるべきものが構成されており、資源輸送事業者、コンテナCommon Carrier、航空会社、港湾ターミナル事業者、鉄道会社、トラック会社、倉庫・Depot、フォワーダー、3PL、等々が存在する。物流機能を俯ふ瞰かん的に「物流Value Chain」として捉える発想は、商社に属する物流部隊として中長期的に自分たちをどこにポジショニングしどのように差別化を図りどのように成長戦略を描くかを考える上で有益な示唆を与えてくれる。

今回の実証事業の背景となった「アジア総合開発計画」では、695件のインフラ開発案件をリストアップし、その総額は3,900億ドルに上り、そのうち約25%はPPP(Public-Private Partner ship)による実施が可能であると見なされている。また、同計画は、開発格差の是正を図りつつ域内経済の統合を促進する上での物流インフラ開発の重要性をうたっている。インド・アセアン諸国を中心とするアジアという市場において商社の強みと特性を生かした強固な物流Value Chainを構築してゆくためには、物流の知見だけでは限界があり、ホスト国の現状とニーズをしっかり把握し政府系機関とも関係を深めつつ、プロジェクトやファイナンス等の知見も導入し当社の総合力を結集することが課題と考えている。

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