商社の国際物流における取り組み 伊藤忠商事の中国物流ネットワーク展開

伊藤忠商事株式会社 物流統括部 部長代行
藤村 俊樹

中国における3PL事業展開


安亭センター

当社の中国物流は当初日中間の貿易物流を主体としていたが、1990年代に入り進出日系企業の沿岸部での内販物流に伴うニーズへの対応を開始した。まずは「北京太平洋物流有限公司」を設立、続いて上海・広州の沿岸部大都市地域を中心に、日本式の高品質をローコストで提供する内需型3PLサービスを手掛けた。当時は、進出地域ごとに合弁が必要なことから、地域別合弁事業の展開であり、また、営業地域も沿岸部中心に限定されたエリア展開であった。

21世紀に入り、急速に内需拡大が進む中、顧客企業の事業成長に対応したサプライチェーンの提供を戦略に掲げ、中国全土をカバーする物流ネットワークの構築を進めた。

具体的には、戦略的業務提携関係にあり、中国最大級の食品事業を展開する頂新国際集団の物流子会社「頂通物流」に50%出資し、同社が全国に持つ物流拠点を活用した、自社運営による全国3PLサービスを他の日系物流企業に先駆けて開始した。

並行して、外資規制緩和を受け、「北京太平洋物流」を伊藤忠グループで100%資本化し、「伊藤忠物流(中国)有限公司」への社名変更を行い、中国物流事業の中核会社として北京・上海において大型物流センターの展開による、事業拡大を図ってきた。

現在では、中国全土にグループで82ヵ所の物流拠点を展開し、拠点、人材、配送網、システムを有機的に結合させたネットワークにより、顧客企業にとって使い勝手の良いサプライチェーンを提供している。

日系最大級の規模を誇る内需型物流事業

現在、当社は、内需型3PL事業として、食品・化粧品・アパレル・日用品・家電等の生活消費財分野と自動車分野をコアに展開し、中国全土にビジネス拡大を進めるお客さま企業のご要望に対応できる最適な物流サービスを提供している。事業売り上げはグループ全体で2011年に約180億円を見込んでおり、特に内需物流分野は毎年約20%の成長を続けている。倉庫面積は70万m²超、従業員数は約4,200名と日系最大級の規模を誇っている。さらに、当社の特徴として、全国に自社運営で拠点展開をしているため、お客さま企業に対し、全国において均一かつスピーディーにサービスを提供することが可能である。

中国で展開する最新物流情報システム

当初は、現地システム環境の脆弱さから、自社開発と個別パッケージソフトのカスタマイズで対応してきたが、インターネット環境が整備されてきたことにより、2008年に世界ナンバーワンの物流システムである「Manhattan Associates 社」のシステムを中国3PL企業の中で先行導入した。

全国拠点の入出荷在庫を一括管理することが可能となり、単品、単一オーダーに至るまでトレースできるだけではなく、Web検索サービス提供、DPS・DASなど物流システム機器との連携、お客さま企業との情報共有等、多様な機能を可能としている。これらの物流一元管理機能により、お客さま企業に対し、より高いサービスを、安定的に提供できるようになっている。

中国と日本でのビジネス上の相違点

1つ目は、お客さま企業のビジネス成長に伴う物量、展開地域の拡大であり、沿岸部から内陸部へ、大都市から中小都市へ販売地域が急速に拡大していることである。当社は全国ネットワークを先行して展開してきたことにより、タイムリーに全国物流サービスを提供することが可能である。

2つ目は、経済成長に伴う、急激な、コスト環境の変化である。以前は、日本と比較して、物流機器コストに比べ、人件費、倉庫コストが割安であった。従って、物流品質管理の観点での機器導入の場合を除き、豊富な人員を使った手作業、倉庫は平屋で保管も平置きの方が安価であった。しかしながら近年、劇的に環境が変化してきており、人件費と家賃の高騰から、日本と中国のコスト構造に相違点がなくなってきている。単純作業の機械化による省力化、倉庫の高層化、保管用機器導入による保管効率のアップ等、先取りした効率化を進めている。

また、人材の流動性が高いことも特徴の1つである。人件費の上昇だけでなく、流動性の高さは、作業の生産性と精度にも影響を与える。当社では、1人1人がさまざまな仕事をこなせる「多能工化」導入等、現場での人材育成に注力している。また、現在および将来において事業運営の中核となるナショナルスタッフに対し、物流や経営スキルの習得、日本流のきめ細かな物流管理への理解、モチベーションのアップの目的から、東京本社でのマネジメント研修、日本国内事業会社における現場実習研修など、継続して定期的に実施してきている。

今後の戦略:フォワーディングとロジスティクスの融合、新規分野への展開

今後も続く中国の経済成長において、アジアとの関係はますます重要となると考えている。内需拡大による輸入増加、物価上昇に伴うアジアとの生産分業、欧米日本向け輸出からアセアン、インドの経済成長、国内市場成長に伴うアジア向け輸出の増加など、アジア域内のサプライチェーンの拡大が進む。継続的な中国物流事業成長のために、中国内需物流の拡大だけでなく、伊藤忠ロジスティクスが担っているフォワーディングネットワークと内需物流ネットワーク一体化の推進、加えてアジア新興市場への中国内需物流モデルの展開により、中国内陸部からアセアン、インドの内陸部までの一貫したサプライチェーンの構築を進めていく。

また、中国においても、新規市場に対応した物流機能の強化を図っている。急成長しているインターネット等の無店舗販売市場や、人口の半数を占める農村部の経済成長に対応する方策として、従来のBtoBの物流ネットワーク強化に加え、BtoC物流にも積極的に取り組んでいく。

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