世界における丸紅の穀物調達ビジネス

丸紅株式会社 穀物部 穀物グローバル課長
福田 幸司

丸紅の「穀物メジャー」への道


十勝湾の飼料コンビナート

ここでは、キャッチーな言葉としてあえて「穀物メジャー」と表現するが、当社がADMやカーギルなどといった「穀物メジャー」と同様の存在になろうとしているわけではない。ではどういうことかというと、物量で穀物メジャーに追い付き、いずれは追い越したいということである。彼らとは、穀物の一部調達において協力している部分もあり、構造的な競争をしていくという意味では決してない。

このように、当社が取り扱う穀物の物量を増やし始めた背景には、当社の最重要顧客である日本の存在がある。以前は日本のバイヤーの代表として国際マーケットに出ることで十分な存在感があり、その多様な品目、多様なリクエストに応えることができた。ところが今や、2010年の日本の搾油用大豆の輸入量が約200万t強に対し、中国の大豆の輸入量は約5,000万tである。以前と同じく当社の日本の顧客の希望に応えるため、長期的な安定供給を達成するためには相応のバイイングパワー(産地で有利に買い付ける力)が必要となってきている。それが背景だ。現在は、総合商社トップの約2,000万tの物量を誇り、取扱数量という観点から穀物メジャーの背中も確実に見えてきている。

成長市場でのシェア確保を狙う販売戦略

成長市場で一定のシェアを押さえるのが当社の販売戦略である。すでに中国には販売の基盤を築いており、2010年11月には東南アジアに拠点を築いた。また、人口の伸びが期待できる北アフリカ、穀物の輸入重視へ政策を転換した中東が注目市場になってきているので、パリから北アフリカを、カイロから中東の動向をウオッチし、販売プロセスを検討している段階にある。とはいえ日本の顧客が最重要なのはこの戦略をもっても変わらない。

日本の港湾所有で光るコスト競争力

日本の港湾における倉庫の利用可能面積は非常に限定的なため、効率的に倉庫に物を入れて出荷しないと莫大な滞船料が掛かる。その結果、滞船料を上積みしてお客さまに提供することになる。しかし、当社は、日本国内において物流の柔軟性に足るだけの購入をお客さまから頂いており、グループ会社のパシフィックグレーンセンター等、全国各地の港に輸入拠点を所有しているため、独自の効率的なオペレーションが可能になり、リスクプレミアムを限りなく少なくできる。つまり、それは、お客さまに販売する原料の競争力に直結することになる。また、期間を単位として船を貸借するタイムチャーターといわれる傭船形態を採用していることによって、お客さまの要望に応じてフレキシブルに船を動かせることも、コスト競争力につながっている。

海外での港湾所有の可能性


コロンビア・グレイン社の港湾施設

当然、そのような考えはある。しかし、例えば、中国では港湾の私的所有が認められるケースが希少なために、そういった地域ではインテグレーションを形成して拡大する内需を押さえることに引き続き注力していくことになる。また東南アジアの中では日本のように港湾などの入り口を押さえる必要がある国と、中国のように内需を押さえる必要がある国があるので、十分な調査の上、国ごとにカテゴリー分けをしてアプローチしていきたい。

独自の集荷網を持つ産地対策

当社は、穀物をフリーハンドで買い付けている。ただし、毎年、世界各国で干ばつと豊作が繰り返し起こり、穀物輸出の数量が増減する環境の中で、安定的な供給ができる国は極めて限定される。また、政策的に左右されないということも重要な判断基準になる。さらに、当社が安定した販売量を誇る国へ、安定的な供給力を持っていることも重要になる。これらの条件がそろっている国・地域の「流通」へ優先的に投資するのが、産地対策の原点の部分である。

では、「農地」ではなく「流通」へ投資しているのはなぜか。それは当社の最終目的が穀物の取扱数量を増やすことだからである。「農地」への投資は、天候や病害リスクなど主体的にコントロールできないリスクが多大にあるため、安定供給につながるかどうかは疑問に思っている。そのため、産地の穀物サイロや輸出エレベーターといった集荷網などの資産に投資し、トレード力を強化している。約30年前に西海岸オレゴン州ポートランドの穀物の輸出施設を買収し、現在、コロンビア・グレイン社として6つの州に約60基の流通拠点を所有しているのが、その代表的な例である。

世界各国への産地の多角化

大豆の安定的な販売量を中国で担っていることもあり、それに対応するべく、2008年、AGP社を買収し、小麦に特化していた米国西海岸から大豆輸出を可能にする輸出網を構築した。しかし、今後、米国はバイオエタノール生産のために大豆生産よりもトウモロコシの生産が増加することが見込まれるため、ブラジル、アルゼンチンの存在感が年々高まっていくと推測している。世界有数の穀倉地帯となっているブラジルでは、港湾ターミナル会社Terlogs社の港湾施設に投資をしており、内陸部でも周辺農家から直接調達するルートを有しているAMAGGI社と提携している。アルゼンチンに関しては、モリノ・カニュエラス社と共同での集荷網を検討中である。

また、小麦に関しては、北アフリカ、中東市場への販売拡大を目的として、2010年5月に欧州最大のサイロ保有会社、セナリアユニオン社と提携し、フランス内陸からの集荷から輸出までの集荷網を構築中である。成熟輸出国と比較した場合、まだまだ物流面での課題は多いが、産地を多角化し、それぞれの産地に当社が主体的にコントロールしていけるアセットを構築していくことが、世界中の市場に対して安定的に、そしてコスト競争力のある穀物を提供することにつながると思っている。

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